ここにあるのは色々な事情で伏せたり差し替えたりする前の生のPC関連の文章です。
めったらに長いので畳んであります。
バックストーリー:深きアガペー
二個一 蓮(にこいち はすみ)はホーリーパラディン/アーケインクレリックである。
蓮は20年ほどこの家から出ていない。今年で36になる。
16年前から家に籠もりっきりですべてをこなしてきた。
理由はいくつもある。まず体を壊し最初の5年は静養していた。
5年ほどして友人の伝手で事業を開始。しかし体が弱いうちにできることは多くなく、家人に迷惑をよくかけた。
ネットワーク上で完結する事業だ。いずれ家人が鬼籍に入る頃には個人で人を雇い身の回りのことをさせる程度には至った。
病状が回復したのも3年前。ようやく蓮も外に出れるようになったが、内の中ですべてが完結してしまうのであまり興味がわかなかった。
簡単に言えば彼女の今までの人生はこうだ。
そして仔細に語ると話は変わるだろう。
彼女の体は紫外線や赤外線を極端に嫌う。
それらの熱を吸収し爛れるほどに肌が焼けてしまうからだ。
体にケロイドが頻繁にでき始めた頃、16の彼女は泣きながら外に出ることを拒否し、PCの中の世界に逃げ込んだ。
そこでMoonlight Evolutionというネットゲームに出会ったのだ。
その世界では彼女は野山を不自由なく歩き、太陽も怖くなかった。
満足するたびに少し外を見る。外への憧憬は強いものの、高熱を孕む程にその気はすぐに失せていく。
4年もしたら人間と関わることも多くなる。親しい人も増えよう。
ある人、高木菫子。HNを‡最強コモドドゴラゴン‡という女性と頻繁に会話するようになった。
彼女は一日中ゲームに居る彼女をとても気にかけている令嬢である。
父に彼女は相談した。ニコイチさんのことを調べてほしいと。
紆余曲折の末、彼女が奇病であること。
そしてその影響で5年は家に居ること。
未来のことで不安を抱いていることなどを知る。
だが父は言う。「その娘に与えることはできるだろう。だがしてはいけない。己の頭と腕で立てるようにするのが真の優しさで愛であると」
菫子は蓮になにも与えなかった。ただ先生を取り、先生から教わったことを教えた。
コーディング、サーバーエンジニアリング、法律、事業、医療。様々なものを教えながら一年経った頃。
「事業をしませんか?」と最初の予定通り提案をする。
蓮は己は信じていなかったが、菫子のことと、彼女の実力を信頼しきっていた。だから立ち上げた。
5年後に出来たのがWebライティングサービス「NTMK.Net」である。
当初は蓮に商才が芽生えることはなく、トントンまたは赤字が続く。
蓮は希望を持っていたが、成功するかどうかに関しては半信半疑であった。彼女は己を信じない。
菫子は父に言う。「手伝うことはまかりませんか」と
父は一切の許可をしなかった。「人脈を掴むのも、交渉するのも彼女がするのだ」と。
だが不思議とその日から顧客は増えた。仕事も増えた。
なにかした?という蓮の言葉に菫子は何も言えなかった。だが上の言葉を確実に反芻している。
Moonlight Evolutionで冒険、NTMK.Netで事業、ソレ以外でも二人の交流は深くなる。
蓮が外に出ることは能わず、そして対面で遊ぶことができないのも菫子には不満であった。
ホーリーパラディンのニコイチに向かって菫子は尋ねる。
「病気を治す機関を立ち上げませんか?」と。
