研究期間

令和11年3月30日まで

 

研究の背景

 血清の殺菌作用は、19世紀から認識されており、あらゆる血中因子に殺菌作用がある事が解明されてきたにも関わらず、その個体差についての研究は意外にも極めて不十分である。抗体を含む多様な補体活性化経路が個体差を惹起する因子として集中的に研究された一方で、その他の因子についてはほとんど研究されていない。

 

研究の目的

 本研究では、血液液性成分殺菌作用の個体差をもたらす因子について包括的に解析・同定する。将来的にはそれらの因子が血流感染症の発症・予後を予測する新しい指標となりうるかについて検討する。

 

研究の意義

 (医学的意義)

自然免疫系は宿主の防衛機構の第一線とされるが、細胞性免疫と液性免疫に大別される。シングルセル解析を始めとした技術の進歩に伴って、細胞性免疫についての研究は精力的に行われる一方で、液性殺菌因子は作用が限定的であると考えられ、免疫学の第一線においてこれまであまり重要視されてこなかった背景がある。ところが近年、液性殺菌因子を含む即時型の殺菌反応が病原体由来分子レベルを早期に下げることにより、細胞性免疫の免疫誘導による過度な炎症反応を制限しているという報告がなされ、その役割が見直されるようになってきた。液性殺菌因子による即時的殺菌機構と血流感染症の発症・重症化についての関係性は、血流感染症の病態解明に必須のものとなる可能性がある。

 

(社会的意義)

現状では臨床現場において細菌感染を適切に診断し、抗菌薬を使用することは実はまだ容易ではない。あらゆる検査を用いて診断の精度を高めようとする試みはあるが、残念ながら実際の臨床現場で用いられる指標の多くは宿主の炎症反応を検出しているに過ぎず、細菌感染症の手強さを知る医師の慎重さの余り、必要以上に抗菌薬が使用されるケースが多い。抗菌薬の使用は薬剤耐性菌の世界的拡散に繋がっており、適切な細菌感染の診断は喫緊の課題と言える。本研究においては、これまであまり注目されてこなかった宿主の血液液性成分の個体差に焦点を当て、血中因子が殺菌作用の個体差をもたらすメカニズムについて、最新の技術を用いた詳細な解析を行う。その結果を用いて、細菌感染症の診断法を改良できることを目指す。

 

研究計画

 18歳以上の健常人から血液サンプル(一人当たり40mL以下)を集める。それらの血液サンプルを用いて大阪大学微生物病研究所内に保存されている細菌株に対する血液液性成分の殺菌作用を計測する。細菌株は腸内細菌科細菌を含むヒト常在菌を用いる。

血液液性成分のメタボロミクス及びプロテオミクスを行い、液性成分の個体差を解析し、各成分と殺菌作用の関連性について統計学的に検討する。推定された因子における殺菌作用の濃度依存性と血中濃度について解析を行う。メタボロミクス及びプロテオミクスについては大阪大学創薬サイエンス研究支援拠点の支援を受ける予定である。

 

個人情報の保護

 検体採取時に個人情報は削除されるため、個人の特定はできない状態とする。

本研究のために採取した血液検体を将来別の研究で用いる可能性があることは同意書を取る段階で説明している。また、将来別の研究で用いる場合は、再度倫理審査を行い、倫理的に問題のない手順・手法を確認後に用いることとする。

 

問い合わせ先

大阪大学微生物病研究所 

感染症国際研究センター 病原細菌研究グループ

住所:大阪府吹田市山田丘3−1

研究責任者:阿部隆一郎 

連絡先:06−6879−8275