Aspects of Mirror Symmetry 2022

日時: 2022年9月5日(月)-7日(水)

場所: 千葉大学 理学部1号館 (西千葉キャンパス), 109大講義室 (千葉大学へのアクセス方法)

人数把握のため, 参加をご希望の方には下記リンク先からの登録をお願い致します. 登録フォーム

今年の研究集会は夏の学校形式で開催します. 3名の研究者による連続講演を行います. 

::: プログラム ::: (9月5日-7日)

::: 講演概要 :::

Wrapped深谷圏は余接束のコンパクトとは限らないラグランジュ部分多様体を調べるために深谷-Seidel-Smith [FSS09] により導入され, Sylvan [Syl19] によるstopの導入を経て, 凸なシリンダー状のendを持つシンプレクティック多様体 (Liouville多様体) に拡張された. Ganatra-Pardon-Shendeはstop付のwrapped深谷圏 (partially wrapped 深谷圏) を, 境界付のLiouville多様体 (Liouvilleセクター) に対して一般化する事で再定式化を行い, 一般論をより柔軟に展開できる枠組みを構築した. 本講演では彼らの連作 [GPS I, II] に従い, partially wrapped 深谷圏について解説する. 1日目はシンプレクティックホモロジーおよびwrapped Floerコホモロジーについて説明する. 2日目はそれに基づき, Liouville多様体のpartially wrapped 深谷圏を定義する. 3日目はpartially wrapped 深谷圏のKünneth公式などについて説明し, 余裕があればホモロジー的ミラー対称性などの話題に触れる. 第1回: シンプレクティックホモロジー , 2回: Partially wrapped 深谷圏 -構成-, 3回: Partially wrapped 深谷圏 -性質-

参考文献:
[GPS I] Sheel Ganatra, John Pardon, and Vivek Shende. Covariantly functorial wrapped Floer theory on Liouville sectors. Publ. Math. Inst. Hautes Études Sci., 131:73–200, 2020.
[GPS II] Sheel Ganatra, John Pardon, and Vivek Shende. Sectorial descent for wrapped Fukaya categories, preprint arXiv:1809.03427, 2018.
[FSS09] K. Fukaya, P. Seidel, and I. Smith. The symplectic geometry of cotangent bundles from a categorical viewpoint. In Homological mirror symmetry, Volume 757 of Lecture Notes in Phys., pages 1–26. Springer, Berlin, 2009.
[Syl19] Zachary Sylvan. On partially wrapped Fukaya categories. J. Topol., 12(2):372–441, 2019.


この講演では, 行列模型の量子場の理論的アプローチに関する基本的内容を紹介します. 行列模型は, 行列積分を用いて行列要素の分配関数や相関関数を計算する枠組みです. この模型は物理学では0次元の時空(つまり点)上の量子場の理論として解釈され, 位相的弦理論や超対称ゲージ理論などをはじめとした様々な量子場の理論の非摂動的解析に応用されています. 一方で, KontsevichによるWitten予想の証明においては, 行列模型の摂動解析とファットグラフの数え上げ問題の関係を基に, 点付きリーマン面のモジュライ空間の交叉指数の生成母関数と, 行列模型の分配関数との間の関係が示されました. また近年では, 行列模型の相関関数が満たす関係式として見出された位相的漸化式が主にリーマン面のモジュライ空間の幾何に関する文脈で応用され, 様々な形でこの関係式が現れることが報告されています. 合計3時間の講演では, 以下の3部に関する内容をお話しする予定です. また時間に余裕があれば, 位相的漸化式のラプラス変換によって得られる幾何的漸化式などに関する近年の進展などについても紹介したいと思います.

第1部: ファットグラフとその自己同型群
ファットグラフは頂点のハーフエッジに巡回順序を導入したグラフであり, リボングラフとも呼ばれます. 行列模型においてファットグラフは摂動的にトレース演算子の相関関数を計算するために用いられる一方で, 点付きリーマン面のセル分割にも用いられ, モジュライ空間の組み合わせ論的モデルの構成においても重要な役割を果たします. 

第1部ではファットグラフに関して行列模型の解析に必要となる基本的ことがらをまとめ,行列模型の摂動論との関係について説明します.

