固体地球科学とデータ同化
概要
データ同化とは大規模物理シミュレーションと大容量観測データを、主としてベイズ統計学に基づき統融合する計算技術です。地球に関連する諸現象を扱う地球物理学の分野においては、気象学・海洋学を中心に20世紀後半に発展し、近年ではゲリラ豪雨の再現に成功するなど、現代の気象予報や海況予報には欠かせない技術となっています。一方で,本ページで対象とする地震学・火山学といった固体地球科学の分野においては、21 世紀に入ってようやくいくつかデータ同化に関連する研究が行われ始めた段階です。これは,兵庫県南部地震を契機として整備された地震・地殻変動観測網の充実による地震関連現象の理解の深化、ならびに計算機性能の向上に伴う数値計算技術の高度化といった研究基盤の発展によるところも大きいです。
本ウェブサイトでは、このような背景の下、データ同化を中心とする数理的基盤に基づいて固体地球科学に関連する諸現象の理解や予測に向けて研究を推進している研究者が中心となって運営し、定期的に開催している勉強会や研究集会に関連する情報や最新の研究成果を共有するホームページです。勉強会などで共有された発表資料等を公開していますので、これから地震学や火山学を学ぼうとする若手研究者・学生の皆さんの何らかのお役に立てれば幸いです 。
今後の勉強会・研究集会の予定
2024年度第1回 2024/6/17
本勉強会はハイブリッド形式で開催いたします.日時:2024年6月17日(月)13:30〜15:00頃
場所:東大地震研で対面開催し,ハイブリッドで配信します
講演者:縣 亮一郎 氏 (JAMSTEC)
講演タイトル:Bayesian physics-informed neural networkに基づく地球内部の地震波速度構造推定の不確実性定量化
要旨:
地震波速度など地球の内部構造の推定は、観測データが地球表面の限られた領域に制限されることや、問題の非線形性から、性質の悪い逆問題となる。推定結果に基づく科学的議論や後続解析の信頼性を把握するためには、推定の不確実性を定量化することが重要である。近年、偏微分方程式からの情報を用いて方程式の解を学習するPhysics-Informed Neural Networks (PINN)が、偏微分方程式に基づく逆問題の解法として注目を集めている。本研究では、地震波の到達時間(走時)観測データを用いた地震波速度構造推定を行うための解析手法である地震波トモグラフィの不確実性定量化を目的に、PINNに基づくベイズ推定手法を開発した。本手法の要点は以下の二点である:(1)推定パラメータ関数(速度構造)を表現するニューラルネットワーク(NN)と基礎方程式(アイコナル方程式)の解(走時関数)を表現するNNを別々に用意し、パラメータ関数NNの逐次更新に合わせて方程式解NNもPINN解法により更新する。(2)パラメータ関数NNの逐次更新には、ベイジアンNNに対して有効とされる関数空間粒子ベース変分推論を適用する。本発表では、提案手法の説明と地震波トモグラフィでの数値実験結果を示した後、南海トラフ域での弾性波探査の実データに適用した例を紹介する。また、速度構造推定結果を入力とする後続解析の一つである自然地震の震源決定に対し、実データ解析結果を用いて不確実性伝播の評価を行った例も示す予定である。
これまでの活動記録
「2023年度 固体地球科学データ同化/データ駆動型地球科学に関する研究会」を開催します.
