同窓会長就任にあたって
東北大学大学院農学研究科 阿部敬悦
東北大学農学部同窓会会員の皆様方におかれましては、益々、ご健勝のこととお慶び申し上げます。2022年3月に学部長・研究科長を任期満了で退任いたしまして、学部内ルールに従い、前会長の牧野周名誉教授の後任として同窓会会長の任を拝命することとなりました。微力ではございますが務めさせていただきますので、よろしくお願い申しあげます。農学部・農学研究科は、2022年4月より新学部長・研究科長である北澤春樹教授を中心とした新執行部体制で、国際化や分野融合などに果敢に挑戦する部局運営を通じて世界トップ水準の教育研究を目指しておりますので、皆様方のなお一層のご支援をお願い申し上げます。
2017年に農学部・農学研究科が青葉山に移転して、7年目に入りました。その間、2020年には世界的なCOVID19の感染拡大により、経済活動や市民生活の混乱が始まり、日本においても本年5月のCOVID19の感染法上の5類移行により、ようやく通常の市民生活が戻ってきたところです。一方で、2022年の2月にはウクライナ戦争が始まり、世界情勢の混迷が深まっている状況にあります。世界の農林水産・食品の市場は2015年の890兆円から2030年には1360兆円に成長すると予想され、特に人口増加の著しいアジア圏の市場は2015年の420兆円から2030年には800兆円に達すると見込まれており、成長の中心と言えます(農林水産政策研究所予測)。日本政府も世界市場の成長を我国の農林水産・食品産業の成長に取り込むべく、海外輸出政策を強化しておりますが、昨年のウクライナ戦争に端を発してエネルギーおよび食糧資源の国際調達は、サプライチェーンにおける国際分業の深化・偏在化もあって、大きな課題に直面しています。従来、国内の農林水産・食品産業は高齢化・少子化による労働人口の減少と産業自体の低生産性の問題を抱えており、国内産業としての課題と世界市場への挑戦という二つの大きな課題への対応を迫られている状況にあります。国内課題への対応では、スマート農業技術や農業における再生エネルギー技術の研究開発、CO2排出を抑制しつつ食品や化成品を生産するための技術開発、データサイエンスの農学領域での利活用が産官学の各所で進められており、社会実装が求められています。
これらの社会情勢に対応すべく、農学研究科では2022年度に大学院改組を行い、学部教育体制である生物生産科学科(4コース:植物生命科学、動物生命科学、海洋生物学、農業経済学)と応用生物化学科(生物化学、生命化学)の2学科6コース体制と連動させる形で、生物生産科学専攻(4基幹講座;植物生命科学、動物生命科学、水圏生産科学、農業経済学)と農芸化学専攻(2基幹講座:生物化学、食品天然物化学)の2大専攻体制に移行しました。それに伴い、農工連携を中心としたスマート農業や再生エネルギー関連の講義、知的財産とその産業の利活用に関する講義、英語による講義を新増設するなど大学院のカリキュラム改変も行いました。特に社会実装対応では、従来からある「附属複合生態フィールド教育研究センター」に加え、専攻横断的な研究センターとして、スマート農業や再生エネルギー活用・震災からの復興を担当する「次世代食産業創造センター」、2024年度に稼働する東北初の放射光施設ナノテラスの農学領域での産学連携活用を担当する「放射光生命農学センター」、抗生物質や合成農薬の使用低減に対応する「食と農免疫国際教育研究センター」の3センターが設置されました。全教員がこれら新設3センターのいずれかに所属する形で積極的に社会連携・産学連携を実施しております。
3センターを中心とした社会連携・産学連携活動では、研究科長直属の戦略統括部門に専属のUniversity Administratorを3名(1名は人事交流で農林水産省へ出向)、補佐員1名を配置して、戦略統括部門長(仲川清隆副研究科長)と共に3センターの運営メンバーと緊密に連携して連携活動や外部資金獲得活動を積極的に行っております。運営費交付金の減少に伴い、外部資金獲得は部局運営において極めて重要な課題となっていることから、戦略統括部門主導で学内外の産官学との多様な組織的連携によるプロジェクトの企画・実行能力の向上を図っております。公的研究資金、民間共同研究資金のみならず、寄付金も含めた外部資金獲得の面でも同窓の皆様方のご支援を賜りたくお願い申し上げる次第です。東北大学基金のHPに入っていただきますと、農学部・農学研究科への寄付のページ(http://www.kikin.tohoku.ac.jp/project/support_the_department/agri)がございますので、ご活用いただければと存じます。
2022年には農学部創立75周年を迎え、同年10月2日に青葉山新キャンパスにおいて創立75周年記念式典が挙行され、2022年度を通して3センター各々が75周年記念シンポジウムを開催し、学内外の多くの方々に参加いただきました。社会変化の速度が加速する中で農学部・農学研究科における教育研究や社会連携・産学連携への要請も大きく変化しており、これらの75周年記念事業を通じて、北澤研究科長の下で部局一丸となってスピード感を持って課題に挑戦する決意を学内外の皆様方に発信いたしました。同窓の皆様におかれましては、今後とも農学部・農学研究科に対する一層のご支援、ご指導を賜りますようお願い申し上げます。皆様のご健勝と益々のご発展を祈念申し上げ、新任の挨拶といたします。 2023 年 7 月 21 日