当研究室では2004年頃から生体音響解析の基盤技術の開発に取り組み、その成果を応用して2010年頃からは腸音(bowel sounds: BS)に関する基礎研究を継続的に推進してきました。本プロジェクトでは、基礎研究の成果に基づき、腸音を活用し、健康管理での有用性を検証しつつ将来的な臨床応用を見据えた、腸活(腸の健康増進)の定量的支援システムの開発を目指します。
(2025年11月1日より公開)
従来、フィジカルアセスメントの文脈では「腸音の発生頻度」と疾患の関連が議論されてきました。しかし、私たちの調査では腸音の発生頻度は日内・日差で大きく変動し、任意タイミングの単発計測をそのまま診断や経過判定に用いるのは妥当ではない可能性が示唆されました。
そこで本プロジェクトでは、刺激前のベースラインと刺激後の応答を対で評価する腸音ベースの刺激–応答プロット(Bowel Sound Stimulus–Response Plot; BSSRP)という評価手法を開発し、飲料などの刺激に対する腸運動の変化を定量的に可視化しています。現在、日常の健康管理で役立つ技術と医療現場での評価に資する技術の両面から研究開発を加速しています。
本プロジェクトの一部の成果は国際査読誌の総説(レビュー)論文で紹介されています 。
参考:1. Nowak, J. K., Nowak, R., Radzikowski, K., Grulkowski, I., & Walkowiak, J. (2021). Automated bowel sound analysis: an overview. Sensors, 21(16), 5294.
2025年11月時点の主な研究成果(ハイライト)
2024年、炭酸水摂取試験において、摂取前の1分あたり腸音数と摂取前後比の間に強い負の相関を確認しました。すなわち、摂取前に活動的な腸ほど摂取後の相対増加は小さい傾向でした。冷水では同様の傾向は確認されませんでした。以上より、炭酸水では摂取前の状態が応答に影響することが示唆されました。※本成果は特許出願中。
2025年、ローマIV基準に基づくFC/FD患者と健常者で炭酸水摂取前後のBSを比較しました。健常者では強い負の相関がみられた一方、FC/FDでは有意な相関はみられず、さらに健常群の回帰直線からの乖離割合は、健常約25%に対しFC/FDで約55%でした。この成果から、主観評価中心の現行診断を客観指標で補完し得る可能性が示されました。※本成果は特許出願中。
2025年、健常若年男性10名で、コーヒー3濃度(弱・強・エクストラストロング)摂取後40分までを、BSSRPで評価しました。※本成果は特許出願中。
2025年、電子聴診器4点配置に角度ベース非対称度を導入し、腹部音響環境を模擬した数値シミュレーションで検証しました。非対称配置は対称配置より一貫して局在推定誤差を低減し、低SNRでも優位でした。以上より、非侵襲・高精度な腸音源局在と腸運動評価の高解像度化に資する可能性が示唆されました。
これらの成果を基に、日常生活下での刺激—応答計測の標準化と実装、ならびに臨床応用に向けた検証を進めています。
現在、腸音を用いた慢性機能性便秘症の客観的評価法に関する探索的研究は、香川大学との共同研究として実施しています。
参考文献
① 腸音に基づく刺激–応答プロット(BSSRP):Takeyuki Haraguchi, and Takahiro Emoto. "Stimulus–response plots as a novel bowel-sound-based method for evaluating motor response to drinking in healthy people." Sensors 24.10 (2024): 3054.
② FC/FD識別のためのBSSRP:Takeyuki Haraguchi, Takahiro Emoto, Kazuhiro Kozuka, and Hideki Kobara "Bowel Sound Feature-Based Stimulus/Response Plots to Differentiate Healthy Controls from Functional Constipation and Functional Diarrhea: A Cross-Sectional Study." IEEE Access (2025).
③ コーヒー濃度評価のためのBSSRP:Tatsuya Miyauchi, Takeyuki Haraguchi, Takahiro Emoto, Kenji Takawaki, Megumi Matsudaira, and Junichi Inobe, Relationship between coffee concentration and bowel motility using bowel-sound-based stimulus–response plots in healthy individuals, Scientific Reports, 2025 (Accepted)
④ 非対称センサ配置による音源推定:Kenji Takawaki, Takeyuki Haraguchi, and Takahiro Emoto. "Sensor arrangement strategy for effective bowel sound source localization." Biomedical Engineering Letters (2025): 1-10.
本研究の一部は、科学研究費補助金 基礎研究(C)(23K11947、20K12755)の支援を受けて行われました。
プロジェクトについて、詳しくは [emoto(at)tokushima-u.ac.jp] までお問い合わせください。
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