数百年前に討たれたとされる蛇の妖怪。現在は人に擬態している。
人を魅了しては食す虚構の遊び人。夜に活動することが殆ど。
感情が読み取りづらく、どこか怪しい雰囲気も感じさせるが、基本は無口で大人しい。
本来の性格は、執着心が強く、恨みは忘れないタイプ。そして、狙った獲物は絶対に逃さない。
ある、大きな湖があった。その湖に屈さない程に大きい蛇も、そこに存在していた。
周辺には人々が住んでおり、その蛇を見るなり『化け物だ』『この湖を化け物から守れ』『凶獣め』と騒ぎ立てた。事実、その蛇は何も害を加えていない。ただ、そこに生息していただけだ。
人々に矢を射られ、石を投げられ、罵声を浴びせられ、攻撃は日に日に増していくばかり。大きさもあってか、身体は耐えているものの、住み心地やメンタルは身体に比べて、深い傷を負っていた。
___なぜ、敵視されるのか。このまま耐えて幸せな結末はあるのか。ああ、そうだ。
邪魔な者は消してしまおう。
己の力は、妖力はこのためにあるのだと、その時確信した。敵だと騒ぐのなら、本当にそうなってやろうじゃないか。先に攻撃してきたのはそちらだ。
さぁ、後悔しろ___泣き叫べ___息絶えてしまえ___!!!!
蛇は、湖を荒らした。船に乗る人々を蹴散らし、沈んでいない船には荒波で追撃をした。
蛇は嗤う。純な心は枯れ、憎悪が花開いた。ただただ、咲(わら)う。
「其処の英雄。其方はあの地獄を救ったらしいではないか」
「ええ。九つ、射抜きました」
「___では、次はあの凶獣、湖にいる巨大な蛇を射抜いてくれ賜え」
後に英雄が蛇のいる湖へと襲撃し、湖は無事に平穏を手に入れたという。
その伝説は語り継がれ、今もその英雄の名を知る者は多い。
___蛇は、邪悪だ。蛇は、乱暴で、最悪の侵略者だ。
蛇なんて、悪でしかないのだ。
「随分と威勢がいいな。それがいつまで続くか、精々考えて生きるといい」
「英雄とは聞こえがいいが、アレはただの殺戮者にすぎない。……もう奴は死んでいるんだったか。しかし、どうも気分が晴れない」
「好きにしたらいい。人を殴るでも、金銭強奪するでも。特にオマエ……刃は縛られるのが嫌いなんだろう? はは、分かっている」
「蛇を愛好する者がいるなんて、この世界も変わったものだな。ああ、憎たらしい。どの道、手のひらで踊らせたいようだがな」