研究内容

研究教育活動について

我々の研究室では、研究対象に合わせて内部流班外部流班超音速班の計3グループに分かれて活動しています。野﨑教授は主に内部流班を、荻野講師は超音速班を研究指導し、外部流班の研究に関しては共同で進めています。学生たちは複数名からなる研究班に所属することで互いに協力しながら切磋琢磨しています。また教員と議論を深めることによって学生個人個人の能力向上を目指した研究活動を行っています。

学生たちは週に一度、各班ごとに研究の進み具合や実験計測・数値計算結果について話し合い、さらに毎週木曜日の午後には研究室全体の報告会にて成果発表しています。こういった活動を通じて論理的に物事を考える能力問題を解決する力、自分の考えを相手に伝え議論を交わすためのプレゼンテーション能力を養成しています。また基礎知識の充実が必要な学問や専門知識については、班をまたいでゼミや勉強会を開催しています。

内部流班外部流班超音速班 (クリックでタブが開きます) の順で紹介していますのでスクロールしてご覧ください。ご質問などお気軽にこちらまで。

内部流班

M2 有賀 寛純, 伊志嶺 朝史 M1 岡 優介, 岩間 輝佳, 中島 達貴 B4 安光 竜作, 山中 雄行

軸流圧縮機の性能向上


ジェットエンジンの燃料消費率の改善のため、ジェットエンジンの構成要素の一つである軸流圧縮機に着目し、内部の流れの改善を行っています。本研究室では、軸流圧縮機内部の翼の配置と環境を模した風洞とCFD解析により、効果的な手法の確立を目指しています。

直線翼列風洞による実験風景

着氷風洞を用いたCFRP翼の電熱防除氷に関する実験的研究

M2 有賀 寛純

航空機が寒い環境を飛行する際、機体の各所に氷が張り付く「着氷」と呼ばれる現象が発生します。この現象は航空機の飛行性能低下だけでなく、事故にもつながり得る重要な課題であり対策が義務付けられています。現在の航空機エンジンにおいては、推力の一部が飛行中の着氷対策 (防除氷) に用いられていますが、そのために燃費を悪くしているとも言えます。そこで私たちは、近年航空機エンジンのファンブレードに炭素繊維強化プラスチック (CFRP) が利用され始めていることと、CFRPの電気を通すと発熱する特性に着目しました。本テーマでは、CFRPを利用したこれまでに無い新しいエンジン防除氷システムの提案を目指して、CFRPの電気加熱と防除氷の関係を明らかにする基礎研究を行っています。

小型ガスタービン試作機の自立運転に向けた研究

M1 岩間 輝佳

ガスタービン・ジェットエンジンは圧縮機・燃焼器・タービンの3要素からなりますが、小型ガスタービン試作機ではターボチャージャーに燃焼器を取り付けることで同等の構成としています。現在、圧縮機・タービンの回転数が自立運転の達成に必要なところまで上がらないという問題があり、燃焼器の改良や吸気の改善などを行うことで自立運転を目指しています。

小型ガスタービン試作機

ジェットエンジン騒音低減に向けたノズルの開発

JetCatグループ

M1 中島 達貴 B4 山中 雄行

航空機のジェットエンジン騒音低減を目的として、排気ノズルの後縁部をギザギザにしたシェブロンノズルが採用されています。しかし、シェブロンノズルには騒音とともに推力も低下させてしまう問題があります。本研究では小型ジェットエンジン (JetCat社製) を用いて実験を行い、自作したノズルを取り付け騒音と推力を計測することによってノズルの性能を調査し、効率的なノズル形状の開発を目指しています。

小型ジェットエンジン (JetCat社製)

外部流班

M2 梁 裕卓 M1 行德 一真, 佐々木 蓮, 森 健人 B4 西山 和希, 濱中 峻匡, 林 鷹志, 廣田 知大

輸送機器の外部流れの解析

車や航空機、電車に船などの輸送機器は外部流れの影響を大きく受けます。コンピュータを用いて計算を行うことで空気の流れを再現し、主に空力性能の向上を目的とした研究を行っています。現在は電車のパンタグラフから発生する騒音の低減に向けた研究や、翼の空力性能改善に向けた研究、車の空気抵抗低減に向けた研究や船舶の推進性能向上に向けた研究など様々な分野を対象としています。

航空機の脚収納部における騒音発生に関する研究

M2 梁 裕卓

航空機の騒音源の一つである主脚収納部の騒音は『キャビティ騒音(流体が窪みを通過する際に発生する騒音)』に起因すると考えられており、主脚収納部では脚柱とそれを支持するサイドブレースが存在することでキャビティ騒音の発生に変化が起こると考えられています。本研究ではサイドブレースに着目し、円柱とキャビティに簡略化したモデルに数値計算を行うことでキャビティ騒音の発生に円柱が起こす変化を明らかにすることを目指しています。

キャビティ流れによる圧力変動(M=0.4, Re=3000)

