甘いものが好きな元ヤクザ、現用心棒
確かな美しさを持っているものの、横暴で傲慢な性格が邪魔をしている
横暴で傲慢。しかし根っからの悪人でもない。
負けん気が強く、敵対心を抱く相手に対しては絶対に諦めない。
強い信念のもと行動するが、痛みに鈍感なことも相まってか無茶な行動をとりがち。
あるヤクザ———詳細は明らかとなっていないが、迅矢の様子を見るに、ただの裏社会では済まない、そんな場所から彼は逃げ出してきた。
今の過剰な暴力、また凶器を振り翳し、屍を超えて成り上がるこの行動の原動力は、根底にある殺意。閉じ籠っていたあの日に、惨い日々を経て芽生え、植え付き、枯れることなど決してない程の強い殺意だ。
迅矢は物心ついた頃から血の匂いが漂う、残酷な世界で暮らしてきた。
そのせいか、命の重さ、暴力による傷の痛み、その他の常識が大きく欠如していた。もちろん、大人になった今もその常識を持ち合わせてはいない。『暴力が嫌な人もいる』その程度だ。
しかし、そんな迅矢も人間。そのせいか、或いはそのおかげか、本能的に不快感を覚えることも少なくはなかった。具体的に言うと、差別や、悪意のある言動を繰り返されること。それはもう毎日のように。一般の人よりは感覚が麻痺しているにしても、嫌に思う気持ちは無くなることはなかった。
それらが常識とならなかったのは、周りの人間と差別されていたからだ。自分はいいように使われていると察することができたのだ。
また、”炎寺”という苗字が本当の苗字かと疑う程に、血筋が曖昧だった。家族をよく知らない、仮に会っていたのだとしても、その人らを家族だと思える事象が無かった。
こんな不安定で惨い日々に嫌気がさしていた。否、負の感情から起き上がるために殺意を利用する程になっていた。その実、嫌という気持ちで済むはずもなかったのだ。正直、この殺意にしか、もう道はなかった。縋るものが、希望が、居場所が、この殺意には在った。
家族も分からない、周りと違う、それを利用され苦しめられる。ただでさえ不安で満たされていた精神を、物理的なものを始めとした攻撃も加えられ、めちゃくちゃにされていた。
そして、その辛さを発散する場所も、泣きつける存在も在りはしなかった。
———もう、限界だ。
”気に入らない奴は殺す” そのような世界に生きていた彼は、当然のように、己の思考を疑うこともなく、命を奪うことを目的とした復讐を決心することになる。
少年は青年となり、強い殺意に支えられ、立ち上がった。
周りが”ドス”と呼んでいる刃物を手に持ち、希望とは似て非になる感情で作られた歪な笑みを浮かべ、彼の最初の復讐は始まる。
———虫の音も聞こえない、風の音もない、雲ひとつなく、月が綺麗に見える夜だった。
こんなにも良い気候だと言うのに、夜行性の生き物も、夜遊びする人間も、誰1人としていなかった。或いは、当時の迅矢の目に映っていなかったのかもしれない。緊張しているとか、余裕がないわけではなく、どうでもよかったが1番的確だ。周りの存在に気づかず邪魔をされたのだとしても、そいつは殺せばいいのだから、どうでもよかったんだ。
開き切った彼の瞳孔に映るのは、憎くて仕方のない奴らのみだ。質の良さそうな毛布を顎付近まで被り、心地良さそうに寝息を立てている、醜い顔だ。
嗚呼、楽しみで仕方ない。
———白い布団は、一瞬にして紅に染まった。首元からドクドクと鮮やかな紅が流れ出し、それは止まることを知らないようだ。
紅を浴びた青年は気付く———奴はまだ、微かに息をしている———殺せていない———!!
異様なほど静かな夜に、肉を突き破る音だけが存在し続けた。
あれから数年経ち、今の迅矢は自由だ。しかし、復讐劇はこれからだと、まだ終わっていないと言う。
肉を切り裂き、息の根を止め、屍を踏み締め成り上がれ———
———楽しみはまだ、残っている!!
「甘いもんは基本何でも好きだな……で、買ってくれるよな? 一円ぐらいなら渡すからさぁ、いいだろ?」
「それじゃぁまたな、次は地獄で遊んでくれや」
「歴史とか、命の尊さとかは興味ねぇよ。でもこの宝石は好き。名前は……アンバーだっけ?」
「でけぇ苺がひとつ。ちいせぇ苺がみっつ。……あー、でもいちごミルクひとつ買っちまうのもいいか。……ケチってるわけじゃねえ、冷静に考えて行動すんのは大事だろ。で、どうすればいいと思う??」
「はははぁ!! ざまぁねえ!! 馬鹿で阿呆で劣等なのはどっちだって話よ、なぁ? 楽に死ねたらいいな、さぁてこの俺、迅矢様はどう殺るのか、精々想像して逃げ惑ってみな? 見ててやるよ、笑ってやるよ! ……もうその元気すらねぇの? はは、滑稽滑稽!」
基本は木刀。明らかな殺意を感じた時や、トドメをさす時には匕首を使うこともある。
また、迅矢は匕首のことを、俗称である『ドス』で通している。
彼は凶器を振り翳すこと、またその逆も厭わないようだ。