蓮は医療を信じていなかったが、菫子のことと、彼女の人格を信頼しきっていた。だから立ち上げた。
二人の私財を投じ、私的な研究機関「ほおづき会」を立ち上げる。
蓮はそこの検体兼主催者で、何度も何度も検査を行う。
嫌だった。嫌だったが菫子の言葉。「外に出て、一緒にラーメンを食べたいんです」のためだけに頑張ったと言えよう。
Moonlight Evolutionで冒険、NTMK.Netで事業、ほおづき会で検体。
外に出ること自体が運動をほぼできない彼女には難しすぎた。
家を改築し、非常に大きい一軒家にし、中に様々な施設を作る。
蓮は迷っていた。この広さを一人で管理できないし、父も母ももう老いている。
誰かを雇うことを考えてる。菫子にそう語る。
喉から「私が行きましょうか」と口にでかけた。が、父の言葉を思い出す。
信頼できる家事代行を紹介した。菫子だからそうせざるを得なかった。
蓮はずっと菫子に感謝をしていた。
菫子が明瞭な好意を抱いていることはわかる。
故に蓮は一つだけ願っている。
「この呪印感染を無事に終えること」
「そして、願わくば彼女が私のために逃した幸せを」
蓮は菫子ほど賢くも、ものを知るわけでもない。与えることしかしらないし、恋など覚えたことがない。
16の頃から止まっていて、後先を考えることができない極端さは純粋の証。好意も愛も、彼女は良く知らない。
設定文:満ち足りたこの世が嫌いだ
高砂家に産まれた彼女には母親がいない。正確に言えば、産まれた直後に鬼籍に入った。
お父様こと高砂 弦十郎はさる元財閥の長である。今なおこの日本に影響力を広く持つ、大企業をいくつも束ねている。
高木 総子はその後妻であった。3番目と聴く。そしてその初娘で最後の娘が彼女だ。
名字を名乗ることは基本的に周りが許さず、しかしお父様は認知をした。そして一緒に住んで愛情を沢山もらって育つ。
しかし窮屈さを常に感じていた。こんなにも愛され、見守られ、成長も教育ももらった理想の親だが、弦十郎は大きすぎた。
この日本に生きて、どこかで生きる限り、弦十郎の指先から伸び続ける誰かが、必ずどこかにいて、それを感じずには居られない。
彼女は知っている。これが富というものである。
顔に切り傷がある。左頬に大きな切り傷。これは父が万能でないことの証。富が万能でないことの証だ。
何不自由なく育てられた。しかし望めば何でも与えられたわけではない。不足しないように、しかし己の力で勝ち取る大事さは伝えられていた。
危険なものは遠ざけられることが多かった。正確に言えば、危険になる直前で取り上げられることが多かった。
その私が外遊びをしている最中の不幸の事故だ。怪我も病気も当然したが、自身の行いの結果こうなることは初めてだった。そう、痛みに泣くよりも何よりも先に、少しだけ救いを感じた。このように偶然があるのだと。
菫子は長女である。2番目の子供で、菫子には6つ離れた妹がいる。
高砂 依 と名付けられた小さな妹。この文書の時点では26のはず。
依は18まで寝ていた。今なお歩くのが少し不便だ。世間も知らない。
学もなければ、生きる力もなく世界に怯える小柄な女だ。
ずっと見舞っていた。依はそれを覚えていると言う。ずっと来てくれたのはお姉ちゃんだけだと。
家の地下の部屋でふにゃりと笑った。外に出るのが怖くて、ネットゲームをしたりネットで授業をしたり、いろんな家庭教師から人生を取り戻してる最中だ。
この娘のことは愛おしいと思う。できれば生きてほしい。この娘もそう、顔の傷と同じだ。富ではどうにもならなかったものの一つ。
