松井研究室(matLab)では「計算社会科学(Computational Social Science)」「機械学習や統計的因果推論をはじめとするデータサイエンスの先端技術」「消費行動やソーシャルメディア分析」などを専門領域としており、社会現象をデータ駆動型で読み解きます。
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神戸大学経済経営研究所の松井暉(まつい あきら)講師は、デジタルプラットフォーム上での人間行動のメカニズム解明を専門とし、計算社会科学など経済学とコンピュータサイエンスを融合した学際的アプローチで研究を行っています。具体的には、SNSやオンラインコミュニティなど膨大なデジタルデータを分析し、人々の コミュニケーション や 知識創造 のしくみを明らかにすることを目指しています。経済学で培われた社会現象への洞察力と、計算機科学のデータ分析・機械学習技術を掛け合わせることで、デジタル社会における複雑な人間行動を定量的に捉える先駆的な研究に取り組んでいます。
主な研究テーマ として、まずオンライン上の有害行動の実態解明があります。例えば、インターネット上で発生する誹謗中傷や陰謀論などの有害な情報拡散がどのように起こり、コミュニティ内でどのように伝播・拡大するのかを追跡分析しています。これにより、デジタル空間でのトラブルや炎上現象が生じるメカニズムを解明し、健全なオンライン環境づくりに貢献する知見を提供しています。また、人間の協同的な知識創造にも焦点を当てています。例えば、研究論文の執筆プロセスや共同研究の初期段階をデータとして捉え、「人間はどのように協力して新たな知見を生み出し蓄積していくのか」という問いに対して定量的なモデルを構築することを目指しています。これによって、科学や技術のイノベーションが生まれる過程を解明し、効率的な知識共有の促進や研究支援の在り方に示唆を与えています。さらに近年では、急速に増大するユーザー行動ログなど実データの活用にも力を入れており、企業やプラットフォーム提供企業との共同研究を通じて実社会のデータを分析しながら理論成果の社会実装を試みています。オンライン上の行動データとオフライン(現実社会)の行動データを統合的に扱う枠組みを開発したり、悪意ある投稿を未然に防ぐ技術の開発に取り組むなど、その研究成果はより安全で安心なプラットフォーム運営にも寄与しうるものです。
主要な研究成果 の一つに、オンラインゲームのライブ配信(ストリーミング)がプレイヤーの行動に与える影響を分析した研究があります。松井講師らの分析によれば、ゲーム実況を配信しながらプレイすることはプレイヤー自身の成績をむしろ低下させる一方で、ゲームへの没入時間(継続プレイ時間)を増加させるという、一見矛盾した効果が確認されました (Does Streaming Esports Affect Players’ Behavior and Performance?)。この成果はデジタルプラットフォーム上での自己表現(配信行為)がユーザーの行動に与える影響を示すもので、オンラインコミュニティにおける行動メカニズム理解の一例です。また別の研究では、オンライン広告を活用して 現実世界での人々の行動を測定するフィールド実験 を実施し、デジタル広告が消費者のオフライン行動に与える効果を検証しました(2021年、Japanese Economic Review誌)。この研究を通じて、インターネット上のマーケティング施策が実社会の消費行動に及ぼす影響を定量的に示し、企業のデジタル戦略や政策立案に有用な知見を提供しています。さらに、学術コミュニティに着目した研究では、学術論文の査読プロセスがその論文の将来的な貢献度(影響力)にどのような影響を与えるかを分析しました(2021年、PeerJ誌)。このような研究から、どのような査読・フィードバックが新たな知識の創出を後押しするのかといった、科学における協働知識生成のダイナミズムに光を当てています。加えて、計算社会科学分野の方法論にも貢献しており、自然言語処理技術であるワードエンベディング(単語の意味を数値ベクトルで表現する技術)の社会科学への応用について総合的に論じたサーベイ論文を発表するなど(2024年、PeerJ Computer Science誌)、分析手法の開発・紹介にも取り組んでいます。これら数々の成果は国内外の学術誌に掲載され、デジタル社会に関する理解を深める研究として高い評価を受けています。
学術的経歴 を振り返ると、松井講師は学際的なバックグラウンドを活かしてキャリアを積んできました。学部では立命館大学政策科学部で学んだ後、神戸大学経済学部に編入して卒業、続けて神戸大学大学院経済学研究科修士課程を修了しています。その後、研究の幅を広げるため渡米し、南カリフォルニア大学(USC)コンピュータサイエンス学部の博士課程に進学して計算機科学を専門的に学び、2022年にPh.D.(コンピュータサイエンス)を取得しました。経済学と計算機科学の両方で正式な学位を得たことで、社会現象をデータサイエンスの力で分析するという現在の計算社会科学的アプローチの基盤を築いています。博士号取得後の2022年4月には横浜国立大学大学院国際社会科学研究院の講師に着任し、計算社会科学やデジタルプラットフォームに関する研究・教育に従事しました。そして2025年4月より神戸大学経済経営研究所に赴任し、引き続き最先端の研究活動を展開しています。
松井講師の研究はデジタル社会への 社会的意義 も大きく、今後の展望にも期待が寄せられます。インターネット上の有害情報への対策や健全なコミュニティ形成の指針、効果的な研究支援システムの設計など、彼の研究から得られる知見は私たちの社会課題の解決や政策立案にも役立つ可能性があります。実際に企業や行政との連携を通じ、研究成果を社会で実装する試みにも積極的で、データに基づいたエvidenceをもとにしたプラットフォーム運営ポリシーや技術開発への応用が進められています。松井講師自身、「より安全なプラットフォーム運営や効率的な研究支援、さらにはイノベーション創出」に資することを目標に掲げており、その姿勢はデジタル社会の発展に貢献したいという強い想いの表れです。今後も急速に変化するデジタル社会に対応しながら、人々の幸福と社会の健全化につながる研究テーマに挑戦し続けていくことでしょう。
国際的な 学術活動 も精力的に行っており、世界各国の研究者との共同研究や知見交換を積極的に進めています。博士課程在籍中からアメリカをはじめ海外の研究プロジェクトに参画し、多様なバックグラウンドを持つ研究者たちと協働して成果を上げてきました(実際、国際共著論文や国際会議発表も多数あります)。また、計算社会科学やデータサイエンスの学会においても存在感を示しており、国内では計算社会科学会の第3回大会にて大会優秀賞を受賞するなど、その功績が高く評価されています。さらにAAAI国際会議(Webとソーシャルメディアに関する国際会議)といったトップクラスの国際会議で研究発表を行うなど、講演・発表の実績も豊富です。これらの活動を通じて国内外に幅広い研究ネットワークを築き、常に最新の知見と刺激を取り入れながら研究を深化させています。
このように松井暉講師の研究は、経済学と情報科学を横断するユニークな視点から、デジタルプラットフォーム上の人間行動を解明しようとするものです。その成果は学術的に意義深いだけでなく、デジタル社会が抱える課題の解決や新たな価値創造につながる可能性を秘めています。今後も産学官の垣根を越えた連携と国際的な視野を持ちながら、デジタル時代の社会に貢献する研究をリードしていくことが期待されます。