天文学における

データ科学的方法

概要

今後の天文学・宇宙物理学分野では,新たなデータ科学の方法の導入が不可欠です.次世代の大型観測のプロジェクトはデータ科学にとってもチャレンジングなものとなるでしょう.天文学・宇宙物理学分野への積極的なデータ科学的方法の導入は,天文分野,データ科学,双方にとって実り多いものとなるはずです.本研究会では関連分野からデータ科学を共通項として幅広く話題をあつめます.現在行われている取り組みをお互いに理解し,必要となる問題を洗い出し,今後の天文分野において必要となるデータ科学の手法に関して議論をすすめたいと考えています. 本研究会は 2015年, 2017年, 2019年に続き,四回目の開催となります.

詳細

共催:統計数理研究所 統計的機械学習研究センター

JST AIP加速課題 「革新的画像解析技術を用いた広域宇宙撮像データ分析」

日時: 2022年10月3, 4, 5日

場所:統計数理研究所,オンライン

参加:参加費無料,こちらから聴講の申し込みをお願いします.講演の申し込みは締め切りました(登録情報は本研究会の連絡と主催機関への開催報告のみに使用します. )

世話人:服部公平(国立天文台・統数研),白崎正人(国立天文台・統数研),池田思朗(統数研),竹内努(名古屋大学),植村誠(広島大学),本間希樹(国立天文台)

チュートリアル

10/3 (月) 13:00-15:00 赤穂昭太郎(産総研)

Title: 機械学習を用いた次元圧縮法の基礎

Abstract: 次元圧縮は高次元データを可視化したり無駄な情報を省いて有用な情報を取り出すための枠組みである.ただし,何が有用な情報なのかは目的によって異なるので,問題に応じて適切に使い分ける必要がある.本チュートリアルでは,次元圧縮のための多変量解析や機械学習の手法を紹介し,それらを使用する際の注意点などについて解説する.


10/4 () 13:00-15:00 福水健次(統計数理研究所)

Title: 位相的データ解析とその応用

Abstract: データの位相的・幾何学的情報を抽出する有力な方法として,位相的データ解析が様々な分野で用いられるようになっている.本チュートリアルでは,その中心的方法であるパーシステントホモロジーと呼ばれるマルチスケールな解析手法に関して入門的な解説を行う.パーシステントホモロジーの構成に関してなるべく直感的な説明を行い,それを用いたデータ解析の方法を解説し,材料科学などにおける応用例を紹介する.

招待講演

10/3 (月) 10:50-11:20 吉浦伸太郎国立天文台

Title: SKA時代の低周波21cm線データ解析

Abstract: 地上最大の低周波電波望遠鏡Square Kilometer Array (SKA)の建設が始まり、2028年ごろには本格的な運用が開始予定である。既存の望遠鏡よりも10倍以上の高い感度を持つSKAはまさに今後10年以上に渡る低周波電波天文学を牽引していくだろう。オーストラリアに建設中のSKA Lowのキーサイエンスが、中性水素21cm線による遠方宇宙の探査である。特に宇宙再電離期と呼ばれる当時のガスが若い銀河よって電離された時代の21cm線を観測から、初期の銀河や初代星の性質、活動銀河核の役割などの解明が期待されている。ただし、観測量から天体の情報を抜き出すのは簡単ではなく、さまざまな統計量を用いた方法が模索されている。この分野におけるベイズ統計や機械学習の発展も著しく、データ科学の役割がますます重要視されている。SKA時代には当時のガスの分布を直接見ることができるため、画像を使った解析もますます活発になっていくと思われる。一方で、21cm線観測の最大の困難が前景放射の存在である。数値計算や既存の望遠鏡による観測データを用いて、21cm線よりも数桁明るい前景放射をどのように除去するか、さまざまな手法が開発されているが、装置などに起因する系統誤差の影響が大きく、21cm線の検出は未だ達成されていないのが現状である。今回の講演では、SKAの先行機等で行われている21cm線の解析方法や前景放射除去などの現状を概観する。さらに、SKA時代とその先を見据え、21cm線解析への期待と考えられるデータ解析の課題を議論したい。


