一般的な「AI紹介」とは一線を画す,飯南高校での「ガチの生成AI活用特別講義」を終えて(2026.9.3)
一般的な「AI紹介」とは一線を画す,飯南高校での「ガチの生成AI活用特別講義」を終えて(2026.9.3)
2026年9月3日,三重県立飯南高等学校の3年生の皆様を対象に,45分×2回の特別講義を行わせていただきました.テーマは「生成AIを活用しよう 〜AIで自分の未来はどう変わるのか〜」です.
私自身,秋田県の大学で24年間教鞭を執った後,昨年4月に三重県に着任したばかりで,現地の地理への不慣れさから移動の段階で少々慌ただしいスタートとなってしまいました.しかし今回は心強いアシスタントとして,同校の卒業生であり現在は本学で学ぶ学生さんが同行してくれました.
今回の特別講義では,一般的な「AIの紹介授業」や「プログラミング教室」とは大きく異なる,本学ならではの「5つの独創的なアプローチ」を取り入れました.その意図と当日の様子を詳しくご報告いたします.
独創性①:開発でも表面的な紹介でもない、ガチの「使いこなし」に特化した思想
多くの大学や専門学校におけるAI教育は,AIを開発する「理系(開発者)の育成」に偏るか,あるいは「AIとは何か」を解説するだけの「表面的な紹介」で終わりがちです.しかし,本学オフィスワークコースが目指し,この特別講義でも一貫して提示したのは,文系・理系を問わず「AIを自分の武器(道具)として徹底的に使いこなす力」の育成です.
講義の冒頭では,「知識の量」の勝負は既に終わり,これからのAI時代に問われるのは「知っている量」ではなく「AIを活用して問題解決できる,使いこなす力」であることを,社会の変化に紐付けて明確に提示しました.
独創性②:「英語よりまず日本語」を重視する、母国語プロンプト論
「小学校から英語教育が始まっています。しかし,私は講義の中で「英語を学ぶより先に、母国語(日本語)を正しく使う力こそが最大の武器になる」という逆転の視点を提示しました.
その実証デモとして,自動翻訳ツールに「私はウナギ」と入力する例を紹介しました。レストランで注文するときに,ウナギを注文しようとしたとき,日本語では「私はウナギ」で注文できてしまいます.主語や目的語を省略する日本独特の文化によりこの会話が成立するのですが,ツールに翻訳させると直訳として "I am an eel."(私はウナギです) という不自然な出力を返してしまいます.これはAIの欠陥ではなく,人間に「伝わる日本語」の配慮が欠けているために起こる現象です.
さらに,過去に国内の地方自治体で発生した,「大雨時の防災情報において,自動翻訳の誤りから『川の周辺へ避難(誘導)するよう促すメッセージ』が配信されてしまった実害事例」のニュース映像を提示しました.命に関わる場面でのAIの誤情報は極めて重大なリスクをもたらします.生徒の皆様には,「AIが出力する回答はあくまで下書きであり,情報の真偽確認(ファクトチェック)を行うのは人間自身の役割である」という原則を強く訴えかけました.
AIを適切にコントロールするための秘訣は,行政でも導入が進んでいる「やさしい日本語(はっきり言う,最後まで言う,短く言う)」にあると考えています.この国語力こそが,高度なAIプログラミング技術を凌駕するプロンプト力になるという講義構成は,生徒たちにとっても新鮮な驚きだったようです.
独創性③:プログラミング不要!日本語だけで「テトリスを拡張する」エージェント体験
後半の体験型アクティビティでは、Chromebookを用い,「ChatGPTに対し,プログラミング言語を使わず日本語の指示だけでテトリスを自作させる」という実践を行いました.
高度なコードの知識がなくても,「テトリスを作ってください」というシンプルな一文化から,ブラウザで実際に遊べるゲームのベースが数秒で構築されます.そこからさらに,生徒各自で「背景を宇宙にする」「落ちてくるブロックの種類を増やす」「12%の確率で周囲を消去する爆弾ブロックを出現させる」といった,自由なルール設計や演出の追加を「対話(日本語の指示)」だけで即興で行うプロセスを体験してもらいました.
