ネガワット(節電所)

数十年ぶりに大学院時代の友人とメールによる音信を交わした.

大手の製薬会社を定年退職後,文系大学院に進学したという話を聞いていたが,7年ほど前から省エネ・節電を支援する仕組みづくりに注力しているという.注)環境省関連のデータ(環境カウンセラー登録者)では,理学博士(東工大),経済学博士(京大),薬剤師とある.

奈良市地球温暖化対策地域協議会の会長を務め,2年間ほど議論の後,市民の省エネ・節電を支援する国内初の仕組みを提案し,モデル事業が成果を挙げている様子である.具体的には,250世帯の多様な市民が参加した組織をつくり,途中脱落者ゼロ,電気で平均約 9%削減,CO2 量として合計 62トンを削減できたとらしく,平成25年度の地球温暖化防止活動では環境大臣表彰を受けたことが記されている.

院生の時もエネルギッシュな人物であったので,強力な牽引力が想像できる.注)講座対抗野球試合のための練習では薄暗くなるまで補給練習を主導し,飛球が捕れないと「兄さんは鳥目」と叱られた.

メールに添付されていた「市民節電所ネットワークの活動」についての奈良県立大学の論文(研究季報,2015)には,「市民の省エネ・節電/CO2排出削減への自主的取り組みを効果的、永続的に支援する一施策」のタイトルがついていて,サブタイトルには,「国内初の仕組みを使った節電所ネットワークによる」と書かれていた.論文では,双方向エージェンシー関係,ポリシーミックス,カー ボンオフセット,カーボンクレジット等の素人には難解な語句の説明があるので,本文(2015)を読んでもらった方が早いと思い,リンクを張ろうと思ったが,2015年版はまだCiNiiオープンアクセスの対象になっていなかった.緒言,結論,目次を以下に紹介しておきたい.

最近,熊本県のホームページや広報誌等で「節電所」という言葉を目にしていたが,「くまモン」付きキャンペーンのためか,大ざっぱな理解で詳細に考えたことはなかった.友人が真剣に取り組んでいる問題となればそういうわけにはいかない.Wipipediaでは,ネガワットの説明の中で,「節電所」と呼ばれると書かれている.

ネガワット

ネガワット(英: negawatt power)とは負の消費電力を意味する造語で、需要家の節約により余剰となった電力を、発電したことと同等にみなす考え方。節電所と も呼ばれる。アメリカのロッキー・マウンテン研究所(英語版)所長のエイモリー・ロビンス(英語版)が1990年の論文で提唱した。節電の目的を「善意」 から「ビジネス」に置き換えることと捉えることができ、電力事業者にとっては、ピーク時にあわせて用意した発電設備が、需要が少ない時期に遊休となるリス クを回避できる利点がある。

論文の副題に「国内初の仕組みを使った節電所ネットワークによる」と書かれているので,あちこちの自治体に拡がっている節電所の設立のモデルになったものと考えられる.

熊本県も例外ではなく,「くまもと県民発電所」と「くまもと県民節電所」という二つの県民参加型のエネルギー事業に取り組んでいる.熊本県商工観光労働部新産業振興局エネルギー政策課県が音頭をとっていて,関連報告書(PDF)には以下の記載がある.

県民節電所の仕組みは、サイトに登録した会員(家庭会員15, 55世帯、事業所会員92団体:10月30 日現在)が行っている節電行動を登録したものを、 節電量として定量化し、積み上げたものを県内総 節電量として公開している。2013年8月にサイト 開設以来、節電量は増加しており(図表8)、今夏 の県内総節電量は約32, 77kWh (10月30日現在)で、 1, 000KW規模のメガソーラー3基分の出力に相当 する効果を生み出している。

一般家庭と事業所の節電量比が分からないが,事業所が参加すれば効果が上がるのだろうか.それが単なる政策ブームのひとつで,尻すぼみにならないことを期待したい.

節電も過度になるとろくなことがない.以前勤務していた熊大薬学部では,校舎大改修工事の際に,各研究室に一般家庭と同じように積算電力計を設置した.同時にソーラーパネルの設置を要求したが,門前払いだったと聞いている.

積算電力計の設置によって,節電に対する教職員,学生の関心は高まったが,共用部分の廊下等のコンセントからフリーザー等の電源を盗?るという問題が起こった.また,極端な省エネキャンペーンの結果,研究室,実験室は暗く,外来者がビックリすることも多々あった.新設私大薬学部に移った後も,学科主任として,エレベーター,廊下,教授室の節電を要求し,学部制作ホームページには電力消費量のグラフを掲載したため顰蹙を買った.挙句の果てには,大学本部(入試課?)からは「高校生の見学」の時は極力明るくするようにとの要請を受けたこともあった.

大学はかなり大口であるから,それなりの効果はあったと思うが,定年退職後,家庭となると「弱い者いじめ」的に感じるようになった.極寒の中,後期高齢者が電気代を気にして節電している姿は間違っているのではないでしょうか.熊本の冬季の最低気温はマイナスになることが多い.「シャネルの5番」とは言わないが,それなりの暖房は必須である.

国が公表している2009年最終エネルギー消費の構成比を見ると,家庭部門は14.2%,業務は19.5%,産業は42.8%,運輸は23.6%となっている.あちこちで,新幹線,さらにはリニア新幹線の建設が進み,ネット通販では「明日配達競争」が過熱している,そのためには原発が必要になるだろう.「そんなに急いで何処へ行く」,「そんなものは必要ない」,「ゆっくりでよい」と市民が言えば,大きな節電,省エネにつながる.原発も要らなくなると思うが,極論な意見であろうか.


参考資料

◯奈良県立附属図書館

研究季報25巻第3号:地域創造学研究 ⅩⅩⅤ(2015年2月28日)

論 文 市民の省エネ・節電/CO2排出削減への自主的取り組みを効果的、永続的に支援する一施策-国内初の仕組みを使った節電所ネットワークによる- 村木正義 P1~38( 本文のCiNiiオープンアクセスによるダウンロードは作業中と思われる).

◯くまもとの未来のために くまもと県民節電所

◯熊本県民発電所

熊本県南関町下坂下に完成した、県公共関与管理型最終処分場「エコアく まもと」の屋根を活用した太陽光発電施設が,「くまもと県民発電所」として平成27年12月1日から発電・売電を開始した.地産地消型の再生可能エネル ギーの開発・普及・啓発を推進することを目的としたもので,民間企業10社からなる「熊本いいくに県民発電所㈱」が事業主体となり,最終処分場の屋根 (32,857㎡)に,2,002kWの太陽光発電パネルを設置した.推定年間発電量は約212万kWh/年(約400世帯分)で,総事業費は約5億5千 万円(税別).今回の事業については,個人向け小口ファンド(1口2万円)合計5,000万円,法人ファンド(私募債)合計4,900万円の募集計画に対 し,いずれも募集額を達成した.特に,多額の小口ファンドにおける満額達成は全国でも数少ない実績.

2016.2.12