日本プロ音楽録音賞は音楽文化と産業の発展の一翼を担う録音エンジニアが制作し応募した音楽録音作品について、エンジニアが有する音楽に対する感性、技術力等を評価することにより、授賞対象優秀作品および最優秀作品並びにベストパフォーマー賞を選定し、これに携わり制作を担ったエンジニアおよびベストパフォーマーのアーティストを顕彰することでエンジニアの技術の向上と次世代エンジニアの発掘を図ることを目的とし、表彰を行うものです。
第29回を迎えた「第29回 日本プロ音楽録音賞2023」は、応募いただきました全119作品の中から審査委員会の厳正なる審査を経て各顕彰区分の優秀作品およびベストパフォーマー賞を選定し、12月6日(水)に『音の日2023』イベントの一つとしてKANDA SQUARE HALLにて開催した授賞式において、受賞者の顕彰および各部門最優秀作品の発表をいたしました。
ここにその受賞作品およびエンジニアをご紹介いたします。
【審査日および本審査会場】
「Best Sound部門」
2023年10月28日、30日、11月2日
ソニー・ミュージックスタジオ 5st
「Super Master Sound部門」
2023年10月28日、30日、11月2日
ソニー・ミュージックスタジオ 5st
「アナログディスク部門」
2023年10月18日
ビクタースタジオ 202st
「Immersive部門」
2023年10月24日、27日
サウンド・シティ ” tutumu "
「放送部門」(2chステレオ、マルチchサラウンド)
2023年11月4日
NHK放送センター本館CD-808st
【 受賞作品&エンジニア紹介 】
※作品&エンジニア紹介画像をクリックするとプロフィール・受賞感想がご覧いただけます。(※授賞式後の受賞感想につきましては随時更新いたします。)
各顕彰区分部門の授賞式における審査員講評動画をアップしました。
Best Sound部門
クラシック、ジャズ、フュージョン
ミキシング&
マスタリング・エンジニア:
川崎 義博
フリーランス
《プロフィール》
大学卒業後、1992年 株式会社ポニーキャニオン入社。
録音録画部に所属して、レコーディング、マスタリング、フィールドレコーディング、PA、MA等、様々な現場を経験して現在に至る。「日本食のように、素材(プレーヤーの奏でる音)を生かした作品作り」を信条とする。
《受賞の感想》
この度、第29回日本プロ音楽録音賞で最優秀賞を受賞できたことに心から感謝しております。音楽制作において、レコーディングエンジニアとしての役割を果たし、その成果が最高評価されたことは非常に嬉しいですし、アーティストの青紀ひかりさん、アレンジャー、Sax奏者の鈴木央紹さんや制作チームの皆さんと一緒に作った作品が評価される事が何よりも光栄で、これからも更なる挑戦を続けていきたいと思います。
この作品は“ミスターベース” ロン・カーター率いるゴールデン・ストライカー・トリオとご一緒できた、とても光栄な作品でした。録音現場では、ロンさんの全てのテイクを無駄にしないように、音に拘りつつスピーディーなセッティングと、演奏者のモニター環境に気を使いました。録音当時85歳のロンさんが奏でるプレイは、全てのテイクにフレッシュなアイデアが取り入れられ、遊び心がふんだんに入った唯一無二の演奏で、採用されなかったテイクも全て聞くことができ幸せな時間でした。アルバム収録されている演奏はほぼ一発録音されたテイクが採用されており、そんな緊張感のあるバンド演奏と同録、ワンテイクで唄の録音も行われ、青紀ひかりさんの集中力にも脱帽しました。そんなアルバムのレコーディングは驚異的なスピードで進行し、あっという間のセッションだったと記憶しております。
ミックスでは、唯一無二の歌声をもつ青紀ひかりさんの声を中心にバンドが支えるライブセッションのような仕上がりを意識しました。また、RON CARTER氏のベースを始め、DONALD VEGA氏のピアノ、Russell Malone氏のギターの音色はスタジオでの演奏風景を思い描きながら音作りをしております。改めて、ハイレゾで聞いてほしい作品です。
この度は、光栄な機会を頂きまして、ありがとうございました。
川崎 義博
ミキシング・エンジニア:
塩澤 利安
日本コロムビア(株)
《プロフィール》
クラシック、ジャズの録音に深い興味を持つ。アーティストそれぞれの「魅力」と「感動」が伝えられる作品創りを心掛けている。
