Advent Calendar 2019 (10日目)

Internship @ Adobe Research in San Jose


Tsukasa Fukusato, The University of Tokyo

この記事は研究留学Advent Calendar 2019の10日目の記事です。僕は博士2年の2015年の7月から10月、博士3年の2016年の6月から9月、卒業した年の2017年の4月から7月末までAdobe Research(カルフォルニア州サンノゼ)Procedural Image Group (現Imagination Lab)にて研究インターンに従事していました。今回は1回目の訪問について。(業績もなければ英語スキルも非常に低い)一人の大学生が海外インターンになんで参加したのかの「経緯」や「生活」を簡単に紹介したいと思います。

Q: インターンの応募のきっかけ

A. 応募自体していません。Adobe Researchにはテクニカルアーティストの伊藤大地氏が日本人で唯一働いていて、その伊藤さんからヘッドハンティングしていただきました。僕の当時の実績は(1)国際学会ACM SIGGRAPHでのPosterとACM Motion in Game 2014 (現Motion, Interaction & Games)のFull Paper、(2) 未踏IT人材発掘・育成事業2014への参加しかありませんでした。どれが良かったのかは正直分かっていません。(恥ずかしながら)僕自身は英語もさほど出来なかったので、「ほんとに参加していいのかな?」と少々悩みもありました。しかし、その一方で、「そもそも失うプライドもないよな」「海外を見てみたい」という気持ちのほうが強かったので、比較的軽い気持ちで参加することを決めました。

Q: インターン前の準備について

A.当たり前ですが、飛行機予約と家探し、J1-VISAの手続きをしました。飛行機予約はAmerican Expressに電話して、口頭で予約することになります。しかし、予約で一番辛いのは、英語自体ではありません。「メールアドレス」を電話で伝えることです。(少なくても僕のような発音の悪い人の場合は)フォネティックコードで使いましょう。

生活費として、3か月で3000ドルが支給されます。しかし、物件自体は自分で探さないといけません。インターン生同士で事前にコンタクトを取ってルームシェアができる人や、徹底的に安い部屋を探せる人は全く困らないと思いますが、会社の近く + そこそこのランクの家に1人で住むことを考えると月額2000ドルはかるくします。余談ですが、会社の側にはバスに加えてLight Railという電車もあるので、少々遠くても良いなら簡単に見つかるかもしれません(交通費は500ドル分の支給があります)。

僕の場合、インターネットに加え、早稲田大学内の留学支援用の部署にも行って家を探しました。その結果、早稲田の稲門会経由で、サンノゼに住んでいる方(N.Shodaさん)と知り合い、そこにホームステイすることになりました(会社から20分程度)。値段はなんと500ドル。たまに植物の水まきや部屋の掃除をしてくれるならという条件でしたが、はっきり言って破格そのものでした。

VISA申請については、雇用日ギリギリにしかDS2019をはじめとする書類が来ないのは当たり前です。更に、ビザ発給システムはちょくちょく停止することがあるので、タイミングが悪いと雇用日までにVISAが受け取れないこともあります。僕の場合、システムが停止してしまい、3週間出発が遅れました(代わりに終了日が2週間延びています)。余談ですが、同時期にGENERATIONS from EXILE TRIBEのアメリカ公演の予定があったそうですが、同理由につき、彼らはコンサート自体が中止になりました(https://natalie.mu/music/news/150831)。可哀そうです。

Q: インターン初日はどうだったのか

A:午前中は事務的な手続きと、Linkdinのアカウントを作ることが最初の仕事でした。午後はProcedural Image Groupのメンバーとの顔合わせ(Radomír Měch氏など)や,プロジェクトの詳細を聞きました.参加するプロジェクトに寄りますが、僕の場合はかなり「製品向け」だったので、事前に話すことができなかったそうです.

また余談ですが、会社の受付の際、携帯を床(絨毯)に落としてしまい、画面をバキバキに割ってしまいました。単語を調べるときに常に携帯を使用していたので、しばらくの間(約一時間)起動しなかったときは冷や汗が出ました。

Q:仕事部屋はどんな感じなのか

A:一つの部屋を2~4名で利用します。パソコンは一人最低でも一つ(研究によっては二つ以上)とテーブル、椅子、引き出しが用意されます。但し気を付けてもらいたいのは、会社の中でも安全ではありません。詳細は省きますが、2年目のインターンの時、ランチタイム中にResearch Scientist 2名のパソコンと僕が会社で使用していたMac Bookの計3台が盗まれたことがあります。犯人は防犯カメラに写っていましたが逮捕には至っていません。あくまでも日本とは違うということは改めて理解しました。

Q:食事について

A:会社内のランチは全額(2017年からは上限7.5ドル)が補助されます。更に混雑を避けるために11:30~12:00までに来た人は1ドルの割引をしてくれます。それに加え、毎週金曜16:00以降にHappy Hourがあるので、その時は無料で食事ができます。但し、僕はミーティングや仕事を詰め込んでいたので、あまり食事には行きませんでした。また、オフィス定番のフルーツやお菓子(例:エナジーバー)、飲み物は取り放題なので、そもそも不満はありませんでしたが。