日時:2024年3月28日(木)
世話人:世話人:宮武勇登(大阪大学サイバーメディアセンター),長尾大道・伊藤伸一(東京大学地震研究所),上木賢太・桑谷立(海洋研究開発機構),加納将行(東北大学大学院理学研究科)
場所:ハイブリッド開催
オンライン:zoom
現地:東北大学 青葉山キャンパス 理学研究科合同C棟N404
プログラム
2023年度第2回 2024/1/26
本勉強会はオンライン形式で開催いたします.日時:2024年1月26日(金)13:30〜15:00頃
場所:zoom配信
講演者:Shunji Kotsuki (千葉大学), Fumitoshi Kawasaki, and Masanao Ohashi
講演タイトル:Quantum Data Assimilation: A New Approach to Solve Data Assimilation on Quantum Annealers
要旨:
Data assimilation is a crucial component in the Earth science field, enabling the integration of observation data with numerical models. In the context of numerical weather prediction (NWP), data assimilation is particularly vital for improving initial conditions and subsequent predictions. However, the computational demands imposed by conventional approaches, which employ iterative processes to minimize cost functions, pose notable challenges in computational time. In this investigation, we propose a novel approach termed quantum data assimilation, which solves data assimilation problem on quantum annealers. Our data assimilation experiments using the 40-variable Lorenz model were highly promising, showing that the quantum annealers produced analysis with comparable accuracy to conventional data assimilation approaches. In particular, the D-Wave System’s physical quantum annealing machine achieved a great reduction in execution time.
Link: https://npg.copernicus.org/preprints/npg-2023-16/
2023年度第1回 2023/12/18
本勉強会はオンライン形式で開催いたします.日時:2023年12月18日(月)13:30〜15:00頃
場所:zoom配信
講演者:今泉 允聡 氏 (東京大学・理化学研究所AIPセンター)
講演タイトル:深層学習と過剰パラメータの理論
要旨:
深層学習は高い精度を発揮するデータ解析技術だが、その精度を発揮する原理には未だに明らかになっていない点が多い。本講演では、深層学習や過剰なパラメータを持つ統計モデルの性質を記述する理論を紹介する。講義の前半では基本的な深層学習に着目し、その誤差を近似・複雑性・最適化の項目に分割した上で、各要素を解析する個別の研究を紹介する。時間に余裕があれば、過剰なパラメータを持つ統計モデルに関する理論や、近年の人工知能技術についての数理的な知見を議論する。
2022年度第2回 2023/1/16
本勉強会はオンライン形式で開催いたします.日時:2023年1月16日(月)13:30〜15:00頃
場所:zoom配信
講演者:平原 和朗 氏 (理化学研究所AIPセンター・香川大学)
講演タイトル:Physics-Informed Neural Networks (PINNs)の地震学での活用状況
要旨:
万能関数近似能力を持つ深層学習を用いて微分方程式を解くという試みは、1990年代から行われている(例えば、Dissanayake & Phan-Thien, 1994)。前回の勉強会では、松原先生からハミルトン方程式のエネルギー関数を学習する手法である、ハミルトニアンニューラルネットワーク(HNN)が紹介された。これに対し、微分方程式の解をNNで表し、微分方程に加え、境界・初期条件(更に逆問題ではデータも含む)を損失関数として、深層学習によりNN解を求める、Physics-Informed Neural Networks (PINNs) (物理法則に基づいた深層学習)がRaissi+(2019)により提唱されて以来、多くの分野で活用され始めている。PINNsは順問題に加え比較的簡単に逆問題を扱えるのが特徴であるが、更にNNも確率変数と見なし、ベイズ的に得られた事後分布に基づくサンプリングにより推定した解や物理パラメータの誤差も推定するB-PINNs (ベイジアンNNs + PINNs)もYang+ (2021)により提唱されている。今回の話題提供では、まず準解析解を教師データとする教師あり学習によるPDE解の近似(DeVries+, 2017)、次にPINNs、B-PINNsの基本的な考え方を紹介する。更に、主にPINNsの地震学での活用について、私が関係している研究(地殻変動モデリング・SSEサイクルモデリング)や他の研究(トモグラフィー等)を紹介する。
全部紹介する訳ではないが、最近目にした論文中から以下に参考文献を挙げておく。深層学習によりPDEを解く
Dissanayake & Phan-Thien, Neural-network-based approximations for solving partial differential equations. communications in Numerical Methods in Engineering, 10(3), 195-201, 1994.
(自動微分ではなく数値微分を用いた、「浅い」深層学習による微分方程式解法の初期論文。1990年代からこういう試みがなされていたのには驚かされた)
教師あり学習NNによるPDE解の近似
DeVries, Thompson, & Meade, Enabling large-scale viscoelastic calculations via neural network acceleration. Geophys. Res. Lett., 44(6), 2662-2669. 2017.
