論文概説とコメント
BCOV cusp forms of lattice polarized K3 surfaces, with Shinobu Hosono, arXiv:2303.04383.
3次元Calabi-Yau多様体の種数1のGromov-Witten不変量の母関数は, 正則アノマリー方程式の解の位相極限として求めることができる(BCOV理論[BCOV]). 一方で, K3曲面のGromov-Witten不変量は自明であるからその母関数に意味はないが, g=1正則アノマリー方程式の解の位相極限である"BCOV公式"は非自明であり何かしらの意味を持つと考えられる. そこで"K3曲面のBCOV公式"を3次元のBCOV公式に適当な修正を加えた形で定義し, 多くの格子偏極K3曲面に対して, それが複素モジュライ空間(IV型対称領域)上の尖点形式となることを示した. 保型性は解のモノドロミー変換として自然に従い, さらに尖点形式となることは解の境界条件として理解される(境界条件が複数存在する場合もありうる). 特にClingher-Doran[CD]によって研究されたU⊕E_8(−1)⊕E_7(−1)-偏極K3曲面に対しては井草カスプ形式χ_10とχ_12が得られることを示した. 証明の副産物として, このK3曲面族の周期積分の明示的な表示も得られた(トーリック幾何の手法が使える形へゲージ変換することが鍵). 本研究は概正則保型形式に関する金子-Zagier理論[KZ]の幾何学化・高次元化の試みの一環として得られたものである. 概正則保型形式の非正則性を正則アノマリーとして理解することでCalabi-Yau多様体の幾何学との繋がりが生じる.Mirror symmetry and rigid structures of generalized K3 surfaces, arXiv:2108.05197.
Dolgachevによる格子偏極K3曲面のミラー対称性の定式化[Dol]は, "偏極格子の(K3格子内での)直交補格子が双曲格子Uを含む"という条件が課されるため, ミラー対称性の完全な定式化とはなり得ないことが知られていた. 本論文では, 考察対象を一般化K3曲面に拡張することでこの問題を解決し, (一般化)K3曲面のミラー対称性の定式化を完全な形で与えた. 拡張の鍵は(1)一般化Calabi-Yau構造[Hit, Huy]を考えることで変形空間を増やすこと, (2)向井格子に対する格子偏極を考えることの2点である. ミラー対称性において, 双曲格子は標準的な代数サイクルH^0+H^4に対応するが, 一般化K3曲面においてこれらがH^2と混ざり合う事実が重要である. この定式化はAspinwall-Morrisonが提唱した共形場理論的なミラー対称性の数学的実現[AM]としても理解出来る. 双曲格子Uは周期領域のBaily-Borelコンパクト化のカスプに対応することから, 極大退化点(カスプ)に依存しない本定式化は大域的ミラー対称性にもなっている. 応用として, 特異K3曲面(複素剛的K3曲面)のミラー多様体が一般化K3曲面族として与えられることがわかる. 実際, 一般化K3曲面としての代数格子が正値かつ階数2となる条件からKahler剛性も自然に定義される. また直交補格子が双曲格子の真の定数倍U(k)のみ含む場合もBrauer群の捻りとして理解出来るため, 例外処理する必要がない.
Attractor mechanisms of moduli spaces of Calabi-Yau threefolds, with Yu-Wei Fan, Journal of Geometry and Physics, Vol. 185 (2023) 104724.
超弦理論のブラックホールの研究においてFerrara–Kallosh–Strominger[FKS], Moore[Moo]らによって解析されてきたアトラクター機構を厳密に定式化し, 種々の性質を調べた. 数学的には, これは3次元Calabi-Yau多様体の正規化された中心電荷(の絶対値)の極小問題を複素モジュライ空間上で解くことに対応する. 極小値を与えるモジュライ空間の点(アトラクター)に対応するCalabi-Yau多様体はアトラクター多様体と呼ばれ, 複素剛的Calabi-Yau多様体の一般化とも考えられる. さらにミラー対称性を指導原理にして, Kahlerアトラクター機構, およびKahlerアトラクター多様体を定義し, それらの性質を調べた. この過程でFan-Yauとの共同研究で導入したA-模型Weil-Petersson幾何が重要な役割を果たした. 得られた結果を楕円曲線とK3曲面の直積として得られる3次元Calabi-Yau多様体に適用した場合が特に示唆的で, 上の論文の主題の1つであるKahler剛性に繋がっていく. アトラクター多様体はHodge理論的に特徴付けられるが, モジュライ空間のアトラクター流の解析も興味深い問題として残っている. アトラクター機構はYau先生に教えてもらった話題である. 最初はアトラクター多様体の対称性や数論的側面の研究を進めたが, 結果が得られなかった.
