株式会社極東精機製作所
株式会社極東精機製作所
鈴木亮介氏 株式会社極東精機製作所代表取締役社長
執筆・中庭光彦(多摩大学経営情報学部)
左より鈴木亮介社長、中庭、新西、樋笠、野坂
極東精機製作所の鈴木社長と最初にお会いしたのは、昨年12月、ハネダピオで開かれた「第2回ベンチャーフレンドリー塾」の場だった。そこで (株)グーテンベルク社長の李丞株さんが、自ら開発した日本最速の3Dプリンターをプレゼンしている横で、鈴木社長と有限会社安久工機常務取締役の田中宙(ひろし)さんがサポートして、というよりは一手に引き受けて質問に答えていたのが印象に残った。3人共30歳代前半位。
話のキモとなる点は、日本最速の3Dプリンター。ベンチャーフレンドリーPJで実現したもので、トヨタからも問合せがあったという。これは凄い。
今回の取材によると、写真の猫バスの置物。これ普通の3Dプリンターでは出来上がるまで40時間かかるのだが、このプリンターを使うと5時間で出来てしまい、ラピッド・プロトタイピング(rapid prototyping)の世界では開発が進みやすい、と高評価を受けているという。
このようにイノベーティブな製品を生み出してしまう、それぞれ異なる若い企業者が組み合わさる「ベンチャーフレンドリーPJ」では、何を目指そうとしているのか。大いに興味をそそられた。
グーテンベルク社製の3Dプリンターでつくった猫バスの置物
鈴木亮介さんが社長を務める極東精機製作所は、設立が1947年。創業当初は鈴木工業所という名で、大砲のノズルをつくっていたという。難しいモノの切削加工を得意とする町工場で、今は部品加工だけではなく、最終製品である「美顔器」等を、顧客と共同開発する多角化も進めている。鈴木亮介さんは、創業者の鈴木福男さんの孫に当たる、現在33歳。高校時代は3回停学くらったというが、卒業後中国に留学。2008年のリーマンショック後に入社して、2018年専務、2021年に三代目社長となった。
最初に手をつけたのは、補助金に応募して新しい機械を購入したこと。その機械についていけずに辞める人もいるし、青二才に指図されるのがイヤで辞めていく人もいたという。一方では、高校の同級生に入社してもらう等、社員の若返りを図っていった。
おもしろいのは、技術の無い新入りの従業員には、製造をしながら営業も課したことだ。営業も行うと、顧客を変えていけるし、客先で先進的なやり方を教えてくれる職人と仲良くなって、そこから資材を通して新しい仕事を獲得したこともあったという。
こういう動き方は、昔からの工員には想像できなかったのだろう。鈴木社長は「工場にいる人は、ほとんど外に出ません。僕が確信していたのは、機械加工というのは技術ではなく、知識量と経験知で決まってくる。特に知識量が大事だと思った。なぜなら、機械が数値制御されているので、腕が器用とか不器用とかは関係無い」。
この割り切りに違和感を感じる人はいるかもしれない。しかし、実際には製造機器の高度化・数値制御化で、求められる人材も変わってきている。
冒頭に紹介したグーテンベルク製造の3Dプリンターは、鈴木さんや田中さんによるベンチャーフレンドリーPJのサポートがなければ生まれていなかった。
ベンチャーフレンドリーPJとは、鈴木さんの考えでは「ちゃんと作れる会社がニコイチになって、新たなプロダクトを生み出す。それだけですごい価値がある」。現にグーテンベルクが、プリンターの開発資金調達で苦労している時、極東精機製作所の信用を供与している。
とはいえ、3Dプリンターを開発するのは技術者だ。「李さんを始め、必要な人材は全員ツイッターでつかまえた」という鈴木さんには、驚いた。
話はこんな感じだ。
「3Dプリンター界では、3Dプリンターが寝ても覚めても好きで、自分達で作れてしまい、神様扱いされているような人が5人いた。彼ら全員をつかまえて製造したら、世界最強のプリンターができた。要は、DIYのように作っていたものを、工業の本当の力で製品に昇華させたのが、今回のケースで、かなりのものができることがわかった」。
スマホネットワーク時代、ある水準のR&D技術者をSNSで集める。信用を過大視する大企業に、この動きはできないだろう。
極東精機製作所が大切にしているルールをうかがってみた。即答されたのは「遅いのは悪、早いのは善。遅さはゼロがあるから限界がありますが、早さは無限です。世の中、遅い奴が負けるに決まっているので。これは結構浸透しています」。
「だから」と続けて、「社員の待遇はいいですよ。年3回ボーナス出しています。製造業で、考える仕事で、早くすれば、儲かるんですよ」。
この早さは大変重要だ。早くたくさん製品をつくって、たくさん失敗して、その中から成功パターンを選択していくのがイノベーションに向けたデザイン思考の考え方だ。理に適っている。
鈴木社長は「開発が大事なんです」と何回も話された。生産工程を集約して生産性を上げる、早く開発する・・・従来の受注関係に安住して「今まで通りが安心」と思っている町工場が多い中、「早さ」によるイノベーションを生み出そうとする鈴木社長の考え方・動き方には、中小企業が儲かるデザインのヒントがいくつも埋め込まれている。
(取材日:2023年3月13日)
極東精機製作所外観。この日は雨でした。
株式会社極東精機製作所 https://www.kyokutouseiki.co.jp/index.html
株式会社グーテンベルク https://gutenberg.co.jp/
有限会社安久工機 http://www.yasuhisa.co.jp/index.html