そして蓮と出会うきっかけをくれた人だ。
蓮はニコイチというHNだった。
依のためにはじめたネットゲーム。菫子にはより肌にあった。依よりは長くしていなかったが、それ相応に長く遊んだ。
ニコイチは妙な雰囲気のキャラだった。たくさん人と交わるのにあまり人と長く話さない。気になって、気になって一緒に遊んだ。
境遇を知り、人のために当然のように父のように、なんとかしたかった。だから相談した。
流れのうちで親友となり、恋慕となってしまう。
父に打ち明けた。驚きはしたものの「であれば、幸せになりなさい」と応援をした。
拒絶もせず理解をして、全て私の幸福を考えて、ああ、ああ。
どこまで行っても、この父(せかい)の、暖かさから逃げられない。怖い……
ニコイチは消えてしまった。
この手の呪印は彼女が残したこと。ならこの呪印が使えるなら、私を遠くに連れてってほしい。
ニコイチも同じ願いを願ったらしい。そして、多分、次は依の番だ。あの娘のためにも生きねばならん。
設定文:たかさごよりのながぐつ
高砂 依は6歳である。そして戸籍には26と書いてある。
揺蕩う。揺蕩う。
赤子の頃から外はたくさん見ていた。見ていたように思える。見ていたと思う。
ベッドから会話を聞いてヒアリングを覚えた。語彙が多いのはこのせいで、しかし発音は未だに苦手だ。
0から20まで病院にいて、資産家の親のおかげで生きながらえることができた。
22まで訓練をして、そして外に出た。まだ社会生活が難しく、父の家の地下室で過ごしていた。
姉がいる。名字が事情で違うが優しく優秀で頑丈な薫子お姉さんだ。顔に大きなキズがあり、それを私は完璧の傷と呼んでいる。
外は楽しくおいしく、そして気持ちいいが難しい。
地下室で家庭教師やネット越しに色々と学ぶ。ネットゲームというものにも出会った。
早めにネットゲームはやめてしまった。今私が興味があるのは家庭教師の小林 アンジェリカ先生だ。
彼女は色々と教えてくれて、そしてたまに外に遊びに行く。昔は悪い人だったらしい。
彼女も私に興味があるようだ。不思議な人だ。
小林先生はお母さんらしい。そして同じような病の娘さんがいて、私のことがとても気になると。
でもお金はないらしい。だからおんなじ治療は頑張らないとできないと。
おとうさんに相談した。ダメ、と断れられ、小林先生は来なくなった。
正確に言えば家庭教師としての先生ではこなくなった。住み込みのメイドになったそうだ。
先生は言っていた。貴方のお父さんは優しくて、そして恐ろしい人ね。
小林先生と過ごすうちに気づいたことがある。小林先生は別に興味など私にはなくて、娘さんの病を治すために頑張ってたんだと。
少し悲しかった。でも当然かな。
でももっと興味見てほしかった。ねぇ、小林先生。
そのこの病が治ったら、また元に戻るかな?
バックストーリー:おかえり
「朝!今日も穏やかでいいなぁ....」
豊島 朝葉は何不自由なく高校生活を過ごした学生である。
言動は穏やかで、成績は中の下、印象には残りづらく、平均より何もかも少し下で優れた人間ではない、が。
落ち着いてた性格で、日常を穏やかに過ごす才能に長けており、それらに人一倍楽しみを感じる人間だ。
笑顔を作るのがなぜか下手なな鉄面皮。
昔から体力が低く常時少し疲れてる。そして親しい友人へ時折執着を見せる時がある。
おかえり....おかえり。
おかえり!おかえり!おかえり!よく、帰ってきました!地球へ!
