信じられない医療事故が起きてしまった.報道された内容をまとめると,真菌症治療薬に睡眠導入剤が混入していたため意識を失うなどの副作用の報告が多数よせられているということである.
水虫治療薬に睡眠導入剤混入 メーカー 処方された364人を特定
2020年12月11日 18時32分 医療 NHKウエブニュース
前略
福井県あわら市の医薬品メーカー「小林化工」は、今月4日、水虫などの真菌症の治療薬として製造・販売している飲み薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」に睡眠導入剤の成分が誤って混入していたと公表し、自主回収を進めていました。
福井県によりますと、薬は全国39の都道府県に流通していて、会社は実際に処方された患者は31都道府県の364人と特定され、医療機関や薬局を通じて患者全員に服用の中止を求める連絡を終えたということです。
また意識を失うなどの副作用の報告は10日正午までに128件あり、中には車を運転中に意識を失って事故となるなど、交通事故が起きたケースが14件報告されているということです。
後略
以下に各成分の化学構造式を示した.勘違いするような類似性はないといっても過言ではない.
イトラコナゾール
リルマザホン塩酸塩水和物
混入していた量が微量ならともかく,最大投与量の2.5倍にあたる睡眠導入剤が誤って混入していたとのことである. 以下に添付文書の用法・容量を示したが, 不眠症には1回1〜2mgである.
塩酸リルマザホン錠1「MEEK」/塩酸リルマザホン錠2「MEEK」
【用法・用量】
不眠症: 通常、成人にはリルマザホン塩酸塩水和物として1回1~2mgを就寝前に経口投与する。
麻酔前投薬:
通常、成人にはリルマザホン塩酸塩水和物として1回2mgを就寝前又は手術前に経口投与する。 なお、年齢、疾患、症状により適宜増減するが、高齢者には1 回2mgまでとする.
<用法・用量に関連する使用上の注意>
不眠症には、就寝の直前に服用させること。また、服用して就 寝した後、睡眠途中において一時的に起床して仕事等をする 可能性があるときは服用させないこと。
同社によると、健康被害が確認された薬のロット番号は「T0EG08」。今年6~7月に製造され、9~12月に出荷された約9万錠に、睡眠導入剤の成分「リルマザホン塩酸塩水和物」が混入していた。その後の報道によると,誤って投入した事実は作業員の記録に残っており,薬の含有量を調べる「液体クロマトグラフィー」による検査において,異物が混入していた事実を見過ごした疑いもあるという.錠剤の製造工程では,二人一組で指差し確認が原則であるのに.問題の錠剤の場合は一人で作業していたとのことである.チョコボールを製造している過程で,すこし甘味が足りないから,砂糖を追加したつもりが砂糖ではなく塩だったという話に近い?が,追加の添加は認められていないはずである.液クロで異物が検出された段階で,そのロットは廃棄すべきものであり.会社として作業記録をチェックするシステムが機能していなかったことは明らかである.
今回のミスが新型コロナによる人員不足に起因するものなら製造を中止すべきである.長期間,薬学の教育,研究に携わってきた者の一人として,コメントの仕様がない.代わりに,日本ジェネリック製薬協会の苦悩のメッセージを付記しておきたい.
