世界一分かり易い

アダムズ方式・ドント方式

の説明


2022年10月24日

東京工業大学 工学院 経営工学系 松井知己


議席配分の際に使われるアダムズ方式・ドント方式って、世の中に出回っている説明が分かりにくい!

しかも「計算方法なんて理解する必要はなく、キーワードだけでダイジョブ!」なんて言ってるHPもある。

曰く「小数点以下を切り上げる→アダムズ方式」「自然数で割る+大きい順→ドント方式」って暗記しよう!だそうな….いや、間違ってないけど….

どっちも簡単な方法なのに、どうして分かり難い説明するかなぁ....

図と例を用いて分り易く説明しましょう。やりたい事は簡単です。


A,B,C,Dの4党があり、選挙での得票数が(13票, 11票,7票, 3票)だったとします。

この4つの党に総議席数6を割り当てるとしたら、どの党に何議席割り当てるのが良いでしょう。

割り当てる議席数の比率は、できるだけ13:11:7:3に近くしたいというのがポイントです。


注:都道府県への議席配分なら、党→県、得票数→人口、と読み替えて下さいね。


アダムズ方式

アダムズ方式は、次のように説明することができます。

まず長さ1の棒を、各党毎に用意する。

A党は13票を得たので、長さ1の棒を等間隔に13個に分けて刻み目をつける

B党は11票を得たので、長さ1の棒を等間隔に11個に分けて刻み目をつける

C党は7票を得たので、長さ1の棒を等間隔に7個に分けて刻み目をつける

D党は3票を得たので、長さ1の棒を等間隔に3個に分けて刻み目をつける

4本の棒を平行に並べて、『左端を含めて』左から6個目まで(総議席数が6)の刻み目を見て、それぞれの対応する党の議席とする。

具体的には以下のようになります。

各党の獲得議席は、以下のように求められます。

まず各棒の左端に対応してA, B, C, Dそれぞれに1議席与えます。すなわちA、B、C、D党の議席数を(1,1,1,1)とします。ここから、以下のように議席を増やします。

5の刻み目は、Aの1/13(≒0.0769)の刻み目である →Aの議席を追加

6の刻み目は、Bの1/11(≒0.0909)の刻み目である →Bの議席を追加

これで6議席なので、A、B、C、D党はそれぞれ、(2,2,1,1)議席を得る。


もし議席数が7以上ならば、以下の順番で追加する

7の刻み目は、Cの1/7(≒0.1429)の刻み目である →Cの議席を追加

8の刻み目は、Aの2/13(≒0.1538)の刻み目である →Aの議席を追加

9の刻み目は、Bの2/11(≒0.1818)の刻み目である →Bの議席を追加

10の刻み目は、Aの3/13(≒0.2308)の刻み目である →Aの議席を追加

議席数が10ならば、A、B、C、D党の議席数はそれぞれ(4,3,2,1)となります。


とても簡単な方法ですね!

それぞれの棒の刻み目の間隔が、得票数の逆数です。

各党の獲得議席数の比が、得票数の比に近くなりそうな気がします。



ドント方式

日本の比例代表制において用いられているのはドント方式と呼ばれるものです。

ビクトル ドントによって考案されました(ジェファーソン方式ともいう)。

ドント方式は、アダムズ方式とよく似ていて、次のように説明することができます。


まず長さ1の棒を、各党毎に用意する。

A党は13票を得たので、長さ1の棒を等間隔に13個に分けて刻み目をつける

B党は11票を得たので、長さ1の棒を等間隔に11個に分けて刻み目をつける

C党は7票を得たので、長さ1の棒を等間隔に7個に分けて刻み目をつける

D党は3票を得たので、長さ1の棒を等間隔に3個に分けて刻み目をつける

(ここまでアダムズ方式と同じ)


4本の棒を平行に並べて、左から6個目まで(総議席数が6)の刻み目を見て、それぞれの対応する党の議席とする。

(アダムズ方式との違いは、棒の左端を数えないことだけ)


具体的には以下のようになります。

各党の獲得議席は、以下のように求められます。


まずA, B, C, Dの議席数をすべて0にします。すなわちA、B、C、D党の議席数を(0,0,0,0)とします。(アダムズ方式では最初は(1, 1, 1, 1)でしたね。)


次に、以下のように議席を増やしていきます。

1番目の刻み目は、Aの1/13(≒0.0769)の刻み目である →Aの議席を追加

2番目の刻み目は、Bの1/11(≒0.0909)の刻み目である →Bの議席を追加

3番目の刻み目は、Cの1/7(≒0.1429)の刻み目である →Cの議席を追加

4番目の刻み目は、Aの2/13(≒0.1538)の刻み目である →Aの議席を追加

5番目の刻み目は、Bの2/11(≒0.1818)の刻み目である →Bの議席を追加

6番目の刻み目は、Aの3/13(≒0.2308)の刻み目である →Aの議席を追加

以上よりA、B、C、D党はそれぞれ、(3,2,1,0)議席を得る。


もし総議席数が7ならば、7番目の刻み目は、Bの3/11(≒0.2727)より、B党がさらに1議席もらえる。


とても簡単な方法ですね!