(通常のNNによるもので、準解析解を教師データとした深層学習による、成層粘弾性媒質中での地震変位&余効変動計算の高速化。)
PINNs
Raissi, Perdikaris, & Karniadakis, Physics-informed neural networks: A deep learning framework for solving forward and inverse problems involving nonlinear partial differential equations. J. Comp. Physics, 378, 686-707, 2019.
(PINNsのオリジナル論文)B-PINNs
Yang, Meng, & Karniadakis, B-PINNs: Bayesian physics-informed neural networks for forward and inverse PDE problems with noisy data. J. of Comp. Physics, 425, 109913、2021.
(B-PIINsのオリジナル論文)地殻変動モデリング
Okazaki, Ito, Hirahara, & Ueda, Physics-informed deep learning approach for modeling crustal deformation. Nat. Commun., 13(1), 1-9, 2022.
(2次元反平面問題における地震断層すべりによる静的地殻変動モデリング)SSEサイクルモデリング
福嶋陸斗・加納将行・平原和朗, Physics-Informed Neural Networksのばねブロックモデルへの適用、日本地震学会2022年秋季大会予稿, S21-03, 2022.
(速度状態依存摩擦(RSF)則に基づくばねーブロックモデルによるスロースリップイベント(SSE)サイクルモデリング)トモグラフィー
Smith, Azizzadenesheli, K., & Ross, Eikonet: Solving the eikonal equation with deep neural networks. IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing, 59(12), 10685-10696, 2020.
Waheed, Haghighat, Alkhalifah, Song, & Hao, PINNeik: Eikonal solution using physics-informed neural networks. Computers & Geosciences, 155, 104833, 2021.
(上記2論文:短波長幾何光学近似のアイコナール方程式によるPINNs走時計算)
Chen, de Ridder, Rost, Guo, Wu, & Chen, Eikonal tomography with Physics-Informed Neural Networks: Rayleigh wave phase velocity in the Northeastern margin of the Tibetan plateau. Geophys. Res. Lett., 49(21), e2022GL099053, 2022.
(実データ解析:チベットに展開された地震観測網内の観測点間の常時微動相互相関関数から得られたレーリー波の走時をデータとした、PINNsアイコナールトモグラフィーによるレーリー波位相速度の2次元分推定)
Rasht-Behesht, Huber, Shukla, & Karniadakis, Physics-Informed Neural Networks (PINNs) for Wave Propagation and Full Waveform Inversions. J. Geophys. Res., 127(5), e2021JB023120, 2022.
(PINNsによる2次元音波方程式に基づく音波の伝播・波形計算&音波速度推定)
Gou, Zhang, Zhu, & Gao, Bayesian Physics-Informed Neural Networks for the subsurface tomography based on the Eikonal equation, arXiv:2203.12351v2 16 Nov 2022.
(2次元アイコナール方程式に基づくB-PINNsによるP波速度分布と誤差推定)
震源決定
Smith, Ross, Azizzadenesheli, & Muir, (2022). HypoSVI: Hypocentre inversion with Stein variational inference and physics informed neural networks. Geophys. J. Inter., 228(1), 698-710, 2022.
(Smith+(2020)のEikonetを使い、P波・S波の走時計算を行い、粒子に基づくStein変分推論(VI)を用いた推定誤差を含む震源決定)コロナ感染者数データへの減衰振動曲線当てはめ
Linkaa, Schäferb, Mengc, Zouc, Karniadakisc, Kuhlb, Bayesian Physics Informed Neural Networks for real-world nonlinear dynamical systems, Comput. Methods Appl. Mech. Engrg. 402 (2022) 115346, 2022.