1987年、朝葉 忍は覚醒した。
側には同様に覚醒した人間が3人。
そして同年、4000光年先の惑星へと、5人で秘密裏に戦いに出た。
覚醒した彼女らを迎えたのは大規模な研究所で、そこにいる偉そうな人は言っていた。
「君たちは英雄として目覚めた。そして戦わなければいけない相手がいる」
そこで語られる話はウルトラマンとか、ガンダムとか、そういった物語のもののようだった。
皆の心が踊ってるのを見て、私も楽しくなってしまったのを覚えている。
超英雄、わたしたちに名付けられたのはそういう名前で、超能力を持つ英雄だから。そういう理由だった。
相手ははるかなる異星人。災禍に襲われる街を何度も救い、そして傷つき勇気づけられあい、世界を楽しんでいた。
そう、わたしたちは世界を楽しんでいたのだ。
最終決戦、相手の星へと乗り込み、エイリアンの母船を破壊する。その規模と高揚感と、そして終わるのかな、というひとしおの不安とそして安堵。色々なものを背負っていた。
最後のひととき、転移する前に皆で語った。
「帰ったらどうする?」尋ねた私に各位は答える。
「わたしは普通に学校に戻るかなぁ」「超英雄だからさ、道場でも開こうかなって」「このウイルスの研究者になりたい」「....君たちはもとから人間で羨ましいなぁ。僕はまたどこにいるよ」「朝葉は?」
「うーん.....私も普通の学生で、今度は本当に普通の学生生活がいいかな!」
母船での戦いは苛烈、そして何度も思い返した対話と、そしてわかり会えなかった悲しみと、勝利と、最初の別れがあった。
原生英雄と言われていた彼女が、私をかばって機能を失う。
最後に彼女が残した行動、喋ったこと、これらが長いエンディングの始まりだったのだ。
「.....僕が欠けたことで、帰還の条件が揃わなくなる」
「.....長い、長い時を歩け、オーヴァード。歩けば帰れる。時は、止まっている.....」
最後になにかに気づいて、申し訳無さそうな顔で彼は事切れ、そして目の前は暗転した。
投げ出された空間は歩けた。宇宙空間かな?塵が浮かんでいて何の感触もなく、景色は歩くとわずかのみ変わる。
動きがない。情報を調べ、そしてある結論に至った。
「ここは4000光年先の星の上、地球と星をつなぎ向かってきたあいつの奥義”廃路線トンネル”の中」
「時間は止まっている。故に生存や経過を意識する必要はない。けれどその時間の中を高速で進んでいくことはできない」
「徒歩にて帰還することができる。何かしらの工夫はできるかもしれないが、その場合は廃路線トンネルの外に出る必要がある」
「外に出て、帰ってこれる可能性より、歩いて帰れる可能性のほうが遥かに高い.....」
しん、と静まった後、晴也の計算が始まった。
4000光年を徒歩。時速4kmは年で35040km。計算をすると1079,9943,0000,0000年。
千七十九兆、九千九百四十三億年。
「人間であれば859万世代は入れ替わっている時間だ。孫の孫の、孫の孫の孫の、孫の孫の.....。ただそれに会う可能性はない」
「最後に問おう。進むか?それともあの、異星を侵略するか?」
私達には矜持があった。正しい人間と自負があり、そしてそれらの長さを甘く見ていた。全員がその時間を歩くことを決めたのだ。
100年間は楽しかった。
なにせ戦友で、友人で、思い出を共有して.....そういった人間たちなのだ。
たくさん話し、喧嘩をし、仲直りし、前に前に。
ただただ。少しずつ 少しずつ、皆が疲れているように見えた。
笑顔と元気、わたしたちの一番の武器は、時間が壊してしまうようだ。
最初に諦めたのは、長い時間を数えていた晴也だった。
おおよそ100年ほど歩いたところで、その道程の遥かなるを知り、そして尋ねる。
「なぁ、なぁ。100年歩いたんだ。気づいたか?」
いつも晴也は教えてくれる。だから歩けた。
「なぁ!なぁ!おれ、116歳なんだ。なぁ!16歳なのに、116歳なんだ。なぁ!」
彼の目には涙が見えた。
「あきらめて、いいか?」
まるで周りすべてに許しを請うように、晴也は廃路線トンネルから抜け、宇宙空間に漂っていった。
彼が残した指輪をそっと拾う。とりあえず私が持っておいた。
次に諦めた人が出たのは、1億年ほど経った頃。
ほど、というのは計算を行う晴也がいなくなったから、どれほどかわからないからだ。
康介がぽつりぽつりと語り始める。
「....あと、どれぐらいなんだろうな」
晴也のときとは違い、暗い顔を崩さずにボソボソと。
「....その昔、五億年ボタンっていうのを見たんだよ」
「....あのさ、正直、友達といるなら、行けると思って、甘く見ててさ」