スタジオ録音とホール録音の両立、そしてソロから大編成、ステレオからサラウンド、PCM録音、DSD録音など、あらゆる録音を究めたいと努力の日々である。
過去に於いて多数作品の本賞を受賞。
《受賞の感想》
この度は名誉ある賞に選定して頂き大変光栄に思います。常に多くの目標を持って様々なレコーディングに臨んでいますが、「日本プロ音楽録音賞受賞」も私の目標の中の一つです。目標を一つ達成出来たことに心から喜びを感じております。
今回受賞した作品は、2021年10月に開催した熱気に満ちたコンサートのライブ録音です。桂冠指揮者兼芸術顧問アレクサンドル・ラザレフ氏と日本フィルハーモニー交響楽団の名コンビによる演奏を作品として届けることができました。日本フィルハーモニー交響楽団のオリジナルレーベル「JAPAN PHILHARMONIC ORCHESTRA RECORDINGS」により制作されております。
録音は音響の良さに定評のあるサントリーホールによるもので、壮大で力強くダイナミックなサウンドが場内に響き渡っているさまをありのままに捉えました。コロナ禍の影響下でのコンサートでしたので、指揮者の周りは極力スペースを取る配慮が必要で、ストリングスが指揮者から2メートルほど離れて配置されました。メインマイクを中心としたサウンド創りには難のある条件ですので、仕上がった作品のサウンドにも表れているかもしれません。
この作品創りに於いてコンサートよりももっと深い感動を音だけで表現することができるか、直感的な印象も大切にしながらベストなサウンドを目指しました。何かを感じ取って頂ける作品となったのではないでしょうか。
最後になりますが、素晴らしい演奏を創り上げた皆様、制作に携わった全ての方々に心から感謝いたします。ありがとうございました。
マスタリング・エンジニア:
佐藤 洋
日本コロムビア(株)
《プロフィール》
1990年スタジオ業務に携わる。1993年マスタリング・エンジニアとなり現在に至る。
アシスタント・エンジニア:
久志本 恵里
日本コロムビア(株)
《プロフィール》
音響芸術専門学校卒業後日本コロムビア株式会社にてアシスタント・エンジニア業務に携わる。様々な生楽器の録音現場を経験する。
塩澤 利安
Best Sound部門
ポップス、歌謡曲
ミキシング・エンジニア:
房野 哲士
(株)ソニー・ミュージックソリューションズ
《プロフィール》
中学生の頃ベートーヴェンの第九の4楽章の低弦部がラジカセで聴こえなかったことからオーディオに興味を持ち、高校生の頃に行ったオーディオショーで音のリアルさに衝撃を受け、これを録音している人がいることに気付きレコーディングの道を志す。
音楽大学にてレコーディングを学んだ後、2014年にソニー・ミュージックスタジオに入社。ポップスに限らず、クラシックやジャズ、劇伴も手がける。
《受賞の感想》
この度は、第29回日本プロ音楽録音賞、Best Sound部門「ポップス、歌謡曲」にて最優秀賞にご選定いただき、大変光栄に思います。
音の感じ方というのは非常に主観的であり、自分が作る音が果たして他の人にとって良い音なのか悩むこともありましたが、今回このような賞をいただき客観的な評価を得られたことはとても喜ばしいです。
今回この楽曲に私を起用して下さったアーティストのkrageさん、レーベルの大貫さん、マスタリングの森﨑さんには、この場を借りてお礼申し上げます。
この楽曲は大都会での新生活の不安や葛藤を歌う曲で、今回は無機のような有機、有機のような無機を意識してミックスしました。
オケは15トラック程しかない非常にシンプルな楽曲で、無機的なシーケンスが多い中、キックとベースが絡むと全体に生命力が吹き込まれ有機的にも感じられます。ベースの40Hzを感じられるサウンド作りも生命力を増すことができると考えこだわりました。
このオケにkrageさんの素晴らしい歌声、表現力が絡み合い楽曲にグルーヴが生まれました。
レコーディングではリードボーカルとオクターブ下しか録っていませんでしたが、私自身がこの曲が大好きでどうしても表現したい世界観があったため、頼まれてもいないのに勝手にコーラスを作りラフミックスを送ったところ、快く採用していただけました。
良い音を作るのは当たり前で、音楽をより良くするエンジニア、をモットーに更なる研鑽に励んで参ります。
マスタリング・エンジニア:
森﨑 雅人
(有)タイニーボイスプロダクション
《プロフィール》
音響技術専門学校を卒業後、1995年音響ハウスに入社。
