小池雄太氏 株式会社小池製作所代表取締役社長
執筆・新西誠人(多摩大学経営情報学部)
左より、樋笠、新西、小池社長、中庭、野坂
小池製作所の小池雄太社長に初めてお会いしたのは、大田区産業振興協会が開催した「自社商品のつくりかた勉強会(2023年3月)」の場だった。その勉強会では、数十人の参加者が、6~7人ずつテーブルに分かれてワークショップを行った。この時、小池社長と同じテーブルになった。
テーブルについた参加者それぞれが自社の紹介をしたうえで、自社商品のアイデアを出し合う機会があった。小池社長に対しては、その語り口から、物腰が柔らかく謙虚な人であるという第一印象を受けた。しかし、話し合いの結果をテーブルごとに発表することになった時には、自ら発表者を申し出て、議論しあった自社商品のアイデアを積極的に語る姿勢が強く印象に残っている。
小池製作所の創業は1957年。税務署職員だった小池社長の祖父が税務署を退職し、「板金加工」を始めた。鉄道会社などのお客さんの要望を受けて、板金だけでなく、メッキや塗装、溶接などまで事業を拡大し、今年で66年目に入る。現在の主力事業は、船舶用レーダーの製造と金属加工である。
特に船舶用レーダーの製造では、レーダーの性能を決める「導波管」の製造技術に強みを持つ。導波管は、電波 を管内から、スリットを通して伝送するために用いられる。このスリットの製造精度がレーダーの性能を左右する重要な部品である。同社はこの導波管の製造技術に強みを持つ。しかも、曲げた状態の導波管の製造については「他社はできないと思う」とこともなげに言う。
同社のもう一つの強みは、協力工場を駆使して、他社では尻込みしてしまうような、技術的に難しい依頼もこなしてしまうことだ。この強みは、同社のパンフレットにも現れている。パンフレットの中に協力工場の設備一覧が出されており、金属加工のカバー範囲の広さをアピールしている。
一方では、協力工場を使っていると、ノウハウを取られてしまうのではないかという素朴な疑問を持つ。これに対抗するのが、「営業力」だ。自社の技術にこだわりたい製造業者が多い中、同社では積極的に営業をかける。しかも、納期や価格低減、品質についての要望をなるべく受け入れることで顧客に寄り添って製造する。
創業者の祖父からは、物心ついたころから跡を継ぐようにと言われていたが、先代の父(現会長)は、小池社長に「好きなことをやれ」と跡を継ぐようには言わなかったという。そのため、小池社長は「ITで世の中を良くしよう」と、大学に進学して経営工学を専攻し、卒業後はシステムエンジニアをしていたという。しかし、母親の病気をきっかけに、1年前に35歳の若さで三代目社長に就任した。
システムエンジニアだったことを活かして、自社のホームページを作ったり、SNSを始めたり、社内向けシステムの構築をしたりと、社内の変革を進めている。一方で、ソフトウェア業界からハードウェア業界への転身は容易ではなかったようだ。システム設計とハードウェア設計は、全くの別物。小池社長は一から学びなおしたという。さらに、ソフトウェアは自分で作ることが多かったが、ハードウェアは協力工場を使うことも多いので、自分で手を動かせないが故のむずがゆさもある。
この転身により、仕事を通じて奥ゆかしさを身に着けたという。今でも、一から学びなおすという謙虚さから、勉強会などにも積極的に参加する。そこで他者と交わることで、自分自身の凝り固まった考え方に気が付くという。オンリーワンの技術についても、「(自分ではなく、)祖父や父が頑張ったからだけです」「担当者がすごいんです」と謙虚に受け答えする姿は、自社を客観的にとらえていることを伺わせる。
事業承継を進める一方、会社内の世代交代は、今後の課題になるだろう。社員16人の中で、小池社長は下から2番目の年齢だという。社内のキーマンは、創業者の弟である80代の専務。ものづくりに対する圧倒的な専門知識と業界知識を駆使した営業力を持つ。加工について豊富な知識を持つため、顧客の間でも「ファン」ができるほどの存在だという。しかし、いずれ引退の時を迎えるだろう。今は、その専務から営業を学んでいるという。
小池製作所は、先代の頃から長らく働いている高齢の職人によって支えられているが、今年、同社では初めて高卒を対象に求人も出したという。社長自身も30代半ばと若いことから、このような世代間のギャップをどう埋めていくかも課題の一つである。
この先、事業をどのように進めていくのだろうか。小池社長は(1)既存のお客さんを大切にして他の仕事も紹介してもらう。(2)今ある技術を活用した新規お客さんの開拓。(3)新規事業(新商品の開発)―の3つのビジョンを描いている。
(1)(2)について、将来は、協力工場のネットワークを駆使した調達力を基に「ここに任せれば全部できる」という、お客さんに寄り添った「つくれる商社」を目指したいという。
特に積極的に力を入れているのは(2)の、新規のお客さん開拓である。三代目に就任してからは新たに展示会へ出展をしたり、ホームページの作成などをしたりなど顧客開拓に余念がない。実際に、ホームページからは毎週のように 問い合わせがくるという。
(3)の新規事業については、東京都中小企業振興公社が企画する「売れる製品開発道場」に参加して、新規事業を検討している。インタビューを行った社長室兼応接室には、新規事業を検討するためのマトリックス表があり、そこにびっしりと付箋が貼られていた。
もちろん、新規事業は、一筋縄ではいかないだろう。その難しさを認識しつつも、「新商品をなんとか世に出したい」という社長の強い想いを感じた。
オンリーワンの技術を有し、協力工場のネットワークを持っており、今後も安定的に発展していくポテンシャルを持っている。その状況において謙虚に学び続けている三代目が、この先どんなイノベーションを起こしていくのか楽しみだ。
(取材日:2023年6月15日)
小池製作所外観。
株式会社小池製作所:https://koikeseisakusyo.co.jp/