①ブツ(ゴミ)
②ハジキ 凹み
③メタリックムラ
④タレ 流れ
①ブツ(ゴミ)
ブツ?なにそれ?という方もおられると思いますが、ブツとは、簡単に言うと塗装面についた小さなゴミのことです。空気中には大小様々なゴミが浮遊していますが、そのゴミが塗装面に付着することは、よくあることです。自動車鈑金塗装業界では、ブツが塗装面につかないように様々な工夫を凝らしていますが、その一部をご紹介します。
<ブツの原因>
ブツが塗装面に付着するのには、様々な原因があります。この原因一つ一つを確実になくすことで、ブツの付着を減らすことが可能です。
まず前提として、塗料をスプレーガンのカップに移す際には必ずストレーナーでろ過を行ってください。ストレーナーを通せば、殆どの場合ブツの混入を防ぐことが可能ですが、ストレーナー以降で発生するブツはストレーナーで防ぐことが出来ません。以降の内容は、基本的にストレーナーでろ過した上で発生するブツに関して記載していきます。
・ろ過が不適切な場合
目が粗いストレーナーでろ過を行っている場合や、ストレーナーに不具合があった場合に、塗料内のブツがろ過出来ずに塗料カップに混入し、塗装面に付着することがあります。塗料をカップに移す際は、必ず新品のストレーナーをご使用下さい。
・使用する塗料に適合していないシンナーを使用した場合
お使いの塗料に適合していないシンナーを使用した場合、仮にストレーナーを通した後でも、カップの中で反応してゲル化し、それがブツとして塗装面に付着する可能性があります。
・空気中に浮遊しているホコリやゴミが塗装面に付着する場合
空気中には微細なホコリやゴミが浮遊しており、塗装しているとどうしてもそういったゴミが付着するのは避けられません。このホコリ等を限りなく無くすために、大型の塗装ブース等を構える自動車鈑金塗装業者さまも多いため、浮遊するホコリやゴミは一番の難敵です。また、塗装している最中に、対象の車からホコリやゴミが出てくることもあります。
・スプレーガン使用後の洗浄が不十分な場合
スプレーガンを使用した後は、洗浄用シンナー等で洗浄を行いますが、その洗浄が不十分だと、スプレーガンの中で固まった塗料がガンの先端から(塗料と一緒に)出てしまい、塗装面に付着する場合があります。多くの場合はスプレーガンの管理を徹底することで解決しますが、使用前に洗浄用シンナーを一度通す等で予防することも出来ます。
<ブツの対策>
・目の細かい新品のストレーナーを使用してろ過を行う。
・塗装の作業場(塗装ブースの中)を清潔にし、壁や床等を水で
濡らしてホコリがたたないようにする。
・被塗装物のダスト、ゴミを完全に除去する。
・塗装ブースにフィルターがある場合は、定期的にフィルターを
交換する。
・塗装に使用したスプレーガンは必ずしっかりと洗浄する。
<ブツの処置>
・塗装中にゴミがついたら、先の尖った工具(ダストニードル)等で取り除く。
・小さな物はブツカット、砥石等を使用して削り取り、コンパウンドやポリッシュ掛けをして仕上げを行う。
・大きめのブツは、400番(かそれより細かい番手)のペーパーで水研ぎし、再塗装を行う。
上記で使用した商品に関して、商品リンクはこちらからどうぞ!