10/4 (火) 11:10 - 11:40 栗田光樹夫(京都大学)

Title: 弾性体モデルを用いたデータステッチング

Abstract: 我々はこれまで弾性体を用いて計測データをモデル化したデータ統合手法(データステッチング)を開発してきた。計測誤差は大きく分けて系統誤差、ドリフト誤差、ランダム誤差が挙げられる。このうち系統誤差は校正により、ランダム誤差は時間コストを要する平均処理により改善される。ドリフト誤差に対しても現状では平均処理以外に有効な対策はない。しかし、ドリフト誤差は測定環境の連続的な変動に起因するという事実がある。この連続性をモデル化できれば、ドリフト誤差を改善できる可能性がある。この観点に立ち、連続体である弾性体により計測データをモデル化した。本講演では、この技術の詳細、応用実例、発展性について述べる。


10/4 (火) 15:40-16:10 河原創(JAXA宇宙科学研究所)

Title: 天文学コードのDifferential Programming:系外惑星スペクトルモデリングを例として

Abstract: 自動微分が昨今の機械学習を支える技術であることは論を俟たないだろう。天文学のデータ科学的手法においても自動微分を用いたDifferential Programming (DP)を行うことにより、勾配ベースの最適化はもとより、HMC-NUTSによる高効率(高信頼とも言いたい)なMCMC、規格化流を用いた変分推定などにより、これまでは難しかった推定や解析が容易になってきている。特に推定アルゴリズム自体は確率プログラミング言語(PPL)に任せて、我々は天文現象のモデルをDPするところに専念できる、というような流れを、系外惑星・恒星の自動微分可能なスペクトルモデルExoJAX (https://github.com/HajimeKawahara/exojax) の開発の中で学んだことを中心にお話ししたい。ExoJAXは, Autodiff+XLAをGPUバックエンドで使えるJAXを用いている。10年前はGPUを使うにはCUDAなどを勉強するところから始めないとならなかった。JAX等がある今は、実はアマチュア無線がスマホになったくらいの感じで誰でも気軽にGPUの計算力を利用可能になっている。普段データ解析している人こそもっとGPUを気軽に使いませんか?(解析サーバをGPUサーバに置き換えて)という話もする予定です。


10/5 () 10:00-10:30 軸屋一郎(金沢大学)

Title: 制御工学による天文学への貢献

Abstract: 天文学は古来より研究されてきた科学の源流の一つであり、果てしなく遠く暗い天体を眺めるために究極的なものづくりが行われている。我が国においても、近年ではせいめい望遠鏡が実運用に至り、東京大学アタカマ天文台の開発が進められている。様々な観測装置の開発が進められ、先端的なデータ解析手法が観測データの解析に適用されている。筆者は、制御工学者としていくつかの天体装置開発に関わる機会に恵まれ、せいめい望遠鏡の分割主鏡制御を実装するとともに、現在でもMIMIZUKUとかULTIMATE-Subaruの開発に関わっている。本講演では、筆者が関わった天体装置開発の事例を紹介するとともに、理工連携の観点から筆者が感じた意義と難しさについて私見を述べたい。


10/5 () 13:00 - 13:30 澤田真理(理研)