レコーディング・エンジニアの修行中、運命的に出会ったのがトム・コイン氏のマスタリングだった。その音を初めて体感した時の感動が抑えきれず、マスタリング・エンジニアへの転向を決意する。
2000年にサイデラ・マスタリング入社。
サイデラ・マスタリングでは17年間チーフ・エンジニアを務め、
2018年10月からタイニーボイスプロダクション(ARTISANS MASTERING)に所属。
房野 哲士
マスタリング・エンジニア:
菊地 功
(株)ミキサーズラボ ワーナーミュージック・マスタリング
《プロフィール》
モウリスタジオ、ワーナーパイオニア、ハミングバード、ワーナーミュージック・ジャパン録音部を経て、2000年ミキサーズラボ入社
マスタリングは制作工程の最終段なので慎重で且つ楽しいマスタリングを心掛けている。
《受賞の感想》
この度は、第29回プロ音楽録音賞の優秀作品に選出して頂けましたこと、恐悦至極に存じます。また、この賞の運営に携われました関係者の皆様、審査に関わられました皆様のご尽力に対しまして、敬意を表し、感謝申し上げます。
この作品は、『ラッカーマスターサウンド』という技法を使っています。分かりやすく言えば、レコードになるときに使用されるラッカー盤を使って音源を作り、その音源をデジタルに変換して、マスタリングするという方法です。TDマスターをVMS-80でカッティングをして、そのラッカー盤をパナソニック社・SL-1200GR-S、オルトフォン社『SPU Classic GE MKⅡ』で再生し、Pyramix384Kで取込みました。
最大の特徴は、アナログレコード特有の音の深さ、空間、優雅な優しさが表現出来る点にあります。
今回は、石川さゆりさんのアルバム「Transcend」より「人間模様」で応募しました。斎藤ネコさんのアレンジによるリメイクですが、オーケストラのスケール感を存分に感じ取れ、その中でもビオラ・チェロ等の包み込むような優しい音色、さゆりさんの艶のあるヴォーカルが一体感を出している素晴らしい作品です。その良い所を、最大限引き出せるようなマスタリングを心掛けました。
このような作品に携われる機会を頂きました、石川さゆりさん、斎藤ねこさん、内沼映二さん、テイチクレコード佐藤 尚さん、そして関係された皆様に感謝申し上げます。有難うございました。
ミキシング・エンジニア:
内沼 映二
(株)ミキサーズラボ
《プロフィール》
「テイチク」、「ビクター」、「RVC」録音部を経て、1979年(株)ミキサーズラボを設立。
現在(株)ミキサーズラボ会長。
カッティング・エンジニア:
加藤 拓也
(株)ミキサーズラボ ワーナーミュージック・マスタリング
《プロフィール》
京都生まれ、大阪ビジュアルアーツからミキサーズラボ入社。
現在は、カッティングも担当している。
菊地 功
Super Master Sound部門
ミキシング・エンジニア:
内沼 映二
(株)ミキサーズラボ
《プロフィール》
「テイチク」、「ビクター」、「RVC」録音部を経て、1979年(株)ミキサーズラボを設立。
現在(株)ミキサーズラボ会長。
《受賞の感想》
この度、第29回「日本プロ音楽録音賞」スーパーマスターサウンド部門優秀賞にご選定頂き、感謝とお礼を申し上げます。
受賞頂きました作品は、石川さゆりさんの50周年記念企画アルバムの一枚です。
アルバムコンセプトは、音楽ファンはもとよりオーディオファンにも納得できる高音質を目標に収録からミックスまで音に拘った作品に仕上げました。
一般音楽ファン向けにはテイチクエンタテインメントからレギュラーCD(ラッカーマスターサウンド)と33回転アナログ盤を、オーディオファン向けにはステレオサウンド社から、オーディオファンから絶対的に支持されているSACD盤(シングルレイアー)と、曲数を増やした45回転のアナログ盤を発売することになりました。
収録は、音楽プロデューサである斎藤ネコ氏と綿密な打ち合わせの結果、ストリングス収録は木質の響きが定評の東急文化村スタジオ(ビッグバンドは、広さと豊富な機材が売り物のビクタースタジオ)で収録しました。
このSACD盤に関しては、オーディオ界に精通しているステレオサウンド社の原田知幸氏にス-パーバイザーとしてご参加いただきました。
