ら・べるびぃ予防医学ゼミナール
ミネラル講座
有害金属編
第4回配信
有害金属編
第4回配信
ニッケルは、安価で加工がしやすいため、さまざまな用途で広く使用されています。
代表的な用途としては、ステンレス鋼、特殊鋼、メッキ、ニッケル-水素電池の電極などがあります。身近なものとしては50円、100円、500円硬貨にニッケルを含む合金が使われています。また食品分野では、マーガリン、ショートニング、チョコレートなどの原料となる食品加工油脂の製造過程で、ニッケル触媒が使用されています。
一方、ニッケルによる健康への影響として、接触すると皮膚炎を生じるニッケルアレルギーがあります。
植物にとってニッケルは酵素の働きに関与する必須なミネラルとされていますが、人間にとって必須栄養素であるという確固たる科学的証拠(エビデンス)は現時点では確認されていません。
Lesson14 ニッケル:目次
§1 ニッケルの毒性
●アレルギー性接触皮膚炎(金属アレルギー) ●呼吸器系への影響
§2 ニッケルの汚染源となり得るもの
●ニッケルのおもな曝露源
§3 ニッケルの過剰蓄積によるリスク
●ニッケルの耐容一日摂取量(TDI) ●日常生活でのリスク
§4 ニッケルの解毒・排出を促進する栄養素
Lesson14 ニッケルのまとめ
§1 ニッケルの毒性
経口摂取されたニッケルは、ほとんど吸収されず、主に糞便として排泄されます。吸収されたごく一部のニッケルは特定の臓器に蓄積することなく、ほぼ尿中に排泄されます。
ニッケルの健康影響は、職業的な粉じんの曝露による呼吸器系への影響や皮膚過敏性についての報告はありますが、これ以外についてはほとんどありません。
一般的に最もよく見られるニッケルの健康影響は、アレルギー性接触皮膚炎、いわゆる金属アレルギーです。
アレルギー性接触皮膚炎(金属アレルギー)
金属アレルギーでは、ネックレスやピアスなどの金属製アクセサリーや歯科金属が、皮膚や粘膜に接触したことで炎症を引き起こし接触皮膚炎が生じます。
ニッケルは金属の中でも最も金属アレルギーの原因となりやすいといわれています。その理由として、ニッケルが酸に弱く、汗に含まれている塩素イオンによって溶けやすいこと、またニッケルが多くの製品に使用されることが多いことが挙げられます。
金属アレルギーは以下のようなプロセスで発症します。
①金属がイオン化し皮膚に浸透しタンパク質と結合(抗原)
②免疫細胞が抗原を取り込む
③T細胞に情報が伝達され抗原を異物として記憶(感作)
④再び金属に触れるとT細胞が活性化され、アレルギー反応が生じる。
また、ニッケルは、イオン化したニッケルイオンがタンパク質と結合せずに免疫細胞に直接結合するという報告もあります。
呼吸器系への影響
職業的な吸入曝露によって、鼻炎や気管への刺激のほか、湿疹、接触皮膚炎などが報告されています。
また、特殊な環境下で作業するニッケル製錬作業者では、発がん(肺と鼻腔のがん)のリスクが報告されています。
しかし、動物による吸入曝露実験では、発がんの可能性を示すものと否定的なものがあり、確証は得られていません。
§2 ニッケルの汚染源となり得るもの
ニッケルのおもな曝露源
日常生活の中でニッケルを摂取する可能性のあるものとしては、主に、食品や飲料水と考えられます。
飲料水
飲料水におけるニッケルの耐容一日摂取量(TDI)
体重1kgあたり4μg/日
仮に、水質管理目標値の0.02mg/Lを体重50kgのヒトが1日2Lの水を飲んだ場合、以下のように計算されます。
体重50kgの場合、飲水による摂取量:0.02mg/L×2L÷体重50kg=体重1kgあたり0.8μg/日
この値は飲水による耐用上限量の20%程度です。
ら・べるびぃ予防医学研究所の調べでは、水道水のニッケルの平均濃度は0.51×10⁻³mg/Lであるため、日常生活では、飲水によるニッケルの摂取量はさらに低くなると予想されます。
食品
1988年に報告された日本人を対象とした食品群についての調査では、ニッケルの1日平均摂取量は、
男性が280±92μg/日、女性では190±38μg/日
と推定されています。
これは、体重を50kgと仮定すると、欧州食品安全機関(EFSA)が設定したニッケルの耐容一日摂取量の男性43%、女性29%に相当します。
また、摂取している食品の割合として、主食である米から約30%、米を除く植物性食品から約65%、動物性食品から約5%と報告しています。
食品からの摂取割合
ドイツ連邦リスク評価研究所の調査によると、以下の食品群にニッケルが多く含まれていると報告されています。
豆類、種実類、油糧種子(植物性食用油の原料:大豆・菜種・ひまわり・綿実など)、香辛料 → 約1.6mg/kg
嗜好飲料類(コーヒー・ココア・紅茶) → 約1.5mg/kg
また、これらの食品群の摂取によるニッケルの1日平均摂取量の割合は、
- 成人では約24%
- 子供では約28%
と推定されています。
§3 ニッケルの過剰蓄積によるリスク
ニッケルの耐容一日摂取量(TDI)
耐容一日摂取量(TDI)とは、環境汚染物質等の非意図的に混入する物質について、人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のことです。
欧州の耐容一日摂取量
ニッケルの耐容一日摂取量(TDI): 体重1kgあたり13μg /日(EU)
2020年に欧州食品安全機関(EFSA)は、ニッケルのTDIを設定維持としました。しかし、2024年に幼児や小児ではこのTDIを超える可能性があり、動物実験などから得られた神経毒性など、ほかの影響に対して懸念があるとしています。また、ニッケルに感受性の高いヒトの15%に湿疹性皮膚反応が起こりえるとし、健康懸念を提起しているため、今後、変更される可能性があります。