参考文献: 
M. Mulase and M. Penkava, "Ribbon Graphs, Quadratic Differentials on Riemann Surfaces, and Algebraic Curves Defined over ¥bar{Q}'', arXiv:math-ph/9811024.
寺杣友秀「コンツェビッチによるウィッテン予想の解決」上智大学数学講究録(1997).
P. Ginsparg, "Matrix models of 2d gravity'', arXiv:hep-th/9112013.

第2部: 行列模型の摂動論とスペクトル曲線
行列模型の相関関数や分配関数は, ファットグラフの同値類の数え上げとして組み合わせ論的に計算されると同時に, 行列ランクの逆数に関する展開(ラージN展開)を基にした漸近解析が可能です. この漸近解析から行列模型のスペクトル曲線が得られ, そのデータを基に, 球面と同じオイラー数を持つファットグラフ(プラナーグラフ)の足しあげに関する計算が実行できます. 

第2部では行列模型の行列ランクに関するスケーリング極限における漸近展開と, そこに現れるスペクトル曲線やプラナーグラフの足しあげの計算法を紹介します. 

参考文献: 
E. Brézin, C. Itzykson, G. Parisi, and J. B. Zuber, "Planar diagrams'', Communications in Mathematical Physics volume 59, pages 35–51 (1978).
D. Bessis, C. Itzykson, and J. B. Zuber, "Quantum field theory techniques in graphical enumeration'',  Advances in Applied Mathematics Volume 1, Issue 2, Pages 109-157 (1980). 

第3部: 位相的漸化式
行列模型の相関関数の解析手法の一つである位相的漸化式は, リーマン面のモジュライ空閑の構造の量子論的解析とその背後にある構造を明確にする手法としても注目されています. 位相的漸化式は行列模型の相関関数の鞍点方程式(高次ループ方程式)の書き換えとして導出された, 相関関数の間の関係式です. この関係式では, スペクトル曲線とその曲線上の(ベルグマン核と呼ばれる)双有理2次形式のデータを基に逐次的に相関関数を決定します. つまり, スペクトル曲線とその座標関数, さらにベルグマン核の3つ組が与えられると, 行列模型が明確でない, 行列模型に類似のシステムの相関関数を計算することも可能となります. ここ10年の研究では, スペクトル曲線を適切に選ぶことによってリーマン面のモジュライ空間上の様々な積分量が位相的漸化式を満たすことがこれまでに証明され, リーマン面のモジュライ空間にまつわる位相不変量の背後には位相的漸化式の構造が潜んでいることが分かってきました. (この適用例として, 境界付き双曲的リーマン面のWeil-Peterson体積に関するMirzakhaniの漸化式が位相的漸化式のLaplace変換として実現されることが挙げられます.)

第3部では位相的漸化式の計算法を説明し, 行列模型の相関関数や点付きリーマン面のモジュライ空間の交叉指数などのその応用例について紹介します.

参考文献:
B. Eynard, N. Orantin, "Invariants of algebraic curves and topological expansion'', arXiv:math-ph/0702045.
B. Eynard, N. Orantin, "Topological recursion in random matrices and enumerative geometry", J. Phys. A: Mathematical and Theoretical , 42(29), 2009, arXiv:0811.3531[math-ph].
B. Eynard, T. Kimura, S. Ribault, "Random matrices'', arXiv:1510.04430 [math-ph].
O. Dumitrescu and M. Mulase, "Lectures on the topological recursion for Higgs bundles and quantum curves'', arXiv:1509.09007 [math.AG].


Bridgelandは, 三角圏に対して安定性条件の空間を導入した. 安定性条件の空間とタイヒミュラー空間の間には, 様々な関係や類似が存在することが知られている. Bapat-Deopurkar-Licataは, タイヒミュラー空間のThurstonコンパクト化の類似を安定性条件の空間に対しても実行できるか?という問題を提唱した. 彼らは, quiverから定まる2次元Calabi-Yau圏を用いて安定性条件の空間のThurstonコンパクト化が実行できる例を構成した. 本講演では, 代数曲線やK3曲面上の連接層の導来圏を題材に, 安定性条件の空間のThurstonコンパクト化について論じる. 本講演は, 菊田康平氏, 小関直紀氏との共同研究に基づく.

::: 世話人 :::