原田氏曰く、熱心なオーディオファンはCDでなくSACD、それもシングルレイアーであり、一般のCDのようなレベルを突っ込んだサウンドでなく、コンプレッションされてないのを望んでいる。これらの事を踏まえ原田氏の希望もあり、アナログ・コンソールでミックスされた音源をアナログ・ハーフインチからダイレクトにピラミックスのDSD2.8Mに録り、マスタリングは必要最低限の作業に留め、SACD用のマスターにしました。
当然、収録レベルは低くなりますが(CDと比べると6db以上低い)圧縮されない開放的なサウンドをオーディオファンは喜んでいただけると思います。
スーパーバイザー:
原田 知幸
(株)ステレオサウンド
《プロフィール》
1983年4月 株式会社ステレオサウンド入社。
2000年6月 同社代表取締役社長に就任。現在に至る。
内沼 映二
Immersive部門
ミキシング・エンジニア:
當麻 拓美
(株)山麓丸
《プロフィール》
山麓丸スタジオチーフ・エンジニア。ホールやライブ会場での立体音響収音設計から楽曲のミックス・マスタリングまで幅広く手掛けています。背面特性に優れたイマーシブ・ミックスを特徴とし、楽曲の表現力を高めることを大切にしています。
《受賞の感想》
この度は第29回日本プロ音楽録音賞Immersive部門にて、最優秀賞に選定して頂き大変光栄に思います。
BE:FIRSTさんとは1stアルバムの頃から360 Reality Audioという未知の領域に共に挑戦して頂いたこともあり、今回BE:FIRSTさんの楽曲で受賞できたことを心から嬉しく思います。
楽曲が持つアレンジ、ステレオMIXでのイメージを損なわない事を第一に考え、イマーシブというフォーマットで体験できる価値に向き合いながらの作業でした。
複数人ボーカルのグループという事で、メインのボーカルに対して多くのバッキングボーカルがあり、まるで自分がメンバーに囲まれているかの様な体験ができる事や、楽曲の持つ気配がより没入感を引き立たせる様に背後の広がりと頭上で鳴っていると明確に感じやすい配置と残響を意識しました。
イマーシブというフォーマットにチャレンジして以来、試行錯誤の毎日ですが、素晴らしいフォーマットと感じる毎日でもあります。アーティスト様の表現の幅をより拡張できる様、ファンの方々がより世界に入り込める様にこれからも精進してまいりたいと思います。
改めて、この度は楽曲の360 Reality Audioを担当させて頂き、最優秀賞に選定して頂いた事を心より御礼申し上げます。
アシスタント・エンジニア:
鳥越 裕史
(株)山麓丸
《プロフィール》
立体音響でのライブ収録を得意とし、これまで多くのアーティスト作品を手掛けています。またプログラムを伴ったライブ配信にも対応しエンジニアにとどまらず幅広く活躍。
當麻 拓美
ミキシング・エンジニア:
高田 英男
(株)ミキサーズラボ
《プロフィール》
1969年 日本ビクター入社(現JVCケンウッド)ビクタースタジオに配属
ビクタースタジオにて録音エンジニアとしてアイドル、ポップス、ジャズなどアコースティック録音を中心に多くのヒット作品を手掛ける。
2001年ビクタースタジオ長
2016年(株)ミキサーズラボとエンジニアマネージメント契約&顧問就任
日本音楽スタジオ協会会長。
《受賞の感想》
日本プロ音楽録音賞のImmersive部門(アコースティック・サウンド)において、最優秀賞を頂きまして有難う御座います。
この作品は1864年フォスターの名曲「Beautiful Dreamer」を、シンガーteaにより360 Reality Audioを前提にミュージシャンと連携して、サウンドの方向性~アレンジ打合せを重ねて創作した作品です。録音スタジオは東京音楽大学・中目黒校舎のスタジオを使い、シンガーteaの歌の魅力を軸として、クリストファー・ハーディのタム演奏&時枝 弘のベース・サウンドによるタイトでグルーブ感あるビートを創り、間奏ではアンビエントサウンドを生かしたサウンド創りとし、オーケストラが入る特大教室独特の響きを生かしたタムのソロ~teaのエスニックスキャット演奏をイマーシブサウンドとして創作致しました。スタジオ録音と特大教室を使った響きの融合による360 Reality Audioによるポップなヴォーカル・イマーシブサウンドの音楽です。更に、録音現場を詳細に映像収録したミュージックビデオを制作し、イマーシブサウンドによるヴォーカル作品とミュージック映像が連携する360 Reality Audio Liveの作品となっております。