いつもはGoogle Geminiでこの実習を実施しているのですが,高校の環境の都合で今回はChatGPTを使いました.ChatGPTによるゲーム開発を高校の実習で取り入れるのは初めての試みであり緊張いたしましたが,生徒の皆様が「ゲームをこんなに簡単に作れるとは思わなかった!」と歓声を上げながら改良していく様子を見て安堵いたしました.これからの時代は「自分の手でゼロからコードを書く」だけでなく,「AIに的確な命令を下し,仕上がった成果物を人間が検証・統合する」という役割シフト(エージェントとしての働き方)が起きていることを,身をもって体感していただけたと確信しています.
独創性④:科学的データに裏付けられた「成績が伸びる・落ちる使い方」の対比
多くの学校現場では「AIを課題に使うことへの懸念や禁止論」が渦巻いていますが,本講義では禁止するのではなく,学術的なデータをもとにした「成績に直結する活用の境界線」を提示しました.
「感想文や課題をAIに丸投げしてコピー&ペーストして提出する生徒は成績が低下し,家庭教師のように『解き方のプロセス』や『推敲のヒント』を相談しながら活用する生徒は学習効果が向上する」という事実をはっきりと示しました.
その上で,入試や就職を控える3年生に向けて,志望理由書を自分らしく磨き上げるための「3ステップ活用法」を指導しました.
拙くてもよいので,部活や行事での「自分の実体験・エピソード」をまずテキストとして書き出す(AIは個人の経験を知らないため)
そのテキストをAIに提示し,「誤字脱字の修正や、論理的な整理(リライト)」を依頼する
出力された文章を再度人間が読み込み,自身の血の通った言葉に引き戻して完成させる
AIを「代わりに考えてもらう道具」にするのではなく,「自分の思考をさらに深め,磨き上げるためのパートナー」として位置づけるこの境界線の提示は,生徒の皆様にとって極めて実用的な指針となったようです.
独創性⑤:大都市ではなく「飯南という地域だからこそAIが最大の武器になる」地方創生視点
AIは都会の大企業だけのテクノロジーではありません.むしろ,人手不足や少子高齢化に直面する地方ローカルエリアにおいてこそ,AIは最大の「少数精鋭の武器」になります.
講義では,飯南特産の「お茶」の魅力発信や,地域の観光PR,イベント告知ポスターのアイデア出し,外国人観光客向けの多言語翻訳など,「飯南町という具体的な地域課題をAIでどう解決するか」を生徒たちに投げかけました.地域に根ざした活動を大切にしている飯南高校の生徒の皆様だからこそ,この「地域×AI」の親和性を当事者意識を持って捉えていただくことができました.
講義を終えて
受講後の振り返りシートには,教育者として大変励みになる,本質を捉えた気づきが数多く寄せられました.
「AIは非常に便利だが,丸投げして使い方を誤ると自らの成長の機会を奪い,将来的に自分が不利になってしまうのだと深く理解できた」
「AIの出す出力を無条件に信用せず,最後は自分の頭で考え,ファクトチェックを行う国語力を大切にしたい」
「今後の社会において必須となるAI活用力について,高校生という早い段階で『ただ使う』以上の本質を学べて本当によかった」
生徒の皆様の真摯な聴講態度と,主体的なアウトプットの数々に深く感銘を受けました.皆様が今回の学びを糧に,これからの変化の時代において,AIという強力なツールを自身の強みとして使いこなしていかれることを心より応援しております.
最後になりますが,このような素晴らしい機会をご用意いただきました飯南高等学校の教職員の皆様,並びに熱心に講義に取り組んでくれた生徒の皆様に,厚く御礼申し上げます.
(高田短期大学キャリア育成学科オフィスワークコースでは,今後も実社会で「活きる」実践的なAI活用能力の育成に取り組んでまいります.普段の講義では,楽しみながらAIの挙動を学ぶため,あえて「ツンデレ仕様の入試対策チャットボット」を学生たちに作らせるユニークな実習なども取り入れています.ご興味を持たれた方は,ぜひ本学のWebサイト等もご覧いただけますと幸いです.)