株式会社新越ワークス

木質ペレットストーブ開発の先行企業として市場を広げる―株式会社新越ワークス

株式会社新越ワークス 代表取締役 山後佑馬氏

執筆・中庭光彦(多摩大学経営情報学部)

左より、中庭、山後社長、新西、野坂

若手に重点を置いた早めの事業承継

 燕市の株式会社新越ワークスを訪れた。会社HPのトップページには、若手社員達の写真が配置され、仕事内容は、「金網の業務用厨房製品を中心としたスリースノー事業部、LPG燃焼器具を中心にしたアウトドア商品を開発するユニフレーム事業部、木質ペレットストーブの開発を行うエネルギー事業部」と書かれている。

 一見すると、業務用厨房用品、アウトドア用品、ペレットストーブと、幅のある事業ラインアップだ。

※ペレット:木質ペレットのこと。乾燥した木材を細粉し、圧力をかけて小さな円筒形に圧縮成形した木質燃料のこと。

 この新越ワークスを、2022年に現会長の父親から継承されたのが山後佑馬社長だ。

 創業は1963年で、山後佑馬さんの祖父が、金網のザルを製造する事業から始まった。そして、今ではアウトドア用品のメーカーとしても有名だ。

 山後佑馬さんが社長となったのは33歳、昨年のことだ。

 元々、父親の山後春信現会長は、「60歳でやめるから。デジタル化等を進めるためには、若い方が絶対にいい。特に、会社の中で社員主導で進めるためには、より話が理解できた方がいいから」と話していたという。

 一方、佑馬現社長は、車が好きで、大学で機械工学を学び、就活をしかけたこともあったという。そんな時に、春信氏は、ある会社からペレットストーブ事業を買収し、佑馬氏に「やらないか」と声をかけた。ペレットストーブは、電気も制御も使うし、未知の部分もある。そこに興味を惹かれ、新潟に戻ってきた。

「全部を自分の責任でやっていく覚悟があるかというと、それは無かった。」と当時を振り返る。

 続けて、「金網製品は自社製造できますが、キャンプ用品やペレットストーブなどは、地元企業に協力企業となってもらっている。つまり、協力企業あってわれわれがある。これが会社の考え方です。お客さんより、そちらを大事にしよう。お客さんは、われわれの商品を知ってくれれば何とかなる。でも協力工場は、一社一社違う技術をもっているから大事にしよう。先代の会長も、『協力企業が強くなければ、われわれは強くなれない』という考えがあります。」と言う。

 お客さんより、ですか?どういう意味か?

 この真意を分かるためには、新越ワークスのビジネスモデルを紹介しなくてはならない。

協力企業に製造委託する開発会社

 新越ワークスは、実に多くの商品を開発している。厨房で使われるような金網製品からキャンプ用品とアイテム数も多い。その商品は、専門商社に卸すことになる。

 燕には遠藤商事(株)、江部松商事(株)といった厨房用品の専門商社が立地している。 「ものづくり」の陰であまり耳にしないが、実は、燕は業務用厨房用品の集散地になっている。

 例えば、うどんやラーメンの麺の湯切り道具を商社に卸す。商社はその商品を、分厚いカタログに掲載する。そのカタログは、飲食店主が新規開店するのに必要なものを全部揃えて掲載しており、顧客はこうしたカタログから商品を選ぶことになる。

 新越ワークスは、BtoB、BtoC両方の商いをしているが、サプライチェーンは卸に頼っていることになる。一般的に、最近はネット販売に押され、卸売業は少なくなりつつある。しかし、ここの卸は活発だ。在庫管理を引き受けるのはもちろんだが、小売店やエンドユーザーへの営業も引き受ける。展示会出展の情報も提供してくれる。

 新越ワークスにも営業はいるのだが、その仕事は、商社や直接にエンドユーザーを回り、お困りごとなどの開発のヒントを聞いてくることだ。そして、社内に持ち帰り、解決のための商品開発・改良を行う。山後社長も言うように、開発に占める営業の役割は大変大きい。

 新越ワークスは開発・製造に特化することができる。

 したがって、アイデアを形にして商品化するには、協力企業との連携がたいへん重要となる。

 顧客は、商品が良ければ買ってくれ、使ってくれればリピーターにもなるという自信がある。それを可能にさせているのは、協力会社なのだ。

 山後佑馬社長は、「新越ワークスの協力会社で協新会という組織をつくっています。各社の代表がメンバーとなり研修やゴルフをやったり家族ぐるみで交流したりしています。取引先は100を超えるのですが、その内、15社程が加入しています。主力先として共にやってきた会社さんです。」と言う。時には、事業継承で子供がまだ帰ってこない、会社も無くすわけにはいかない、ならば、協新会メンバー同士で統合するか?というような話が出ることもあるそうだ。