最後になりましたが技術的にサポート頂きました、ソニー(株)プロフェッショナルソリューション事業部(渡辺忠敏氏)、映像制作STUDIO OTUS(大森広樹氏)、ミキサーズラボ・エンジニア(梅津達男氏)、(株)サウンド・シティ オーディオ技術部(中山太陽氏)に心より感謝申し上げます。
アシスタント・エンジニア:
宮嶋 萌里
(株)ミキサーズラボ
《プロフィール》
2019年3月 北海道経専音楽放送芸術専門学校 卒業
2019年4月 株式会社ミキサーズラボ 入社 東京音楽大学スタジオ派遣エンジニアとして勤務開始
高田 英男
スタジオ賞
作品制作に大きく貢献したスタジオを顕彰
アナログディスク部門
カッティング・エンジニア:
北村 勝敏
(株)ミキサーズラボ ワーナーミュージック・マスタリング
《プロフィール》
1977年 日本電子専門学校 放送工学部 放送技術科卒
1977年 ポリグラムRS 入社
1984年 日本ビクター 入社
2017年 ミキサーズラボ エンジニア契約
《受賞の感想》
この度は名誉ある賞を頂き、大変光栄です。これも素晴らしい音源があればこそ成し得る事が出来たわけであり、また有能なスタッフのアシストも不可欠でした。アナログ・テープでハーフ・インチ、76cm/sという1980~90年代のアナログ・レコード全盛期に於いても最高スペックの一つと言える音源からのカッティングは、自身にとっても久々ではありましたが、改めて潜在能力の高さに音を聴いた瞬間から圧倒されました。本当にこの音をカッティング出来るのだろうかという不安と闘志が湧き上がって来た事を覚えています。また30cm、45rpmという高音質仕様ゆえ、カッター・アンプとカッター・ヘッドが耐えられるだろうかという物理的な要因も不安を一層掻き立てられました。
更に今回はテープ送り出し機の都合で、高レベルなカッティングには不可欠なプレビュー・ヘッドの信号が使えない事も一番大きな壁でした。一旦ハーフ・インチ・テープの音源をDAWに取り込み、極めて特殊な技法で0.667秒早めたプレビュー信号をメインのハーフ・インチ・テープの音源と同期させ、高レベルなカッティングを実現させました。カッティング終了後、顕微鏡での音溝チェックも、かつて見た経験が無いダイナミックさに圧倒されましたが、一発OKの判断が出せたカッティング・マシンの調整も完璧でした。
改めてこのカッティングに携われた事と、全てのスタッフの方々に心より感謝申し上げます。
ミキシング・エンジニア:
内沼 映二
(株)ミキサーズラボ
《プロフィール》
「テイチク」、「ビクター」、「RVC」録音部を経て、1979年 (株)ミキサーズラボを設立。
現在 (株)ミキサーズラボ会長。
北村 勝敏
カッティング・エンジニア:
松下 真也
PICCLO AUDIO WORKS
《プロフィール》
2006年 株式会社ウッディランド入社。宝塚サウウンズアトリエにてキャリアスタート。
2009年 STUDIO Dedéに移籍。
2021年 フリーランスとして独立。同年、株式会社ピッコロオーディオワークスを設立。
レコーディング、マスタリング、カッティング、テクニカルエンジニアとして現在に至る。
《受賞の感想》
この度は日本プロ音楽録音賞アナログディスク部門優秀賞を頂戴し誠に光栄に思います。
賞を頂きました作品はオリジナルが1982年に発売され、多くの方々に聴かれてきた名盤ですので、リマスタリングにあたってはオリジナルのイメージからかけ離れたものにはならないよう注意して取り掛かりました。
本作品は制作陣の方々のご尽力によりオリジナルアナログマスターからリマスタリングができた事も本当に有難い事です。
一度もデジタル化せずフルアナログで時間をかけたマスタリング、カッティングが許された事は音質面で有利にはたらいたと思っています。
今後も一つ一つの作品を丁寧により良い仕事ができるよう丁寧に取り組んでいきます。
改めまして本作品に関わらせていただき心より感謝申し上げます。
松下 真也
ニュー・プロミネント賞
これからの活躍が更に期待できる若手エンジニアを顕彰
放送部門
放送部門 2chステレオ
ミキシング・エンジニア:
佐藤 陽介
日本放送協会
《プロフィール》
2003年NHK入局。様々な番組でミキサーを担当。現在は「うたコン」「SONGS」などの音楽番組や、ドラマの劇伴を担当。
《受賞の感想》
この度はこのような賞を頂き大変光栄に思います。普段より音楽番組を通し、少しでも視聴者の皆さまに感動を届けたいと奮闘しているなか、今回の受賞は励みと自信になりました。
