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LABEL: BLOG
DATE: 01/27, 2026
BLOG POST
TITLE:
OPPENHEIMER
RELEASE-DATE:
07/21, 2023
DIRECTOR:
Christopher Nolan
COUNTRY:
United States, United Kingdom
STORY REVIEW
CAUTION: SPOILERS!
鑑賞後に最も強く残ったのは、「クリストファー・ノーラン監督らしい作品」、という印象だった。
どこに映画監督の「らしさ」を見出すかは人によるため、まずは以下、私の解釈におけるノーラン像を明示してから本作のレビューに入りたい。
〈 Inception 〉(2010) でノーラン監督の作品に初めて触れた私には、同監督作品のなかで疑問に感じている作品がひとつだけある。
その作品というのは、〈 Dunkirk 〉(2017) である。
同作は〈 OPPENHEIMER 〉と同じく、史実を基に作られている。
「ダンケルクの戦い」として知られる、第二次世界大戦下のフランス・ダンケルクで起きたある出来事の一部始終を描いた、戦争映画だ。
この映画を鑑賞した際、私が疑問に感じたのは、「クリストファー・ノーラン監督がわざわざ撮るべき映画なのか?」ということだった。
それは決して、〈 Dunkirk 〉の出来が良くなかったということではない。
むしろ、戦争映画としては非常に正統派で、完成度も高かった。本作なら、戦争映画をあまり観ない人にも勧められるだろう。
しかしながら、〈 Inception 〉のように優れたフィクションを撮ることのできる監督が、わざわざ史実を基にして、ごくありふれた戦争映画を作ったことの意義がわからなかったのだ。
私はこの疑問に対して、クリストファー・ノーラン監督の史実を基にした作品は、おそらく自分の「らしさ」を極限まで殺し、「史実」を映像化することを目指しているのだろう、という推測をたてていた。
リアリティにこだわり、CG を殆ど使わないことで有名なノーラン監督の思想において、史実を基にした映画で「らしさ」を出すのは美学に反するのだろう。
それ故に、〈 OPPENHEIMER 〉にもおそらく同様の美学が適用されているだろうというのが、鑑賞前の予想だった。
しかしその予想は、よい意味で裏切られたように思う。
〈 Dunkirk 〉で感じたような、監督らしさの不可視性があるわけではなく、それでいて史実への不誠実さも感じない、「ノーラン監督作の歴史映画」の着地点を見つけた、とでも言うべき塩梅になっていた。
登場人物に付与されたキャラクター性や、人物間の関係性 (特に信頼関係) においては、同監督の「面白い嘘をつく」能力の高さが遺憾なく発揮されている。
一方で、矢継ぎ早に進む展開や、登場人物の感情の揺れ動き・人間模様などをごちゃ混ぜにして描くところには、物語とメッセージ性をあえて明瞭にしない、史実への誠実さがある。
ノーラン監督のフィクションが好きな人も、彼の美学に賛同する人も、両方が楽しめる「伝記映画」。それが本作の総評として、最も相応しいのではないだろうか。
また、これもあくまで個人の見方だが、これを歴史・戦争への啓蒙の映画とするのはかなり的外れのように思えた。
本作は、「ロバート・オッペンハイマー」という時代に翻弄されたひとりの天才の伝記として作られたものであり、そこに役割を終始する作品である。
無論ノーラン監督には、この人物を映画にすると決めた時点で、「長崎・広島で起きたこと」への、何らかの考えがあったことは間違いないだろう。それを「描かない」選択をしていることも、彼にとってその「考え」が、この作品の制作にあたって重要であったことの証左となっている。
しかしながら、それは映画自体にとってのキーポイントではなかったように思う。鑑賞者が日本人だと、被爆国としての歴史をもつ日本人的な観点として、啓蒙の意図を期待する心理にも一定の理解を示すことはできるが、本作にそれを見出してしまうとしたら、一度落ち着いた方がいいだろう。
あくまで、「一時代を築き、時代に左右されたある天才の伝記映画」として鑑賞されることを期待し、そのように見るのが相応しい作品のように思えた。
余談だが、アインシュタインはまるで写真から出てきたようにそっくりだった。伝説的な天才が、池に小石を投げている暇そうなおじいちゃんとしてそこにいるのも言い表しがたいほど素敵だったので、是非そこだけでも見てほしい。