私と彼との馴れ初めの話をしましょう。私は草華から、風流香という人物について聞いていた。その中で気になるものがあったから、会ってみることにした。
幽「あなたが、風流香君ね」
香「あ、はい、そうですけど・・・どちらさまですか?」
幽「あなたにお願いがあって来たの」
香「はぁ、そうですか」
幽「私を、あなたのそばにいさせてほしい」
香「え?・・・・・・え?」
これが、私たちの関係の始まりだった。
香「というわけで、付き合うことになりました」
幽「付き合ってもらうことになったわ」
草華「へぇ、そうなのね・・・・・・え?」
草華(あれ?幽ちゃんが私に聞いてきたことって確か・・・)
草華(例の『呪い』についてだったわよね)
草華(ということは、幽ちゃんも、もしくは幽ちゃんに近しい誰かが例の『呪い』で不幸な目に合ってる・・・というところかしら)
草華「それじゃあ、えっと・・・香君、幽ちゃんをよろしくね」
香「草華がなんか母さんに見えてきたよ」
草華「せめてお姉ちゃんって言ってほしいなぁ」
香「さて、とりあえずなんて呼べばいいのかな」
幽「あなたの好きに呼んでもらって構わないわ。私は灯火幽、灯火でも幽でも」
香「じゃあ、えっと、灯火さん・・・かな?」
幽「ええ。今日からよろしくね、風流香君」
香「えっと、そのフルネーム呼びは、ちょっと・・・」
幽「気分を害したのならごめんなさい。こういうことは慣れていなくて」
香「あ、うん。全然問題ないよ。せめて苗字か名前で呼んでくれればそれでいいかな」
幽「そう、じゃあ香君でいいかしら」
香「えっ、あっ、はい。問題ないです、大丈夫」
幽「どうして突然敬語になったの?」
私には、『呪い』がかかっていた。力と引き換えに得られる『呪い』。そのせいで、私は感情を失った。
幽「・・・ここは?」
香「女の子に人気のアミューズメントパークだよ」
幽「そう」
香「ってことで今日はめいっぱい楽しませますんで、遠慮しないでほしいな」
幽(よくわからないけど、一緒に遊ぶことが必要なのかしら?)
幽(純粋に楽しませようとしてるみたいだし、どういうつもりなの?)
幽(・・・よくわからないわ)
幽「ええ、そうさせてもらうわ」
幽(とにかく、この『呪い』がなんとかなるまでは、彼に従わないと)
香(う・・・なんかやらかしたかな・・・でも草華も愛もアクアもたいていここにきたら喜ぶし・・・)
香(アリスとリーブラはどこでも楽しそうだし・・・)
香(まあ、大丈夫だろ。平常心、平常心・・・)
アクア「姉さん、起きてる?」
リーブラ「zzz」
アクア「姉さん」
リーブラ「zzz・・・はっ、何?」
アクア「香が知らない女と遊んでいる。最近私は連れてきてくれないのに」
リーブラ「彼女は灯火幽さんね。私や草華のクラスメイトでお友達」
アクア「姉さんと草華の?・・・でも、納得いかない」
リーブラ「ええ、遊ぶぐらいいいじゃないの」
アクア「姉さんはそれでいいの?香が取られるかもしれないんだよ?」
リーブラ「取られる?」
アクア「だって、このまま恋人とかになって、そして結婚とか・・・もありえるし・・・」
リーブラ「香様はそもそも私のものじゃないわよ?だから取られるも何もありません」
アクア「・・・・・・えっ?」
リーブラ「私にとっての一番の幸せは香様が幸せであること。香様がそう望んだならば、私はそれを見守るだけ」
アクア「ええっと?」
リーブラ「私は2番でいい。3番でも、4番でもいい。恋愛じゃなくていい、親愛でいい。ただ、あの人に愛してほしいだけ」
アクア(うちの姉が思ったより悟りきってる人だった)
リーブラ「それはそれとして、尾行は楽しいから続けましょ」
アクア(人選、間違えたかな)
私には特別な力がある。直接触れている相手が見て、聞いて、嗅いで、味わい、感じたものを読み取ることが出来る。
香「ええっと、今日はどうだった?」
幽「・・・・・ええ、楽しかったわ」
香「そうか、よかった・・・」
香(ずっと表情が変わらないから、全く楽しくなかった、てかウザがられていたかもって思ったけど・・・)
幽「・・・あなたのことを鬱陶しいだなんて思うことはないわ」
香「えっ?」
幽「だって、私から始まった話なんですもの。あなたには感謝こそすれど負の感情をもつことはない」
香「そ、そっか」
幽(感謝、というのがどんな感情なのか。もう覚えていないけれど)
香(リーブラといい、アリスといい、なんか僕の周りにはこういう人ばかり集まってくるような気が・・・)
アクア「・・・普通に楽しんでしまった」
リーブラ「たまには姉妹水入らずっていうのもいいものね」
アクア「そうなんだけど、そうなんだけど・・・」