本番組は「18祭」というタイトルの通り、本来は18歳の若者を対象にしたプロジェクトですが、今回はコロナ禍の約3年間、様々な制限を受けながら時間を過ごした18歳から20歳までの1000人の若者が対象となりました。若者たちの爆発するパワーを、いかに高密度かつエネルギッシュな音で表現できるかが一番の課題でした。感染対策上互いの距離を確保した結果、1000人がアーティストを360度囲む配置となり、隙間が目立つようになりましたが、BUNP OF CHICKENとの一体感や、若者のエネルギーを余すことなく収音するために、コーラスに58本、ブラスバンドに41本のマイクを使用しました。
通常のミックスアプローチでは、バンドから処理し、後にコーラス等を足していきますが、今回はコーラスとブラスバンドの処理を先に行い、バンドを融合させていくアプローチをとりました。結果、プランニング時にイメージしたエネルギー溢れる作品にまとめることができたと思っています。また照明や映像のカット割りなども存分に音に反映させました。このイベントに意志を持って参加した若者の心に共感し、彼らとBUMP OF CHICKENが創り上げた一夜限りの音楽が、見た方々の心を揺さぶることができたらと願うばかりです。
この度は誠に有難うございました。
セカンド・エンジニア:
遠藤 美紀
日本放送協会
《プロフィール》
2017年NHK入局。スポーツ中継や地域ドラマ、情報番組の音声を担当。
現在は「紅白歌合戦」など音楽番組のフロア業務、クラシック番組を担当。
アシスタント・エンジニア:
宮下 真理子
(株)SCI
《プロフィール》
1998年 株式会社SCIに入社。ライブ録音、ホール録音業務等を担当。
2015年からNHKに協力会社として出向。主にMA業務の他、テレビスタジオ、ホール、中継車でのマルチ収録のオペレーター、トラックダウン業務を担当。
佐藤 陽介
ミキシング・エンジニア:
田中 聖二
(株)毎日放送
《プロフィール》
2000年 九州芸術工科大学大学院芸術情報伝達修士課程終了
2000年 株式会社毎日放送入社
2009年 第16回日本プロ音楽録音賞放送部門優秀賞受賞
2015年 第22回日本プロ音楽録音賞放送部門最優秀賞受賞
2021年 第25回JPPA AWARDS 音響技術部門 審査員奨励賞受賞
2021年 第74回MPTE AWARDS 映像技術賞音声部門 受賞
2023年現在、毎日放送総合技術局制作技術センター音声担当
《受賞の感想》
大変栄誉ある賞を頂き誠にありがとうございます。ミキシングエンジニアとして今後の励みになります。
1万人の第九40回という記念回において、杉浦邦弘氏が編曲されたロックとクラッシクの融合『布袋寅泰×佐渡裕「第九」第1~3楽章” LIFE IS SYMPHONY ”』は、私にとって音楽の世界での特別な瞬間であり、その瞬間を音に刻むことができたことを誇りに思います。
この楽曲に相応しい各楽器の音色、MIXバランス、エレキギターとオーケストラのMIXバランスは、指揮者佐渡裕氏と布袋寅泰氏とともにディスカッションを繰り返しながらのMIXとなりました。布袋寅泰氏とのコミュニケーションを通じて、アーティストの情熱や意図を理解し、また、その音楽性を学ぶことにより、自身のミキシング技術を活かし、この楽曲に独自の魅力を加えることができたと思います。
今回の制作に携われたことは、非常に貴重な経験であり、佐渡裕氏、布袋寅泰氏からの学びは私のキャリアに新たな刺激をもたらし、エンジニアとしての成長の機会になると同時に、音楽が人々を結ぶ力を改めて感じさせられる瞬間でした。
音楽はチームワークの産物であり、共に歩んでくださったすべての方々に心から感謝申し上げます。
これからもより一層精進し、音楽の世界に貢献していけるよう、さらなる挑戦に挑んでいきたいと思います。
セカンド・エンジニア:
大谷 紗代
(株)毎日放送
《プロフィール》
2007年同志社大学工学部情報工学科卒業
2007年株式会社毎日放送入社
現在、総合技術局制作技術センター 音声担当として勤務
セカンド・エンジニア:
東 光信
(株)サウンドエースプロダクション
《プロフィール》
1998 年 大阪スクールオブミュージック商業音楽科 PAコース卒業
1998 年〜2016 年PA会社2社で従事、内3年間東京で勤務
2016 年〜現在 株式会社サウンドエースプロダクション
田中 聖二
ミキシング・エンジニア:
