気象分野で実現している大規模観測網を生物多様性分野に構築する

沿革:日本における広域環境DNA観測

多地点での環境DNAメタバーコーディング観測は、CREST「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発」で実施されたのが最初です。2017年には世界的にも例のない全国の500を超える地点での調査により1,200種以上の魚が検出されました。さらに2018年には魚類群集の季節変動を把握するため、全国数十地点における高頻度観測が実施されています。これらの観測では、採水・試料作成〜環境DNA分析〜データ解析に至るノウハウが多数蓄積されました。

CRESTの終了後には基盤S「沿岸生態系における構造転換」が開始されました。ここでは生態系レジームシフト 研究に資する、全国60以上の地点での高頻度の環境DNA観測が実施されています。観測は呼びかけに応じた全国の研究機関の協力のもと実施され、獲得された生物多様性データはオープンデータの理念のもと広く公開されることが決められました。「選択と集中」の象徴とも言える基盤S研究におけるリソースが、観測データの獲得とその利用の両面において「拡散」に向けられた時、生態学に何が起きるでしょうか。

環境DNA観測は、アカデミアの枠を超えて市民サイエンスの場にも広がりを見せつつあります。2020年よりアースウォッチ・ジャパンによる科学者-市民連携の調査プログラム「環境DNAを用いた魚類調査プロジェクト」がカカクコムのサポートのもとスタートしました。また、海の学びミュージアムサポートによる教育プログラムでは科学者の指導のもと小・中学生が環境DNA調査に挑戦します。これらのプロジェクトは、より広い地域での生態系観測を実現するだけではなく、市民が身近な生態系状態を自ら把握し、意思決定に利用する高度生態情報社会への転換の重要な布石となるかもしれません。

本プロジェクトの狙い

環境DNA観測から得られた高度な生態系情報が広く利活用され、適切な生態系評価、効果的な生物多様性保全が行われるようになるには何が必要でしょうか。

環境DNA観測は、従来の生態系調査手法では獲得困難だった膨大かつ詳細な生物多様性情報を提供します。しかし、その情報を最大限に活用するためには、環境DNAに代表されるような大規模生態系データの分析手法が発展する必要があります。他方、データ分析手法の発展には、十分な環境DNA観測データの蓄積が欠かせません。つまり、分析手法の発展と観測の維持拡大は相互依存の関係にあると言えます。「観測網の維持拡大」と「分析手法の発展」の両者に「ブースト」をかけることが、本プロジェクトの重要な役割の一つです。

さらに忘れてはならないのは、生態系観測の基盤を支える科学者の存在です。巨大な複雑系である生態系の観測は根気と忍耐が求められる大変な作業です。生態系観測を実施する研究者を取り巻く環境は、決して最高の状態とは言えません。観測に協力してくださる全国の研究機関や研究者の研究を推進させることも本プロジェクトの重要な役割です。

プロジェクト参加者 (アースウォッチ・基盤S・協力機関)

近藤 倫生

東北大学大学院生命科学研究科

田中 健太

筑波大学山岳科学センター

(JaLTER 科学委員長)

笠井 亮秀

北海道大学大学院水産科学研究院

清野聡子

九州大学大学院工学研究院

益田 玲爾

京都大学フィールド科学教育研究センター

山川 央

かずさDNA研究所

堀 正和

水産研究 ・教育機構

長井 敏

水産研究 ・教育機構

吉田 真明

島根大学大学院自然科学研究科

大野 ゆかり

東北大学大学院生命科学研究科

田邉 晶史

東北大学大学院生命科学研究科

太齋 彰浩

一般社団法人サスティナビリティセンター

山崎 彩

北海道大学大学院水産科学研究院

川津 一隆

東北大学大学院生命科学研究科

協賛・連携・協力組織

一般社団法人環境DNA学会

日本長期生態学研究ネットワーク (JaLTER)

マリンバイオ共同推進機構 (JAMBIO)

ANEMONEの活動をご支援くださっている皆様