「....なぁ。握手してくれないか?」
私と新屋は握手をした。
「うん....人間って、人間ってあったかいんだなぁ」
「ごめんよ。決して地球までとは言わない。満足行くまで、歩いておくれ」
彼の離した手のぬくもりは、私と新屋の中に残り続けた。彼は私達に顔を向け、握手の手を離した広げた手のままに、すぅっと消えていった。
一人になったのは三億年ほど経った頃。
ある雑談の、ある会話がきっかけ。
まだ会話はわずかにしていた。2000万年に一回ぐらい?事件がないから話すこともない。体調も変わらないから変わることもない。
新しい星が見えたらはしゃいだりもしたんだ。
そう、はしゃいだりしたんだ。
青くて、緑色の星が見えた。遠いけどあと100万年も歩けば届く距離。
新屋と私は喜んだ。ずうっとよろこんで、いつもより早く駆けた。
だが段々と廃路線トンネルがずれていることに気づいた。
気づいたが、言ってはいけないと思った。お互いに思っていた。通り過ぎてなかったことにすればよかった。
「ち、違うんだね....」と言った瞬間に新屋はこちらを向いて、ぎゅうっと私を抱いた。
「朝葉、朝葉。ごめんなさい。ごめんなさい」
「ずっと一緒に歩けたらと思ったんだけど、ずっと共に歩けたらと思ったんだけど」
「これがあと、何回も、何回もあるかも、しれない、んでしょう?」
「もう私の頭の中がぐっちゃぐちゃなのがわかるの。ねぇ、私、そういうのだから。どういう状態か、わかるから」
「朝葉、朝葉。私はもうだめ。でも、一つだけ、一つだけ細工、していい?」
「貴方の頭を、これに耐えられるようにはできるの。期待が大きくハズレた時に、コレが出るのを止めればいいの」
うなずいた。受け止めた。頭の中に彼女の細胞が入り込み、そして、彼女は廃路線トンネルの中にうずくまり、私に外に投げ出すように望んだ。
そこからはよくわからないが歩けた。がっかりすることがなくなったから。
たくさんのものはあったが感動はなく、千七十九兆、九千九百四十三億年を終えた。
久々に見た地球を見ても何も湧かず。人々は私達を迎えて、私は人々に興味がなかった。ただ、疲れていた。
その後、望まれたことを叶えてくれるらしい。私は一言「15歳に戻りたい」と答えた。
願いは叶えられた。
計画は英雄の種計画。私の細胞を他の人に埋め込むらしい。
そのために寸断するらしいけれど、まぁ。いいか。
体の中を彼らが調べた。調べたところ頭にソラリスの細胞が、手にサラマンダーの細胞が、指にノイマンの細胞が残っていたそうだ。
それらを一つ一つ取り除き寸断するらしい。すっとソラリスが抜き取られた時、一斉に気づいた。
.....ああ。おかえりなさい。私達。
次は学校へいこうね。次は何の道場を開く?研究者になるならお勉強、頑張らないとね。
涙を流した私にそっと術者が尋ねた。
「.....再度聞きます。本当に、貴方を寸断して、新たなオーヴァードの種子としていいのですか?」
もう言葉にはならないから、脳波で伝えた。
お願いします。それと、みんなを、みんなも、お願いします。
「.....たとえ、あなたがたの細胞が入ったとしても、あなたがたではないのですよ?」
構いません。みんな、帰りたかったはずだから、帰りたかっただけだったから。せめて人の形にして、あげて。
術者は悲しそうに目を伏せ、そして何回かうなずいた。
「.....私達が言えた義理ではなく、そしてこれからすることは明確な悪行です。私もそれに加担している自覚はある」
「.....そうなのですが、悪人にも仏心はあり、矜持もあり、そしてあなた方を尊敬しているからこそ徒にそれを行使することもある」
「おかえりなさい。よく、帰ってきました。地球へ。もう静かに、お眠りください。大英雄」
そっと二つの細胞核は寄せられた。
「せめて安定して、ソラリスたちも芽が出れば浮かばれるだろうか」
「朝!今日も穏やかでいいなぁ....」
豊島 朝葉は何不自由なく高校生活を過ごした学生である。
言動は穏やかで、成績は中の下、印象には残りづらく、平均より何もかも少し下で優れた人間ではない、が。
落ち着いてた性格で、日常を穏やかに過ごす才能に長けており、それらに人一倍楽しみを感じる人間だ。
笑顔を作るのがなぜか下手なな鉄面皮。
昔から体力が低く常時少し疲れてる。そして親しい友人へ時折執着を見せる時がある。
バックストーリー:アキノアスマ
祖は彼と
おもひそめしか
青き星
宇宙人である。
遊馬秋乃、もといアキノアスマは宇宙人である。
遠き星より、人間と祖を分かち、シュメールの名のもとに成長し、そして地球人を迎えに来たはずなのだが….