(地震学での活用ではないが、コロナ感染数データへの減衰振動曲線のあてはめにおいて、B-PINNsを用いたもの。併せて、色々な手法を比べており、各手法の特徴が理解し易いので、参考として挙げた。誤差推定を行なわないものとして、通常のデータのみ学習するNN, PINNs, SAPINNs(重みも学習パラメータに加えているが詳細は読み取れない),更にベイズ的手法として、BI(減衰振動のパラメータをベイズ推定したもの), BNN(データをNNで表すがNNを確率変数としたベイズ的手法によるもの)、BPIINs(減衰振動を物理法則として採用し、NNと物理パラメータを誤差を含む形で推定したもの)を比較している。)
2022年度第1回 2022/8/17 @大阪大学
本勉強会はハイブリッド形式で開催いたします.現地参加を希望される方は,7月31日までにこちらから登録を行ってください.日時:2022年8月17日(水)13:30〜15:00頃
場所:大阪大学サイバーメディアセンター7階会議室(豊中キャンパス)およびzoom配信
講演者:松原 崇 氏 (大阪大学 基礎工学研究科)
講演タイトル:専門家の知識を活かし深層学習の柔軟性を持つモデル化に向けて
要旨:
深層学習は画像認識や自然言語処理で高い性能を発揮し注目を浴びているが,古くから未知のダイナミカルシステムのモデル化にも用いられてきた.しかし,対象の系を完全なブラックボックスとしてモデル化すると,その学習結果は対象の系が当然持っているはずの性質を持っておらず,長期的な予測が破綻したり,無意味な結果を導く.この問題に対して,近年ハミルトニアンニューラルネットワークという手法が提案された[1].これはダイナミカルシステムの時間発展を学習するのではなく,ハミルトン方程式のエネルギー関数を学習する手法である.すると,学習結果はエネルギー保存則やシンプレクティック構造といった,ハミルトン方程式の持つ性質を必ず満たす.対象の系がハミルトン方程式で記述できるという確信があれば,ブラックボックスとしてモデル化するより遥かに良い精度でダイナミクスを学習できる.この考え方は拡張され,ある種の偏微分方程式[2],より一般のハミルトン方程式[3],オイラー=ラグランジュ方程式など,事前の知識に応じて使い分けられる様々な手法が提案されている.
もう一つの潮流が群畳み込み(G-convolution)である[4].これは画像認識の分野でスタンダードとなっている畳み込みニューラルネットワークの拡張である.畳み込みは「画像に写った物体が移動しても画像の意味が変わらない」という直感的な知識を「並進群に対する同変性」という幾何学的な形に表現し,それを実装した手法を解釈できる.この考え方を拡張すると,エッジやノードの順番に依存しないグラフの情報処理,曲面上での物理現象の学習へと繋がる.
このように,事前知識に基づくモデルの制約と深層学習が持つ柔軟な学習を両立させる手法を,幾何学的深層学習を呼ぶ.本講演では,幾何学的深層学習に至る流れと,講演者の研究成果を中心とした様々な手法を紹介する.
[1] Greydanus, S., Dzamba, M., & Yosinski, J. (2019). Hamiltonian Neural Networks. In Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS)
[2] Matsubara, T., Ishikawa, A., & Yaguchi, T. (2020). Deep Energy-Based Modeling of Discrete-Time Physics. In Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS).
[3] Chen, Y., Matsubara, T., & Yaguchi, T. (2021). Neural Symplectic Form : Learning Hamiltonian Equations on General Coordinate Systems. In Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS).
[4] Bronstein, M. M., Bruna, J., Cohen, T., & Veličković, P. (2021). Geometric Deep Learning: Grids, Groups, Graphs, Geodesics, and Gauges. ArXiv.