リーブラ「というか、今更な話だけど、あの二人は付き合ってるって言ってたわよ?」
アクア「え?は?え?」
リーブラ「草華に報告しに行ってたし。付き合うことになりましたーって」
アクア「姉さん」ガシッ
リーブラ「はい?」
アクア「どうしてそれを先に言わないかな」グググッ
リーブラ「ちょ、ちょっと胸倉をつかむのはやめて。身長差のせいで私浮いちゃうから、妹に対する自分の小ささを自覚して悲しくなっちゃうから、ね?」
アクア「・・・もう!今日なんのために来たのよ!遊びに来ただけじゃん!」
リーブラ「それでいいと思うんだけど」
アクア「私は姉さんみたいに悟りの境地には達せないの!」
アクア「もう・・・絶対にあの女から奪い返してやる・・・!」
リーブラ「アクア、今あなた悪役の顔になってるわよ」
アクア「うるさい!」
風流香。彼には、『呪い』を解く力があると聞いている。私が失った感情を、取り戻せるかもしれない。そう聞いていたのだけれど。
幽「・・・・・・」ジー
香「うん、僕の顔に何かついてる?」
幽「いえ、別に」
幽(一向に感情が戻る気配がない。あれから一週間、何も変わらないまま)
幽(草華の『呪い』は解けなかったって聞くし、もしかして私も・・・)
香「そういえば、灯火さんって何か特技とかあるの?」
幽「占いなら」
香「占い、ってこう、水晶玉つかったりするやつ?」
幽「それもできないことはないけれど、私は主にタロットを使うわ」
香「冗談のつもりだったけど、できないことはないのか・・・」
幽「ただ、本物の水晶玉は高価だから、ただのガラス玉を代わりに使うことになるけれど」
香「世の中そんなに本物の水晶を使ってる人はそこまでいないんじゃないかなぁ」
香(ていうか、あんなの本当にやってるのかどうかすら怪しいし)
幽「占いは当たるも八卦当たらぬも八卦。未来予知ではなくて、あくまでも道標。どのような形であれ、相手がこれから進むべき道を示すことが出来ればいいの」
香「占い師がぶっちゃけるなぁ・・・」
幽「タロット占いに興味があるのなら、今度カードを持ってきましょうか?」
香「あ、是非」
幽「わかったわ」
月美「今日も部活の時間っと」
日輪「次の部活だよりの内容ですよね」
香「あ、それなんだけど・・・・・・アリスー」
アリス「はいはい、美人で聡明なアリスちゃんに何かご用?」
香「占いってマジでできる人いるの?」
アリス「いるよー。私もできるし」
香「え、できるの?」
アリス「できるよ」
月美「すごい!」
日輪「私も!多分私もできる!」
香「原理的にはどんな感じ?」
アリス「アリスちゃん、こう見えて幽霊ですので魂が見えます。その具合から現在の運気とかを調べられるかな」
香「おもったよりオカルトだった」
日輪「それは私にはできない」
月美「多分日輪ちゃんの占いは神様的なあれだよね」
香「神様も十分オカルトだけどね」
礼丹「あら、女神である私をオカルトと申しますか?」
アリス「まあ私もオカルトな存在だしね。ちなみにお兄ちゃんの運気は常に変動することはないから安心してね」
香「安心してって・・・」
礼丹「あの『呪い』を不幸という風に読み取ったら、香はその不幸を吸収するのです。ついでに他人の幸福も吸収します」
アリス「そうして、自分の運気を常に一定に保ってるんだ。お兄ちゃんの能力はそれだよ」
香「4年ぐらいこの力と付き合ってて初めて知った事実なんですけど」
礼丹「とっくに気付いているものかと・・・・・その気になれば自由に操作もできますよ」
香「マジかよ」
月美「つまり、どういうこと?」
日輪「兄さんはいつでも運が良くなる?」
礼丹「まあそういうことですね」
アリス「ってわけだから、お兄ちゃん相手には実はすごく占いがやりにくいのです。彼女さんも困惑するかもね~」
香「さすがにアリスみたいな占いはやらないと思うから大丈夫だろうけど・・・」
礼丹「わたくしはまだ彼女なんてものを認めていないのですが?」
香「ちなみに、その占いを放送に活かせたりしないかな?」
月美「星座占い的な?」
日輪「乙女座の女神様の前で星座占いする?」
礼丹「わたくしは気にしませんよ。それよりも彼女という幻想についてですが」
アリス「はいはーい、役に立たない女神様は黙ってようねー」
礼丹「むぎゅっ」
幽「おかしいわ」
香「ん?」
幽「あなたの魂が、全く読めない」
香「ああ、えーと・・・・・・はい、そうですね」
幽「本当は魂の状態とタロットの種類・配置で現在、そしてこれからの運勢を占うのだけれど・・・・・・」
幽「今回はタロットのみ使用するわ」
香「うん、わかった」
香(え、もしかして灯火さんもアリス的な何かの人なの?死んでるの?)
