めがね文庫
【うー1】
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【小説】R15TL系/恋愛文芸/キャラ文芸/BL/ホラー/ライト文芸 R18あり 《架空ストア様K便鉄道コラボ》
眼鏡男子好きの眼鏡が眼鏡男子の小説を自家発電しています。
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『モーニングコール』(『オフィスでラブ!~オフィスラブ短編集Ⅱ~』より)
……その日。珍しく遅刻ギリギリでやってきた課長は眼鏡姿だった。まあね、そうなったのは私のせいなんだけれど。
私は毎朝、課長にモーニングコールしている。課長は朝が、めっぽう弱いのだ。それを知ったのはほんとに偶然。買い占める勢いで目覚まし時計を腕一杯に抱えた課長に遭遇してしまったのだ。あの、冷徹課長のありえない姿に自分の目を疑ったね。
『僕が朝が、弱いんだ』
拗ねたように告白した課長は可愛い……ううん、なんでもない。それ以来、私は課長にモーニングコールをしている。そんな申し出をしたのは、ただの気まぐれだったといっていい。
そして今日はちょっとしたことでモーニングコールが大幅に遅れ、課長は遅刻寸前だったというわけだ。
それは今はいい。それよりも、寝坊したせいか眼鏡姿で来た課長に、胸がきゅん、と。きゅん、とね。時間がなかったからか、いつもより緩めにアップされた髪に、銀縁スクエアの眼鏡が、そこはかとなくセクシー。さらにスーツが、魅力を爆上がりさせる。ドキドキするなっていうほうが無理、っていうか。
「西園(にしぞの)、ちょっと」
朝礼が終わると同時に課長に呼ばれた。人気のない階段踊り場に連れていかれて始まるのは、想定どおりのお説教だ。
「なんで今朝、いつもの時間に起こしてくれなかったんだ?」
いきなり、壁ドンされた。しかもその銀縁眼鏡の同じくらい、冷たい目で見下ろされて背筋がぞくりとする。でも課長がご立腹なのは当たり前だ、時間厳守をいつも言っている自分が、遅刻ギリギリなんて。
「その、朝活していたら時間が……」
「朝活!?」
課長は、そんなものと自分へのモーニングコールのどっちが大事だ!? って勢いだ。
「早く起きたんで、余裕のできた時間で課長がオススメしてくれた本でも読もうかと思ったんです。そしたら夢中になっちゃって、いつのまにか時間が」
はぁーっと大きなため息をつき、課長が壁ドン姿勢を解く。
「そんなに面白かったのか?」
「はい。最初は固そうな本だと思ったんですが、読んでみたらこれが」
「なら、よかった」
ふっ、と課長が唇を緩ませる。これで怒りはおさまったかな、と思ったものの。
「けれどそれとこれとは話が別だ!」
再び、バン! と叩かれる、壁。
「君のせいで遅刻しそうだったんだぞ! した約束は必ず守れ!」
怒り狂っている課長には申し訳ないけれど、彼の端正な顔に銀縁眼鏡はまるで彼のために誂えたんじゃないか、ってくらいよく似合っていた。その顔が至近距離にあるのだ。このドキドキは今の危機的状況にあってのもので、それじゃないとわかっている。そうじゃないと私はただのドMだ。それでも。
知らず知らず手が、課長のネクタイを掴んで引き寄せる。なにが起こっているのか把握できずに間抜けな顔でいる彼の唇に、自分の唇を――重ねた。
「なっ……」
ネクタイから手が離れ、私から離れた課長は現状理解が追いつかずに視線を泳がせていた。
「ガタガタうるさいんですよ。そんなに言うなら毎日添い寝して直接、起こして差し上げましょうか?」
「なにを、言って」
まだわけがわかっていない課長にイラついて、もう一度、ネクタイを掴んで引き寄せる。
「課長が好きだって言ってるんですよ」
にやっ、と右頬だけを歪めて笑い、いつもの課長を真似てやる。
「あ、ああ……」
ぼうっとしている課長だが、眼鏡の弦のかかる耳は赤くなっていた。そんな彼にくすりと笑い、先にデスクに戻ろうとしたものの、言い忘れていたことを思い出して足を止める。
「あ、眼鏡の課長のほうが断然好みなんで、これからはコンタクトをやめて眼鏡にしてください」
【終】