Degenerating Hodge structure of one-parameter family of Calabi-Yau threefolds, with Tatsuki Hayama, Asian Journal of Mathematics, Vol. 25, No. 1, (2021), 31–42.
複素モジュライ空間が1次元である3次元Calabi-Yau多様体の族に対して, 加藤-臼井の対数Hodge理論において拡張周期写像を考えることができる. 雑に言えば, Hodge構造の分類空間のコンパクト化が境界に冪零軌道を加えることで構成される[KU]. 本論文では特に最大冪単モノドロミー点の像を調べることで, 一般Torelli型定理を適当な条件のもとで示した. この条件は弱いもので, 例えば最大冪単モノドロミー点が1つしかない場合には自明に成立している. さらにミラー対称性を仮定すれば, この条件はミラー多様性の位相不変量で記述できる[ED]. 主結果は臼井先生のP^4内の5次超曲面のミラー多様体に関する仕事[Usu]の一般化である.
Weil-Petersson geometry on the space of Bridgeland stability conditions, with Yu-Wei Fan and Shing-Tung Yau, Communication in Analysis and Geometry, Vol. 29, No. 3, 681-706, 2021.
Calabi-Yau多様体の複素モジュライ空間上にはWeil-Petersson計量[Tia]と呼ばれる自然なKahler計量が存在するため, ミラー対称性の観点からKahlerモジュライ空間上にも自然なKahler計量が存在することが予想される. 本論文ではBridgeland安定性条件[Bri]の空間上に, Kahlerモジュライ空間に制限したときKahlerポテンシャルとなるべき自然な関数を構成した. Kahlerモジュライ空間の安定性条件の空間への埋め込みは一般に複雑であるが, 埋め込みが同型になる場合には自然なKahler計量が得られることを確かめた. 例えば楕円曲線の直積の場合には, Siegelモジュラー多様体上のBergman計量が現れ, これはミラー対称性とも整合的である(ミラー多様体は主偏極Abel曲面). Weil-Petersson計量のミラー対応物はTrenner-Wilson[TW]によっても提起されているが, 彼らの仕事はLCSL近傍での漸近的Kahler計量の研究に留まっている. 我々の計量は大域的であり, またKahlerモジュライ空間の安定性条件の空間への埋め込みに関しても新しい条件を与えている.Geometric transitions and SYZ mirror symmetry, with Siu-Cheong Lau, Pacific Journal of Mathematics, 301-2 (2019), 489-517.
Calabi-Yau多様体の幾何学的転移に関するMorrison予想[Mor]「特異点の円滑化と解消はミラー対称的」が一般化コニフォールドと軌道体コニフォールドに関して正しいことをSYZミラー対称性の観点から証明した. (1)コニフォールドに関する古典的な結果を拡張していること, (2)特異点の円滑化と解消がSYZミラー対称性の観点から理解出来ることを明らかにしたこと, (3)構成が具体的であり, 開Gromov-Witten不変量の壁越え現象から特異点の多項式が明示的に復元できること, の3点から有意義な結果だと考えられる. 一般化コニフォールドと軌道体コニフォールドの双対性はAganagic-Karch-Lust-Miemiecらのゲージ理論とブレーン配置の研究[AKLM]によって知られており, 我々の結果はその数学的な証明にもなっている. 一般化コニフォールドは修士時代にGKZ系の観点から研究したことがあったが, 軌道体コニフォールドとの関係を知らず, 先に進めなかった.Local Calabi-Yau manifolds of affine type A via SYZ mirror symmetry, with Siu-Cheong Lau, Journal of Geometry and Physics 139 (2019) 103-138.
