キャプテンスタッグ
株式会社

徹底した顧客志向の商品開発力と
圧倒的なアイテム数に強さあり

キャプテンスタッグ株式会社 代表取締役社長 高波文雄氏

執筆者:野坂美穂(多摩大学経営情報学部)

  左から、新西、高波文雄社長、野坂、中庭 

 燕三条といえば「金属加工業」であるが、実は「アウトドア用品の聖地」ともいわれるとおり、多くのアウトドアメーカーが立地する。
 
 その中の一つ、「キャプテンスタッグ(CAPTAIN STAG)」をご存知だろうか。アウトドア好きには浸透しているメーカーブランドであるが、たとえ知らなかったとしても、家の中を探してみると何か一つくらい商品が出てくるかもしれない。というのも、野外イベントで、ふとテントに「CAPTAIN STAG」というロゴがさりげなく入っているのを見かけたり、一緒に取材にいった同僚は、「そういえば、うちのクーラーボックス、よく見たらキャプテンスタッグの商品でした。」と言っていたからだ。そのくらいキャプテンスタッグの商品は、我々の身近なところにあるようだ。一方、愛好者からは、使いやすいうえに手ごろな価格の割に高品質であることで定評がある。

今回は、キャプテンスタッグ株式会社 代表取締役社長の高波文雄氏にお話を伺った。名刺交換の際に、「社長の高波と申します。キャプテンスタッグをよろしくお願いします。」と満面の笑みでおっしゃったことが印象的だ。

 2012年に、アウトドア用品の「キャプテンスタッグ株式会社」を設立。現在は、パール金属株式会社の下に、キッチン用品は「パールライフ」、アウトドア用品は「キャプテンスタッグ」と別々に事業運営している。キャプテンスタッグの事業内容は、アウトドア用品の企画・開発・製造・流通・卸・販売である(注1)。 


キッチン用品からのスタート


キャプテンスタッグは、アウトドア用品の総合ブランドである。しかし、創業時はアウトドア用品ではなく、キッチン用品から始まっている。

1967年に「パール金属株式会社」を長兄の高波久雄氏(現会長)とともに設立。もともとは、久雄氏が4年間ほど東京の問屋で修行していたが、その修行を終え、燕三条の商品を仕入れて自ら東京で売り始めたという。競合他社も多い中、ただ東京に持って行くだけでは面白くないと、キッチン用品の商品開発を自社で始める。

 そんななか、パール金属で大ヒットした商品が、お玉やフライ返しなどの持ち手にバラ模様が描かれた「マダムハイラインシリーズ」(1970年代)。この大ヒット商品を機に、全国への販売ルートが確立していったという。そういえば、我が家にも祖父母の家にもバラ模様のキッチン用品があったことを思い出し、「なるほど、あれね。」と懐かしさを覚えた。


渡米をきっかけにアウトドアグッズを展開


 1975年、高波社長の渡米をきっかけにアウトドア用品の事業に参入する。渡航先のアメリカでは、見本市やホームセンターへの視察、公園や庭で人々がバーベキューをしている姿を見て、「これはすごいな、日本でやったら面白いだろうな。」との想いを胸に、1年後の1976年に帰国。当時はまだ、バーベキュー文化が日本に入ってきていない時代。そこで社長は金網の玄関マットを改良し、試行錯誤を重ねながら「ジャンボ バーベキューコンロA型」を同年に開発・商品化した。


 そこから、アウトドアグッズの展開が進む。蚊帳から発想を得たメッシュ製のテントや、座卓の低さとテーブルの高さに調整できる2WAYのテーブル、ローテーブル、メッシュ構造のビーチテント、小型ガスバーナーなど、既存の商品に一工夫加えたオリジナル商品を次から次へと生み出してきた。それらの商品は、「キャプテンスタッグといえばこの商品。」と顧客にいわれるほど、「らしさ」が定着している。今や、折りたたみ自転車や電動自転車、自転車のパーツ、そして今年から努力義務とされる自転車のヘルメットまでも取り揃え、もはやキャプテンスタッグに「ないものはない」。

