誕生石のX線解析データが CIF (Crystallographic Information File) フォーマット形式で公開されている.さっそくCCDCの結晶構造表示ソフト(Mercury,英国)で表示し,月順に並べてみた.各原子の色(自由に決めることができる)と宝石の色とはまったく関係ない.ここでは,初期設定の色調である.
3月のアクアマリンと5月のエメラルドは同一成分(Be3Al2Si6O18),7月のルビーと9月のサファイヤも同じ成分(Al2O3)であり,二組とも結晶内原子配列は同じである.二次元表示図の中の四角形の線は結晶の最小単位であり,それが三次元的に無限に繰り返される.
1月 ざくろ石,ガーネット 2月 紫水晶,アメシスト 3月 藍玉,アクアマリン(単青緑色)
4月 金剛石,ダイアモンド 5月 エメラルド(鮮緑色) 6月 月長石,ムーンストーン
7月 紅玉,ルビー 8月 橄欖(かんらん)石 9月 鋼玉,サファイア
10月 たんぱく石,オパール 11月 黄玉,トパーズ 12月 トルコ石
ルビー(赤色),サファイア(青色等の赤色以外のもの)は,コランダム (corundum,鋼玉)とよばれる酸化アルミニウム (Al2O3) の結晶である. 純粋な結晶は無色透明であるが、結晶に組みこまれる不純物イオンにより色がつき、ルビー(赤色)、サファイア(青色などの赤色以外のもの)などと呼び分けられる。
結晶構造ギャラリー
鉱物の結晶構造ギャラリーは,2002年8月2日(金)に開催された「国立研究開発法人産業技術総合研究所 関西センターの一般公開」で公開されたものである.現在は,中温域固体伝導体ホームページのコンテンツの一つに位置付けられている.物質名(和名)又は鉱物名(和名)をクリックすると,各物質又は鉱物の原子(又は多面体)配列を三次元的に図示した結晶構造図 (123種類)を見ることができる.結晶構造の座標データ CIF(Crystallographic Information File)は,結晶構造ギャラリーの一覧からダウンロードすることができる.ダウンロードしたファイルをパソコンで可視化するためのソフトウエア VESTA (Windows, Mac, LinuxのOSに対応) も公開されている.
次図は VESTAの実行画面である(Mac OSX10.12.1, Mac Mini 2012).単位格子を傾けて,充填構造で表示させているので,上下の二次元投影図(ball and stick)とは一見異なるように見える.
VESTA (Version 3, Koichi Momma and Fujio Izumi)で描いた誕生石の結晶図は以下の通りである.左から右へ1月,2月,3月,次段へと続く.
充填モデルで三次元表示した場合,すこし印象が異なり,豪華に見える.
私は,宝石に関してはダイヤモンドやルビーがレコードの針として利用されているくらいの知識しか持っていない.単結晶X線解析ができるわけであるから,7〜15ÅのX線の干渉が起こる原子配列を有していることになるが,実際の輝きと結晶構造の関連は可視光の干渉であり,数千Åの世界である.結晶を構成する原子や組成の違いは何となく分かったが,宝石の美しさとの関連はまったく理解できていないというのが本音である.単結晶の繰り返し構造を乱さない程度の不純物の有無が人の心を惹きつける神秘はまったく理解できないとという結論である.
追記
VESTAで有機化合物の結晶構造を表示させてみた.結晶パッキング構造の表示なら,実行画面にCIFファイルを乗せるだけで下図のような画像を得ることができる.