シリーズ 知の港  刊行のことば

 かつて旅人たちは海彼の果てをめざした。そこにある新しい港で、偶然性と出会いがもたらす充実した生の境地を得ようとして。かつて旅人たちは港湾の風光を求めた。多様な船籍の船が行き交い、文物がうごき、ひとびとの思考様式が交錯するなかに、自らとは異質の軌道を引き受けんとして。知の可能性が出尽くしたかと思われる時代にあって、いまわたしたちは、港をつくり、そこに集う。わたしたちに必要なものは、瞬間と永遠のなかで考え抜く決意だけである。            

     2012年10月 ライトハウス開港社