2021年度第3回研究集会 2022/03/23 「固体地球科学データ同化/データ駆動型地球科学に関する研究会」
東京大学地震研究所特定共同研究(B)「固体地球現象の理解と予測に向けたデータ同化法の開発」(2019~2021年度)の最終年度にあたり、以下の通り固体地球科学に関連したデータ同化/データ駆動型モデリングに関する研究集会を開催しました。
なお、本研究集会は東京大学地震研究所特定共同研究(B)「機械学習で推し進めるデータ駆動型地球科学の新展開」と共同で開催しました。
講演内容一覧
桑谷 立 (海洋研究開発機構)「逆問題におけるハイパーパラメータ推定」
松村 太郎次郎(産業技術総合研究所)「地球外核における液体鉄の状態方程式のベイズモデリング」
椎名 高裕(産業技術総合研究所)「構造境界近傍における震源位置と速度構造の同時推定」
中野 慎也(統計数理研究所)「アンサンブルによる変分法データ同化とその拡張」
秋田 康輔(大阪大学)「観測演算子を未知とするデータ同化問題への検討」参考論文(Akita et al. arXiv)
松野 哲士(東北大学)「機械学習による変成岩の原岩組成推定」参考論文(Matsuno et al. 2022, Sci Rep) プレスリリース 開発したwebアプリケーション
長尾 大道(東京大学地震研究所)「畳み込みニューラルネットワークによる地震波形画像からの深部低周波微動の検出」
宮本 崇(山梨大学)「物理とデータ駆動の連成モデルによる自然現象予測」
杉浦 望実(海洋研究開発機構)「観測された系列データから知識を引き出す方法」講演資料
2021年度第1回 2021/11/10
講演者:秋田 康輔 氏 (大阪大学 修士2年)
講演タイトル:観測演算子を未知とする条件下での深層学習を用いたデータ同化推定とその研究背景
講演者:宮武 勇登 氏 (大阪大学サイバーメディアセンター)講演者ホームページ
講演タイトル:単調回帰理論に基づく微分方程式の数値計算の誤差推定
2020年度第3回 2021/03/04
講演者:伊藤 伸一 氏 (東京大学地震研究所)講演者ホームページ
講演タイトル:「Adjoint-based exact Hessian computation 」
要旨:
説明変数が何らかの微分方程式で拘束されている目的関数の微分を計算することは、ハミルトニアンモンテカルロ法・ニューラルネットワーク・4次元変分法データ同化などの統計関連分野に限らず、航空・工学分野のトポロジー最適化など、様々な科学分野で広く必要とされる。特にそのような目的関数の2階微分行列であるヘッセ行列は、非線形共役勾配法やニュートン法などの高速な最適化法に利用されるほか、逆行列要素は最適解の不確実性の評価にも直結するため重要であるが、計算コストが大きいため、大自由度系に対してもヘッセ行列を高速かつ高精度に計算する枠組みが希求されている。これまでに我々は、ヘッセ行列およびその逆行列要素の高速・高精度計算を目的として、4次元変分法データ同化で用いられる 2nd-order adjoint (SOA) 法に基づくアルゴリズム開発およびその応用研究を推進してきた [1,2]。SOA 法で利用される SOA モデルは一般に常微分方程式の形式で与えられ、ヘッセ行列評価には SOA モデルの数値積分が必要になるが、その数値積分法の選び方によっては必要なメモリが増大するだけでなく、ヘッセ行列の計算精度が著しく低下しそれに基づいて計算される不確実性などの結果が信頼できないものになる可能性があるなどの問題があり、省メモリ化およびヘッセ行列計算精度の担保のためにどのような数値積分法を選択すべきかの指針を数理学的な観点から与えることは解決すべき積年の課題であった。
このような背景から我々は、近年提案された Sanz-Serna (2016) [3] の理論に基づいて、必要なメモリを最低限に抑えさらにヘッセ行列の数値誤差を計算機誤差まで抑えることを可能にする SOA モデルの最適な数値積分法の選択法を提案した。本手法では SOA 法に登場する微分方程式群に内在する保存量を離散化後も保存するような数値積分法を構築することで高精度なヘッセ行列計算を可能にしている。反応拡散系や波動方程式系の初期値推定問題やパラメータ推定問題などを通じて本手法を検証したところ、本手法から提案される数値積分法は従来用いられてきた数値積分法に比べて、ヘッセ行列に含まれる数値誤差を劇的に抑えることができていることが確かめられた。講演では、これら適用事例結果を本手法の導出と合わせて紹介する。
※ 本研究は、理化学研究所脳神経科学研究センターの松田孟留先生、大阪大学サイバーメディアセンターの宮武勇登先生との共同研究です [4]。
参考文献:
[1] SI, H. Nagao, A. Yamanaka, Y. Tsukada, T. Koyama, M. Kano and J. Inoue, Data assimilation for massive autonomous systems based on second-order adjoint method, Phys. Rev. E 94, 043307 (2016).