清川 愛珠
日本放送協会 福岡放送局
《プロフィール》
2016年 NHK入局。2020年より福岡放送局所属。
《受賞の感想》
この度はこのような賞を頂き、大変嬉しく思っております。関係者の皆様に心より感謝申し上げます。
この番組は、2022年度までラジオ番組として放送していた「六本松サテライト」の特別編として、テレビ版で制作しました(2023年度よりテレビ番組として放送中)。公開収録のステージでは九州沖縄にゆかりあるアーティストが名曲の数々を披露し、会場からのオンライン生配信を含め、多くの視聴者にお楽しみいただきました。
番組のラストを飾る「壊れかけのRadio」では、德永英明さんの繊細な歌声と、優しくも力強い楽曲の魅力に浸っていただけるような音を目指しました。長年多くの人に愛されてきたこの曲をミクシングできることに心躍る一方で、だからこそ皆様にご満足いただける最高のクオリティでお届けしなければというプレッシャーもありましたが、収録時の素晴らしい歌唱と演奏に感動し、どうすればこの魅力を引き立てられるのかを常に考えながら今の自分が持つ力を最大限注ぎ込んで制作に臨みました。
出演者およびスタッフの皆様をはじめ、様々な場面で支えてくださった皆様のお力が結び合わさった結果、このような素敵な番組を作り上げることができたのだと思います。ありがとうございました。
今回の受賞を励みに、今後もより多くの視聴者に楽しんでいただける番組をお届けできるよう精進してまいります。
セカンド・エンジニア:
高橋 英明
日本放送協会 福岡放送局
《プロフィール》
1997年 NHK入局。2022年より福岡放送局所属。
フロア・チーフ:
平原 康裕
日本放送協会 福岡放送局
《プロフィール》
2017年 NHK入局。2022年より福岡放送局所属。
清川 愛珠
放送部門 マルチchサラウンド
ミキシング・エンジニア:
島㟢 砂生
日本放送協会
《プロフィール》
1992年4月 NHK入局 仙台放送局配属 1996年放送技術局 2015年大阪放送局 2019年より放送技術局制作技術センター(現メディア技術局コンテンツテクノロジーセンター)所属
《受賞の感想》
この度は名誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。
クラシック音楽館は、NHK交響楽団の定期演奏会をはじめとし、世界的な指揮者、ソリストを招いて行われる演奏会の模様を5.1サラウンドで放送しています。
応募した作品は、サントリーホールでのN響定期演奏会です。NHKのオーケストラ収録では、トラックダウンを介さずダイレクトミキシングで制作していることが多く、今回も同様にダイレクトミキシングでの収録となっています。サントリーホールの暖かく豊かな音響をそのまま届けられるように、メインマイクロホンを中心にスポットマイクの使用やリバーブ処理を最小限にとどめ、自然な録音を心がけました。また演奏会当日は、TV収録とともにFMでも生放送しています。5.1サラウンドとステレオを両立するのは難しく、悩みながらミキシングしておりますが、どちらもマエストロが築き上げた演奏会の迫力や会場の雰囲気を視聴者の皆さまにお伝えできればと思い制作しています。
このような機会を与えてくださった関係各所の方々に感謝申し上げます。
セカンド・エンジニア:
前川 陽州
日本放送協会
《プロフィール》
2011年NHK入局。放送技術局・制作技術センター、福島放送局、仙台放送局などを経て、現在は札幌放送局メディアセンター・コンテンツGに所属
アシスタント・エンジニア :
矢嶌 諭
(株)ネオテック
《プロフィール》
2000年に株式会社ネオテックへ入社。様々なジャンルの音声業務を経験し、2008年頃より、クラシック音楽番組のミキサーとして活動を開始
島嵜 砂生
ミキシング・エンジニア :
矢嶌 諭
(株)ネオテック
《プロフィール》
2000年に株式会社ネオテックへ入社。様々なジャンルの音声業務を経験し、2008年頃より、クラシック音楽番組のミキサーとして活動を開始。
2017年 第24回 日本プロ音楽録音賞 放送部門 マルチchサラウンド 最優秀賞受賞
2021年 第27回 日本プロ音楽録音賞 放送部門 マルチchサラウンド 最優秀賞受賞
《受賞の感想》
この度は名誉ある賞に選定して頂き大変光栄に思います。音声技術者としての目標をまた一つ達成できた事に、心から喜びを感じています。