幽「私の家族は父親以外同じようなことが出来るわよ」
香「なんか、思っていたよりもすごい一族だった」
香(え、占い師とかそういう家系なの?)
幽「家は古本屋だけれど」
香「占い関係ない!」
幽「『正義』の正位置。安定や世間体、均衡状態を表すカード。問題を解決し、状況を落ち着け安定させることが出来る状況と。その結果もたらされるプラス面を表す」
幽「今までの苦労や努力が報われ、それ相応の成果が得られる状況」
幽「・・・どうかしら。何か役に立った?」
香「安定、か。確かに安定しているんだろうけど・・・」
香「安定しすぎて逆に怖いな」
幽「安定しすぎ、というのは?」
香「ここ2年ぐらい、まあ中学入ってからかな。本当に、日々何もないんだよ。最近変わったことといえば、変わったことっていうのはなんだけど、こうして付き合ってることぐらいだし・・・」
香「とはいえ、この状況っていうのも恵まれているんだろうけど。昔はいろいろと激動が・・・クマに襲われて死にかけたり幼馴染と一時離散したり・・・」
幽「思っていたより壮絶な人生を送ってきているのね」
香「だからこの安定っていうのは本当に素晴らしいんだと思う」
幽「そう、ね」
この安定、というのが彼の能力なのだと思う。だとすれば、もしかしたら、彼の力はすでに私に効果を及ぼしていて、私がそれに気づいていないだけ・・・?
私から見て、私自身の変化はわからない。だけど、もしかしたら何か変わっているのかもしれない。こういう時は、手っ取り早く家族に聞いてみるのが一番。
幽「ねえ、鈴火。灯鈴」
鈴火「ん?お姉ちゃん、どうしたの?」
灯鈴「おー、姉ちゃんなんか用事かー?」
幽「変なことを聞くのだけれど、私、何か変わったかしら?」
鈴火「え、いつも通りの無表情なお姉ちゃんだよ?」
幽「そう。ならいいわ」
灯鈴「外に遊びに行くのが多くなった!もっとあたしとも遊べ!」
幽「それはただの人付き合いよ」
鈴火「お姉ちゃんが、人付き合い?友達いたの?」
幽「ええ、おそらく」
灯鈴「会わせろー!」
幽「気が向いたらね」
鈴火「お姉ちゃんに気が向くなんてことないでしょ」
やっぱり変わっていないみたいね。となると、草華の話が間違っていたのかしら。それとも、なにか条件を満たしていないのか、彼が意図的に使っていないのか。
幽「・・・あら」
アリス「あ、灯火先輩」
幽「その席は香君の席だったと思ったけど、席替えでもしたのかしら」
アリス「いえいえ、お兄ちゃんは今日おやすみです」
幽「欠席?お兄ちゃん?」
アリス「うん。末の妹が風邪ひいてダウンしちゃってね」
アリス「でも、親はまだ帰ってきてないし、薫お姉ちゃんは海外研修だしで妹を一人放置することになってしまうのです」
アリス「ということで仕方なくおやすみです」
幽「そう。それで、あなたは何者なの?」
アリス「私はお兄ちゃんに憑りついている幽霊です。守護霊的なものだと思ってください」
幽「・・・あなたが看病すればよかったんじゃないの?」
アリス「あの妹私が看てても寝付かない。私のおかゆを奇妙な味がするとか言って食べない」
幽「そう、わかったわ。それじゃあ、私はこれで」
アリス「はーい」
