1999年7月・8月の出来事
7月18日・怪盗ドルイド登場!
先月末に学園報道団体に送りつけられた「怪盗ドルイド」からの予告状。本文の暗号は誰も解けなかったが、その宛先とされた『北欧展』の会場は集まった生徒たちでごった返していた。
博物館前駅では検問のため乗客がホームからこぼれ落ちそうになっていたが、怪盗ドルイドはそんな検問をあっさりと突破すると……
【……パリーン!
いったいどんなトリックが使われたのか、少女の手が触れるや否や派手な音と共にケースが突然割れる。
ジリリリリリリリリリリリリリリリ。
ケースに仕掛けられていた警報機が反応し、けたたましいベルの音が館内中に鳴り響く。
……「あら、見つかっちゃった?でももう遅いわ、ルーンの小石は予告どおりいただいて行くわね」
そう言って怪盗ドルイドはにっこりと微笑む。
夏の風が、ドルイドのスカートの裾を揺らす。だがその服装は、いつの間に着替えたのか、学園制服姿から手品師のステージ衣装を思わせるような派手な服装へと代わっていた。】
探偵・推理小説研のアルフレッド・グラマティクスをはじめとする警備陣に囲まれたドルイドは、ルーン石を使って易々とこれを突破。
傍観する押山響の見守る中、ドルイドは梢の中に姿を消したのである。
7月25日・『知恵の泉』計画反対集会
先月発表された『知恵の泉』計画とは、超統一理論あやとり研の粒子加速器「パルジファル」を使ったタキオン検出実験である。
ただの実験ならば何も問題はないのだが、問題はこの実験が学園の電力のほとんど全てを使ってしまうということ。
それはいくら何でもまずいだろうという訳で、理科系クラブ会館前は計画反対派の群衆でごった返していた。警備陣が群衆を整理する中を、理科系クラブ会館に向かう計画責任者の火野静と館野かえで。
そのとき、突然軽い炸裂音が響いた。
【……この場にいた全員が、音のした方に注目する。火野らにめがけて投げつけられた爆竹が、使命を終えくすぶりながら白い煙をたなびかせている。
「うおぉぉぉこの場にいた全員が、音のした方に注目する。火野らにめがけて投げつけられた爆竹が、使命を終えくすぶりながら白い煙をたなびかせている。
「うおぉぉぉゃぁぁぁぁっ!!」
続いて、空気を切り裂くような声とともに、火野の後ろ側の群集から、一人の男が飛び出してきた。白いヘルメットを被り、タオルで顔の下半分をぐるぐる巻きにして、手には赤錆の浮く使い込まれた鉄パイプが握られている。男は、わずかに生じた空隙を狙い、火野へと駆け出した。】
飛び出してきたSS残党は、火野の護衛についていた学防陸軍の水槌統影少尉によって取り押さえられた。
【「何だSS残党かよ」
「参るぜ。これじゃ、俺達までSS残党みたいに思われちまう」
「いつまで過去にしがみついてる気かしら。バカみたい」
「迷惑なのよね、ホント。どうにかしてよ、もう」】
取り押さえらえたSS残党に浴びせられる嘲笑。伝説の90年動乱から10年。学園生徒の意識はすっかり変わっていた。このまま終わるかと思われたそのとき、SS残党の吐いた言葉が、それまで静かに事態を見守っていた館野を一変させる。
【「SS万歳!南豪閣下万歳っ!!」
組み敷かれた男の、苦し紛れの叫び。それが二幕の開演を告げるベル。
「あっ…」
突然、火野の隣にいた女性がSS残党に駆け寄った。女性は、男の襟元を引き上げると、その頬を殴り付けた。何度も、何度も、何度も何度も。
「お前はっ!お前かっ!お前が、お前…」
あとの声は、涙声に消されていった。女性は、泣きながら、憎しみを込めて男を殴り続ける。事態の急変に動きを止めていた公安委員に引き離されるまで、女性は泣きながら男を殴り続けた。
「うっ、うっうっうっ……」
公安委員に抱きすくめられた女性は、崩れ落ち鳴咽した。】
後の『過去』関連ストーリーの伏線。火野静と館野かえでが以前よりの友人であったことや、館野かえでが南豪君武に対して尋常ならざる怨念を秘めていることが明らかになる。
そしてパルジファルの第一回全力稼働実験は……
【……灯が消えていく。時間にすれば、長くても数分ほどの出来事。だが、その数分がもたらした破壊的なまでの影響は、学園に瞬間的な「死」をもたらしたのだ。
不夜城の名を持つ委員会センターも、近代的秘境といわれる弁天寮も、永遠の宵の口ににぎわう学食横町も。学園のみならず宇津帆島が闇に溶けた瞬間だった。
むろん、すぐさま予備電源が入り、自家発電に切り替わり、火力発電所の電力がケーブルを駆け巡った。それでも複雑に絡み合い、相互に影響しあう現代のシステムは、すべての電源が切れることは想定していない。この停電の被害を逃れえる施設は、システムは皆無だった。】
8月15日・幽霊塔
パルジファル全力稼働実験の夜、路面電車に乗り合わせた榊原源一郎、シンディー・上条、シャルロット・ソフィの三人は、幽霊塔の近くで停電に遭遇。そこで鳴らないはずの幽霊塔の鐘の音を聴く。
慌てて駆けつけた三人の前に現れたのは『時計師』。
【……「時計なんてなくても生きていけるよ。時間なんて概念も、気にしなければどうとでもなる。一日二十四時間、人に都合のいい、人が決めなければ存在しない概念だからね」
……「だけど、時は動いていくわ。例えこのままでいたいと、この時間が永遠であれと思っても」
ソフィは怪人に問い掛けるように呟く。
「君のものだぜ、ありったけの時間。そりゃまたたっぷりあるものだ。君、疑うことなかれ。時間なければ、君、一時だって暮らせやしない」】
時計師は幽霊塔の時計を動かすと姿を消した。
主な出来事
7月
1日 旧島にて星祭りが行われる(~7日)。
8日 理系クラブ連盟による『渦』調査団が宇津帆を出航。
10日 ルーン石限定販売で学園中が混乱。
17日 リーデンブロック博物館で『北欧展』始まる。
18日 『北欧展』会場で怪盗騒ぎ。怪盗ドルイド、ルーン石を大量に強奪。鹿沼初子、怪盗ドルイド対策本部の本部長に任命される。
25日 『知恵の泉』計画反対集会。SS残党によるテロ事件発生。
8月
10日 村雨真菜、白桐双葉、高田涼介、ヨシュア・レイス等が「知恵の泉」計画に参加。
12日 『渦』調査団、北極海への立ち入りをロシア海軍により阻止され、やむなく帰蓬の途につく。
15日 パルジファル第一回全力稼働実験。学園全土を停電させ失敗する。
停電のさなか、幽霊塔の鐘の音が響きわたる。