②ハジキ(フィッシュアイ)
ハジキとは、塗料が均一に付着せず、塗膜の所々に凹みが生じたり噴火口のような穴が生じることを指します。大きさや深さはまちまちですが、後から除去するのが基本的に不可能(処置は基本塗り直しになる)なため、事前の対策と注意が必要です。
<ハジキの原因>
・ワックス、グリス、オイル等が塗装表面に付着している場合
ワックス、グリス、オイル等が塗装表面に付着しており、それらが塗料(または下地となるプライマー等)を弾くことで、ハジキやフィッシュアイが発生することがあります。また、空気中に浮遊しているワックス等の粉塵も油分を含んでいることがあり、その場合も塗装を弾く原因になります。また、空気中に離型剤や防水剤等の油分が飛散している環境下では、油分を拭き取った後でも、しばらく時間が経つと塗装面に薄い油膜が形成され塗料が弾かれる原因になります。
・エアーラインの水分や油分による場合
見逃しがちなのが、エアーラインの中に生じた水分や油分が、塗料と一緒に塗装面に吹き付けられ、ハジキが発生する場合があります。これはストレーナー等で塗料をろ過していても発生する事案なため、手元フィルター等(スプレーガン本体直下に取り付けるタイプのフィルター)で水分や油分を除去する必要があります。
・異種の塗料のスプレーミストが付着した場合
様々な塗料を同時に使用する環境下だと、異なる塗料が何らかの原因で混入したり、異種の塗料のミストが空気中を漂っており、塗装面に付着することで本来塗るはずの塗料が弾かれてしまう場合があります。
<ハジキの対策>
★前提として、塗装面の油分・水分はきちんと除去しましょう!
その上で
・塗装場や塗装ブースの環境を整えましょう。
→具体的には、
①グリスやその他の油分は塗装場に持って入らないようにする
②油分が散布される場所の近くで塗装関連作業(調色等を含む)を行わない。
・スプレーガンには手元フィルターを取り付け、定期的に交換しましょう。
→エアーラインを定期的に洗浄、乾燥させる等きちんと管理点検を行うことでハジキは抑制できます。が、外気温によっては短時間でエアーライン内に結露が発生することもありますし、何らかの影響で油分が混入する可能性はあります。よってより確実な方法は、スプレーガンの直下に除去フィルターを装備することです。
・塗装面には手を触れないようにしましょう。
→意外と失敗しがちなのが、塗装面を直接素手で触ってしまい、僅かについた手の油でハジキを誘発することがあります。注意しましょう。
③メタリックムラ
メタリックムラは2種類あり、吹きムラと戻りムラがあります。吹きムラは主にベースコートの塗装が不均一な状態で、なおかつスプレーガンの運行がスムーズではない場合に起こります。戻りムラはクリヤー塗装時にベースコートの顔料が動くことで発生しますが、昨今のクリヤーは戻りムラが発生しにくい設計になっているようです。
画像上部と下部で、同じ塗色にも関わらずムラが発生しています。(参考画像は吹きムラです)
<メタリックムラの原因>
・シンナーの季節が適していない場合
メタリックムラの原因になり易いのが、シンナーの季節です。また、塗料の希釈量が合致していない場合も、メタリックムラの原因になります。
・スプレーガンの調整や使用法が不適切な場合
スプレーガンのエアー圧、塗料の吐出量、塗装物とスプレーガンとの距離、スプレーガンのパターン幅、スプレーガンの動かし方(動かすスピード)等多くのパラメータが複雑に関係しており、メタリックムラを発生させないためにはそれらを適切な範囲で行う必要があります。これらを自分で調整して合わせ込むのは困難なため、下の項にメタリックムラを発生させにくい塗り方を記載します。
・セッティングタイムが不十分な場合
ベースコートを塗装してからクリヤーを塗装するまでに、十分なセッティングタイム(乾燥時間)をとれているか再度確認してみましょう。乾燥時間は使用するシンナーや気温、湿度によっても変わってきますので、注意が必要です。