アリス「ってことで灯火さん来てたよー」
香「あちゃー、連絡するの忘れてた。悪いね、アリス。わざわざ」
アリス「プリン一個でいいよ」
香「冷蔵庫に入ってる」
アリス「わーい」
玖美「・・・灯火さんって?」
アリス「お兄ちゃんの彼女さん」
香「です」
玖美「・・・・・・ごはっ!」
香「玖美が吐血した!?」
礼丹「これさっき飲んだトマトスープですね」
アリス「あちゃー、真正ブラコンには耐えれない事実だったかー」
香「玖美、どうしたんだ、大丈夫か!何かほしいものは!?」
玖美「お、お兄ちゃんの愛が・・・」
香「今月いろいろあって財布が厳しいから高いのは無理」
アリス「デートいっぱいしたもんね」
玖美「ごばぁっ!」
香「吐血の量が!」
礼丹「ケチャップを隠し持って・・・・・・実は結構余裕ですね?」
玖美「お兄ちゃん・・・あたしが死んだら、遺骨はお兄ちゃんの部屋に・・・」
香「呪われそうなんだけど」
アリス「そんときは私が守るから大丈夫だよ」
礼丹「わたくしの結界もありますよ」
香「そういう問題じゃなくてだね」
玖美「こいつら本当にもう」
鈴火「ただいまー」
幽「おかえりなさい」
鈴火「あれ、お姉ちゃん今日は早いね。ってどこ行くの?」
幽「お見舞い」
鈴火「え?そんな相手いたの?」
幽「ええ。直接知り合っているわけじゃないけれど」
鈴火「見ず知らずの人のお見舞いに行くの?」
幽「そうなるわね」
鈴火「私、ときどきお姉ちゃんが心配になってくるよ」
鈴火「お見舞いの品はフルーツ・・・」
幽「普通はこういうものをもっていくはずだけれど」
鈴火「見ず知らずの人のお見舞いに行くお姉ちゃんに普通って言われたくないなぁ・・・」
幽「というわけで、お見舞いの品を持って来たわ」
香「わざわざごめんね、うちの妹のために」
幽「いえ、これくらいは別に。大した労力でもないし」
香「・・・・・・」
幽「・・・・・・」
香「上がってく?」
幽「お邪魔します」
玖美「うーん、うーん・・・お兄ちゃんが・・・お兄ちゃんが他人の女の魔の手に・・・」
幽「ずいぶんとうなされているみたいだけれど、大丈夫なの?」
香「たぶん。アリス曰く、一過性のものだから安心していいって」
幽「・・・そのアリスちゃんとはどういう関係なの?」
香「・・・憑りつかれてる?」
幽「そう、本人が言っていた通りなのね」
香「というか、さらっとアリスが霊的な存在なことを暴露したけど驚かないんだね」
幽「妹は霊媒師だから」
香「おおう、さらっととんでもないカミングアウトを」
幽「私も占い師だし。オカルト系の話は慣れているの」
香「そういうもの、なのかな?」
玖美「・・・・・・はっ!」
香「おはよう、玖美。うなされてたけど大丈夫?」
玖美「お兄ちゃんが悪魔にさらわれて帰ってこなくなる夢を見た!」
幽「悪魔?」
玖美「・・・・・・誰?」
アリス「さっき話してた人」
玖美「・・・・・・ぐるるるるる」
香「え、威嚇してるの?やばい、超かわいい」
幽「あの・・・何が起こっているの・・・?」
アリス「ちょっと妹がブラコンこじらせてるだけですのでおかまいなく」
玖美(これがお兄ちゃんの彼女・・・お兄ちゃんの恋人・・・泥棒猫っ!)