計算結果は宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のスーパーコンピュータ『JSS2』を用いて得た

高速鉄道のパンタグラフ周辺から発生する騒音低減

M1 行德 一真

高速鉄道のパンタグラフ周辺は騒音の原因の1つになり、さらに速度が速くなればなるほど騒音は大きくなります。そこでコンピュータを用いて空気の流れを解くCFDを用いて、騒音の原因となる音源部を見つけ出し、空気の流れを改善することによって騒音の低減を目指しています。

バックステップ流れの横方向の速度分布と音源項の分布

回転円筒を用いたフラップの剥離制御

M1 佐々木 蓮

航空機の主翼に取り付けられるフラップは展開することで低速域での揚力を稼ぎ、離着陸時の安全性を高め、滑走距離を短縮することができます。より揚力を稼ぐにはフラップ角を大きく設定するという方法がありますが、上面で剥離が発生しやすくなります。本研究では、翼面を動かすことで流体に運動量を与えることで剥離を抑制し、フラップ機能の向上を目指しています。

フラップ上面に生じた剥離

自動車の空力性能向上のためのタイヤハウス内のデバイス開発

M1 森 健人

近年の自動車開発では環境への配慮から燃費向上が求められており、自動車の燃費向上を実現するためには自動車の走行抵抗の低減が重要になっています。本研究ではコンピュータで流れを解くCFDを用いて、タイヤハウス内に設置したデバイスによる空気の流れの変化を調べることで、車体全体の空気抵抗低減を目指しています。

自動車後輪タイヤハウス内の流れ計算結果

本学風洞における三次元翼計測環境構築

B4 林 鷹志, 西山 和希

システム工学実験でも利用している本学風洞を用いて、これまで本研究室では二次元翼まわりの流れ計測とデータ解析を行ってきました。また同時に、試験気流の乱れを抑えることを目的に整流デバイスの開発や風洞壁による乱れ制御について研究してきました。過去の知見に基づいて今、後退翼テーパー翼など三次元形状の翼型まわりの計測実験を大きな目標として掲げています。

本学風洞の全体写真

翼端渦を抑制する翼端の形状模索

B4 濱中 峻匡

航空機が飛行すると翼端から渦が発生します。この渦を翼端渦といい、この渦が抗力となって航空機の燃費に悪影響を及ぼしています。そこで数値シミュレーションを用いて、翼端形状により翼端部の空気の流れを改善することで、翼端渦を抑制することを目的としています。

ウイングレットの例

推進効率の向上を目的とした船尾フィンの形状模索

B4 廣田 知大

船舶が航行する際、船尾付近では流体の複雑な流れや剥離により、プロペラへの質量流量 (または流入流束) が低下する場合が多くなります。船尾付近にフィンを取り付けることで、プロペラ付近の流れの改善、剥離渦を抑制することにより推進効率の向上が期待できます。数値シミュレーションにより、効果的なフィン形状の提案を目指しています。

超音速班

M2 唐澤 颯人, 廣原 和希 M1 砂辺 一行, 豊田 有里 B4 青景 壮真, 秋田 智也, 瀧日 葵, 田村 北斗

"日々、研究を楽しむ"

荻野 要介

我々人類にはまだまだ未知なる世界が存在します。足を踏み入れることすら困難な宇宙空間や深海、顕微鏡でさえ見ることのできないほど微小な量子力学的スケールを持つ世界など、その枚挙に暇がありません。さまざまな物理現象やその工学応用によって創られる新たな技術が、未だ見ぬ明日への扉を開き、好奇心と探求心を駆り立てます。まさにロマンと言えるでしょう!

18 世紀 英国の産業革命における蒸気機関の発明によって生活環境や文化は加速度的に変化を遂げ、現在に至るまで人類は工業化の道を歩んできました。その基盤とも言える輸送技術の進歩は特に目覚ましく、内部・外部流班の興味対象でもある船舶や鉄道、自動車、航空機を経て、現在では人工衛星や宇宙ステーション建設を目的とした超高速宇宙輸送にまで展開しています。さらに、火星への移住計画やはやぶさに代表される小惑星探査と、未来への道程に世界中の多くの人々が心奪われ関心を寄せています。

我々の班では高速流動現象の物理的な解釈とその工学応用に関して、コンピュータによる解析技術を道具として駆使し、様々な研究課題に取り組んでいます。現在の研究例の一部をご紹介します。

小型BWBリージョナルジェット機の形状模索と空力性能評価

M2 唐澤 颯人

近年、経済発展に伴った地域路線整備の発展やLCCなどの増加を背景に、小型機であるリージョナルジェットの需要が高まり、より高い機体性能が求められています。そこで、翼と胴体を一体化 (Blended Wing Body, BWB) した形状に着目しました。次世代大型機として提唱されている形状であり、従来形状と比較して空力性能とペイロードで勝ります。リージョナルジェット機においてもBWB形状が適するのか検討するため、流体計算と形状最適化を行い、新たなBWB形状を摸索しています。