社長自らによる体験と顧客との共創

 キャプテンスタッグの強みは、なんといっても徹底した顧客志向の商品開発力と圧倒的アイテム数の多さだ。キャンプ・レジャー用のアイテムは、常時1万5000点ラインナップしている(注2)。他とは一味違うオリジナル商品が次々と生み出されてきたのは、高波社長自らの体験によるものである。

 「まずは自分が(アウトドアを)体験して、あれこれ考えます。やはり自分で体験しないと分からない。そして、人の意見も聞きながら改良していくことが、根本的な商売のやり方ですね。お客さんがもっとああしたい、こうしたいと色んなことを言うわけですよ。言ったことを上手くアレンジしてやればいいわけで、私も何回もキャンプにいって、あれが欲しいこれが欲しいという状態で商品をつくります。」(高波社長)


 高波社長は、若い頃から営業で日本全国を駆け回りながら顧客の声を聴き、それに一つ一つ応えていくことで実績をあげてきた。だからこそ、営業マンや社員にも、「(小売の)お客さんに言われることをやればできるわけだから、お客さんの話をちゃんと聞きなさい。」と繰り返し言う。社長自身の体験と顧客のニーズに徹底して応じること。おそらくどちらが欠けても、キャプテンスタッグのオリジナリティは生み出されないだろう。

 一方、最近では、YouTuberが商品づくりや商品の改良に一役買ってくれているという。例えば、B6サイズの小さな卓上グリル。それをキャンプ好きのYouTuberが、100円均一などで部品を買い、自分が使いやすいように手作り的に改良する。このような動画を見て、キャプテンスタッグの商品にフィードバックさせ、改良を重ねる。これに加えて、昨今はアウトドアブームということもあり、YouTuberの発信する動画を見て、キャプテンスタッグの商品を購入する人も多いそうだ。このように、YouTuberは商品開発と需要の喚起に大きな影響力を持つ。

ここまでで、キャプテンスタッグは小売店の顧客ともユーザーとも共創しながら商品を生み出していることが分かる。

おひとりさまキャンプにも最適なB6サイズの卓上グリル 

難しくてもつくる、ないものはつくる


高波社長は、たとえどんなに研究開発が難しい商品でも、不屈の精神でそのハードルを越えていく。1990年代のガスコンロを開発時には「素人にはできるわけない。」と日本ガス危機検査協会にいわれたが、1年間かけて研究を重ね、厳しい検査をクリア。今度は小型ガスバーナー「オーリック シングルバーナー」を開発し、キャプテンスタッグの看板商品として累積で200万~300万個ほど売れ続けているという。


「だいたい、『こうするように。』といっても難しいわけですよ。難しいけど、それを必死になって図面を書いても工場が難しいといって、結局、金型を5~6個変えたという場合もあります。」(高波社長)。このようにして、普通では不可能と思われる一枚絞りのコップさえも商品化した。


そして、「ないものはつくる」という信条。毎年の新商品開発点数は、なんと約2000アイテム以上。多くの企業では、数十~数百ものアイディアのなかから1つ商品化されれば良い方だろう。だが、キャプテンスタッグでは、全てのアイディアに高波社長が目を通し、ほとんどボツにならずにいずれは商品化されるという。ほぼ毎日目を通し、とにかくスピードが速い。社長がつくりたいと思った商品は、何年かけてもつくるのが基本方針だ。これほどに、社長自らが商品開発にコミットする企業が果たして他にあるだろうか。

こうした豊富なアイディアを形にする商品開発の要は、「プロダクトデザイン」、「パッケージデザイン」、「品質管理」の三つの部署である。

「私はいつも社員に、『チャレンジ。挑戦せい。』といっています。要するに、何でも自分がやりたいものをやれ。やる以上は、自分が考えたんだから、売れるように努力せい。といっています。「挑戦と努力」、これが基本です。チャレンジしないと分かんないじゃん。何せ、考えが出てこない人間はダメだ。」(高波社長)。