遊馬あき乃、もといアキノアスマは高級官僚である。
遠い星でぬくぬく育っていて、成人の前に仕事をすることになったお嬢様である。
故郷には許嫁もいる。ゆえに早く帰りたかった。
アスマ・アキノ。もといアキノアスマはお嬢様である。
気の回り、愛され、品があり、だれに対しても少しだけ自分を差し出して円滑にことを進める人間だ。そして気丈である。手土産がほしかった。
アキノアスマはSTEM系である。
自作のハイエンド型のテレポーテーション装置「思ひそめしか」を試したかった。
そう。盤石のはずであるが、試してしまった。早く帰りたく、そして手土産がほしく、そして好奇心が故に。
今、アキノアスマは困っている。
なんとか助けてくれないかな。せめて帰らせてほしい
黄金演説:台本
風が吹いた。「ふぅ」とライダーは息をつく。
スポットライト:14m
暗転した視界にスポットライトが張られた。暗闇の中で唯一人、注目を集めるようにライダーにだけ光が当てられる。
群衆は、いない。これから始まる事象に、生前のような群衆は要らない。
ライダーは口を開く。誰にも見られない身振り、手振りを駆使しながら、たった一人の観客に語り始めた。
BGM:29m
「我が主よ。イングランドの王を仕えさせている親愛なる我が主よ」
「私はか弱く脆い肉体の英霊です。そして今では王ですらなく、大きな力や逸話を持たない凡百の従者です」
「だが、私は確信を持って言える。貴方が聖杯を得るにふさわしいサーヴァントであり、今、この瞬間を持ってして、これからあなたに失望をさせないと」
「この聖杯戦争ではどこかに悪臣が潜んでいるようで。その力は強大にして、私たちの力を持ってしても倒せるかといえば、私はすぐに首を縦に振ることはできません」
「そう、私は凡百の従者であり、私だけでは到底力は及ばないためです」
「しかし私は王であった。イングランドの王である。できることは語りかけることのみ。で、あれば。我が神、我が王国、我が民、それらに協力を求めようと思います」
「故に私は縁を作り出しました。さぁ、皆さん。地図を見てください。戦略のために作られたこの市の地図を見てください」
「悲しいことにここはイングランドではない。私の他に我が王国の人間はおらず、ゆかりもえにしもここにはない」
「私が描いた地図は、ぐるりと内地を囲むように作られた運河。水場の真ん中に浮かぶ偉大なる島」
「おわかりか」
スポットライト:2;00
「これは、イングランドである!」
「これは巨大な召喚陣だ!戦場に描いた英国を縁に行う、大掛かりな魔術。」
「これにより我が王国の民を呼ぼう!この戦いを制することができる、我が王国の民を呼ぼう!」
「さぁ。召喚に答えよ。我は7つの海を支配した国の偉大なる女王。あるものはグロリアーナと呼び、あるものは善き女王のベスと呼ぶ」
「イングランド国王、クイーン・エリザベスである!」
魔法陣、2;32
「さぁ起動せよ英国召喚陣!さぁ現れよ我が未来の臣下よ。貴様の名は知っている。世界に轟き、恐れられた汝の名は、ドレッドノート!」
バシャーン、2:38
まばゆい光に包まれ、暗幕もスポットライトも無くなった頃に、女王の目の前に高く高く見上げるような、一つの巨大な戦艦が鎮座していた。
