2025.11.14|FRI
2025.11.14|FRI
2025年11月8日、TGLキャンプ「法廷通訳人は見た」を開催いたしました。
近年、海外からの日本滞在者が急増しており、移民をめぐる課題は多様化・複雑化しています。高市新政権のもとでも、移民問題は社会政策上の重要案件の一つとして注目されている中、今回は東京家庭裁判所で法廷通訳を務めるブラジル人日系三世の中野ルイス氏を招き、「国際化する法廷の現場」について講義をいただく機会を得ることができました。このキャンプは、日本における外国人滞在者の現状と課題を考察する好機となりました。
中野氏によると、日本にいるブラジル人には主に三つのパターンが存在するとのことです。
(1)観光客としての滞在者
2023年よりブラジル人は観光目的での短期滞在においてビザが不要となった。その結果、観光客の増加と同時に、麻薬密輸事件の増加も報告されている。密輸者は5cm×3cmほどのカプセルを体内に飲み込み、長時間の飛行で日本に到着するという。最多で120個ものカプセルを飲み込む例もあり、命を落とすケースもあるという。摘発される者は氷山の一角に過ぎず、日本に流入する麻薬の実態は把握しきれていない。日本社会が抱える深刻な治安上の課題である。
(2)成人後に移住したブラジル人
この層においては、ポルトガル語と日本語の言語構造の違いが法廷通訳上の大きな障壁となっている。日本語は文末で意味が確定する構造であるのに対し、ポルトガル語は文頭で意味が把握できるため、ブラジル人は話の最後まで聞かずに誤解することがある。中野氏は、こうした文化的・言語的ギャップを埋めるため、裁判官に対しても話し方や説明の工夫を提案しているという。
(3)日本生まれ・日本育ちのブラジル系住民
この層は自らを日本人だと認識しているが、社会の中で「外国人」と見なされる現実に直面することで、アイデンティティの揺らぎを経験する。そうした不安定さが、時に犯罪への巻き込まれやすさにつながる。中野氏は、万引きを指示されて逃げた際に店員が転倒・負傷した場合、罪が窃盗から強盗へと重くなる事例を紹介した。強盗罪に問われると懲役7年以上の実刑となり、国外追放の末に言葉も通じないブラジルへ送還される。このようなケースは、社会的支援やアイデンティティ教育の不足を浮き彫りにしている。
日本は「犯罪に対して危機感が薄い国」と見られがちであり、一部の外国人から「犯罪を犯しやすい国」と認識されている現状があります。ビザなしで入国できる制度の拡大は利便性を高める一方で、安全保障上のリスクも伴います。その対策として、入国管理体制の強化が求められています。しかし同時に、日本社会側の理解と包摂の姿勢も欠かせないと言えます。
講義の最後に、中野氏から「なぜ日本に来た外国人が犯罪の道に入ってしまうのか」「高齢化社会の中で外国人労働者と共生するにはどうすべきか」という課題が提示されました。そこで学生たちは小グループに分かれて議論を行い、個人レポートを作成しました。議論の中では、次のような問題が挙げられました。
いじめに至らない「いじり」の存在と心理的影響
宗教的理由により修学旅行に参加できない子どもの孤立
アイデンティティ・クライシスによるストレス
日本人側の「外国人への適応努力」の不足
賃貸住宅での入居拒否
相談相手がいないことによる孤立と不安
学費や生活費のために違法な仕事に関わる若者の増加
「刑務所の方が生活が安定している」と感じる人の存在
国内学生も含め、全員が真剣に議論に参加し、終了は予定時間を1時間以上超過しました。それだけ、テーマが現代日本にとって切実であることの表れでありました。
今回のTGLキャンプでは、講師と学生が「外国人と日本社会の共生」という難題を正面から見つめ、深く考える機会となりました。国際教育センターとしても、このような相互理解と問題意識を育む学びの場を提供できたことを大きな成果と感じています。日本が真の国際社会の一員として持続的に発展するためには、制度的整備と同時に、一人ひとりの意識変革と共感的理解が不可欠です。(担当:小早川裕子先生)