I型退化のみを持つ複数の(局所)楕円曲面のファイバー積のクレパント特異点解消をA型Calabi-Yau多様体と呼ぶ. 3次元の場合には, これはSchoenの3次元Calabi-Yau多様体の局所模型を与えており, 一番簡単な場合はバナナ多様体とも呼ばれている. 本論文では, A型Calabi-Yau多様体が無限型トーリック多様体の適当な商多様体として記述されることを示し, 無限型トーリック多様体に対して同変SYZと同変GKZ超幾何系の理論を構築することで, A型Calabi-Yau多様体のミラー対称性を論じた. 商多様体として表示からAbel多様体との関係[Mum]が明らかになり, 開Gromov-Witten不変量の母関数がRiemannテータ関数と関係付けられる. 特別な場合として, バナナ多様体と主偏極Abel曲面のテータ因子が与える2次曲面ファイブレーションがミラー対称的であるというHori–Iqbal–Vafaの結果[HIV]が従う. HarvardのカフェでLauと一緒にトーリックウェブ図の道の数え上げを計算して, 開Gromov-Witten不変量の母関数をテータ関数として導出したことは良い思い出である. 私もLauもとても気に入っている仕事だが, 結果と手法が代数幾何, シンプレクティック幾何, トーリック幾何, GKZ超幾何系, 数理物理に跨っているためなかなか理解が得られなく, 多くの雑誌と縁がなかったのが少し残念.
Degenerations and Lagrangian fibrations of Calabi-Yau manifolds, Handbook for Mirror Symmetries of Calabi-Yau and Fano Manifolds, Advanced Lectures in Mathematics, Vol. 47 (2019) 149-204.
Calabi-Yau多様体の退化とLagrangianファイブレーションに関する解説論文である. 数学的に新しい結果は, 楕円曲線の場合のDHT予想[DHT]の証明をAbel曲面の場合に一般化したことである. DHT予想の観点から見た, del Pezzo曲面と有理曲面のミラー対称性の解釈や, 幾何学的量子化, Bohr-Sommerfeld Lagrangian多様体, テータ関数など, 当時研究していた(けれども結果が出なかった)ことを纏める良い機会になった.
Doran-Harder-Thompson conjecture via SYZ mirror symmetry: elliptic curves, SIGMA Symmetry, Integrability and Geometry: Methods and Applications, 13 (2017), 024.
ミラー対称性において, 複素構造の退化はKähler構造の退化に対応すると考えられる. 特に, Calabi-Yau多様体が2つの概Fano多様体の交差和に退化するTyurin退化[Tyu]は, Calabi-Yau多様体のP^1へのファイブレーション(因子収縮射)に対応すると予想されている. この予想を精密化したものがDoran-Harder-Thompson(DHT)予想[DHT]であり, 「2つの概Fano多様体のミラーLandau-Ginzburg模型を適切に貼り合わせることで, ミラー多様体とP^1へのCalabi-Yauファイブレーションが得られる」ことを主張する. DHT予想に関する様々な状況証拠が得られていた中で, 楕円曲線の場合に複素構造とシンプレクティック構造の対応まで込めた完全な形で予想を解決した. 主な手法はAurouxによるSYZミラー構成法[Aur]を応用したものであり, Landau-Ginzburgポテンシャルの無限積からテータ関数を復元するところが鍵である. 三亚で開催されたString Math 2015(実際には2015年末から2016年初めに開催)のDoranの講演で予想を知り, 2016年秋にBanffの研究集会(由井先生70)で非公式に話し, 京都に異動してすぐ論文に纏め, 由井先生60歳記念の献呈論文とさせていただいた. DHT予想関係の研究はDoranの研究グループによってさらに大きく発展しているが, 勉強不足のため詳細を追うことができていないのが残念.Calabi-Yau threefolds of type K (I): Classification, with Kenji Hashimoto, International Mathematics Research Notices, 2017; Issue 21 (1) 6654-6693.
Bogomolovの分解定理より, 基本群が無限群となる3次元Calabi-Yau多様体は, K3曲面と楕円曲線の直積または3次元アーベル多様体の自由商として記述されることが知られている. 前者をK型, 後者をA型という. これらは小木曽-桜井の先駆的な仕事[OS]によって大まかな分類がなされ, 可能な無限群の候補が列挙されていた. 本論文ではどの無限群が実際に実現されるか判定し, さらに実現される3次元Calabi-Yau多様体がそれぞれ変形類を除いて一意であることを示した. 一意性はTorelli型の定理から従う. 実は小木曽-桜井の分類リストにはもれが1つあり, その無限群を基本群とする3次元Calabi-Yau多様体を実際に発見できたことから橋本さんとの共同研究が始まった. 東大大学院の頃から橋本さんに格子偏極K3曲面に関して色々教わってきたが, この仕事を通して理論をどのように応用するのか勉強できた.Calabi-Yau threefolds of type K (II): Mirror Symmetry, with Kenji Hashimoto, Communication in Number Theory and Physics, 2016;10 (2) 157-192.