幽「・・・・・・彼女?恋人?どういうこと?」
アリス「え?」
香「え?」
玖美「うん?」
玖美「だって、お姉さんあれでしょ?お兄ちゃんの彼女さんなんでしょ?」
幽「いえ、別に」
香「えっ」
アリス「あれ?」
玖美「・・・あれ?アリス、どういうこと?」
アリス「え、どういうことって言われても、私も灯火さんがお兄ちゃんに告白したりデートしたりしてるとこしか見てないから、なんとも」
幽「告白?」
香「」
アリス「ほら、「そばにいさせて」とか。そんな感じのこと言ってたでしょ?普通に付き合うことになったとかも言ってたし、あれってつまりそういうことなんだよね?」
幽「確かにそうは言ったけれど、草華から解呪のためには香君のそばにいないといけないって聞いたからそういっただけで・・・」
香「・・・つまり、えーと、なんだ。僕の勘違いか。僕がひとりで浮かれてただけか」
アリス「そういうこと、みたいだね」
玖美「・・・・・・ええっと、どうしたらいいの?てか、『呪い』ってなに?」
アリス「草華がわかめになったりアクアが透明になったりしたあれ」
玖美「ああ!」ポン
アリス「それで、どういう『呪い』なの?あれって人によって違うはずだけど」
幽「感情がなくなったの、私。いつの頃かもう忘れたけれど、どこかにある洞窟に迷い込んで以来、無表情だといわれるようになったわ」
幽「それで、よく調べてみたら感情の揺れ動きがなくなっていたみたいなの」
アリス「ああ、やっぱりあそこ・・・おかしいな、もう埋めたはずなのに。ってことはそれより前に・・・」ブツブツ
アリス「あ、そうだ。お兄ちゃんと接していた期間を考えたら、もうその『呪い』は消えてるはずだよ。だからもうお役御免だね」
幽「え?でも、私は・・・」
香「・・・ごめん、ちょっと僕部屋に戻ってる。アリス、あとはよろしく」
アリス「あいあいさ!」
幽「えっ、えっ?」
玖美(え、これってあたしのせい?いや、たぶんあたしは悪くない。悪くないけど、ちょっと草華に電話しよ)
玖美「・・・ってことがあったんだけど」
草華『そう、そんなことが・・・だから香君、あのときやけにルンルンとしてたのね』
草華『わかりました。この件は、お姉さんがなんとかします。だから玖美ちゃんは気にしなくて大丈夫よ』
玖美「あ、そうだ。あのお姉さんってさ、草華とかアリスみたいに変な力持ってるんでしょ?」
草華『へ、変・・・そうね』
玖美「それって、どんなのなの?」
草華『ええっと、確か他人の考えを読めるとか、他人の五感とリンクできるとか、そんなのだったはず』
玖美「・・・ああ!だからあのとき、ああ、そっか。うん、納得。ありがとう、草華」
草華『いえいえ、それじゃあそろそろ切るわね。玖美ちゃん、お大事に』
玖美「はーい」
草華(さてさて、どうしましょうか。んー、香くんのケアは日輪ちゃんとか瑠璃川さんとか、まあ同じ部活の人たちに任せておいたらいいでしょう)
草華(となると、問題は幽ちゃんの方ね。ここで私がどうとかいうのは不自然だし・・・・・)
草華「もしもし、リーブラ?事のあらましは把握してる?よし、オッケー。じゃあ幽ちゃんの方に発破かけてもらっていい?」
草華「香君は他の人を頼れるけど、幽ちゃんは頼れないから。知っての通り、幽ちゃんは自分のことがわかっていないからね」
草華「それじゃあ、よろしくね。さーって、あとはどうしようかな。あ、そうだ、桜ちゃんには・・・・・・ダメね。隠せないわ」
草華「んー、心が読めるって言うのは面倒ね。対策がすごく取りづらい」
草華「・・・・・ま、そうも言ってられないか。あとは頃合いを見て話題を誘導して・・・・・・」
アリスちゃんの話だと、私の『呪い』はすでに解けている。だけど、感情が無かった期間が長すぎて、感情を思い出せないみたい。
幽「だとすれば、あとはリハビリをするだけでいい。感情が動きそうなものを読んだり、見たり」
幽「いちばんわかりやすいのだと、笑い、悲しみ、怒り」
「あとは、恋とか?」
幽「いえ、私は恋を経験したことないから、感情として認識しにくいとおも・・・」
幽「・・・・・・その声は、リーブラ?」
