三ッ谷電機株式会社 代表取締役 三ッ谷賢氏
株式会社シバデン 代表取締役 三ッ谷大氏
執筆者:野坂美穂(多摩大学経営情報学部)
左から、新西、三ッ谷賢社長、中庭、野坂
世の中にありそうでなかった商品や、かゆいところに手が届く商品を世に送り出してきた三ッ谷電機株式会社。HP(https://www.ginzado.ne.jp/~mitsutani/index.html)
を拝見すると、ユニークな生活家電、理容家電が紹介されており、なんだかワクワクする。
今回は、燕市にある三ッ谷電機株式会社(以下、三ッ谷電機と略称)代表取締役 三ッ谷賢氏と、その販売会社である株式会社シバデン(以下、シバデンと略称)の代表取締役 三ッ谷大(ひろし)氏にお話を伺った。
三ッ谷電機では、ニッチ家電、具体的には調理家電や理美容家電、生活家電、ペット家電を手掛ける一方で、OEMも請け負う。企画、商品開発、検査、梱包、発送を自社で行い、製造は中国のメーカーに委託して輸入している。そして、賢社長のいとこにあたる大氏が、別会社の「シバデン」でそれらの商品を販売する。
三ッ谷電機は従業員数12名と小規模ながら、その年間売上は2億を上回る(2022年6月時点)。一方、シバデンは、従業員数1名(大社長のみ)の会社にもかかわらず、年間売上は3億8800万円(2022年6月時点)。この二社の裏側には、超合理的なビジネスモデルが隠されていた。
もともとは、賢社長の父上が、ガラス管を口で吹いて膨らまして豆電球をつくっていた。父上のご兄弟である現会長(大社長の父上)は、東京で仕事をしていたのだが、しばらくして燕市に戻り、二人で一緒に電気関係の事業をはじめたという。三ッ谷電機株式会社としての創業は1968年(昭和43年)。近くには電器の商社があり、基板を組立てる仕事を請け負っていたが、あまり儲からないという現実に直面した。
1980年代に差しかかる頃、何か新しいことを始めたいと思っていた地元の洋食器関連の成型や金属加工の企業から声がかかり、タイアップする。ちょうどその頃はバブル期で、ギフト需要が旺盛な時代。ヒーターと電源コードとスイッチだけの簡単な家電製品をつくった結果、それがギフト商品としてのニーズにぴったりで、非常によく売れたという。今では軽薄短小な家電が好まれるが、当時は大きく重い家電はギフトとしての見栄えがよく、それが当たり前の時代。他にもグリルパンやたこ焼き器など、「つくれば売れる時代」を経験したという。
やがて金型や人件費などの高騰によって、タイアップ先の企業が中国から独自で輸入することになったため、三ッ谷電機はそこから自立の道を歩み始めた。
1998年頃(平成10年)に、三ッ谷電機が家電メーカーとして最初に手がけた商品は、ドライヤー。東京
の商社を通して中国で製造した商品を仕入れ、問屋や家電量販店に卸した。次に、当時は大手メーカーしか
手をつけていなかった超音波歯ブラシに目をつける。大手メーカーが高価格帯で販売するなか、三ッ谷電機
ではコストを下げて低価格での販売により差別化。この低価格戦略が、功を奏したかのように見えた。
ところが地場の問屋は、洋食器やキッチン用品の営業には強いものの、家電製品の流通にはめっぽう弱い。そして、三ッ谷電機の商品の在庫が滞留してしまう。苦肉の策として、当時の流行であったラジオショッピングで売ってみてはどうかと、物は試しで始めてみたら大ヒット。月に2~3万本ほど売れたという。ラジオショッピングのお客さんは「手ごろな価格」を求めており、ブランド名やメーカー名にこだわりはない。このことからラジオショッピングや通販は、三ッ谷電機の商品と馴染みが良いことが三ツ谷社長には分かってきた。そこから最終的には、2004年頃よりECサイトなどのインターネット通販に舵を切る。