日本の耐容一日摂取量
ニッケルの耐容一日摂取量(TDI): 体重1kgあたり4μg /日(国内、飲水による)
2012年、食品安全員会はニッケルに高感受性の空腹状態の患者(ニッケル皮膚炎)を対象に飲水による影響調査を行い、ニッケルによる皮膚に影響が出ないと考えられるTDIを体重1kgあたり4μg /日と通知しています。
日常生活でのリスク
日常生活の中でニッケルが過剰となることはほとんどないと考えられます。
国立研究開発法人産業技術総合研究所は、大気の吸引による発がんリスクは、ほとんどの地域で懸念されるレベルではないとしています。
また、食事や飲料水からニッケルを経口摂取しても、特に問題はないと報告しています。
ただし、重度のニッケルアレルギーを持つ一部の人では、ニッケルを多く含む食品(ナッツ、チョコレート、豆類など)の摂取には注意が必要です。体内に吸収された微量のニッケルが要因となり、全身性接触皮膚炎を引き起こす可能性があります。
§4 ニッケルの解毒・排出を促進する栄養素
ニッケル自体の解毒や排出を促進する栄養素は確立されていませんが、有害金属の解毒に有効な栄養素や食品が間接的に役立つ可能性があります。
Lesson14 ニッケルのまとめ
●経口摂取されたニッケルはほとんど吸収されず、主に糞便により排泄され、吸収されたごく一部のニッケルもほとんどが尿中に排泄されます。
● 日常生活によるニッケルの健康影響は、アレルギー性接触皮膚炎、いわゆる金属アレルギーになります。
●重度のニッケルアレルギーを持っていると、ニッケルを多く含む食品(ナッツ、チョコレート、豆類など)の摂取により、全身性接触皮膚炎を引き起こす可能性があります。
● 日常生活の中でニッケルを摂取する可能性のあるものとしては、主に、食品や飲料水と考えられています。
● ニッケルは、豆類、種実類、油糧種子(植物性食用油の原料:大豆・菜種・ひまわり・綿実など)・香辛料、嗜好飲料類(コーヒー・ココア・紅茶)に多く含まれています。
「Lesson14 ニッケル」については以上です。
「次のテーマにすすむ」から「Lesson15 フッ素」に進んでください。
※この講座に記載されている各栄養素の摂取基準は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によります。
※一日に必要な栄養素の量は性別・年齢・身体活動量によって異なる場合があります。
この講座でお伝えする内容は、一般的な情報を提示しています。
個人の健康状態や既往歴、生活習慣によって影響が異なる場合があります。
個別の健康状態については、医学的アドバイスに基づいた対応が必要です。
自身の健康に関する具体的な問題や疑問については、医療専門家に相談することをお勧めします。
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参考文献
超微量元素の栄養. 日本食生活学会誌. 2003 年 13 巻 4 号 p. 226-231.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh1994/13/4/13_4_226/_article/-char/ja
清涼飲料水評価書 ニッケル 食品安全委員会 2012年7月
https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20030703127
金属と生体との不調和 金属アレルギー. まてりあ (Materia Japan) . 62(4).2023. p216. 公益社団法人日本金属学会
https://www.jim.or.jp/journal/m/pdf3/62/04/216.pdf
今後の有害大気汚染物質対策のあり方について(第七次答申) 平成15年7月31日 別添2-4ニッケル化合物に係る健康リスク評価について
https://www.env.go.jp/council/toshin/t07-h1503/mat_02-4.pdf
食品中のニッケル含有量と1日の摂取量. 日本栄養食糧学会誌.41(3).1988.p227-233.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnfs1983/41/3/41_3_227/_article/-char/ja
ニッケルについてBfR-MEAL・スタディに基づく食品経由の長期摂取の評価について. ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR). 2022年11月21日
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/print/syu05960130314
欧州連合(EU)、食品中のニッケルのモニタリングに関する欧州委員会勧告(EU) 2024/907を官報で公表. 2024年3月26日
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu06260040305
国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学部門 要約(ニッケル)
https://riss.aist.go.jp/wp-content/uploads/2021/07/nickelic_summary.pdf