感染症や食物アレルギー物質の検査には遺伝子診断技術が重要です.しかし現在の検査には一つの検体に対し,一項目の検査が主であり,複数項目の検査には煩雑な操作により長時間を要します.また,検査回数を増やすとその分,高コストになってしまいます.そこでマイクロ流体チップテクノロジーを応用して多項目の検査を一度にできる手のひらサイズの遺伝子診断デバイスの開発を目指しています。簡便なデバイスを実現するために必要なテクノロジーを実用化を見据えて開発しています.これまでに、新型コロナウイルス(COVID-19)やA型インフルエンザウイルスなどの感染症ウイルスの診断や,そば,落花生,小麦などの食物アレルギー物質,サルモネラなどの食中毒菌,キュウリなどの農作物に感染する病害ウイルス,違法薬物の検出等を実証してきました.
D. Natsuhara, R. Saito, H. Aonuma, T. Sakurai, S. Okamoto, M. Nagai, H. Kanuka, T. Shibata, “A method of sequential liquid dispensing for the multiplexed genetic diagnosis of viral infections in a microfluidic device”, Lab Chip, 2021, DOI:10.1039/d1lc00829c.
多項目の標的遺伝子を一度の検査で同時に検出可能なマイクロ流体デバイスを開発した.多項目検出を実現するためには,微量のサンプルを複数の反応容器へ正確に分注する技術が必要である.本研究では,反応容器の前後のマイクロ流路の一部に2個1組の狭窄部(縦型相ガイド)を設けることで,気液界面で生じる表面張力を利用した受動バルブとして機能させた.これにより,導入口より溶液を導入するだけで,複数の反応容器へ自律的かつ逐次的に分注されることが可能となった.
また,バルブの耐圧性能と導入流量により生じるマイクロ流路内での圧力損失の関係を考慮した分注理論式を導出した.これにより,デバイスに導入可能な最大流量や分注可能な容器数を事前に推定でき,デバイス設計の信頼性と再現性を向上させた.さらに,本分注技術と,等温増幅遺伝子法(LAMP法)を組み合わせることで,新型コロナウイルスを含む4種類の標的遺伝子のオンチップでの多項目同時検出を実証した.
D. Natsuhara, S. Misawa, R. Saito, K. Shiarai, S. Okamoto, S. Okamoto, M. Nagai, M. Kitamura, T. Shibata, “A microfluidic diagnostic device with air plug-in valves for the simultaneous genetic detection of various food allergens.”, Sci. Rep., 2022, DOI:10.1038/s41598-022-16945-2.
食物アレルギー物質のような多数の項目を効率的に検査するためには,微量サンプルと試薬を反応容器へ迅速に分注する技術が必要がある.従来のデバイスにおける受動バルブの配置では,反応容器を満たした後に到達するバルブに対して,下流側の流路長に応じて印加圧力が蓄積される設計となっていた.そのため,反応容器数の増加に伴って,下流の流路が長くなり,導入可能な流量が制限されるという課題があった.
本研究では,隣接する反応容器のバルブを互いに向かい合うように配置した流路デザインを開発した.このデザインでは,空気層を介してバルブ同士が押し合うことで印加圧力を相殺することが可能となる.これにより,従来のデバイス設計と比較して7倍の導入流量を実現し,10個の反応容器への分注を数十秒以内で完了できることを示した.さらに,本デバイスを3種類の食物アレルギー物質(小麦,そば,落花生)の遺伝子診断へ適用した.反応容器間でのクロスコンタミネーションは見られず,多項目同時遺伝子診断が可能であることを実証した.
D. Natsuhara, A. Miyajima, T. Bussho, S. Okamoto, M. Nagai, M. Ihira, T. Shibata, “A microfluidic-based quantitative analysis system for the multiplexed genetic diagnosis of human viral infections using colorimetric loop-mediated isothermal amplification”, Analyst, 2024, DOI:10.1039/d4an00215f.
標的遺伝子の定量化は,患者の感染症の進行状態の推定や治療効果のモニタリング,再活性化の早期検出などにおいて重要である.従来,用いられる蛍光検出法では,光学系を組み込む必要があるため装置が高コストになるという課題があった.
本研究では,マイクロ流体デバイスのタイムラプスイメージング装置と,反応容器内の色相を解析するソフトウェアを組み合わせることで,ユーザーフレンドリーで費用対効果の高い定量システムを構築した.反応容器内の色の変化量(L*a*b*色空間内での色相角度変化量)を解析することで,遺伝子増幅曲線の取得できることを示した.また,シグモイド関数をベースとした関数へフィッティングすることで,ノイズを低減したロバストな計測が可能であることを示した.さらに,本システムをヒトヘルペスウイルスの検出に適用したところ,一般的なPCRチューブを用いたリアルタイム濁度検出法と比較して,同等の検査性能を有することを実証した.
D. Natsuhara, Y. Kiba, R. Saito, S. Okamoto, M. Nagai, Y. Yamauchi, M. Kitamura, T. Shibata, “A sequential liquid dispensing method in a centrifugal microfluidic device operating at a constant rotational speed for the multiplexed genetic detection of foodborne pathogens”, RSC Adv., 2024, DOI:10.1039/d4ra04055d.
遺伝子検査のハイスループット化には多検体・多項目の同時診断が重要となる.従来はピペットやシリンジポンプを用いてサンプルをデバイスに導入していたため,検体数の増加に伴い導入に要する時間が増加するという課題があった.本研究では,遠心力下で機能するマイクロ流路デザインを開発し,複数の反応容器への逐次分注を実証した.LAMP反応では約60℃に加温することで遺伝子増幅反応が進行する.反応容器内に空気が残存すると,加温に伴い空気が膨張してしまう.そのため,反応容器内の空気を排出することが重要となる.そこで,遠心力に逆らう方向へ流体が移動するよう流路を設計することで,反応容器内の空気を完全に排出できる構造とした.さらに,遠心力による圧力水頭と流路内での圧力損失の関係を考慮し,バルブの設計制約を明らかにした.これにより,デバイス内のリザーバにサンプルを注入して回転させることで,4検体を5個の容器へ自律的に同時分注させることが可能となった.さらに,本デバイスを用いて食中毒菌4種類(サルモネラ,カンピロバクター,腸炎ビブリオ,ノロウイルス)に対する4検体・5項目の同時遺伝子検出を実証した.