「ええ、そうですよ」
幽「どうしてここに?」
「だって私、ストーカーですもの」
幽「随分と堂々としたストーカーなのね」
「まあ、私がストーキングしているのはあなたではなく、あなたの元恋人の方ですけれど」
幽「私の?・・・香君?」
「はい。私は香様のストーカーです」
幽「恋人の話、どこで聞いたのかしら。草華から?」
「いいえ、草華はあなたと香様が恋人だと思っていなかったようです。香様の部屋には私が仕掛けたカメラや盗聴器がありますので、そちらから」
幽「・・・そろそろ姿を見せてくれないかしら」
「はて、私はずっとあなたの側にいますよ?」
幽「・・・・・・そう。あなたも【力】を持っているのね。そして、草華が言っていた『解呪』できた人っていうのは・・・・・」
「あら、読まれてしまいました。とはいえ、完全に『呪い』が消えたわけではなくて、今もなかなか名前を憶えてもらえませんが」
幽「これが、あなたの力?まさか、かばんにくっついてるとは思わなかったけれど」
「はい。私はいろんな次元を行き来する力を持っています。今は二次元空間にいますので、絵として灯火さんのカバンにくっついています」
幽「何が目的なの?」
「ふふ、少しお話がしたかっただけです。いくらストーカーだからって、殺傷事件を起こしたりはしませんよ」
幽「・・・ならいいのだけど」
「それでは、また明日」
幽「・・・いなくなった。何が目的だったのかしら・・・」
こうして、私が香君と過ごす日々は終わった。私はいつも通り、自分の席で本を読む。今日も変わらず。
幽「・・・・・・」
幽(つい、二年生の教室まで来てしまったわ。最近はいつも来てたから・・・)
幽(・・・戻りましょう。もう、会う必要もない)
日輪「どうしたんですか、先輩」
幽「・・・あなたは?」
日輪「用がないなら通して欲しいんですけど」
幽「そう、道をふさいでいたのね。ごめんなさい」
日輪「いえ、別に」
幽(とりあえず、戻りましょう。昼食もとらないといけないし)
日輪(・・・兄さん、昨日からずっと落ち込んでる)
幽「?」
日輪(なんか失恋したらしいけど、早く元気になってもらわないと。月美先輩にも何か言った方がいいかな)
幽「・・・恋、ね。失恋というのは、どういう感情なのかしら」
幽「・・・恋をするって、どういうものなのかしら」
香君と会わなくなって、1週間ほど経ったころ。
幽(・・・いつもなら、この時間は彼に会いに行っていた時間)
幽(もう、会いに行く必要はない。目的は達成したのだから)
幽(なのに、どうして意識が向かうのかしら。どうして足が向かうのかしら)
幽(これ以上あの人といても意味が無いのに)
幽「・・・なにか、胸に穴が開いたような」
幽「・・・すごく、落ち着かないわ」
幽(だけど、彼は落ち込んでいると聞いた。原因は、私)
幽(私が勘違いをさせて、彼を翻弄した。それで、彼は傷ついた)
幽(・・・なら、私は近づかない方がいい。彼には、支えてくれる人がいるのだから)
幽(・・・・・・どうして、気付かなかったのかしらね)
幽(香君は、あれだけ一生懸命だったのに。私を楽しませようと、私を知ろうとしてくれていたのに)
幽(・・・・・・)
桜「幽ちゃん、最近元気ないですね」
幽「・・・私が?」
桜「うん」
草華「そうですか?」
桜「だって、ごはんを食べるのとか、本を読むのとか、前より少し遅くなってるんですもの」
幽「そう、かしら」
桜「あとは、考え事をよくしてます」
草華「そういえば、最近はボーっとしてることが多いですね」
幽「・・・そうね。感情について、少し考えているの」
桜「感情というと・・・喜怒哀楽ですか?」
草華「そうですね。あとは、心配とか?」
「それと、恋慕とか」
桜「そうですね~・・・あら?」
幽「・・・リーブラ」
草華「あら、リーブラ。珍しいわね、香君の側にいないなんて」
リーブラ「ええ。私とて友人と同じ時間を過ごす時もあります。今は香様は瑠璃川さんと一緒にいますし、まあ大丈夫でしょう」
幽「・・・・・・何をしに来たの?」
リーブラ「ふふ。少しお節介を焼きに来ました。ずばり、恋についてです」