上の論文で構成したK型3次元Calabi-Yau多様体を詳細に解析した. 前半はコホモロジーの捩れ構造, 主にBrauer群を決定した. 後半はミラー対称性に関して議論している. K型3次元Calabi-Yau多様体は位相的に自己ミラー対称的であるが, A-湯川結合とB-湯川結合が実際に一致していること(後者の周期積分はJacobiテータ関数が現れるなど面白い), 特殊Lagerangeファイブレーションの存在などを議論した. 自己ミラー対称的ではあるものの, 非自明なBrauer群を持つ数少ない3次元Calabi-Yau多様体の例になっている. 格子偏極K3曲面のミラー対称性の問題点を強く認識したのもこの頃で, 後に一般化K3曲面の研究へ繋がっていく.Calabi-Yau threefolds with infinite fundamental group, Calabi-Yau Manifolds and their Moduli 2014, Proceedings of Symposia in Pure Mathematics, 2016; 93, 331-338.
上の2つの論文の概説論文である. Edmontonで行われたString Math 2014のサテライト研究集会での講演を基にしている. K型3次元Calabi-Yau多様体の構成に現れる格子偏極K3曲面は, 直交補格子が双曲格子の真の定数倍U(k)のみ含む場合が多く, ミラー対称性が一筋縄ではいかないことに違和感を感じていた. この問題は一般化Calabi-Yau構造を考察することで後に解決されるのだが, Gross先生に教えてもらったBrauer群, SYZ写像の重切断との関係が非常に面白く, その後何年も考える動機付けとなった.
Lectures on BCOV holomorphic anomaly equations, with Jie Zhou, Calabi-Yau Varieties; Arithmetic, Geometry and Physics, Fields Institute Monograph Series, 2015; 34 (1) :445-473.
Bershadsky-Cecotti-Ooguri-Vafa[BCOV]が発見したBCOV正則アノマリー方程式に関する解説論文である. Fields研究所で私とJie Zhou(清華大学)が行った連続講義に基づいている. 3-次元Calabi-Yau多様体のモジュライ空間の特殊Kahler幾何, ミラー対称性, 正則アノマリー方程式, 金子-Zagierの概正則保型形式, などを扱っている. 当時はPfaffian-Grassmann対応[Rod]を手本としたGLSM模型, およびLCSLを複数持つ3次元Calabi-Yau多様体が非常に注目を集めており, 連続講義は盛況だった. 細野-小西[HK]の綺麗な結果に憧れて色々計算したが, 技術的に新しいことは残念ながら得られなかった. 細野-高木の一連の仕事が現れるのもこの頃である.Non-commutative projective Calabi-Yau schemes, Journal of Pure and Applied Algebra, 2015; 219 (7) 2771-2780.
当時知られていた非可換Calabi-Yau代数は全て開Calabi-Yau多様体の非可換類似であり, 射影的な例は知られていなかった. 本論文では3次元5次超曲面型Calabi-Yau多様体の非可換類似を構成した. これはArtin-Zhang[AZ]の意味での, 非可換射影的Calabi-Yau概型であり, 4次非可換射影空間内の超曲面として実現される. 興味深い観察は, このような非可換射影的Calabi-Yau概型は非可換パラメーターが特別な離散的値を取る場合にしか存在しないことである. つまり, 射影空間は連続的に非可換変形可能であるが, Calabi-Yau条件を保存したまま 超曲面を変形することは出来ない. この性質は, 射影的Calabi-Yau多様体は非可換変形を許容しないこととも整合的である. 一般に, 適当なArtin–Shelter正則代数の超曲面として非可換射影的Calabi-Yau概型が沢山得られると予想される. 当初は非可換Donaldson-Thomas理論を念頭に置いた研究であったが, 実力不足で推し進める進めることはできなかった. この目的は本論文の結果を用いてBehrend-Liによって実現された[Li1, Li2].L^p-convergence of the Laplace-Beltrami eigenfunction expansions, Comptes Rendus Mathématiques de l'Académie des Sciences Canada, 2015; 37 (2) 76-80.
