研究発表等においる色づかいについて,気を付けるべきと考えている点をまとめたページです.
(以下は色づかいに関する全てではなく,あくまで一側面です.例の図が良くない点についてはご容赦を.)
読者が図を一目見ただけで情報を理解し,重要な要素を見落とさないようにするために
単に「異なる色」を選ぶだけでなく,明るさ(明度)に大きな差がある色を選ぶ.これにより,確実にコントラストを高めることができる.
避けるべき例:同じくらいの明度で色相だけが異なる色の組み合わせ.「明るい水色」と「明るい緑」など
推奨例:低明度と高明度の組み合わせ.「濃い青」と「薄い黄色」など
また,背景とのコントラストについても意識することが望ましい.背景が白の場合,グラフの線や文字の色は,十分に暗く,または薄い色に対して十分に明るくする必要がある.
特に印刷物や低解像度での表示を考慮し,細すぎる線や小さすぎる文字は避ける.
線の太さ:データが重なり合う場合でも,それぞれの線を区別できるよう,線の太さは一定以上を保つ.
文字(凡例・ラベル):グラフ内の重要なラベルや凡例の文字は,本文のフォントサイズに準拠しつつ,背景色や線色とのコントラストが高くなる色(多くの場合では黒)を使用する.
学会発表のスライド(プロジェクタ投影)では,画面上の色より彩度が低く,暗く見えることがある.
普段のモニターで見るよりも,やや彩度を高め,明度を上げることで,投影時に色が沈むのを防ぐことができる.ただし,ネオンカラーのような極端な色は避けたほうがよい.
特に淡い色の場合,プロジェクタによって見え方が大きく異なる場合もあるので,余裕のある場合には事前に確認しておくのがよい.
色覚特性を持つ人に限らず,誰もが情報を正しく受け取れるようにするために
「色に頼らない工夫」と「色の選び方」
色覚特性を持つ人にとって,色で区別する情報は非常に不安定であるので,色以外の視覚要素でも情報を区別できるようにする.最も重要だと考えられるポイント.
線のスタイル:実線,破線,点線などを使い分ける.
折れ線グラフや分布図の境界線など
マーカーの形:丸,四角,三角,ひし形などを使い分ける.
散布図のプロットやデータ点など
パターンの適用:斜線(ハッチング),網掛け,ドットなどのパターンを適用する.
棒グラフ,ヒストグラム,面グラフなど
直接ラベル表記:凡例に頼らず,グラフ要素の近くに直接名称を書き込む.
凡例の特定の色が判別できない場合のリスク回避に
研究に関する図で多用されがちだが,特に区別の難しい色の組み合わせを知り,できる限り避ける.
赤と緑:最も多くの色覚特性で混同しやすい組み合わせ.極力使用を避けるか,使用する場合は上記①の工夫を必ず併用する.
青と紫:明度が近いと混同することがある.紫は赤みが強い色(赤紫)にし,青との明度差を大きく確保する.
明るい色全般:明るい茶色,明るいオレンジ,黄色などは,他の色との区別が曖昧になりやすいので,彩度と明度を慎重に選ぶ.
色覚特性を持つ人でも区別しやすいように工夫された,色相だけでなく明度と彩度を調整した特定の配色セットが存在する.具体的には,以下のような調整が施されていることが多い.
青:黒と混同しないようにやや明るめに
紫:青と間違えないよう,赤みを強く(赤紫)
茶色:明るい茶色は赤や緑と混同しやすいので,暗めの色に
自分の図が色覚特性を持つ人からどう見えるかを,ツールでチェックする.
以下のようなツール・方法が利用可能.
色のシミュレータ (アプリ):スマートフォンを使って見え方を確認できる.作成した図を読み込むことも可能
Adobe Color/Coolors:コントラスト比の確認,色の種類(P型・D型など)ごとの見え方のシミュレートが可能
グレースケール変換:図を白黒(グレースケール)に変換しても,線の種類や濃さだけで情報が区別できるかを確認する.これが出来れば色覚の課題はほぼ解消されている.
私は色のシミュレータのアプリをたまに使っています.
ブログの記事で取り上げたことのある,この論文も勉強になります.
The misuse of colour in science communication
頭に入れておくと良いポイントとして以下が挙げられます.
人間の目(の錐体細胞)はより長い波長の光に敏感であるために,緑がかった色のグラデーションはデータの変動を過小評価しがち.
結果として,RGB空間で等間隔な色を人間が等間隔に感じるとは限らない,ということが起こる.デザインにおいては,人間がより等間隔に感じるような色の表し方(表色系)や数値化の方法(色空間)が一般に用いられる.