今度は、インターネット通販だけで売れていく商品を開発していこうという流れになるが、大手と同じような商品であっては勝ち目がないので、三ッ谷電機では大手が参入しないニッチ調理家電、理美容家電を販売するという「大手と競合しない戦略」をとった。
三ッ谷電機の商品は、基本的には問屋には卸さない。「えっ、なぜ?」と不思議に思うところであるが、
それには明確な理由がある。
一つ目は、価格競争に陥らないで済むこと。
「これまでは問屋に卸していましたが、3か月から半年経つと、問屋やバイヤーからす
れば既存の商品は過去のものとなり、すぐに新商品を要求されます。しかし、自分達で売るとなれば、消費者からすればどれも初めて見る新商品であるため、値段が高くても売れる。確かに問屋を通した方が絶対数は多いでしょうが、それだと商品のライフサイクルが速く、次々と商品を投入しては、値下げの繰り返しとなることが見えてきたんです。であれば、ネット通販を自分達でやろうと15年くらい前に舵をきりました。」(シバデン 大社長)。
とはいえ、小売りからの需要は多く、ECサイトのランキングで商品が目立つようになると、「うちも仕入れたい。」と毎日のようにメールが来るそうだ。ビジネスチャンスではないかと素人の私は思うのだが、基本的にはお断りするというスタンスらしい。
二つ目は、ECサイトで購入したユーザーからのレビューを商品の改良に反映できること。
「ECサイトだと『商品レビュー』でお客さんの声が直接分かるので、それを改良に反映させるという、小回りが利くことがECサイトの最大の魅力なので。それは、問屋さん通すとそういう声は全然分からないじゃないですか。なので、問屋さんに卸さなくてもいいかなと。」(シバデン 大社長)。
ユーザーからのダイレクトな声を真摯に受け止め、改良に努める。最も合理的な方法だ。そうした地道な努力によって、売り上げを伸ばしてきたのだろう。
また、ECサイト以外の「Makuake」(マクアケ:クラウドファンディングサービス)などにも一部の新商品を出し、市場調査を行う試みも行われている。
さて、三ッ谷電気の家電は、具体的にはどのような商品なのか。まだ、ホームページを見ていない人は知りたいところだろう。社長自ら棚に並べてある商品の幾つかを紹介してくれた。
「20年ほど長く売れ続けているのは、家呑みに最適な焼き鳥コンロの『焼き鳥屋台』。団塊の世代が大量に退職するという頃に、東京に出張にいくと品川の踊り場で、仕事帰りのサラリーマンが缶ビールをキオスクで買って帰るという光景を目の当たりにし、こういう人たちが退職したらどうするのかなと思ったことが商品アイディアのきっかけ。家で簡単に焼ける商品をつくれたらという想いで企画がスタートしました。焼き鳥は電子レンジで温めても美味しくなく、ガスコンロで焼いたら串が焦げてしまうといった問題がありますが、それを解決した商品です。」累積では、30万台以上も売れたヒット商品だ。
特にコロナ渦では、家呑み需要が増えたことで一気に売れ、メディアでも紹介されたそうだ。また、東京の高級焼き鳥屋で使用されている食材と焼き鳥コンロをセットにして販売するというOEMの企画依頼も舞い込み、それは3万台以上も売れたという。
次に紹介してくれたのは、「携帯用ミルクウォーマー。」
「液体ミルクを温める商品ですが、日本が液体ミルクを認可した年があったんですね。液体ミルクで調べて
みると、温め方に困っているユーザーがわりと結構いて、温められるものがないかというものを開発して。
世の中の流れとマッチするんだけど、実際の商品としてはまだ世の中にはないもので、困っていることを助
けようかということです。」まさにかゆいところに手が届く商品である。
ところで、こうした商品アイディアは誰が考えるのかを聞くと、なんと三ッ谷電機の賢社長、会長、そしてシバデンの大社長の3人のみ。「3人寄れば文殊の知恵」というが、商品開発部もなければ企画部もない。