閉Riemann多様体上のDirichlet条件を課した滑らかな関数のLaplace-Beltrami固有関数展開がL^p収束するための簡明な十分条件を与えた. Youngの不等式を一般化することで, Green作用素の冪を減らしていく議論が本質的である. 問題自体はY.-H. Kim先生(UBC)の偏微分方程式の講義から発想を得た.Trilinear forms and Chern classes of Calabi-Yau threefolds, with Pelham Wilson, Osaka Journal of Mathematics, 2014; 51 (1) 203-213.
3次元Calabi-Yau多様体の3次交差形式とChern類の間に非自明な関係式が多数存在することを示した. Wallの構造定理[Wal]より, 3次元Calabi-Yau多様体の下部6次元微分多様体としての構造に様々な制限がつくことが従う. 主な手法は, 曲面論とベクトル束の正値性理論(Demailly- Peternell-Schneider不等式)[DPS, Laz]である. 特にEuler数が豊富な因子の次数で上下で抑えられることが示した. また3次交差形式が分解する場合に, 2次交差形式の符号の分類も与えた. 3次交差形式は, ミラー対称性において, 湯川結合に量子補正が無い場合に対応しており, 物理的にも重要な研究対象である. 実際, 物理のある博士論文で使われており, それが縁でその学生の博士号外部審査員を務めることになった. 対称3次形式の難しさと面白さを体感できた研究だったので, いつか続きをやりたい. 因みにWilson先生の古い論文に書かれていた問題の解答を私が彼に送ったところ, 未発表の別解を持っており, 両者を組み合わせることで非自明な結果が得られることから共同研究が始まった. 良い思い出のある日本の雑誌に投稿したいというWilson先生の希望により, 当時小木曽先生が勤めていた阪大が中心となっている雑誌に投稿した.
On the minimal volume of simplices enclosing a convex body, Archiv der Mathematik, 2014; 102 (5) 489-492.
ユークリッド空間内の与えられた凸体とそれを含む単体のそれぞれの超体積の間に成立する簡明な評価式を与えた. この結果は2次元の場合のKuperbergの仕事[Kup]の高次元化と考えられる. またBlaschke[Bla]とMacbeath[Mac]による結果の双対とも考えられる. 当時研究していた3次元Calabi-Yau多様体のKahler錐の断面の形と大きさの評価が問題の種である.Pfaffian Calabi-Yau threefolds and mirror symmetry, Communication in Number Theory and Physics, 2012; 6 (3) 661-696.
van Enckevort-van Stratenは4次のCalabi-Yau型作用素の分類[ED]から, 未発見の3次元Calabi-Yau多様体を予想していた. 本論文では重み付き射影空間内のPfaffian型多様体としてそれらの幾つかを実際に構成した. 当時知られていたPfaffain型のCalabi-Yau多様体はP^9内の標準的なもの[Rod]だけであり, Pfaffianが定義されるベクトル束と射影空間の重みを非自明なものに変えるという自然な発想で未解決問題を一部解決できた. 軌道体構成法を用いてミラー多様体を構成し周期積分を留数計算することで, 分類[ED]の正体不明のCalabi-Yau型作用素がPicard-Fuchs作用素として得られることを確認した. これらは最大退化点を2つ持ち, 興味深い現象が示唆されるが, 詳細はまだ解明されていない. 本論文の結果はGLSMの観点から物理学者の注目を集め, 堀先生にIPMUに呼んで頂いたり, van Straten先生に講演で聴衆の私の結果だとわざわざ言及してもらい, とても嬉しかったことを覚えている. 若い人に励みを与えることを私も心掛けたい. またこれは東大の修士論文であり, 2年の秋まで結果が出なくて大変だったが, 修士1年で勉強したPicard-Fuchs方程式やミラー写像の計算が上手く活かされた点でとても満足している. Candelas達の仕事[COGP]を追体験できたことも良かった. Pfaffain型Calabi-Yau多様体と非可換特異点解消との関係が最近物理で注目を集めていること[KKSS]を三浦君に教えてもらった.
::: 参考文献 :::
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