発送電分離

国立大学に勤務している時,分離キャンパスに在る医学部・薬学部と総合情報処理センターを結ぶネットワークの通信業者がNTTから九州電力の子会社へ替わった.その際,九州全域を覆う送電線の鉄塔や電柱が光ケーブル敷設に効果的に利用されていることを知った.現在,国が進めている電気小売全面自由化に伴う発送電分離が実施されると,送電・配電事業はどうなるのだろうかと,他人事ながら気になった.発電と送電を別会社にすること自体が理解できていないので調べてみると,進行中の電力改革は情報通信技術なしには実現できないことがわかった.


現在,我が国で大手電力会社と言われている一般電気事業者として,北海道電力,東北電力,東京電力,北陸電力,中部電力, 関西電力,中国電力,四国電力,九州電力,沖縄電力が存在し,電気事業の地域独占を行ってきた.

2000年,改正電気事業法の施行に伴う電力自由化から段階を経て,2005年4月以降は, 高圧50kW(高圧:6000V)以上の契約ならば,新電力会社(PPS)と契約できるということになった.

新電力とは.特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier) のことであり,資源エネルギー庁によると,「契約電力が50kW以上の需要家に対して,一般電気事業者が有している電線路を通じて電力供給を行う事業者(いわゆる小売自由化部門への新規参入者(PPS)」 となっている.すなわち,契約電力が50kw以上ならば,既存の電力会社以外の新しい電力発電会社と電力契約を自由に取り交わす事ができるわけである.したがって,日本の電力は使用する電力契約の大きさによって,部分自由化されているということになる. しかし,一般家庭や商店のような小規模の電力契約は,2016年4月1日から実施される電力の小売全面自由化を待つ必要がある.注)マンション棟などの場合は契約電力により,現在でも新電力と契約できる場合がある.

電力規制緩和による変化について,あちこちで解説されているものをまとめると,その概略は次図で示すようになる.これまで発電,送電,配電等を独占していた大手電力会社は発電会社と送電会社に分割される.大手も新電力も送電網を運営する事業者を通して電気を送ることになるらしい.さらに,ユーザーとの間には発電,送電に携わらない販売のみを行う電力販売専門の業者が介在するという構図になるらしい.

電気を受け取るためには新たに電力線を引き込むことはなく,既存の配線を利用する.ただ,これまでのアナログ電力量計は無線通信機能を有するスマートメーターに替える必要がある.

近年,再生可能エネルギーの活用に伴って風力や太陽光などの不安定な発電も配電網に組み込まれるようになった.ところが,それらが大量に送電網に流れこむと需給バランスがくずれ,不安定(電圧や周波数の変動)になることがある.それを避けて安定して運用していくためには,自立分散的に制御するスマートグリッド(次世代送電網,賢い送電網)が不可欠のものとなっている.その主役となるものがスマートメーターである.

スマートメーターに交換することにより,従来のアナログメーターにはできなかったことが可能になる.電力会社は,スマートメーターを介して,ユーザーの電力消費をリアルタイムに把握できる.新電力の発電設備のトラブルなどで一時的に電力供給ができない場合は,一般電気事業者との常時バックアップ契約によって電力を融通してもらうシステムになっている.また,電力需要が逼迫している時間帯に節電に協力してくれた家庭に割引料金を適用する(ピークシフトプラン)とか,夜間等の電気代を割り引くといったサービスも細かく対応することが可能になるらしい.情報通信業者が電力業に手を伸ばす理由はこのような点にあると考えると納得がいく.それにしても電力システム改革のあちこちで,得意分野を生かすべく参入する業種も多種多様であるのに驚かされる.ガス,石油,通信,鉄道,コンビニ,商社,自治体等々.

メリット,デメリット,いろいろ指摘されているが,先発国の情況をみると,必ずしもバラ色ではなく,料金低下は一時的で大きな値引きは期待できないらしい.1月7日に東京電力は新料金プランを発表した.標準的な家族で年1000 円程度安くなるとのことである.J:COM電力の場合は,ケーブルテレビ,ネット,電話と通信・電力セットの場合,大手電力会社の 10 %引きとのことである.九州電力と比較すると, 300 KWを超える分が安くなる.


120 KWまで, J:COMの方が, 0.1 円安い

120 KW から300KWまで, J:COMの方が, 0.26 円安い

300 KW 以上, J:COMの方が, 2.99 円安い


350 KWの標準家庭では,200 円程度安くなると試算されている.電力使用料が平均より多い家庭では,それなりに安くなるはずである.

我国より20年早く電力自由化に踏み切った米国では,送電管理システムの不備による大停電を起こしている.最近では,ユーザ側のメーター設置拒否や撤去を要求する動きもあるとのことである.理由は機器火災,電波による健康被害,プライバシー問題などである.失敗例に学べば,我国では成功するかもしれないが,ソーラー発電推進策で見られた買取拒否のような想定外の問題が起こる可能性は否定できない.

発送電を分離して料金規制が撤廃されるといっても時間がかかるらしい.国は,2016年小売参入の自由化後,2018-2020年を予定している.早くも投資家が暗躍しているという記事を散見する.


参考資料

1. 九州電力は2009年からスマートメーターの設置をすすめているとホームページに書いている.

2. 富士通が独自に開発した「無線アドホック通信技術」は1000台のスマートメーターの無線通信を集約しデータセンターへ送付可能と言われている.