Title: 精密分光時代におけるX線天文学のデータ解析とその課題

Abstract: X線天文学においていま大きな変革期にある分野の1つが分光観測だ。私が開発に参加している XRISM 衛星は,これまで広くもちいられてきたX線 CCD 分光器より一桁以上優れたエネルギー分解能をもつマイクロカロリメータ精密分光器を搭載する。精密分光により,銀河団や超新星残骸をはじめとする高温プラズマ天体のバルクな並進運動・乱流運動の検出や,電子温度・イオン温度などの熱的性質の精密測定が可能になる。私たちは,X線イメージングを格段に進化させ多数の発見を成し遂げた Chandra 衛星のような役割を,X線分光においては XRISM が果たすと期待している。しかしその一方で,一度に一桁以上も分解能が向上したデータを適切に解析・解釈するのは間違いなく難しい。実際,XRISM に課された使命をもともと担っていた Hitomi (ASTRO-H) 衛星のわずかな観測で得た,ある意味でもっとも「単純」な高温プラズマをもつペルセウス座銀河団のスペクトルですら,解析には様々な困難があった。とくに重大だとわかったのは,分光解析にもちいる放射モデルや原子物理データの系統誤差である。本講演では,Hitomi 衛星での経験をもとに精密X線分光データ解析の現状と課題をまとめる。また,XRISM に向けて私たちが進める,地上プラズマ実験による放射モデルの検証についても紹介したい。XRISM 後のミッションでは分光だけでなく撮像・集光性能も同時に向上し,より data intensive となる。本研究会では,この点で先行する他波長分野からフィードバックをいただけると幸いである。


一般講演

一般講演の申込みは締め切りました.申込みありがとうございました。

10/3 (月)

10:00-10:20 Kazumi Murata (NAOJ)

銀河画像の空間分解能改善と誤差推定

10:20-10:40 幾田佳 (東京大学)

すばる望遠鏡IRDによる視線速度の複数惑星系モデリング

11:20-11:40 Makoto Uemura (Hiroshima University)

激変星の追跡観測に関する意思決定の自動化

15:20-15:40 岩崎大希 (名古屋大学)

次元削減を用いた銀河の物理量の推定

15:40-16:00 Tsutomu Takeuchi (Nagoya University)

Characteristics of the Central Starburst in NGC 253 as Revealed by High Dimensional Statistical Analysis

16:10-16:30 斉田浩見 (大同大学)

Sgr A*を周回する星の観測データによる重力理論の探査

16:30-16:50 Sena Matsui (Nagoya University)

Estimating star formation histories and onset timing of galactic winds in dwarf galaxies of the Local Group


10/4 (火)

10:00-10:20 西澤淳 (岐阜聖徳学園大学/名古屋大学)

ブレンドした天体の測光的赤方偏移推定

10:20-10:40 Kohei Hattori (ISM/NAOJ)

Greedy Optimistic Clustering: A clustering method for noisy data sets

10:50-11:10 Keiya Hirashima (University of Tokyo)

Forecasting the expansion of Supernova shells toward accelerating high-resolution galaxy simulations

15:20-15:40 Rikuo Uchiki (Keio University)

三次元面分光データの微分位相解析による銀河構造の可視化


10/5 (水)

10:30-10:50 谷口暁星 (名古屋大学)

行列分解によるサブミリ波分光観測データの信号・雑音分離

11:00-11:20 今村千博 (名古屋大学)

遺伝的アルゴリズムによる50mサブミリ波望遠鏡の主鏡支持構造最適化手法の開発

11:20-11:40 高橋一郎 (東京工業大学)

Tomo-e Gozen突発天体探査における深層学習によるReal/Bogus分類

13:30-13:35 Wen SHI (Nagoya University)

Analysis of the spatially resolved SFR – stellar mass relation for DustPedia galaxies

13:45-14:05 Kiyoaki Christopher Omori (Nagoya University)

Machine-Learning Based Approach for Merger Identification of Subaru-HSC Galaxies

14:05-14:25 Maxime Paillassa (Nagoya University)

Investigation of the unrecognized blends in HSC with new simulations and machine learning

14:35-14:55 Dillon Loh (Nagoya University)

Exploring the latent space representations of galaxy images and their relationships with galactic morphological and physical properties

14:55-15:15 Suchetha Cooray (Nagoya University)

Dimensionality Reduction for Understanding Galaxies

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