二酸化炭素(CO2)を回収して地下に貯留する「CCS」という技術がある.CCSは,二酸化炭素を回収して海底や地下に閉じ込め,実質的に排出量を減らす技術で,二酸化炭素(Carbon dioxide),回収(Capture),貯留(Storage)の頭文字に由来する.我が国では実証実験が済んだ段階であるが,欧米では1990年頃に事業化が実現している.1996年にはノルウェーの天然ガス鉱区のスライプナーにおいて商用規模のCCSが始まっている. 下図は資源エネルギー庁のHPに掲載されている図である.
CO2を地下に埋めるという技術自体は,1970年代に米国で実用化されている.古くなった油田にCO2を埋め戻すことで,石油を効率よく採掘することに成功している. 地下から採掘された天然ガスに含まれるCO2を回収,地下に埋め戻し,圧力で地層に取り残された石油を押し出すことで,より多く採掘できるという効果が期待できるという.この技術は「CCS」と区別して「CCUS」(「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」)と呼ばれている.
CO2は,地下800メートル以上の深い地層に埋める必要がある.地下深くで固い泥岩の層が「遮へい層」になり,CO2を貯蔵した地層を覆うことで、地上に漏れ出るのを防ぐ.地下に埋めたCO2は,砂,火山灰,岩石のの隙間を埋める水などによって非常に高圧・高温な環境によって,超臨界状態(気体から液体に近い状態)に変化するという.CO2は地層に溜まっている水にゆっくりと溶け,最終的には地層の一部となると考えられている.しかし,地下深くに埋められたCO2が長い年月の間に,どのように広がり留まるのか予測できないため,CO2を圧入した後も、数年ごとに地下のデータを取得し、モニタリングする必要がある.
2017年の記事(資源エネルギー庁)
日本ですすめられている実験
日本では、2012年から、北海道・苫小牧でCCSの大規模な実証実験がおこなわれています。2016年度からは、港内の海底の下にCO2を高い圧力で貯留する作業を開始しました。製油所から供給されたガスの中からCO2とそれ以外の気体を分離し、海底の深くに掘った井戸に、年10万トン規模のCO2を3年間埋めこむ計画です。終了後は2年間、CO2が漏れ出さないようにモニタリングする予定です。
また、国際連携も進んでいます。2015年には、日米共同でCCSの共同研究開発を促進するため、協力文書がかわされました。2017年10月には、協力範囲をCCUSに広げることで合意。ビジネスベースでも協力を進めることが約束されています。
こうした取り組みを通じて、CCSとCCUSの技術を確立し、CO2排出量削減に役立てていくことが期待されています。
2020-12-25
CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に(後編)
CCS技術の実用化を目指しておこなわれた苫小牧実証試験は、目標であったCO2の30万トン圧入を達成しました。今後はCCSの実用化に向けた取り組みを進め、2030年までの商用化を視野にCCSを導入することを検討しています。今回の実証実験を通じて得られた知見と課題を活かして、今後は以下の4つの方向で、技術の実証や商用化に必要なしくみの整備を推進していきます。 以下略
2023年時点の状況
経産省は日本での事業化を急ぐため,4月に支援対象となる「先進事業」を公募し.学識経験者らによる委員会がCO2の回収・輸送方法や貯留地域などを精査して7か所に絞り込んだ.
政府は30年までに,年600万~1200万トンのCO2を地下に貯留する目標を掲げているが,今回の7か所が事業化されれば,30年度には日本が1年間に排出するCO2の1%強に相当する約1300万トンを貯留できると見込んでいる.
経産省の試算では,50年にCO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するには,CCSによる貯留量を年1・2億~2・4億トンにする必要がある(読売新聞オンライン).
地下に圧入されたCO2がどのような形で遮蔽層下に保持されるるのか調べてみると,化学反応説に関する以下の記事が存在する.
海洋底の堆積物の下には玄武岩層(海洋地殻)が広がっている。一般的に、玄武岩層にはミクロな孔隙やマ クロな亀裂が存在する。そこに液体または超臨界状態のCO2やCO2が溶解した海水を注入すると、玄武岩に含 まれる2価金属イオンとCO2との化学反応により炭酸塩鉱物を形成することが知られている。最近の陸上実証実験等の結果から、その鉱物固定化速度は数年程度であると指摘されている(海外での事例では、圧入され た95%以上のCO2が2年以内に鉱物化することが示されている)。本邦EEZ(排他的経済水域)には、安定し た海洋プレート上に玄武岩を基盤とする海山(大規模平頂海山)が複数存在することから、大規模CO2貯 留・隔離(CCS)に係るイノベーションが期待される(世界初)。
化学反応ににより炭酸塩となり鉱物固定化すれば,海に囲まれた日本では理想的な貯蔵システムの構築が可能である.一方,CO2を分離して,集めて,貯蔵基地まで輸送する必要があるため,コスト面での問題が指摘されている.苫小牧における小スケールの実証実験の結果では,1トンあたり,約7千円の費用が掛かったとのことである.CO2の地下貯留は地震を引き起こすリスクもあるとの見解も一時あったが(米国の記事),化学反応により鉱物化すればその可能性は低いと考えられる.日本近海には1400億トン程度のキャパシティがあるという.前途多難の感はあるが,地球温暖化防止のための技術として,検討する価値はあるようだ,
参考資料
CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現 ...
[PDF]CO2 を地中に貯留すると、 何が起こるか - Global CCS Institute
二酸化炭素貯留に地震を引き起こすリスク、米研究 - AFPBB News
苫小牧におけるCCS大規模実証試験 30万トン圧入時点報告書 ...
海のカーボンニュートラル 新技術開発 化学反応の説明 2022年1月
日本のCCS事業への本格始動 2023年6月13日 経済産業省
(2023.8.16)
海のカーボンニュートラル 新技術開発 倉本真一(理事) 国立研究開発法人海洋研究開発機構 JAMSTEC