ただ一つ気がかりなのは、アイテム数の多さゆえの「在庫」であるが、キャプテンスタッグには大規模物流ステーションがあるため、社長自身はあまり在庫を気にされてないそうだ。現在は、アウトドア用品とパールライフのキッチン用品も含め、第1~第8流通ステーションがある。比較的地価が安いであろう「三条市」という土地だからこそ、こうした大規模倉庫を設けることができるのかもしれない。それでも毎年、数百アイテムが商品化されるなかで、大規模物流ステーションを増やし続けるわけにはいかないだろうから、今後、どのように在庫管理をされていくのかは気になるところだ。

     1997年以降売れ続けている小型ガスバーナー

「つくる」だけでなく「売る」ことも強化

 アイテム数をどんどん増やして何でも揃うキャプテンスタッグであるが、今度は「つくる」だけではなく、「売る」ことにも着手。

1995年3月に、アウトドアショップの1号店「WEST 新潟店」を設立。そこには自社製品だけでなく、競合メーカーの製品までも棚に置かれ、「お客さんが欲しいものは何でも揃う」といった顧客目線の店舗づくりがされている。

2号店の「三条店」(1998年)には、フランス製の可動式ロッククライミングが併設されており、有料で体験することができる。地元の人たちだけではなく、全国各地から選手たちもこぞって来るという。

そして、3号店の上越店(2011年)には、カフェをつくり、その効果によってアウトドアファンでない人も顧客となり、店舗の売り上げが伸びたそうだ。このことから、4号店の「長岡店」では、結婚式の二次会ができるほどのカフェスペースに拡大。

このように各店舗にはそれぞれの特色があり、顧客の心をがっちりとつかんでいる。「とにかくお客さんが楽しんでくれればいい。」という高波社長の気持ちが表れているようだ。

WESTには他社ブランドも取り揃えていること既に述べたが、ある時、お客さんから「キャプテンスタッグの商品どこに売っていますか?」と聞かれ、答えられないということがあったそうだ。そこで、キャプテンスタッグの商品だけを取り揃える店、「キャプテンスタッグ スタンド店」も全国に展開した。このように、アウトドア全般が好きな顧客向け店舗「WEST」と、キャプテンスタッグのコアの顧客向けの「スタンド店」とで棲み分けられている。

 

 

熱狂的なファンの存在

「私ね、鹿番長の「番長」といわれているんですよ。」という高波社長。一瞬、何のことか分からなかったが、その名の通り「CAPTAIN STAG=鹿番長」の「番長」というわけである。この「鹿番長」は、ネット上で誰かがネーミングしたらしいが、どうやら熱狂的なファンがいるようだ。

CAPTAIN STAGというロゴと牡鹿のマーク。キャプテンスタッグのブランドが、どれほど世間に浸透しているのか、アウトドア業界に疎い私には正直よく分からないところがあった。実際には、雑誌社や某大手小売店、大手家電量販店などの多様な業種の企業から、CAPTAIN STAGのロゴの入ったノベルティやコラボ商品の依頼が多数くるなど想像以上に浸透している。

また、この熱狂的なファンは顧客だけではなく、社員もそうだ。キャプテンスタッグには、アウトドアが大好きな人間が集まっている。社員も一ユーザーであるから、ユーザー目線からの商品やイベントの様々な提案をする。そうした提案によってできた一冊に、『WESTとつくったNIIGATAキャンプ本』がある。新潟にある100のキャンプ場を社員がモデルとなってアウトドア用品とともに紹介した本であり、大変好評で第一弾(2021年)は既に売り切れ。第二弾として、「2022-2023年バージョン」が発刊された。インドアな私でさえ、「ちょっとキャンプをやってみようかな?」と思うくらい充実した内容である。また、少し驚きだったのが、地元の競合メーカーの商品や歴史も本の中で紹介されていたことであり、キャプテンスタッグが実にオープンな企業であることがうかがえる。

商品だけではなく、イベントや体験を通じて、ファンでなかった人たちも次第にファンになっていく。また、ファンを大切にし、ファンである顧客との長期的なリレーションシップを築き上げながら、企業と顧客が共に価値を創造していく。キャプテンスタッグはそんな企業だ。

読み応えのあるキャンプ本