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柿崎と影浦

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影浦　「それにザキさんにはだいぶ助けてもらってるしよ。」　柿崎　「あれ、そうだっけ？　いつ？」　影浦　「初めて話した日。あんたが俺をメシに連れ出してくれたときからずっと、俺に余計な干渉せずに接してくれたろ。あの頃はいつもサイドエフェクトのことでなんやかんや言われてたから、一緒にいて落ち着けたんだよ。」　柿崎　「ほんと？　ずっとそう思っててくれたのか？」　影浦　「ああ。」　柿崎　「そっかぁ。いや、気を悪くしないでほしいんだけど。」

柿崎　「初めてカゲから話を聞いたとき、俺、何も言わなかったんじゃなくて、何も言えなかったんだよ。『大変だな』ってひとこと言えればよかったのかもしんねーけど、言えなかった。カゲの抱えてる痛みをいくら想像してみたところで、それは俺の想像でしかないし。でも、わからないからって放っときたくなかった。だからメシに誘ったんだよ。おまえのこと知りたかったし、おまえから何か言ってきてくれるかもって思ったから。俺はおまえが思ってるような出来る人間じゃねえよ。迅や嵐山なら何かうまいこと言ってくれたかもしんねーけど…。」　影浦　「いや、」

影浦　「俺は、あのとき話しかけてくれたのがザキさんでよかったと思ってる。ありがとな。やっぱザキさんはザキさんだな。」　柿崎　「どーいう意味だそれ。」　二人は笑いあう。そして夜が更けていく。

それからしばらく経ったあとのボーダー本部にて。柿崎隊と影浦隊がすれ違う。　柿崎が影浦を呼ぶ。「このあと一緒にメシ食いに行こ。」　影浦　「おー。」

レストランで食事する二人。　影浦　「あ、そういえば昨日の柿崎隊のランク戦、見てたぜ。」　柿崎　「そうなのか？」　影浦　「ああ、ゾエが解説だったからな。」　柿崎　「あー。」　影浦　「今期もギリギリ上位残れてよかったな。」　柿崎　「ギリギリとか言うなー。」

柿崎　「まあ、照屋たちは今までよく頑張ってくれた。強くなったよ。次はあいつら自身が自分の部隊を持つことになるだろうな。」　影浦　「解散すんのか。」　柿崎　「ああ。ボーダーもかなり正隊員が増えたし、新しい部隊つくるのにそんな苦労しないだろ。」　影浦　「まあな。柿崎隊がなくなったらそのあとザキさんはどうすんだよ。」　柿崎　「んー。辞めるっていう選択肢もなくはないけど、迷ってるんだよな。」　影浦　「ボーダー隊員じゃなくなったら、どう生きてくつもりなんだ。」

柿崎　「まだわかんねーよそんなの。ボーダー隊員じゃない人生知らねぇもん。」　影浦　「だよな。」

店を出て公園を歩く二人。　柿崎　「なあ、カゲはさぁ、ボーダーに入ってなかったらどうなってたかって考えたりするのか？」　影浦　「いや、ねぇな。でもどんな生き方を選んだとしても、どうせ一緒だ。…ザキさん、俺はこのクソみてぇなサイドエフェクトに、一瞬だって慣れたことはねぇ。」

影浦　「ガキんときからずっと、なんでこんな思いしなきゃなんねぇんだって混乱してた。他人の感情が自分の中に入り込んでくるのが気持ち悪かった。誰にもわかってもらえなくてしんどかった。怖くてどうしようもなかった。でも、そういうゴチャゴチャした感情をどう表に出していいかわかんねぇから、全部怒りに変えて発散した。そうやってごまかして、めんどくせえ感情は頭の隅に押し込めた。『しんどい』とか『怖い』とか、そういう言葉は弱いやつが吐くもんだろって、俺はひたすら自分の弱さを押し殺して、怒りだけが俺を駆り立ててた。」

影浦　「俺は、周りの人間を苦しめながら、自分自身も苦しめてきたクソ野郎だ。やっとそれに気づけたよ。遅すぎたけどな。俺はどうやってもヘタクソな生き方しかできねぇ。ただただ人生を無駄にするだけだ。」　柿崎　「遅すぎたとは思わねぇよ。」

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