出演された皆様、二期会合唱団の皆様、東京フィルハーモニー交響楽団の皆様、その他お世話になった全ての皆様へ心より御礼を申し上げます。
目指した音は、コロナ過でありながらも大盛況だった公演の熱気と、客席で鑑賞しているような臨場感を再現することでした。
レコーディングでは、歌手と合唱団の歌声が、舞台奥から客席へ向かって響き渡る立体的な音を、そのまま収音することに拘りました。舞台面には複数のバウンダリーマイクを効率的に配置して歌唱を収音し、場面ごとに変わるセットに対応するため、補助マイクとして超指向性のマイク等をセットや字幕版の裏に隠し収音しました。
トラックダウン~MAでは、客席で鑑賞しているような臨場感の再現「S席の音」を心がけながら音創りを行いました。特に日本語での上演でしたので、言葉の一語一語すべて聞き取れるよう、細心の注意を払いながらミキシングを行いました。
レコーディング、トラックダウン、マスタリング、MAまで一貫して音声技術を担当でき、目標とする音へ向かって効率良く丁寧に向き合ったことが、今回の受賞へ結びついたと感じています。
最後に、ご指導賜りました先輩・同僚の皆様へ感謝申し上げるとともに、今後もより良い音創りを目指して精進してまいります。
セカンド・エンジニア:
舩津 龍人
日本放送協会
《プロフィール》
2011年に日本放送協会へ入局。2013年頃から本格的に音声業務を始める。これまでクラシック音楽番組をはじめ、様々なジャンルの番組でミキサーを経験。
アシスタント・エンジニア:
寺戸 葉菜
(株)ネオテック
《プロフィール》
2021年に株式会社ネオテック入社。2023年よりクラシック音楽番組のフロア業務を担当。
矢嶌 諭
ベストパフォーマー賞
「凛-RIN-」より
「AMESA for Two Pianos」安田芙充央 石井彰
発売元:プルクワレーベル CD(POUR-1009)
《安田芙充央 プロフィール》
安田芙充央はコンポーザー・ピアニストとしてドイツを拠点に活動。
独 Winter and Winter Labelの主力アーティストとしてオペラの作編曲・翻案「DerKastanienball」(ミュンヘン・オペラ・フェスティバル・委嘱初演)など新しい試みにも挑戦し続けている。映画音楽としてはリー・カンション監督「Help Me Eros」(ヴェネチア国際映画祭コンペ部門)など、NHK-BSプレミアムの音楽も手掛けている。
《石井彰 プロフィール》
ピアニスト・作曲家の石井彰は1998年より2018年まで20年間日野皓正(tp)クインテットに参加、現在は”Chamber Music Trio”、”Quadrangle”という弦楽器フィーチャーの2つのリーダーバンドを持つ。2021年にスタートしたこのピアノ・デュオは安田芙充央が作曲を担当、緻密なスコアと即興を交えた斬新なデュオ・サウンドはエクスタシーに満ちている。最近では吉田美奈子(vo)と石井彰のDuo、さらに安田芙充央も加わった三人編成のECHOとしての音楽的邂逅は新たな潮流を生み出し、現在進行形で深化している。
《受賞の感想》
この度は、このような名誉ある賞を頂戴し、誠に光栄に思っております。
2021年、安田芙充央が偶然にも出会ったピアニスト石井彰氏の素晴らしい技量・才能に一目惚れし、2台ピアノの構想をお話ししたところから全ては始まっています。
初対面に近い最初のリハーサルの時、お互いの出す音が二物衝撃のように響き、波乱の音楽世界の幕開けを感じました。
それは書かれた音楽、即興の音楽、あるいはクラシックやジャズを超えた何かを探る音の旅の始まりでした。
今回、ベスト・パフォーマンス賞を頂きました「AMESA for Two Pianos」は元々バーゼル室内管弦楽団に書いたオーケストラ曲ですが、今回初めて2台のピアノというフォーマットに再構築したものです。
楽曲は極めて稠密に書いた部分と、まったく即興に任せた部分から成り立っており、その距離感や目の前の音の風景をどう捉えるかが演奏の鍵でありました。
単に演奏しただけでは成り立たない音の本質的な流れを、内面から表現できたのではないかと思っております。
また、今回の録音を通じて、俯瞰的に見ながらも細部に本質は宿る、ということを思い知りました。
両者が独立したパフォーマーとして存在する中で、さらに他者との音の河を見据えていけば、見たことのない風景が静かに広がっているかも知れません。
今後は、世界中に一つしかない何かを表現していければ良いと思っております。