特別講演

特別講演スピーカー

柳田 充弘

沖縄科学技術大学院大学(OIST)


「エルゴチオネイン出現の進化的意義」


エルゴチオネインは100年以上前に見つかった硫黄を含むトリメチル化アミノ酸で強い抗酸化作用がある。地球上で生産に必須な遺伝子を持つ生き物はカビと細菌である。カビに広く存在し、細菌では腸内細菌ラクトバチルスが作ることが知られる。抗酸化作用が強いのでその理由を調べる生理系の研究と機能性活性に的を絞った生物生産系の研究が多い。タモギタケというキノコでは含量が多く、スーパーの生鮮食品売り場で化粧効果や抗老化を謳ってこの黄色のキノコが販売されているのを最近よく見かける。わたくしどもとこのコンパウンドの遭遇はメタボロミックス技術開発の過程で分裂酵母抽出液の解析を行ったら最も量の多い化合物として目をひいたのが十数年前で(Pluskal et al 2011)、次いでヒト血液に多量に存在するのでヒトバイオマーカーとして注目した(Chaleckis et al 2014, 2016)。種々の疾病での影響に関心を持ち調べた。その結果、エルゴチオネインは高齢認知症疾患の患者では顕著に減少していることが判明した(Kameda et al 2020; Teruya et al 2021)。認知症患者ではアルツハイマーでもフレイルでも減少した(京大高齢者ユニット、琉球病院との共同研究)。このコンパウンドが認知能レベル維持に役立つのかどうか、その点を確かめるための研究を開始している。このコンパウンドの進化的位置は興味深い。

尾川 直樹

旭川医科大学 知的財産センター

カムイファーマ株式会社

「Bench to Bedsideを目指して! ― 大学発ベンチャーという生き方 ―」

研究成果の実用化スキームとして「大学発ベンチャー」が日本でも制度化されて既に20年強。

その黎明期から4社の大学発ベンチャーに携わる演者から、若手研究者に研究開発を通じた

「大学発ホームランを目指そう!」のエールを贈ります。



アカデミア研究成果の実用化スキームとして「大学発ベンチャー」が日本でも制度化されて既に20年強。その黎明期から計4社の大学発ベンチャーに携わってきた演者から、若手研究者に研究を通じた「大学発ホームランを目指そう!」のエールを贈ります。

みなさんは何を目標に日々の研究に取り組んでいますか? 学術研究でノーベル賞を目指すも良し、研究成果を足がかりにベンチャー企業の社長を目指すも良し… 演者が実際に垣間見たノーベル賞研究?の舞台裏や意外に知られていない大学発ベンチャーの実像を中心に、研究でホームランを目指すための「ちょっとした心構え」や研究者として生き残るための「微妙にブラックな根性論?」も含めて、お話できればと思います。(演者自身はアカデミア研究者ではありませんが、大学研究成果の「目利き&社会実装」を20年以上、仕事として続けてきた視点からお話します)

大好きな研究だからこそ、日々の忙しさで「大切な何か」を見失いがちですが、北海道の青い空の下、気分転換も兼ねて気楽にお聞きください。


町田 雅之

金沢工業大学

共催企業講演

(株)オンチップ・バイオテクノロジーズ

GMDによる生産向上変異株の高速スクリーニング

GMD(gel microdrop)は、直径数十µmのアガロース等の微粒子で、内部に微生物等の細胞を包埋して培養することができる。これまで、タンパク質生産する微生物のGMDによる生産量が向上した変異株のスクリーニング技術の開発を行ってきたが1)、これを化合物に広げることで、大規模・ハイスループットな汎用スクリーニング技術として研究を進めている(図1)。ここでは、これまでのGMDの利用に関するいくつかの報告の例と、私たちによるβガラクトシダーゼ(β-Gal)分泌酵母の生産向上変異株のスクリーニングについて紹介する。

分泌型β-Galは糸状菌Aspergillus niger由来の遺伝子を用い、恒常発現プロモーターに接続して酵母に導入することで発現させた。この酵母株を培養してUV照射し、1個のGMDに1個程度以下の細胞数になるように限界希釈して包埋した。またこの時、生産株にレポーター株細胞を混合して同時に包埋した。レポーター株は、Galactoseの添加によってGFP(蛍光タンパク質)を発現する酵母であり、培地中のLactoseからβ-Gal活性によって生じたGalactoseを検出することができる。この様にして作製したGMDを1晩培養し、オンチップバイオテクノロジーズ社のOn-chip Sortを用いて、約30万個のGMDから、蛍光強度が高いものを数十~100個程度分離した。これらをプレートに撒いてコロニーを作らせた後、それぞれのコロニー由来の細胞を個別に培養してβ-Gal活性を測定したところ、1/2以上の確率で2倍以上の生産向上変異株が取得された。また、20株に1個程度の割合で3倍程度以上に生産量が向上した変異株が得られた(図2)。この様な株の出現確率は一般的に2,000個に1個程度と考えられていることから、1,000倍程度の濃縮ができたと考えている。現在は、β-Galの10倍以上に生産量が向上した変異株の取得、GABAなどの産業上重要なアミノ酸の生産向上変異株のスクリーニングを行っている。