かつては、中国の商社に日本で売れそうな商品を見つけてもらっていたそうだが、今では賢社長自らが、アリババなどの中国のECサイトで商品を探し、商社に間に入ってもらい、中国メーカーと詳細なやりとりをする。中国の既存の商品を少し改良したものを販売する場合には、プログラムを書き直し、日本に合うようにカスタマイズする。一方では、ゼロから商品企画を考え、自社で金型を出すこともあるという。パッケージは全て自社でつくる。商品開発においては、その時のニーズに時流にあったモノを開発するという点で、スピード感が一番大事だという。
消費者目線でみると、三ッ谷電機の商品はデザイン性も操作性もシンプルだ。その点を聞くと、ネットで買うお客さんは40代~60代が多いこともあり、もともとの商品をカスタマイズして無駄をそぎ落としているという。ちまたの家電製品の多くは、余計だとさえ思わせる付加的機能がついてるが、その流れと逆行する三ッ谷電機の商品は「シンプル」であることで使い手に配慮している点が魅力的だ。
「ユニーク」×「シンプル」。これこそが、三ッ谷電機の商品の真骨頂といえるだろう。
中国は、燕と同じで、箱や成型や金型までと地区の工業団地にすべて整っているため、足りない部分は工業団地内で探すことができる。三ッ谷電機と中国で取引している商社があり、日本語ができ、絶対的な信頼のおけるスタッフがいるので、その人を通じて中国企業とやりとりをしているそうだ。だが、中国とのやりとりには、言語も距離も多少のハードルがあるだろう。
「基本的なやりとりは、スマホでします。アリババのサイトから中国の商品を探して、それをつくっているメーカーとWe-Chatで連絡をして、やる気があれば向こうから返信があります。今は、携帯で翻訳してできますし。中国に滞在している商社がおり、中国人のスタッフがいるので、細かいことはその人に任せたり。流通のことになると、ちょっと難しいので。最近は理解力のある良い中国の会社もあり、そういう会社は日本語もできますし、日本の会社よりもすごく気が利くこともあります。こっちが言わなくても色々と用意してくれます。」(三ッ谷電機 賢社長)。
商品探しは、中国のECサイト。相手のやりとりのツールは、スマホ。だから、頻繁に中国へ足を運ぶ必要はなく、年に3回くらいの出張ですむそうだ。これまた、合理的である。一方では、地場の企業とはあまり関係がないという。ただ、燕にいるからこそ、金型の日本の相場も分かるし、ノウハウや知識もあり、相談相手もいる。
賢社長にはご子息がいらっしゃるが、今のところは「継がない」ことになっているそうだ。社長ご本人は、事業承継については血縁などには特にこだわらないという。ただ、三ッ谷電機らしいユニークなアイディアを生み出す力や、新しい商品を探す目利きの力は、誰にでも真似できることではない。また、中国を相手に取引することも体力が必要であり、これも誰にでも真似できることではない。そう思うと、賢社長には現役であり続けていただくしかないだろう。
今後、三ッ谷電機の超合理的ビジネスモデルは変化していくのだろうか。VUCA時代を生き抜くのに耐えうる堅牢なビジネスモデルなのか、あるいは、新たなビジネスモデルが求められる時がやがて来るのだろうか。引き続き、注視していきたい。
後日談:
焼き芋に目がない研究仲間の一人が早速、三ッ谷電機のOEM開発による焼き芋メーカー「UMAIMO(ウ
マイーモ)」を購入し、私たちにふるまってくれた。80℃で30分、200℃で30分~50分(芋のサイズによ
る)の二段階焼きだ。スイッチ一つで、できあがる。
芋の品種は、マロンゴールド。ほっくほくで甘みが強く、なんとも味わい深かった。
焼き芋メーカー「UMAIMO(ウマイーモ)」(左)で焼いた、焼き芋(右)ウマイ!