[2] SI, H. Nagao, T. Kasuya, and J. Inoue, Grain growth prediction based on data assimilation by implementing 4DVar on multi-phase-field model, Sci. Tech. Adv. Mater. 18:1, 857-869 (2017).
[3] J. M. Sanz-Serna, Symplectic Runge--Kutta schemes for adjoint equations, automatic differentiation, optimal control, and more, SIAM Rev. 58(1), 3–33 (2016).
[4] SI, T. Matsuda, and Y. Miyatake, Adjoint-based exact Hessian computation, BIT Numerical Mathematics (2021).
2020年度第2回 2020/11/24
講演者:伊藤 耕介 氏 (琉球大学)講演者ホームページ
講演タイトル:「4次元データ同化による解析インクリメントの構造はどう決まるのか? 」
参考資料:伊藤・藤井(2020)ながれ
2020年度第1回 2020/11/10
講演者:石井 憲介 氏 (気象研究所)
講演タイトル:「火砕物の移流拡散堆積過程における逆問題の数理構造とその応用に向けての考察 」
第2回「固体地球科学データ同化に関する研究会」 2020/02/13・14 @東北大学青葉山キャンパス
講演内容一覧
福田 淳一(東京大学地震研究所)「測地データに基づく余効変動物理モデルのベイズ推定」
山本 友(和歌山大学「機械学習を用いた南海トラフ巨大地震シミュレータの摩擦パラメータ推定」
平原 和朗(理化学研究所)「アンサンブルカルマンフィルタによる断層摩擦パラメータ及びすべり発展の推定 -豊後水道長期的SSEへの適用-」
矢野 恵佑(東京大学情報理工学系研究科)「ベイズL1トレンドフィルタリングによるスロースリップ自動検知」
中原 恒(東北大学)「鉛直ボアホールの地中地震波形を用いた地表地震波形の予測:データ同化並びに深層学習の利用」
高橋 秀暢(東北大学)「短周期 OBS データのクラスタ解析による低周波微動検出の試み (Attempt to detect LFTs by clustering of records of short-period ocean-bottom seismometers)」
福井 真(東北大学)「日本域を対象とした長期領域大気再解析に向けた取り組みの紹介」
岩渕 弘信(東北大学)「大気科学における機械学習の利用:大気リモートセンシングにおける利用事例と大気科学分野における研究動向の紹介」
黒田 剛史(東北大学)「地球大気のエアロゾルデータ同化と火星ダストへの応用」
木村 智樹(東北大学)「深層学習とデータマイニングの宇宙望遠鏡惑星観測データへの適用」
中野 慎也(統計数理研究所)「アンサンブル変分法によるパラメータ推定」
伊藤 伸一(東京大学地震研究所)「Adjoint-based exact Hessian-vector multiplication using symplectic Runge-Kutta methods」
岩田 貴樹(県立広島大学)「余震活動の時空間モデリングにおける空間カーネルの改良」
野村 俊一(統計数理研究所)「地震再来間隔の変動係数の推定について」
江本 賢太郎(東北大学)「光ファイバーケーブルを用いたDAS観測による高密度データの解析」
趙 大鵬(東北大学)「沈み込み帯の深部構造とダイナミクス」
倉田 澄人(東京大学情報理工学系研究科)「隠れマルコフモデルを応用した地震データの解析について」
長尾 大道(東京大学地震研究所)「4次元変分法に基づく地震波動伝播データ同化(序報)」
干場 充之(気象研究所)「データ同化を用いた揺れのリアルタイム予測:地震動即時警報への応用」