上の説明から分かるように、

 「アダムズ方式=全員に1議席ずつ配る+残った議席をドント方式で配分」

です。どうせなら、これを暗記しましょう!!


アダムズ方式の従来の説明とだいぶ違うのですが、ホントにこれで正しいのですか?

ちなみに、多くの場合アダムズ方式は以下のように説明されます。

各党の得票数を一定の数値で割った商の小数点以下を切り上げた数が、党ごとの議席数になります。得票数を割るのに使う数値は、各党の議席数の合計が、総議席数に一致するよう調整します。

分かり辛いよね、これ!? 一読で分かる人、いるのか?

例えば総議席数が10だったとき、議席数は(4,3,2,1)となることを、従来の方法で説明しましょう。

下図で、『左端を含めて』左から10個目の刻み目と、11個目の刻み目の間に縦を引きました。左端から縦線までの距離をMと書きます。(棒の長さが1ですから、M≅0.25くらい)

A党の棒の刻み目位置から、3/13<M<4/13、すなわち 3<13/(1/M)<4が成り立っています。

B党の棒の刻み目位置から、2/11<M<3/11、すなわち 2<11/(1/M)<3が成り立っています。

C党の棒の刻み目位置から、1/7<M<2/7、すなわち 1<7/(1/M)<2が成り立っています。

B党の棒の刻み目位置から、0/3<M<1/3、すなわち 0<3/(1/M)<1が成り立っています。


これでOKですね!アダムズ方式で割る数を(1/M)=(1/0.25)=4にすれば、

A党:13/4=3.25の切り上げで4議席

B党:11/4=2.75の切り上げで3議席

C党:7/4=1.75の切り上げで2議席

D党:3/4=0.75の切り上げで1議席

合計が総議席数の10になっていますから、これがアダムズ方式での議席数になっていますね。



ドント方式の従来の説明とだいぶ違うのですが、ホントにこれで正しいのですか?

ちなみに、多くの場合ドント方式は以下のように説明されます

「各政党の総得票数(候補者名の票数+政党名の票)を1、2、3、4、...の整数で除し、その商をすべて比較して、大きい順に議員定数に達するまで選び、選ばれた商の数をもってその政党の当選人の数とする方法。」

分からんって、この説明!!!!

H19参議院選挙特集(練馬区選挙管理委員会)のHPの例を以下につけてみます。

⇒●●党は、3つの商が選ばれている = 当選人数 3人 ということになる。

    ▲▲党は、2つの商が選ばれている = 当選人数 2人 ということになる。

    ××党は、1つの商が選ばれている = 当選人数 1人 ということになる。

上記の表では、各党の得票数を1、2、3、4、...の整数で割った値を書いて、大きい順に議席を割り当てています。


この表の数値をすべて逆数にして、小さい順に割り当てても同じことですね。

これは、各党について、1/得票数、2/得票数、3/得票数、...の値を書いて、小さい順に議席を割り当てていることになります。

これは、上記の説明で、刻み目の場所を左から見ているのと同じであることはすぐ分るでしょう。


(上記のHPの例を、棒を使って説明しようとすると、●●党は長さ1の棒を450万分の1、▲▲党は320万分の1、××党は200万分の1するので、相当拡大しないと絵に描けません。)


質問1:刻み目を数えていたら、棒の右端を出てしまったらどうしたらいいのですか?

回答:投票総数より総議席数が多いなんてことは通常は無いので、そんな心配は無用なのです。

どうしても必要ならば、同じ間隔で刻み目をつけた棒を更に右に足せば、手続きとしては問題ありません。


質問2:たまたま2つ以上の刻み目が同一の場所にあったらどうするのでしょう?

複数の刻み目の場所が一致している場所で総議席数が達成される場合は、どの党に議席を割り当てるか、問題が起きる可能性があります。

回答:法律ではそんな場合は「くじ引き」をして決めることになっているようです

(「公職選挙法」第95条3項2号:「二以上の商が同一の数値であるため・・・選挙会において、選挙長がくじで決める」)。


参考文献:「数学活用」 文部科学省検定済教科書 高等学校数学科用 (61/啓林館/数活/302)