幽「はあ」
瑠花「え、なになに?コイバナ?」
草華「嗅ぎつけるの早いですね。でも部活の時間では?」
瑠花「ちくしょう、そうだった!じゃああとで聞かせてね!」
幽「・・・・・・元気ね、左右田さんは」
桜「文芸部だから恋のお話とか書いたりするんでしょうか?」
草華「まあまあ、それは置いといて。リーブラ、よろしく」
リーブラ「はいな」
リーブラ「恋の感情というのはすごくわかりやすいものです。喜怒哀楽なんかよりもずっと、わかりやすいですよ」
桜「そうなんですか?」
リーブラ「はい。恋は病といいますが、まさにその通りです。恋は一種の精神病、時には身体を蝕むこともあります」
草華「恋をして思い悩んで、身を滅ぼして・・・なんて話は有名だもんね」
リーブラ「具体的な症状としては、食欲の低下、注意力の低下などなど」
幽「それだけ聞くと、厄介なものに聞こえるけれど」
リーブラ「ええ。ですが、恋は人生を楽しくしてくれます。その人のことを想うだけで幸せになります。その人といるだけで温かくなります」
リーブラ「そして、恋をしている人ってすごくわかりやすいんですよ」
リーブラ「例えば、同じ人の話題ばかり出す。例えば、急に普段より考え事が多くなる」
幽「!」
リーブラ「誰に恋をしているか、は別として。恋をしているかどうか、というのはわかりやすいです」
リーブラ「ふふ、参考になりましたか?」
桜「リーブラちゃん、なんというか・・・大人っぽいですね~」
草華「リーブラはなんていうか、悟りきってますからね」
幽「・・・それを、どうして私に?あなたも・・・」
リーブラ「ふふ、私のは恋ではなく愛ですから」
マギ・フィールドさんの話や、桜たちから見た私の話を聞くに、私は恋をしているらしい。
幽(だからといって、なにをどうこうできるわけじゃないけれど)
幽(・・・・・・こういうときは、どうしたらいいのかしらね)
幽(恋愛に関する本は読んだことあるけれど、いかんせん現実離れしすぎてて)
幽(そもそも共感もできないから、何も思わなかったし)
幽(だけど今なら、あの話も理解できるのかしら)
鈴火「・・・・・・お姉ちゃん?どうしたの?」
灯鈴「なんかご飯食べるの遅くね?」
幽「ああ、ごめんなさい。ちょっと考え事を」
鈴火「・・・・・・好きな人でもできたの?」
幽「ぶふっ!げほっげほっ」
灯鈴「姉ちゃん汚いー」
幽「ご、ごめ・・・げほっげほっ」
鈴火「冗談のつもりだったのに・・・お姉ちゃんにもついに春が!・・・っていうか!」
鈴火「『呪い』解けたんだね!」
幽「え、ええ」
鈴火「それでそのときに手伝ってくれた男の子のことが好きになっちゃったんだよね!」
幽「ええ、そ・・・待って、どうして知ってるの」
鈴火「草華さんから聞いた蕾に聞いた」
幽「草華・・・まったく・・・」
アクア「・・・草華も姉さんも、どうして後押しするの」
草華「お友達だから」
リーブラ「老婆心を発揮したの」
アクア「・・・ふたりは、いいの?」
草華「んー。なんというか、私は香くんとそういう関係になるのは吝かではないけど、別にそこまで・・・」
リーブラ「愛っていうのは恋愛だけじゃないのよ。親愛、友愛、慈愛・・・私は香様から愛を向けられていればそれでいいの」
アクア「幼馴染年長組はほんとう悟りきってるなぁ。アリスは?」
アリス「アリスちゃんどうせ戸籍ないしー。二番目でいいよ」
アクア「一番不健全じゃん」
リーブラ「それに、香様は今フリーなんだから。そう思うなら自分で行けばいいじゃない」
草華「先んずれば人を制す、ね」
アクア「それは、その・・・」
アリス「アクアはヘタレだし、今は日輪ガードがあるし、無理無理」
アクア「ヘタレいうな!」
そうしている間に、何もできないまま1週間が過ぎた。
幽(次の時間は移動教室ね。急がないと)
幽「・・・・・・あ」
香「あっ、えと、お疲れ様です」
幽「えっと・・・?」
香「それじゃあ、僕はこれで・・・」
幽「あっ・・・」
幽(ダメ。今、このまま去ってしまったら、もう二度と触れ合えない)
幽「待って!」
香「はい?な、なんですか?」
幽(なにか、なにか・・・!)