小園 誠史(東北大学)「多項目観測データによる噴火ダイナミクスへの制約:霧島山新燃岳噴火を例として」
小屋口 剛博(東京大学地震研究所)「火山噴火モデルのパラメータ推定問題の数理構造」
石井 憲介(気象研究所)「火山灰の移流拡散堆積過程における逆問題の特異値解析」
庄 建倉(統計数理研究所)「Bayesian approach for network adjustment for gravity survey campaign」
杉浦 望実(海洋研究開発機構)「海洋プロファイルデータに関する機械学習」
2019年度第2回 2019/11/11
講演者:藤田 萌美 氏 (京都大学理学研究科)
講演タイトル:「GNSSデータを用いたアンサンブルカルマンフィルタによる豊後水道長期的SSEのすべり発展推定に向けた数値実験 」
2019年度第1回 2019/8/30
講演者:杉浦 望実 氏 (海洋研究開発機構)
講演タイトル:「海洋乱流観測データに関するフラクタル解析とデータ同化 」
参考資料:論文
第1回「固体地球科学データ同化に関する研究会」 2019/03/29・30 @琉球大学
講演内容一覧
伊藤 耕介(琉球大学)「線形データ同化の基礎」
伊藤 伸一(東京大学地震研究所)「4次元変分法データ同化に基づく事後分布不確実性評価法」
中野 慎也(統計数理研究所)「アンサンブル変分法に基づく非線型システムの解析」
福田 淳一(東京大学地震研究所)「余効変動の物理モデルのパラメータ推定」
平原 和朗(理化学研究所)「EnKFによるLSSE断層域における摩擦特性およびすべり発展の推定手法の開発 -数値実験-」
加納 将行(東北大学)「アジョイント法によるSSE発生域の摩擦パラメータの推定」
中村 衛(琉球大学)「琉球海溝における超低周波地震と低周波地震活動 ―その分布と潮汐応答―」
Jiancang Zhuang(統計数理研究所)「Identifying the recurrence patterns of non-volcanic tremors by using a 2D hidden Markov model」
野村 俊一(統計数理研究所)「地震群からの特徴量抽出に基づく前震識別と本震予測モデル」
小屋口 剛博(東京大学地震研究所)「マグマ供給・噴出系モデルの逆問題と火山噴火推移予測」
石井 憲介(気象研究所)「火山灰の移流拡散堆積過程における逆問題の特異値解析」
趙 大鵬(東北大学)「地震波異方性トモグラフィー研究の最新展開」
長谷川 慶(東京大学地震研究所)「Improvement of accuracy of the spectral element method for elastic wave computation using modified numerical integration operators」
桑谷 立(海洋研究開発機構)「データ同化を用いた鉱物組成累帯構造からの温度-圧力履歴推定」
宮武 勇登(大阪大学)「繰り返し重み付き最小二乗法に基づく常微分方程式の初期値推定」
松田 孟留(東京大学情報理工学系研究科)「状態空間モデルを用いた時系列データの振動子分解」
長尾 大道(東京大学地震研究所)「季節調整モデルにおける多重周期季節成分の推定」
杉浦 望実(海洋研究開発機構)「プロファイル形状の特徴に基づく機械学習」
その他
本ウェブサイトに関する研究成果については講演者に直接お問い合わせください。
また本ウェブサイトは以下を基盤として運営されています。
東京大学地震研究所特定共同研究(B)「深層学習とデータ同化の協働による固体地球科学の深化」(2022年度〜)
東京大学地震研究所特定共同研究(B)「固体地球現象の理解と予測に向けたデータ同化法の開発」(2019~2021年度)
東京大学地震研究所特定共同研究(B)「固体地球科学のシミュレーションモデルと観測データに適用可能なデータ同化法の開発」(2016~2018年度)
東京大学地震研究所特定共同研究(B)「固体地球科学におけるデータ同化法の構築 」(2013~2015年度)
東京大学地震研究所特定共同研究についてはこちら