トビタテ生(第3期)活動レポート 

東洋大学国際地域部国際地域学科学科
トビタテ3期多様性人材コース 熊澤 亜未

報告レポート (インターンシップ最終報告書)

トビタテ留学計画

タイトル:
国境なきそろばん:そろばんを活用したメンタルサポートで学校教育を改善。日本2位が挑む、そろばん文化を世界で普及、日本で再興!

留学期間:
2015年8月24日~2016年5月18日(Lindsey Wilson College)
2016年5月19日~2016年8月30日 (Wizard of Math)

留学計画:『そろばん日本一が挑む、そろばん文化を世界に振興、日本に再興!~そろばんとメンタルケアで教育現場に新たな弾みを~』

実践活動内容:週4回、5歳から16歳までの子どもたち約70名に対し、日本語と英語によるそろばんの指導

留学の概要

交換留学先のLindsey Wilson Collegeでは、発達障害を抱え、教育現場になじめていない子どもたちやその保護者や指導者にどのようなケアをすることが効果的かを研究し、カウンセリングの仕方を学びました。サンディエゴ市の珠算教室でのインターンシップでは、生徒との関わり方や指導方法、そしてどのようにそろばんを広めていくべきかを実践活動を通し、考えてきました。また、計算力だけではなく集中力やイメージ力など、様々な利点があるそろばんが生徒や学生、社会人に与える影響は大きいため、そろばんを活用したメンタルサポートの可能性を探ってきました。本レポートでは特に珠算教室でのインターンシップにて経験したことや感じたことを中心にまとめます。


日本とアメリカの違い

サンディエゴの珠算教室でのインターンシップでは、私が交換留学先で学んだABA(Applied Behavior Analysis:行動応用分析学)の療育法を取り入れた指導方法でおこなうことを目標としていました。ほめて伸ばす、生徒たちに自身や達成感をつけてもらうために否定的な言葉は使わず、励ましの言葉や適切な助言を与えるというような方法です。実際には、甘やかしすぎず、厳しすぎず、指導する。このバランスをつかむのにとても苦労しました。


交換留学中に訪問した発達障害を抱える子どもたちへの支援施設でも感じたことですが、アメリカと日本の大きな違いは、自由主義か、規律主義かであるように思います。例えばアメリカではほとんどの生徒が週一回、珠算教室で指導を受け、自由な自宅学習を効果的に活用します。それに対し日本の教室では週3回以上教室に行き、規律的に集団の中で練習します。私のインターンシップでは日米の利点を掛け合わせ、生徒への適切な選択の余地を作り、なおかつ生徒の成長を促せるような指導を目標にしました。現場でしっかりと子どもたちに向き合い、生徒との関係を築くことが彼らの成長を引き出すのにとても重要なことなのだと学びました。


英語でそろばんを教える

留学前に私が指導していた日本の珠算教室では、生徒の習熟度別に時間帯が分かれています。始めたばかりの生徒は1+1から、有段者になるとかけ算、わり算、足し算に加え、問題用紙をめくりながら計算する伝票算や開法の計算を練習します。読み上げ暗算やフラッシュ暗算にも力を入れ、そろばんの動きを頭の中でイメージして計算する力を養います。同じレベルの問題を解く仲間とともに練習するため競争心も育まれ、私自身もこのような集団を相手に指導することができるので統制が取りやすかったです。

他方で私がインターンシップをおこなったサンディエゴ市にあるWizard of Mathという珠算教室では習熟度別に時間が分かれておらず、珠算を始めたばかりの子も有段者の子も混ぜこぜに練習をしています。さらにアメリカ人だけではなく日本人や中国人、インド人やスイス人等、様々な国籍の生徒がいて、話す言語もばらばらです。教室では英語と日本語で指導しますが、誰がどちらの言語を話すのかは外見から判断できません。そのためインターンシップを始めて約1ヵ月は、生徒の顔と名前を覚えることに加え、誰がどの言語を話すのか、どのレベルの問題を練習しているのかを把握することが指導時の前提となりました。5、6人が一斉に質問や採点のために手を挙げると、言語の切り替えを忘れ、そのまま英語で声をかけてしまい、「日本語だよ」と言われたり、不思議そうに顔を見つめられたりしたときもありました。一か月たったところで、顔を向ければすぐに生徒の特性をつかみ、さらっと指導をおこなえるようになりました。3ヵ月半ちゃんとこの環境で指導をしていたのだなという実感があります。

