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柿崎と影浦

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柿崎　「今日はもう閉めるんだな。」　影浦　「…おう。さすがに今日のあれじゃあ誰も出歩かねぇし。待ってても客来ねーよ。」　柿崎　「そっか。」　影浦　「食べてく気だったか？」　柿崎　「いや、たまたま通りかかっただけなんだ。」　影浦は柿崎の憔悴して顔を見つめる。店の扉が開いて影浦の父親が出てくる。　「二人とも！　片付けが終わったらはやく中に入りなさい！」　影浦　「うるせー。」　父親が柿崎に気づく。「君はボーダーの子だろう。よくうちに食べに来てくれてるね？」　柿崎　「はあ…。」

父親　「ちょっと待ってなさい！　いま温かい飲み物持ってくるから！」　柿崎　「えっ。そんな、大丈夫です。」　父親は飲み物を渡しながら言う。「いいんだ、受け取ってくれ。今日の侵攻も君たちが身体を張って止めてくれたんだろう。お礼くらいさせてくれ。わたしら大人は見守ることしかできなくて情けないよ。つらいことばかりさせてすまないね。」

父親が影浦に怒る。「友人をこんな寒いなか突っ立たせておくやつがあるか！　まったく気が利かん。」　柿崎はそっと立ち去ろうとするが、影浦が手をつかんで引き留める。　「ザキさん。」

影浦　「行くな。」　二人は店の中に移動する。

影浦が兄に向って言う。　「おい、店の照明と暖房はそのままでいい。あとで俺が消しとく。」　兄　「電気代はおまえ持ちな。鍵の確認も忘れんなよ。」　影浦　「好きなとこ座ってろよ。」　柿崎　「ありがと。」　荷物を下ろし、椅子に座る。　影浦　「ザキさん疲れてねぇか。ほんとに何も食わなくていいのか。」　柿崎　「いいよ、大丈夫。」

影浦　「今日のことはだいたい聞いてる。C級とか本部で働いてた人らがだいぶやられたんだろ。」　柿崎　「うん。」　影浦　「ザキさんとこは。」　柿崎　「俺の隊は大丈夫だったよ。」　影浦　「そうか、よかったな。」

柿崎　「ほんとによかったのかな。あいつらはあまり顔に出さなかったけど、かなり参ってたんじゃねぇかな。」　柿崎が頭を抱える。　「こんなの、もう耐えらんねぇよ。」

柿崎　「宇井も照屋も虎太郎も、みんな俺を慕ってついてきてくれてる。でも俺はあいつらを守ってやることすらできなかった。もうこれ以上傷ついてほしくないのに。強くならねぇと…。あいつらにふさわしい隊長になれるように。今の俺じゃ全然ダメなんだ…。」　影浦　「ザキさん、言っとくけどな。何からも傷つけられずに、何も傷つけずに生きるなんて無理だ。ボーダー隊員ならなおさらな。たぶんあんたのとこのガキどもはそれを自覚してるぜ。」

影浦　「大事なのは傷つかねーことより、傷ついたあとにその傷をどうするかだろ。ガキどもがあんたを慕ってる理由は戦闘でつえーからとか、頭が良いからじゃねぇ。あんたが傷を放っておく奴じゃねぇからだ。傷ついた人間を絶対に見放さないからだよ。無理に変わろうなんて思うな。ザキさんはザキさんのままでいい。」

影浦　「どうしても強くなりたいんなら、まあ、隊そのものの力の底上げを考えるんだな。あんたンとこの隊員ならできるだろ。」　柿崎　「ありがとな。そんな風に言ってくれるのおまえだけだよ。」　影浦　「べつに。あのくらいの歳で戦闘員やってるガキにとっては、誰かに大事にされてるっつー感覚がけっこう貴重なんじゃねえかと思っただけだ。」

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