幽「・・・今日の放課後、いつもの場所で」
香「・・・わかった。それじゃあ、またあとで」
幽(・・・・・・これで、よかったのかしら)
幽(いえ、よかったの。だから、今日)
幽(・・・覚悟を、決めないと)
幽(こんな風に尻込みする、なんてこと。はじめてね)
幽(・・・ええ。『呪い』は解けてる。だから、あとは・・・)
香「はい。それで、なんの御用ですか」
幽「まずはお礼を。あなたのおかげで、私の『呪い』は解けたわ。ありがとう」
香「あ、そうなんだ。それならよかった・・・」
幽「事前の情報共有を怠ったせいで、あなたに不快な思いをさせてしまったこと、謝らせてほしい。ごめんなさい」
香「いやいや、僕もしっかり確認を取らなかったのが悪いし―――」
幽「だけど、私はまだ感情がわからない。ずっと前に忘れてしまったもの、それが思い出せない」
香「えっと、次はそれに付き合えばいいの・・・かな?」
幽「ええ、あなたがよければ、そうしてほしい」
香「・・・うん、まあ、いいかな」
幽「ありがとう。それじゃあ、改めてしっかりとお願いするわね」
幽「今度は、ちゃんとした恋人として」
幽「私を、あなたのそばにいさせてほしい」
香「あ、ええっと・・・ええ・・・・・・ええっ!?」
幽「・・・ダメというのなら、諦めるわ。私が、一度あなたを裏切ったのは確かだから」
幽「拒否してくれても構わない。私は、あなたにひどいことをしたと思っている」
香「いや、裏切ったというか、僕が思い込んでたというか・・・」
香「・・・・・・だけど」
香「・・・なんていうか。僕としては、二回目になるのかな」
香「また、君といられるのは嬉しい。だから」
香「こちらこそ、よろしくお願いします」
香「というわけで、こんどこそ恋人として付き合うことになりました」
幽「~♪」ギュッ
草華「おめでとう、2人とも」
桜「わあ~、ラブラブですね~」
リーブラ「おめでとうございます、香様、灯火さん」
幽「三人とも、いろいろと後押ししてくれてありがとう」
草華「いえいえ、どういたしまして」
リーブラ「ふふ、香様が幸せなら、それが一番ですから」
草華「あ、でもひとつ。香君に」
香「僕に?」
草華「お金は使いすぎないように。玖美ちゃんからお小遣いもうほとんど残ってないって聞いたわよ」
香「げっ、玖美、草華にばらしたのか・・・」
リーブラ「資金援助なら私がいくらでも」
草華「リーブラ、おすわり」
リーブラ「とりあえず軽く50万ぐらい伯母さんからぶんどってくれば」
香「リーブラ、ステイ」
リーブラ「はい!」
幽「・・・香君、私にも」
香「え、じゃあ、灯火さん、お手?」
幽「幽よ」
香「えっと、ゆ、幽、お手!」
幽「わん」
桜「わんっ!」
草華「!?」
リーブラ「!?」
幽「?」
桜「えへへ・・・つい乗っちゃいました」
私たちの馴れ初めは、こんな感じで終わり。これからも私たちの物語は続いていく。この話に終わりはないわ。たとえ、死が二人を分かちても、ね。
それからしばらくして
香「ということで、改めて、恋人の幽を連れてきました」
幽「灯火幽です。不束者ですが、よろしくおねがいします」
玖美「灯火・・・・・・ってもしかして、鈴火のお姉さん?」
幽「あら、鈴火のお友だちだったの?って、蕾ちゃんの幼馴染ならそうなるか」
薫「なっ、お、弟に、先を越され・・・」
アリス「よろろー」
日輪「よろしくお願いします」
リル「・・・灯火?」
玖美「どうしたの?」
リル「ねえ、幽ちゃん。あなたのおばあ様って、もしかしてランって名前だったりする?」
幽「はい。確かに、私の祖母はランという名前ですけど」
香「えっ」
リル「ああ、やっぱり!そういえば、会ったことある!」
壮司「・・・そうなのか?」
リル「ええ。私の叔母の、ルーさんのお友だちがランさんだから、小さい頃はよく遊んでもらっていて・・・」
リル「そっかそっか~、うふふ」
香「そうだったんだ・・・なんていうか、世間は狭いね」
幽「そうね。でも、関係ないわ。あなたと私は恋人同士。その事実さえあれば」
薫「ぐはっ・・・!」
日輪「はいはい、姉さんはこっちで休んでようねー」
幽「・・・うふふ。温かい・・・」