固体地球科学とデータ同化

概要 

データ同化とは大規模物理シミュレーションと大容量観測データを、主としてベイズ統計学に基づき統融合する計算技術です。地球に関連する諸現象を扱う地球物理学の分野においては、気象学・海洋学を中心に20世紀後半に発展し、近年ではゲリラ豪雨の再現に成功するなど、現代の気象予報や海況予報には欠かせない技術となっています。一方で,本ページで対象とする地震学・火山学といった固体地球科学の分野においては、21 世紀に入ってようやくいくつかデータ同化に関連する研究が行われ始めた段階です。これは,兵庫県南部地震を契機として整備された地震・地殻変動観測網の充実による地震関連現象の理解の深化、ならびに計算機性能の向上に伴う数値計算技術の高度化といった研究基盤の発展によるところも大きいです。

本ウェブサイトでは、このような背景の下、データ同化を中心とする数理的基盤に基づいて固体地球科学に関連する諸現象の理解や予測に向けて研究を推進している研究者が中心となって運営し、定期的に開催している勉強会や研究集会に関連する情報や最新の研究成果を共有するホームページです。勉強会などで共有された発表資料等を公開していますのでこれから地震学や火山学を学ぼうとする若手研究者・学生の皆さんの何らかのお役に立てれば幸いです

 今後の勉強会・研究集会の予定

 これまでの活動記録

「2023年度 固体地球科学データ同化/データ駆動型地球科学に関する研究会」を開催します.

プログラム


Dissanayake & Phan-Thien, Neural-network-based approximations for solving partial differential equations. communications in Numerical Methods in Engineering, 10(3), 195-201, 1994.

(自動微分ではなく数値微分を用いた、「浅い」深層学習による微分方程式解法の初期論文。1990年代からこういう試みがなされていたのには驚かされた)

DeVries, Thompson, & Meade, Enabling large-scale viscoelastic calculations via neural network acceleration. Geophys. Res. Lett., 44(6), 2662-2669. 2017.

(通常のNNによるもので、準解析解を教師データとした深層学習による、成層粘弾性媒質中での地震変位&余効変動計算の高速化。)

(実データ解析:チベットに展開された地震観測網内の観測点間の常時微動相互相関関数から得られたレーリー波の走時をデータとした、PINNsアイコナールトモグラフィーによるレーリー波位相速度の2次元分推定)

Rasht-Behesht, Huber, Shukla, & Karniadakis, Physics-Informed Neural Networks (PINNs) for Wave Propagation and Full Waveform Inversions. J. Geophys. Res., 127(5), e2021JB023120, 2022.

(PINNsによる2次元音波方程式に基づく音波の伝播・波形計算&音波速度推定)

Gou, Zhang, Zhu, & Gao, Bayesian Physics-Informed Neural Networks for the subsurface tomography based on the Eikonal equation, arXiv:2203.12351v2 16 Nov 2022.

(2次元アイコナール方程式に基づくB-PINNsによるP波速度分布と誤差推定)

[1] Greydanus, S., Dzamba, M., & Yosinski, J. (2019). Hamiltonian Neural Networks. In Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS)

[2] Matsubara, T., Ishikawa, A., & Yaguchi, T. (2020). Deep Energy-Based Modeling of Discrete-Time Physics. In Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS).

[3] Chen, Y., Matsubara, T., & Yaguchi, T. (2021). Neural Symplectic Form : Learning Hamiltonian Equations on General Coordinate Systems. In Advances in Neural Information Processing Systems (NeurIPS).

[4] Bronstein, M. M., Bruna, J., Cohen, T., & Veličković, P. (2021). Geometric Deep Learning: Grids, Groups, Graphs, Geodesics, and Gauges. ArXiv.

東京大学地震研究所特定共同研究(B)「固体地球現象の理解と予測に向けたデータ同化法の開発」(2019~2021年度)の最終年度にあたり、以下の通り固体地球科学に関連したデータ同化/データ駆動型モデリングに関する研究集会を開催しました

なお、本研究集会は東京大学地震研究所特定共同研究(B)「機械学習で推し進めるデータ駆動型地球科学の新展開」と共同で開催しました。


説明変数が何らかの微分方程式で拘束されている目的関数の微分を計算することは、ハミルトニアンモンテカルロ法・ニューラルネットワーク・4次元変分法データ同化などの統計関連分野に限らず、航空・工学分野のトポロジー最適化など、様々な科学分野で広く必要とされる。特にそのような目的関数の2階微分行列であるヘッセ行列は、非線形共役勾配法やニュートン法などの高速な最適化法に利用されるほか、逆行列要素は最適解の不確実性の評価にも直結するため重要であるが、計算コストが大きいため、大自由度系に対してもヘッセ行列を高速かつ高精度に計算する枠組みが希求されている。これまでに我々は、ヘッセ行列およびその逆行列要素の高速・高精度計算を目的として、4次元変分法データ同化で用いられる 2nd-order adjoint (SOA) 法に基づくアルゴリズム開発およびその応用研究を推進してきた [1,2]。SOA 法で利用される SOA モデルは一般に常微分方程式の形式で与えられ、ヘッセ行列評価には SOA モデルの数値積分が必要になるが、その数値積分法の選び方によっては必要なメモリが増大するだけでなく、ヘッセ行列の計算精度が著しく低下しそれに基づいて計算される不確実性などの結果が信頼できないものになる可能性があるなどの問題があり、省メモリ化およびヘッセ行列計算精度の担保のためにどのような数値積分法を選択すべきかの指針を数理学的な観点から与えることは解決すべき積年の課題であった。

このような背景から我々は、近年提案された Sanz-Serna (2016) [3] の理論に基づいて、必要なメモリを最低限に抑えさらにヘッセ行列の数値誤差を計算機誤差まで抑えることを可能にする SOA モデルの最適な数値積分法の選択法を提案した。本手法では SOA 法に登場する微分方程式群に内在する保存量を離散化後も保存するような数値積分法を構築することで高精度なヘッセ行列計算を可能にしている。反応拡散系や波動方程式系の初期値推定問題やパラメータ推定問題などを通じて本手法を検証したところ、本手法から提案される数値積分法は従来用いられてきた数値積分法に比べて、ヘッセ行列に含まれる数値誤差を劇的に抑えることができていることが確かめられた。講演では、これら適用事例結果を本手法の導出と合わせて紹介する。

※ 本研究は、理化学研究所脳神経科学研究センターの松田孟留先生、大阪大学サイバーメディアセンターの宮武勇登先生との共同研究です [4]。

参考文献:

[1] SI, H. Nagao, A. Yamanaka, Y. Tsukada, T. Koyama, M. Kano and J. Inoue, Data assimilation for massive autonomous systems based on second-order adjoint method, Phys. Rev. E 94, 043307 (2016).

[2] SI, H. Nagao, T. Kasuya, and J. Inoue, Grain growth prediction based on data assimilation by implementing 4DVar on multi-phase-field model, Sci. Tech. Adv. Mater. 18:1, 857-869 (2017).

[3] J. M. Sanz-Serna, Symplectic Runge--Kutta schemes for adjoint equations, automatic differentiation, optimal control, and more, SIAM Rev. 58(1), 3–33 (2016).

[4] SI, T. Matsuda, and Y. Miyatake, Adjoint-based exact Hessian computation, BIT Numerical Mathematics (2021). 

 その他

 本ウェブサイトに関する研究成果については講演者に直接お問い合わせください。

 また本ウェブサイトは以下を基盤として運営されています。