人の気配はない、が女王を歓迎するようにひとりでにはしごを降ろした。
ライダーはそれを見て満足気に笑う。
「さぁ、マスター。乗り込みましょう。ベスは決してこれから、貴方を失望させません」
手を伸ばしたライダーに合わせ、戦艦が急かすように汽笛を鳴らした。
バックストーリー:いつか果てる日のために
朝雛は真の名を朝夷という。戸籍上にもないうわべだけの本名だ。
本名を描く機会もなく、字面を見返す機会もなく、忘れてしまいそうな字面なのだが、朝雛はこれをずうっと忘れることはない。なんならずうっと背後にいるもののように感じている。
春原氏において朝雛は非常に大事に扱われていた。
何物も望めば与えられ、嫌がれば遠ざけられる。そういった人生に疑問を持ったのが3つのとき。
自我を得たときにはもう疑問を抱いていた。なぜ、なぜ?と。それに大人は答えることはなく、ただあやすように何物も与えられた。
兄妹を見ても親戚を見ても、自分ほどの厚遇は稀だ。5つにして親戚と交わりそう思う。
しかし他の子供もこぞって「朝雛ちゃんは仕方ないよ」と言う。理由は教えてくれなかった。
七五三を終えた7つのとき、父母より私は「人柱である」ということを告げられる。
春原の家より指定された資格のある娘。7つまで生きたらその後儀式の時に生贄となること。
それは明日かもしれないし、明後日かもしれない。10年後かもしれない。
父母は泣いていた。せめて何物でも与えようと。泣いているがその使命を否定はしなかった。
彼女の気持ちは一つに傾く。何物も与えられる彼女は、何かを自分で獲得したかった。
何事にも挑戦して度傷つく。与えられることを良しとしなかったのだ。
「お遊び」と揶揄されていたそれが身を結んだのは13の頃。彼女の文が賞金を得る。
その壇上で彼女は語った。
「5秒後にあなた達は死ぬとして、そのときに後悔しませんか?」
「私はしません。毎日前に進もうとした、その日々があるからすることはありません」
「一日一日を悔やまずに過ごしました。そしてこれからも過ごすでしょう」
「大事な役割と、いつか果てるその日のために」
意味ありげな壇上でのパフォーマンスは、拍手のもとに迎えられた。
差し替え前、真の姿演出原稿
かつて、私は「石」であった。
玩具の剣を捨て、手を胸元の石に添え、真銀は語り始めた。
昔、ある男と約束をした。
闘い、争い、奪い合う人々は幼い。永い命を持っている君は、それら幼いものたちを正しく見守っていてほしいと。
彼は続けた。では正しいとは何か。自ら立つことである。誰から奪うことでもなく、そして誰へも与えられることである、と。
人々はまだ自ら立つことのできない幼い存在。それは魔法使いもビブリオマニアも、コーデックスさえも。
だが彼との約束は見守ることだ。
審判をすることでも、導くことでもなく、奪うのみになってしまったものたちを、もう一度自らのみの価値で生きれるようにすることだ。
その「思想」に共にあろうとしたものたちの意思の塊こそが、私達「光り輝く姿ない騎士団(シャープレス・ナイトホッド)」
私達が「光」だ。もう一度貴様を生に揺り戻してやろう。
そういうと真銀の姿が光に包まれ、光のみで構成された姿なき騎士団が君たちの前に立ちはだかった。