 「メンバー同士の横の強いつながりがある。その信頼関係で手伝いあうという関係です」という。

 これが、協力会社に製造委託をすることで開発に特化できた新越ワークスの、ネットワーク戦略のあり方なのだ。

 燕三条地域には著名なアウトドア用品メーカーが数社ある。製造とは別に、問屋・小売会社をつくることもあれば、直営店を各地に展開する企業もある。この違いは、当然、製造段階での協力会社とのつながりにも影響を及ぼす。新越ワークスは、作ることに特化している。

自社よりもマーケットのパイを大きくすることの方が大事

 山後社長は「作るだけではなく、自分たちで販売も行う、つまり、メーカーが直販をすると、他のメーカーのお客さんを見られなくなる。それは、よろしくない。いろんなものを比べた中で、当社の商品が良ければ買ってくれればよいし、よそのメーカーが良ければ買ってくれればよい。業界がまだ小さいペレットストーブで言えば、当社製品が売れるよりも、業界全体で売れないと困る。全体のパイを増やすことが優先です。」と言う。ここに、新越ワークスの事業に向けた考え方が表れている。

 外部との協力を拡大すれば自社に戻ってくるという考え方は、新越ワークスのビジネスモデルを見れば合理的だ。それも、燕に動きの良い問屋とメーカーが揃っていることが、大きいのだろう。

ペレットストーブから森の課題解決へ

 ペレットストーブは、現在、国内全体で年間2,500台程度が売れる。新越ワークスのシェアはその中でトップだが、いかんせん、まだ市場のパイは小さい。そこで、市場を大きくする一つの手段として、ペレット利用の裾野を広げるためにペレットピザ釜を製造するといった多角化を進めている。

 「われわれは、ストーブを作りたいというよりは、ペレットストーブの普及が日本のエネルギー問題の観点から地産地消の促進につながるという理念をもっています。ペレット事業の創業者の考えもそこでした。新潟の里山が荒れ果てて腐っているのを見て、日本の林業や森の課題が見えてきた。」

 つまり、木が使われず循環しないため、森も荒れる。

 「その解決手段の1つとして海外ではペレットを使う商品が普及していた。そこで、当社もペレットストーブを開発したわけです。アウトドア用のペレットストーブも、3年前に作りました。煙突を伸ばすことができ、キャンプで煮炊きできる。キャンプ用の薪ストーブは昔からあったのですが、ペレットは無かった。ペレットの良い所は、持ち運びしやすいのと、薪みたいに水分のばらつきがあまり無い。だから初心者も使いやすい。そのメリットを活かしてもらおうと、キャンプブームの中で、ペレットの認知を広げようとしています。

 アウトドアメーカーで、ペレットを扱っているのは当社だけです。他の地域でもなかなか無いかな。

 ペレットストーブは、オーストリア、イタリア、カナダはものすごく強くて、あちらでは灯油暖房はあまり使わず、当たり前に木質燃料を使います。日本の地方のホームセンターでは冬に石油ストーブが並んでいますが、イタリアなどは逆で、お店に入ったらまずペレットストーブがあり、石油ストーブは一番奥で韓国製が並んでいる。国策として石油に税金をかけて、自国の森林資源を活用しており、昔から木質エネルギーを生活に使うことが根付いています。年間何十万台という単位で売られている。

 一方、日本は、木を暖房に使う文化は一旦衰退しました。私たちは、少しでもそこを取り戻したい。根底の考えは、そこにあります。」

 ストーブメーカーではなく、ペレット普及という理念がこの事業の創業者の理念でもあったのだ。

若手が引っ張る今後の動き

 山後社長に今後の展望をうかがうと、まずは持続させることが第一と話された後、「現在、当社には若い子がどんどん入ってくれて、20歳代が4割位です。そういう社員達が、やりがいをもって働き続けられる会社にしたい。とくに現時点で新しい事業をするということはないですが、新しい取組は進んでいるので、粛々とやっていきます」という。

 厨房用品・アウトドア用品メーカーと見える新越ワークスだが、木質ペレット製品の初期開発者でもあり、今後の日本市場での市場拡大にどのように対応していくのだろうか。結果として、業務厨房用品・アウトドア用品・エネルギー関連用品は将来に対して相乗効果をもったラインアップであることが納得できた取材であった。

(取材日:2023年9月6日)

UNIFLAMEブランド商品、手前正面がアウトドア用ペレットストーブ 

株式会社新越ワークス https://www.shin-works.co.jp/

一般社団法人日本木質ペレット協会 https://w-pellet.org/