旭川非可換解析セミナー
旭川非可換解析セミナーでは, 非可換解析学 (非可換確率論, 作用素環論や量子ウォークなど) に関係する研究発表を行なっています. また, これら以外にも確率論, 関数解析, 微分方程式といった解析学に関する研究発表を行なっていただける講演者も広く募集しています. 日程については講演者との調節にて決定いたします. 講演を希望される方やセミナーへの参加については, 植田優基 ueda.yuki (at) a.hokkyodai.ac.jp までご連絡ください.
今後のセミナー予定
第5回 Coming soon...
第4回 (2024年8月20日)
8月20日 (火) N301 (数学第1演習室)
関 元樹 氏 (北海道大学) 15:45 〜 16:45
講演題目:2次元2状態量子ウォークの弱収束定理
アブストラクト:量子ウォークはランダムウォークの量子版と呼ばれる数理モデルである.量子ウォークの最も大きな話題の1つとして弱収束定理がある.これまで,1次元の量子ウォークの弱収束定理は一様な場合と,非一様な場合の双方において研究されている.多くの1次元量子ウォークの極限分布には今野関数と呼ばれる特有な関数があらわれる.一方,2次元の量子ウォークについてはGroverウォークの弱収束定理が先行研究として知られている.本研究では先行研究を特殊な場合として含む,一様な2次元2状態の量子ウォークについて極限分布を導出した.特にここで得られた確率密度関数についてある種の極限を取ると1次元量子ウォークにおける今野関数を導出できる.本講演では,量子ウォークの初歩的な解説から始めて本研究のエッセンスを説明する.
福田 一貴 氏 (信州大学) 17:00 〜 18:00
講演題目:非線形移流拡散方程式の解の長時間漸近挙動について
アブストラクト:本講演では,非線形移流拡散方程式の初期値問題を取り扱う.この方程式は物質の移流と拡散のプロセスを記述する放物型の偏微分方程式であり,流体力学をはじめとして,自然科学や工学の様々な場面で現れるものである.本研究では,この問題に対する解の⻑時間漸近挙動について考える.この問題の解は,その線形化方程式である熱方程式の解と似た性質を持っており,例えば解のL^p-ノルムが線形のそれと同様のオーダーで減衰することや,漸近形も同様に熱核の定数倍となることが知られている.一方,その漸近率と解の第二次漸近形に関しては,線形の場合とは異なった挙動が得られることが知られており,非線形項の冪に応じてそれらが変化する.特に,臨界冪の場合にはその影響が強く現れ,第二次漸近形と漸近率に線形の場合には見られない対数項が現れる.本研究では,今回新たに解の第三次漸近形を構成することで,その漸近率を改良した最良な漸近率を導出することに成功したので,その結果について報告する.さらに,一般論から得られる結果との比較についても述べたいと思う.なお,本講演の内容は佐藤槙哉氏との共同研究に基づく.
第3回 (2024年4月16日〜18日)
4月16日 (火) 〜 4月18日 (木) N301 (数学第1演習室)
藤江 克徳 氏 (京都大学)
講演題目:Introduction to type B' free probability
4月16日 (火) 17:00 〜 17:30 講演の概要について
4月17日 (水) 10:00 〜 11:30 非可換確率空間と様々な独立性,そのランダム行列への応用
4月17日 (水) 13:00 〜 14:30 type B' 自由確率空間の導入
4月17日 (水) 15:00 〜 16:30 様々な独立性との比較および関係性について
4月18日 (木) 10:00 〜 11:30 いくつかの簡単な応用例について
アブストラクト:本講演の目的は長谷部高広氏(北海道大学)との共著論文である"Free probability of type B prime" (arXiv:2310.14582) について解説を行うことである.漸近的自由独立性に代表される,自由確率論とランダム行列理論のよく知られた関係をさらに発展させた——というのが主な内容である.概説を述べる導入回を除いて全4回,すべて黒板を用いて基本的な内容からゆっくりと話す予定である.第1回では復習として非可換確率論とその上に定まる様々な独立性を紹介する.とくに自由確率論がどのようにランダム行列に応用されてきたかを述べる.第2回ではtype B' 自由確率論を導入し,第3回においてその枠組みを用いることでこれまでに研究されてきた独立性が絡み合いながら現れる様子を観察する.第4回ではいくつかの応用例を見るとともに,そもそもの動機であったランダム行列の主小行列の解析が無限小自由圧縮として述べられることを確認する.
