あいまい環境に対峙する
脳・生命体の情報獲得戦略の解明

お知らせ!

2023年3月3日に学術変革研究領域(B)「あいまい環境に対峙する脳・生命体の情報獲得戦略の解明」の第3回班会議(ワークショップ)を開催します。

本研究領域では、脳は予測のあいまいさを減らすことを目的とするという仮説を立て、「脳・生命体は、あいまいさが避けられない環境の予測をどのように最適化しているのか?」を明らかにすることを目的とします。現実の脳の機能をモデル化できるように既存の数理科学を発展させ、生理学、解剖学、薬理学、分子生物学、細胞生物学、行動心理学、情報学などを融合した神経科学研究を実施します。

オンサイトで、参加いただけます!以下でご登録ください。

◆ 3月3日 「あいまい脳」 班会議 ◆ 

日 時| 2023年 3月3日(金)13:00–17:40

会 場|  < オンサイト > 京都大学国際科学イノベーション棟シンポジウムホール

対象者| 大学や研究機関に所属する研究者、及び、学生

使用言語| 日本語

【プログラム】

13時 開会のあいさつ

13時05分-13時35分 本田 直樹(広島大学) 「心の揺らぎ・葛藤」を伴う意思決定の自由エネルギー原理

13時35分-14時05分 磯村 拓哉(理化学研究所) 自由エネルギー原理は普遍的な脳理論なのか?

14時05分-14時35分 吉田 正俊(北海道大学) 統合失調症における視覚サリエンスの変容

(休憩)

14時50分-15時20分 小坂田 文隆(名古屋大学) 視覚運動連関を担う神経回路と予測符号化

15時20分-15時50分 雨森 賢一(京都大学) 認知・辺縁系における予測符号化と不安のトップダウン制御

15時50分-16時20分 小川 正晃(京都大学) 不確実な報酬を能動的に求める神経基盤:予測誤差に対するドーパミンの新しい役割

(休憩)

16時35分-17時05分 小林 徹也(東京大学) リソース制約部分観測最適制御理論:生体情報処理の理解にむけた自由エネルギー原理とは違うルート

17時05分-17時35分 森下 喜弘(理化学研究所)器官発生過程における位置情報コーディングと座標系

17時40分 閉会のあいさつ

♦ 本研究計画の狙い

本研究領域は理論的アプローチと生命科学アプローチによる融合研究を通じて、脳機能を新たな視点で統一的に理解することを目指します。

生命は予測機能を持つことにより、外界の複雑さに対処してきました。しかし実際には、外界を正確に予測するのは困難で、常にあいまいさを伴います。生命は、常に予測の最適化を求められ、予測のあいまいさに様々な方法で対処しています。脳は、予測のあいまいさに気づくことで行動を切り替えたり、違和感を覚えることで知覚を更新したりします。本研究領域は、自らの予測のあいまいさに基づいた情報獲得戦略が立てられる脳を「あいまい脳」と名付け、その計算過程を理論と実験の融合研究によって明らかにします。現在、人工知能(AI)は急速に発達していますが、いまだに環境の変化に対して脆弱です。例えば、ヒトが立ち入れない災害ではレスキューロボットに大きな需要がありますが、災害環境は新奇で複雑であるため、そこで自律的に動くロボットの実現はいまだに難しい状況です。現実の環境や社会は、自律学習アルゴリズムの実現がいかに難しいかを我々に教えてくれます。予測のあいまいさに基づいて情報獲得の戦略を立てることができる「あいまい脳」に学ぶことができれば、変化する環境においても自律的に学習できる新たなAIの計算原理が導けると考えられます。

脳・生命体は常に予測のあいまいさを小さくする方向に動くと考える「自由エネルギー原理(Free Energy Principle, FEP)」がKarl Friston 博士によって提唱されています。FEP は、これまで定量的に扱うことが難しかった情報獲得の行動戦略を導く原理であり、神経システムの従来の理解を大きく変革するポテンシャルがあります。しかし、現在の FEP は、定常過程での最適化原理にとどまり、環境の変化に対応できません。脳は一般的には高い計算能力を持つとされますが、脳の計算資源には限りがあります。既存のFEPは、AIのような無限の計算量を仮定しており、生物の限られた計算量で成立する理論とは異なります。脳が完全な合理性を達成することは原理的に困難であり、このことを「限定合理性」と呼びます。現実の複雑な環境に対処する脳・生命体の理解のためには、非定常な動的環境でも学習でき、限定合理性に対応した新しい計算原理(新 FEP 理論)を確立し、その新理論に基づいて「あいまい脳」の神経基盤を明らかにする必要があります。FEPの進展から、階層型ネットワークの予測改善を行う「予測符号化」や、能動的な情報獲得の誘因を説明する「能動的推論」といった様々な数理的枠組みが派生しています。つまり、あいまいさを減らすには、「自らの認識を変える(予測符号化)」か、「外界に働きかける(能動的推論)」かの2つの戦略があると考えられます。さらに、計算神経科学の創始者である David Marr博士 は、情報システムを真に理解するには、計算原理、アルゴリズム、実装という3つのレベルでの理解が必要と述べました。しかし、現在のところ、FEPは計算原理とアルゴリズムの研究で留まり、その神経実装は分かっていません。本研究領域では、FEPの拡張を通して、「あいまい脳」の情報表現をよりよく説明できる新たな原理(新FEP理論)を提案し、実験による実証を通して、その神経実装を明らかにします。

本研究領域では、脳は予測のあいまいさを減らすことを目的とするという仮説を立て、「脳・生命体は、あいまいさが避けられない環境の予測をどのように最適化しているのか?」を明らかにすることを目的とします。現実の脳の機能をモデル化できるように既存の数理科学を発展させ、生理学、解剖学、薬理学、分子生物学、細胞生物学、ウイルス学、光学、行動心理学、情報学などを融合した神経科学研究を実施します。