<(対策)メタリックムラを発生させない塗装方法>
・ドロップコート
ドロップコートとは、塗料の粒を遠くから"落とす"イメージの塗装方法です。具体的には、スプレーガンのエア圧を普段のエア圧よりやや絞ります。エア圧を絞ると塗料が少し大きな粒になって出てくるようになります。スプレーガンと塗装物の距離は、やや遠めが良いでしょう。そしてスプレーガンを動かすスピードは遅めがお勧めです。塗り回数は1回、多くとも2回までにしましょう。
・シンナーの季節を合わせる
シンナーの季節は、セッティングタイム(乾燥時間)と密接に関係しています。メタリックムラはセッティングタイムが不十分だと発生しやすくなりますので、シンナーの季節を合わせて適切なセッティングタイムを取って頂くだけで、メタリックムラのリスクを低減することが可能になります。
・スプレーガンの点検、清掃を行う
スプレーガン内にて塗料が固まっているなどが原因で、塗料に適切な圧力が掛からなかったり、スプレーガンからのエアの出方が不均一になったりすると、これもメタリックムラの発生源になってしまうことがあります。どうしてもメタリックムラが治らない場合は、一度スプレーガンの点検・整備を行うことをお勧めします。
<メタリックムラが発生してしまったら>
・クリヤー塗装前
クリヤー塗装前であれば、上記のドロップコート等でムラ取りを行いましょう。
・クリヤー塗装後
クリヤー塗装後はムラ取りは出来ないため、クリヤーを研磨して剥がし、ベースカラーから再塗装しましょう。
<メタリックのベース塗装向けスプレーガン>
メタリックのベースコート向けのスプレーガンを使用すると、ムラの発生を抑制し易くなります。
④タレ・流れ
タレ(タレる、タラす)とは、塗膜が部分的に極端に厚くなり、タレた状態を指します。主な要因は乾燥が十分でない状態で、さらにその上から塗料が乗ることでタレが発生します。乾燥が十分でない理由としては、気温や湿度等は勿論のこと、シンナーが季節に合致していない場合にも発生しやすくなります。
<タレ・流れの原因>
・シンナーの季節が適していない場合
タレ・流れの原因になり易いのが、シンナーの季節です。季節の合致していないシンナーを使用する(例えば、春秋に夏用シンナーを使用する)と、乾燥時間が十分ではなくタレが発生する原因になります。
・スプレーガンの調整や使用法が不適切な場合
スプレーガンで塗料を吹く際に、局所的に厚く塗ってしまった場合にもタレは発生し易くなります。パターンの調整が不適当(同じ場所が厚く塗られてしまう)な場合には、仮に職人さんの吹き方に問題が無い場合もタレが発生してしまいます。塗料を吹く前にパターンの調整が適切かを確認するようにしましょう。
・温度が低く湿度が高い場合
上記にてシンナーは必ず季節に合致した物を使用するようにと記載しましたが、仮に季節が合致していても、季節と温度が合っていない場合や季節の変わり目で、気温や湿度が安定しない場合は注意が必要です。温度や湿度を注意しつつ、長めにセッティングタイムを取り十分に乾燥させることが重要になってきます。
<タレ・流れの対策>
・シンナーは季節に合った物を使用する
タレの主な要因は乾燥時間に起因します。乾燥時間の目安はシンナーによって異なるため、必ずその季節にあったシンナーをご使用下さい。また、温度や湿度等にも十分注意し、季節の変わり目で判断が難しい場合は、長めにセッティングタイムを取る等予め余分を持った判断をしましょう。また、希釈比率や吹き付けの粘度にも注意しましょう。
・一度に厚塗りしない
スプレーガンで塗料を吹く際に一度に厚塗りすると、タレの原因になります。セッティングタイムを十分にとり、数回に分けて塗装することで、タレを予防することが出来ます。
・塗装する前にテスト吹きを行い、不具合が無いか確認しましょう