一方、上司であった伊藤さんや友人たちが、仕事しながらお菓子ばかり食べている僕のことを不憫に思ったからか、ピザやラーメンなどをちょくちょく奢ってくれました。

Q: 会社周りの治安等について

A: 治安はかなり良いほうです。San Joseは基本田舎なのでダウンタウンから離れてしまうと、自然も多い環境です。また会社の周りには徒歩10分以内の場所に(1) San José Social Security Administration Office (Social Security Number (SSN)の申請をする場所)、(2)VTA Downtown Customer Service Center (VTAのClipper Card [タッチ式のICカード]を購入できる場所)、(3)Bank of America (2017年からUnion Bankもできました)、(4) Japan Townがあるので生活も安定すると思います。

Q: インターン生はどんな人が多いか

A:予想通りですが中国やインドからの学生はかなり多いです。但し、日本の大学との連携やコネクションは一切ないので、日本人の参加は非常に少ないです(数年に1人来るかどうか程度)。2015年の時はUNCの博士課程(当時)のTetsuya Takahashi君と2人でした。

インターン募集内容は、近年は機械学習の研究プロジェクトが多くなりましたが、2015年はphotoshopのプラグイン開発に近い研究をする人も比較的いました。但し、所属する研究室のコネで来た学生もいたので、インターン開始前に「テーマも決まっている」「研究自体がかなり進んでいて、既に論文投稿している」ことも普通です。2週間に1度、グループの進捗報告ミーティングがあるのですが、一回目の時に投稿自慢してくるような学生もいるので、自分の隣が「自慢しがたり」な人だったら悲しい思いをします。

但し、誤解をしないでいただきたいのは、全員がACM SIGGRAPHやIEEE CVPR等のトップカンファレンス採択されている人ではありません。あくまでも三か月のインターンなので、プロジェクトをそこそこ完成させる能力(Full paper採択レベル)があるならインターン参加できる可能性は十分にあるかなと思います。

Q: どんな研究をやったのか

A: 主にイラストから3Dモデルを作成するためのインタフェースを開発しました。かなりプロダクト向けのものだったので、学会ではなく特許[1]Adobe MAX Japan 2016 [2] で発表しました。それに加え、過去のインターン生のプログラムが実行できなくなることが多々あります。そこで、それらの修正や、自分のプロジェクト成果に利用できないかについて検証することがあります。

Q: ホームステイはどうだったのか

A. ホームステイ先の方(N.Shodaさん)がいる時は、事前に作ってくれた食事を食べていました。休日には近所の子ども達と一緒にプールで遊ぶ、自転車に乗る練習やTVゲームも一緒にやっていました。流行りのYoutube用の撮影の手伝いもしています。また休日には、PIXAR(T.Tejimaさんの紹介)やGoogle(N.F.Wangさんの紹介)、Stanford等の見学だけでなく、Shodaさんからは知り合いの方とのワイナリーや食事会にも招待していただきました。また、サンフランシスコ付近の日本人コミュニティの集まりに参加したこともあります。そこでは日本学術振興会のサンフランシスコ支部のトップの方や、過去にDreamWorksのCG supervisorとして働いていた方(G.Nakataniさん)とも知り合いました。帰国後もクリスマスカードをもらったり、学振のinterview記事[3]の執筆する機会をいただきました。

Q: アメリカでの生活で、日本からの雑務をスキップできるのか

A: できません。僕の場合、日本の研究室内での論文投稿にあたり、自分の論文だけでなく、共著の論文の添削もしました(数については業績欄を見ていただけるとわかるかと)。仕事終わりに電車の中で、研究室のミーティングにSkype参加することになったり、学生の見学の際のおすすめのホテル場所を紹介したり。仕事以外の時間にやることはたくさんあります。

主著論文については、インターン中に二件、マルチメディア系の国際学会Multimedia Modeling (MMM) 2016 [4]とCG系の国際シンポジウムInternational Symposium on Mathematical Progress in Expressive Image Synthesis (MEIS) 2015 [5] に投稿し、採択されました。但し、上記にあるようにインターン期間がずれてしまったので、MEIS2015には参加できず、skypeによるオンライン発表を行いました。オンライン発表を許可していただいた北海道大学の土橋宜典先生と九州大学の落合啓之先生、本当にありがとうございました。

Q: 帰国後はどうだったのか

A: 携帯を修理に出した + 体重が多少増加しました。また、早稲田に戻ってきて、大きく変わったことが一つあります。実は、今回のホームステイでお世話になったShodaさんは、僕のインターンが終わる寸前に(いろいろな経緯があって)フランスから日本に転職しました。余談ですが、Shodaさんが転職して僅か二週間後にフランスでテロがありました。奇跡的に回避できたとのこと。

現在、日本でもたまに一緒に食事をしています。このきっかけを作ってくれた早稲田の事務員の方(M.Ikedaさん)とも家族ぐるみで食事しています。当時一緒に遊んだ子供たちも僕のために手紙や連絡をしてくれます。僕の場合、研究の世界に限らず、人との人のつながりが作れたことが本当に価値のあるものだったなと思っています(もし続きを書くことがあれば書きますが、2回目以降に出会った人達とも日本に来た時には一緒に食事をするような仲になりました)

Q: 結局何が言いたかったのか

A: 幸運にも、僕は人に恵まれたに過ぎないので、全く同じような方法で「簡単に海外企業でインターンできるよ」と言うつもりもありません。ただ、個人的には「海外に行く = すばらしい」ことではないと断言します。あくまでも海外は手段であり、目的ではありません。「海外に行きたい」と思った根本的に理由や、「将来的にどうしたいのか」といった自分自身を見つめ直す機会と考えるといいのかな?と思います。

Reference