この度なら歴史芸術文化村では、「文化村クリエイション」(*1)において招聘している、美術家・黒田大スケの作品を紹介する展覧会を開催します。

黒田はこれまで、様々なリサーチを通じて、その地に確かに存在するけれど、見えず忘れさられ無視された幽霊のような存在を見出し、姿を与えるように作品を制作してきました。その表現は彫刻や映像、インスタレーションなど多岐に渡ります。今回の展示は当初、過去作品で構成する予定でしたが、作家の意向により、天理での短い準備滞在期間中に制作した新作を交えたものとなりました。

タイトルにある「二つの海」の一つは、一説で周辺一帯にかつて広がっていたとされる「奈良湖」、もう一つは、戦時中に付近で海軍の飛行場が建設・使用されていた史実から着想を得ています。かつてそこにあったものや、失われ霞んだ部分を見つめることは、私たちが立ついまここ、そしてその先を想うことにつながっていくのかもしれません。黒田は本展作品制作中に、屋外体験ゾーンで「もぐら」に遭遇したと言います。奈良にはたくさんの遺跡や文化財が土の下にあり、この展示会場も例外ではありません。黒田は自身をもぐらになぞらえて今回この地にもぐり作品を制作したそうです。彼はなにを見出したのか、ゆっくりとご覧ください。




もぐら、二つの海

2022

木の枝

もともとあった地形を整備して出来た小さい山のようなものの上にのぼって遠景を望み、かつてあったかもしれない「うみ」を考えていたところ、まだ定着していない芝生が翻り土が盛り上がった。それはたぶんモグラなのだけれど、近く遠い昔の「うみ」から、あるいは土の中に潜む何者かから、呼びかけのごとき「声」を聞いたように感じたのだった。私はいつの間にかその声を、周辺樹木から落ちた枝で文字にあらわしていた。というのは空想だけど、そんな気持ちで土の中に潜むものや失われたものの声をしたためた。

いつかのひこうき 奈良

2022

ビデオ  2:42

奈良に来ていつも思うことは、明治以降の近代の歴史的なものが抜け落ちているということだ。抜け落ちているという表現よりは見ないようにされているというべきだろうか。ともかく私はいつもそれが気になってしまう。この作品はこの天理周辺に第二次大戦末期に建設された飛行場についての作品で、かつてここを飛んだかもしれない飛行機の姿を、「息」という人間の生存に欠かせない生理現象でもって描いた。

いつかの飛行機

2016

ビデオ  5:33

第二次大戦末期に高松の屋島周辺にあった飛行場跡から着想して制作したもの。屋島を登る観光バスの窓に、かつてそこを飛んだかもしれない飛行機を描いた。
本作は過去作品であるが、今回の奈良滞在での制作やリサーチの背景として位置づけられると考え展示している。

開催概要

開催日程
 
2022年3月21日−5月8日 9:00〜17:00
 *月曜休館

■会場
 なら歴史芸術文化村 
 〒632-0032 奈良県天理市杣之内町437-3

■料金
 無料

■主催
 なら歴史芸術文化村


*1 文化村クリエイション vol.1 黒田大スケ

なら歴史芸術文化村では、様々なアーティスト交流プログラムを行っています。
「文化村クリエイション」では、先進的な取り組みを行う多様な分野のアーティストを招き、文化村の芸術文化体験棟 スタジオ303を拠点にリサーチと制作を進め、最終的に作品発表を行います。
リサーチで吸収した種が、どのように芽を出し花ひらくのか、その過程には作品に必ずしも表れないたくさんの発想のかけらがあります。スタジオでの活動や試行錯誤の痕跡を公開することで、来訪者がアーティストに出会い、その思考に触れられる場の創出を試みます。

今回、「文化村クリエイション」1人目のアーティストとして、黒田大スケを招聘します。
冬に予定する作品展示に向けて、スタジオ303を拠点にリサーチと制作を進めていきます。期間中は原則、スタジオを公開しています。そのまなざしや手つき、揺れる思考に触れに、ぜひスタジオへいらしてください。

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黒田大スケ Daisuke Kuroda プロフィール

1982年、京都府生まれ。広島市立大学大学院博士後期課程修了。彫刻家、橋本平八の研究で博士号取得。作品制作の他に展覧会の企画運営もてがける。アーティスト・コレクティブ「チームやめよう」主宰。現在、関西を拠点に活動。彫刻に関するリサーチを基に、近代以降の彫刻家やその制作行為をモチーフとしたパフォーマンス的要素の強い映像を制作、シリーズとして展開している。
主な近年の展覧会に、「どこかで?ゲンビ」 and DOMANI @広島「村上友重+黒田大スケ in 広島城二の丸」(2022)、「対馬アートファンタジア2020-21」対馬市,長崎(2021)、個展「祝祭の気配」トーキョーアーツアンドスペースレジデンシー,東京(2021)、「未然のライシテ、どげざの目線」京都芸術センター(2021)、個展「不在の彫刻史2」3331 Arts Chiyoda、東京(2019)、「瀬戸内国際芸術祭2016」小豆島旧三都小学校,香川(2016)など。今夏、国際芸術祭「あいち2022」へ参加予定。

黒田大スケ WEBサイト