4月17日 (水) N301 (数学第1演習室)
北川 遊 氏 (北海道大学) 17:00 〜 17:20
講演題目:ランダム行列とEigenstate thermalization hypothesisへの応用
第2回 (2023年12月15日)
12月15日 (金) N301 (数学第1演習室)
豊川 永喜 氏 (北見工業大学) 9:00 〜 10:30
講演題目:ランダム力学系に対する物理的測度の有限性について
アブストラクト:確率空間上の写像の反復で与えられる可測力学系や,写像にゆらぎを加えたランダム力学系に対し,エルゴード的な不変確率測度がいつ存在するかという問いは,系の統計的性質を調べる上で基本となる.不変確率測度が基本測度に絶対連続である時,不変確率測度はある種の観測可能性を意味し,特に物理的測度と呼ばれる重要な対象である.本講演では,ランダム力学系の時間発展を記述する作用素を解析する方法論を用いて,系に対し物理的測度が高々有限個存在するための必要十分条件を与える.本研究はBarrientos氏(Fluminense連邦大学), 中村氏(北見工業大学), 中野氏(東海大学)との共同研究である.
第1回 (2023年10月18日・19日)
10月18日 (水) N301 (数学第1演習室)
石川 彩香 氏 (山形大学) 10:30〜12:00
講演題目:グラフゼータの伊原表示について
アブストラクト:グラフゼータとはセルバーグゼータ函数のグラフに対する類似であり,その大半において「伊原表示」と呼ばれる行列式表示を構成できることが知られている. しかし,伊原表示の明確な定義は未だ与えられておらず,伊原表示の構成に関する統一的な議論にも至っていない. 今回はグラフゼータの概要から,伊原表示の定義に向けた議論と最近の結果について紹介する.
船川 大樹 氏 (北海学園大学) 13:00〜14:30
講演題目:スペクトル写像定理を用いた開放系量子ウォークの固有値解析
アブストラクト:量子ウォーク(QW)は古典ランダムウォーク(RW)の量子版と見なされる数理モデルであり,量子探索アルゴリズムの基礎であるとともにトポロジカル絶縁体の実現なども行われている。QWの記述する時間発展作用素のスペクトルは,量子ウォークのスペクトル写像定理(SMT)によって以下の2つに分類される。(1)RWとユニタリ同値なdiscriminant作用素のスペクトルと対応する部分。(2)発生の固有空間と呼ばれる量子ウォーク独自の固有空間から従う固有値。本講演では(2)の発生の固有空間に着目し,1次元スプリットステップ量子ウォーク(SSQW)と望月・金・小布施モデル(MKO)対してその解析を行う。閉鎖系量子ウォークであるSSQWはSegawa-Suzukiによって示されたSMTによって発生の固有空間が自明でないことが示されるが,開放系量子ウォークであるMKOには従来のSMTを適応することができない。そのため,本講演では新しいSMTを紹介し,MKOにおける発生の固有空間を解析する。さらにSSQWの結果との比較も紹介する。尚,本研究は神奈川大学の齋藤渓氏との共同研究である。
10月19日 (木) N301 (数学第1演習室)
和田 和幸 氏 (北海道教育大学旭川校) 10:30〜11:20
講演題目:1次元量子ウォークにおける弱収束定理
アブストラクト:量子ウォークは古典ランダムウォークの量子力学的な対応物として導入された数理モデルである.適切なスケーリングを施したランダムウォークは,正規分布に弱収束する事が知られている.これの対応物として,「適切なスケーリングを施した量子ウォークは,どのような分布に弱収束するか」という問題が考えられる.この問題に対する最初の結果はKonnoによって証明され,その分布は正規分布と性質が大きく異なっている事が明らかになった.この結果に対し,現在では様々な拡張が試みられている.量子ウォークはヒルベルト空間上のユニタリ作用素として扱う事ができ,確率論的な視点だけでなく,関数解析的な視点からの解析が可能である.講演では,量子ウォークの定義や基本的な性質を確認する所から始め,時間が許せば講演者の最近の結果について触れたい.