昆虫が自分の餌植物(寄主植物)を探索し、それを摂食あるいはそれに産卵して行く(寄主選択)過程で、植物が持つ化学物質は非常に重要な役割をしている。昆虫の寄主選択には視覚や接触感覚などの物理的情報も重要な働きをしているが、植物の化学情報のほうがより大きな働きをしている。私たちの研究室では昆虫の寄主選択に関わる植物の化学物質に関する研究を行っており、寄主探索や摂食行動を制御している様々な物質を特定している。例えば、イチゴハムシでは、寄主探索に関わる誘引物質だけでなく、試咬や摂食開始、連続摂食に関わる一連の摂食刺激物質までも特定しており、本種の寄主選択機構の一連の流れを物質レベルで解明することに成功している。寄主選択機構の一連の流れが物質レベルで明らかになっている昆虫種は少なく、昆虫の寄主選択機構を考える上での重要なモデルになると考えられる。
現行の害虫防除は主に殺虫剤散布に頼っているが、安全性や環境への負荷の問題から殺虫剤に代わる防除技術の開発が求められている。LEDは省エネ、長寿命光源として様々な場面での利用が期待され、農業分野では作物の生育制御や品質・収量の改善、害虫の行動制御などへの応用を目的に研究されている。光による昆虫の行動制御の研究は古くから行われており、誘引捕殺やモニタリング、低誘引照明、夜間照明による夜行性害虫の活動抑制などに利用されている。しかし、最近、開発され普及してきたLED光に関しては、まだ利用技術の確立が途上の状態である。LEDは日本が得意とする技術であり、今まさに、新たな改良、開発も進行中の照明である。この照明技術を上手く利用することで、これまでの光源と同様に害虫の様々な行動を制御することができれば、環境への負荷が少なく、省エネ型の新しい防除技術を開発できる。本課題ではLEDを利用してハモグリバエなどの重要害虫の行動を制御するための研究を行っている。