塗料やシンナーをしっかり管理運用しても、スプレーガンの管理が不十分だと、いざ使う際に不具合が生じる可能性があります。かならず本番吹きの前に、塗り板等でテスト吹きを行い、スプレーガンと塗料の状態を確認してから、本番吹きを行いましょう。
<タレ・流れの処置>
・乾燥後、水研ぎでタレた部分を除去し再塗装を行う
タレの除去は必ずタレ本体が乾燥してから行いましょう。乾燥が不十分だと、タレの除去に周囲が巻き込まれ、却って作業量が増加してしまいます。最悪、広範囲の塗り直しに発展する可能性もあります。タレが乾燥したら、水研ぎでタレを除去し、再塗装を行いましょう。タレが極小規模で、タレを除去した後が殆ど気に成らないようであれば、コンパウンドをかけることで目立たなくなる場合もあります。
⑤ゆず肌・オレンジピール
塗装完了後に塗装面を確認すると、表面が僅かに凸凹しており、柑橘類の皮の表面のような状態になっていることを指します。主な理由はシンナーの乾燥時間が季節に合致していなかったり、スプレーガンの圧が適正でない場合に発生することが多いようです。
<ゆず肌・オレンジピールの原因>
・シンナーの季節が適していない場合
シンナーの季節が合致していない場合、特に蒸発の速い物(例,春秋期に速乾、夏場に標準等)を使用した場合に、ゆず肌(オレンジピール)が発生し易くなります。
・塗料の粘度が高すぎる場合
塗料の希釈が十分でなく、粘度が高いまま吹き付けた場合にもゆず肌が発生し易くなります。
・塗装室(塗装ブース)や塗装面の温度が高すぎる場合
塗料の乾燥時間は、温度や湿度に密接に関わっていますが、塗装物の表面温度が高い場合や、塗装室(塗装ブース)内の気温が高すぎると、想定よりも短い時間で乾燥が起こり、ゆず肌が発生し易くなります。
・スプレーガンの運行が速い、または距離が通り場合
スプレーガンを使用して塗装する際、スプレーガンを素早く動かし過ぎると、ゆず肌が発生するリスクが高まります。またスプレーガンと塗装面の距離が遠すぎる場合も同様にゆず肌が発生する可能性があります。
<ゆず肌・オレンジピールの対策>
・塗装条件に合ったシンナーを使用する
塗装時の季節に合ったシンナーを使用すると共に、どうしてもゆず肌が発生する場合は、少し希釈を薄くしてみる(塗料に対して溶剤を若干多めに入れる)と良いでしょう。上でも書いた通り、ゆず肌の主な原因は乾燥時間にありますので、塗料の希釈を変えたり粘度を調整することで解決することがあります。
・スプレーガンの運用を見直す
スプレーガンで塗装を行う際、スプレーガンを動かすスピードは適切か?正しいパターンで使用しているか?スプレーガンと塗装面の距離は適切かを再度確認していきましょう。塗り板等を使って塗料の粘度やスプレーガンの状態を予め確認することで、本番環境でのゆず肌のリスクを軽減できます。また、エア圧が高すぎる可能性もありますので、どうしてもゆず肌が発生する場合は、スプレーガンのエア圧を若干下げて検証すると上手くいく場合があります。
・塗装室(塗装ブース)と塗装面の温度を確認する
夏場は屋内であっても、塗装ブース内の温度が上昇しがちです。理由は、外気を取り入れる際にそもそも外気温度が高いためです。塗装ブース内の温度は常に管理を行い、一定温度以上の時はブース内の温度を下げる等の処置を行ってから塗装を行いましょう。また、長時間屋外で作業を行った時などは、塗装面が高温になっている可能性があります。塗装面があまりにも熱い場合は、少し時間を置いて塗装面の温度が十分に下がるまで待ちましょう。
<ゆず肌・オレンジピールの処置>
・塗装を剥がし、下処理した後、再度塗装を行う
ゆず肌が発生するのは塗料の硬化後であり、さらに大抵の場合は広範囲に発生します。残念ながらゆず肌を一つずつ処理するわけにはいかないので、一旦塗料を剥がし、下処理をやり直し、それから塗り直すのは結果的に一番近道と考えられます。