追記(日本ジェネリック製薬協会のメッセージ)
当協会会員会社が製造する医薬品の健康被害に関して
当協会会員会社が製造販売した経口抗真菌剤『イトラコナゾール錠50「MEEK」』(ロット番号:T0EG08)を服用された患者様に重篤な健康被害が発現し、患者様には当協会としまして心よりお見舞い申し上げますとともに衷心よりお詫び申し上げます。また、医療機関様、保険薬局様、流通関係者様、行政当局の皆様にも多大なご迷惑をおかけする事態となっておりますことを心よりお詫び申し上げます。
本事案は、医薬品の信頼を大きく揺るがすものであり、当協会全体に関わる極めて重大な問題と受け止めております。従来より医薬品の適正な製造、品質管理について心を砕いてまいりましたが、今回の事態を引き起こした事は誠に遺憾に思います。このような事態を二度と発生させないよう会員会社には改めて管理の徹底を指示し、引続き協会をあげて、医薬品の適正な製造管理及び品質管理の徹底、コンプライアンスの徹底を図ってまいります。
会員会社の措置について
日本ジェネリック製薬協会(会長:澤井 光郎)は、会員会社の小林化工株式会社について、本日開催された当協会の理事会において、理事の役職停止を決定したことをお知らせいたします。
錠剤(Wikipedia)
錠剤には、次のような品質が求められる。
重量および含量の均一性
崩壊性および溶出性
機械的強度
先発品メーカーと後発品メーカーの医薬品では、有効成分が同じでもこういった品質に差があり効果の出方が異なるといわれてきた。後発品の使用推進を目指す国では、後発品メーカーに先発品と同等の品質であることを示すことを求めている。
水虫治療薬に睡眠導入剤混入 メーカー 処方された364人を特定
2020年12月11日 18時32分 医療 NHKウエブニュース
福井県の医薬品メーカーが製造した水虫などの治療薬に、睡眠導入剤の成分が混入していた問題で、会社は薬が処方された患者364人を特定し、全員に服用の中止を求める連絡をしたと発表しました。県によりますと意識を失うなどの副作用の報告が128件あるということです。
福井県あわら市の医薬品メーカー「小林化工」は、今月4日、水虫などの真菌症の治療薬として製造・販売している飲み薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」に睡眠導入剤の成分が誤って混入していたと公表し、自主回収を進めていました。
福井県によりますと、薬は全国39の都道府県に流通していて、会社は実際に処方された患者は31都道府県の364人と特定され、医療機関や薬局を通じて患者全員に服用の中止を求める連絡を終えたということです。
また意識を失うなどの副作用の報告は10日正午までに128件あり、中には車を運転中に意識を失って事故となるなど、交通事故が起きたケースが14件報告されているということです。
県は9日、「小林化工」の工場に立ち入り調査を行い混入の原因などを調べるとともに、行政処分など必要な対応を検討することにしています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201211/k10012759661000.html
12/16(水) 6:00配信
製薬会社「小林化工」(福井県)が製造した爪水虫などの皮膚治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、服用した70代女性が死亡するなどした問題で、従業員が製造過程で睡眠導入剤の成分を投入したことを記録していたことが15日、福井県と厚生労働省への取材で明らかになった。投入されるはずのない成分が記録されていたことなどから、作業を熟知していない従業員が誤って投入し、その後の工程でも会社がチェックしていなかった疑いが出てきた。県などは安全確認を怠ったとして、業務停止命令を視野に行政処分を検討している。
睡眠導入剤の成分が混入していたのは経口抗真菌剤のイトラコナゾール錠50「MEEK」。2020年6、7月に製造し、9~12月に出荷した。同社によると、薬の製造過程で原薬の量が減ることがあり、成分を追加する作業を行う際に睡眠導入剤「リルマザホン塩酸塩水和物」を誤って投入したという。作業記録に、この睡眠導入剤を示す番号が記載されていた。
成分の追加投入は今回の場合、医薬品の成分が均等に拡散されずに錠剤の濃度にばらつきが出る可能性があることから、厚労省が承認した製造手順では認められていない。
また出荷前の7月、薬の含有成分を調べるために「液体クロマトグラフィー」と呼ばれる手法でサンプル調査した際、異物の混入を示唆するデータが検出されたが、見過ごされた疑いも明らかになっている。
健康被害が12月に報告され、このデータを再検証したところ睡眠導入剤の混入の可能性が浮上。この作業記録を確認して睡眠導入剤の誤投入が分かった。
医薬品医療機器法は、製薬会社が製造手順を作成して記録し、それらを基に品質をチェックして医薬品を出荷するよう義務付けている。同社の内規では、成分の取り出しや計量は2人1組で指さし確認をしながら進めると定められているが、今回は担当者が1人で作業していた。睡眠導入剤の投入が記された作業記録やサンプル調査の分析結果も含め、あらゆる過程で安全性がチェックされていなかった疑いがある。
厚労省の担当者は「記録をしっかり確認するなどしていれば、そのまま出荷するようなことは考えられない」と話した。【桐野耕一、岩間理紀】
毎日新聞の記事 https://news.yahoo.co.jp/articles/5439beed5ebd812411edec2948c89fcf04e91a82
(2020.12.24)