ところで近年日本では、英語読み上げ算に取り組む教室が増えてきています。0~9までの数字を英語で言うと、rやf、vなど日本人が苦手とする一通りの発音があります。これに関して興味深かったのは読み上げ算にしても日本の型とアメリカの型が少し違ったことです。日本でいう「ねがいましては~」(計算の始めを合図する言葉)が”Starting with---”になる点では同じです。一方で日本では単位を読み上げるのに対し、アメリカでは単位が省略され、数字のみを途切れなく一気に読み上げます。私が通っていた日本の珠算教室では単位をとても大切にしていました。先生が「○○円なり~」と読み上げられ、「○○○」と単位を付けずに答えると、数字があっていても単位を言わなかったから不正解と、冗談で言われたこともありました。日本での英語読み上げ算でも単位をつけて読み上げられるので、この点にも違いが表れているのかと感じます。

英語で読み上げ算を行うことの利点はやはり、位取りでしょう。日本の単位、「万(10,000)」や「億(100,000,000)」は3桁ごとにつけられるカンマの位置が見た通りではありません。一方で英語は4桁の”thousand(1,000)”、”million(1,000,000)”、”billion(1,000,000,000)”と全てカンマのある場所と一致しています。そろばんはアメリカでは日本ほど使われていませんが、こういった点を考えると数字に慣れるという意味では英語でそろばんをおこなうことの有用性も高いように思えます。


留学を通じた成長


ある日の授業中には7歳の生徒の「できない、難しいからやりたくない、そろばん嫌い!」という言葉がグサッと胸に突き刺さりました。そろばんが嫌いと言われてしまった衝撃と、どのように指導したらいいのかという不安で一瞬ひるみました。しかしここで「負けてはいけない!どうにかすればなんとかなる!」というこれまでの留学経験で培われたあきらめない精神が背中を押してくれました。「一緒にやってみよう」という声かけから始め、「8とあと何で10になる?」と問を明確にしながら助言をすると、生徒はあっさりと答えを導けました。「できるね!すごいね!その調子!」と褒めると、それまで「もうやりたくない!嫌い!」と言っていた生徒にも笑顔が見られ、「もう手伝いいらないよ、一人でできる!」という声を聞くことができました。これは一例ですが、こういった生徒一人ひとりの成長過程に少しでも立ち会うことができ、とても彼らを誇らしく思います。


上記のような体験をしてもなお、自分が十分に活動できているか不安だった私に大きな影響を与えてくれたのは、8月におこなわれた日本の珠算連盟のそろばん訪米使節団でした。日本の全国から結成された小学6年生から高校2年生の珠算有段者約30名がアメリカの公立小学校を訪れ、自らのそろばんの能力を披露したり、そろばんの指導を行ったりしました。私は訪米団の補助という役割で参加し、言語の壁を感じながらもジェスチャーを使って交流している彼らの姿から、もっとがむしゃらに、今の私ができる最善のことをしようと思えるようになりました。現地小学生と日本の学生がそろばんを通じて交流 している、楽しそうな姿は目に焼き付いており、今でも鮮明に思い出せます。


さらに、インターンシップ先では指導者と子どもたち、そして親御さんとの関係をよくしていきたいと思い、積極的に親御さんと触れ合う機会を作っていました。そこである親御さんから、「あなたが手伝いに来てくれてから、私の娘は教室で泣かなくなり、練習に集中して取り組めるようになったのよ。」という話をしてくださった時には、これまでの自身の指導や接し方は間違っていなかったのかな、少しでも力になれていたのかなと、とてもうれしい気持ちになりました。


全米珠算選手権と将来に向けて


2016年8月12日にカリフォルニア州サンノゼ市で開催された全米珠算選手権にはそろばんの腕を競うため、東はニューヨークから西はカリフォルニアまでアメリカ全土からそろばんの選手たちがサンノゼに集結しました。私は採点や会場の手伝いをしました。ここではアメリカの選手の様子を視察することに加え、アメリカで教室を開いている先生方と交流を深めることもできました。ここで出会ったある先生と自分の将来について話している内に、自分がサンディエゴ市でおこなっている英語でそろばんを教えるという活動を、帰国後に東京を拠点にして続けたいという思いが強くなりました。また、教室にいるその瞬間だけでも生き生きと伸び伸びできる空間を提供することや子どもたちがそろばんによって自信を持ち、新たなことや困難なことにも進んで取り組めるように導いていきたいと思います。それは、ひょっとすると米国で私が学んだ教育法の日本への導入かもしれません。


最後に、今回私が留学を経験することができたのは本学の交換留学プログラムと、トビタテ!留学JAPANの支援があったからです。本当に感謝しています。