BWB航空機まわりの流線と表面圧力分布

低計算コストな音響計算コードの開発

M2 廣原 和希

航空機の離着陸時に大きくなる機体騒音の低減を図るためには、機体まわりの音響計算が必要です。音響計算において評価の対象となる音波は非常に微小な圧力波であるために、高精度かつ大規模な計算が必要となります。本研究室では、実際の航空機開発の現場において、高信頼かつ低計算コストな音響計算を実現できる新たな計算コードの開発に挑んでいます。

円柱まわりの音響計算結果 (左図) と円柱背面側の放射音強度 (右図)

アーク加熱風洞実験における異常輻射加熱現象の数値的研究

M1 砂辺 一行

宇宙機の熱防御設計には加熱量の正確な予測が必須であり、その代表的な手段として風洞実験と数値解析がありますが、流れ場のより詳細な情報が得られることから数値解析が進められています。一方で、米国 NASA Ames 研究所に配備されている加熱量の予測実験設備の1つであるアーク加熱風洞では、数値解析による予測を大幅に上回る輻射加熱が観測されるという現象が確認されました。本研究では、流体と非平衡プラズマ、輻射の数値解析によって、これまで原因不明とされてきた異常加熱現象のメカニズム解明を目指しています。

アーク風洞気流内の供試体まわり温度分布 (右図) と発光スペクトル (左図)

複雑形状機の3次元超音速流数値計算

M1 豊田 有里

実際の航空機の空力設計には、風洞での実験とCFDによる計算の両方が使われています。非常に柔軟で有効なCFDの工学的活用を実現するためには複雑形状であっても、安定に計算できることが好ましいです。複雑形状であればあるほど、精度を向上させるとCFDの計算が不安定になりやすく、計算が破綻してしまうことが多いです。本研究では、複雑形状機データの取得から計算格子生成、 圧縮性流体のCFDの実行、流体構造連成計算までを含めた統合数値計算環境を構築すること目的としています。

ドラケンIII超音速飛行時の数値シミュレーション

楕円錐模型まわり極超音速流れの全場安定性解析

B4 青景 壮真 (2018年度 M2 河端 恭平)

大気圏高高度を極超音速で飛行する旅客機の実現を目指してHIFiREという国際研究開発プロジェクトが進められています。世界中の極超音速風洞で空力加熱試験と数値解析が実施され、模擬飛行試験も行われています。超高速飛行中の機体前方には衝撃波が形成され、飛行条件によっては境界層が剥離または乱流化することもあります。その場合、高温衝撃層内の流体が乱流輸送によって壁面を著しく加熱するため、乱流状態へ遷移する位置を知ることは熱防御対策の根幹を成し極めて重要です。本研究では乱流へ繋がる流体不安定性の原因を、全体安定性解析によって擾乱成長を追跡することで考察しています。

楕円錐模型まわり密度擾乱の最大固有値に対応する固有モード計算結果

流束再構築 (Flux Reconstruction, FR) 法の計算コード開発

B4 田村 北斗

Navier-Stokes 方程式は流れ場の密度や速度、圧力といった物理量の時間・空間変化を記述できる支配方程式です。その方程式系は複雑で強い非線形性を持ち、解析解の導出は世界中でも未だなされていません。数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics, CFD) は流体力学理論を拡張し、近似的にではありますが Navier-Stokes 方程式の解を再現することを目指す学問です。航空機や宇宙機開発における CFD の持つ役割は非常に大きく、今日では定常流に対する低次精度近似であれば堅牢で信頼できる数値シミュレーションが可能となりました。こういった現状の元、次代を担うと期待される CFD 手法の一つが流束再構築 (Flux Reconstruction, FR) 法です。航空機実機形状まわりであっても高次精度を達成でき、効率の良い非定常乱流計算が実現されつつあります。本研究では FR 法計算プログラムの作成を原点として、航空機まわりの衝撃波と境界層を伴う流れ場における乱流計算の実現を大目標としています。

正弦波の伝播 CFD 計算結果 (上図 : 3次精度 FR 法 (厳密解を維持)、下図 : 1次精度 Lax 差分 (誤差で波が散逸))

ステップ波の伝播 CFD 計算結果 (リミッタ作用の確認。数値振動の制限OK)

超軌道速度で飛行する大気圏突入カプセル

(夢ナビ講義ライブより)

打ち上げロケットに乗って宇宙空間まで達した宇宙飛行士は、カプセル型宇宙機に乗って地球へ帰還します。宇宙飛行士の命を運ぶ移動手段として非常に大事なカプセル型宇宙機は、過酷な加熱環境に耐えねばなりません。本研究では、流体力学に基づく数値シミュレーションを実施することで、猛烈な加熱率を精度良く予測できる解析技術の構築を目指しています。

地球帰還時はやぶさカプセルまわりの流体数値シミュレーション (マッハ数分布と流線)