三条信用金庫 常務理事 長谷川宗克氏
三条信用金庫 地域経済研究所 常勤理事 渋谷恒夫氏
執筆・新西誠人(多摩大学経営情報学部)
前列左より、渋谷常勤理事、長谷川常務理事 後列左より、新西、野坂、中庭
イノベーションの実現のために、「資金」は欠かせない要素の一つである。地場の金融機関が果たす役割は小さくない。燕三条地域唯一の地場信金である三条信用金庫でお話を伺った。
燕三条全体で見ると、金物の製造に強みを持ってきた。昔ながらの職人気質で、作ることに関してはトップレベルの技術を持っている。しかし、世代交代をできる企業、できない企業がどうしてもある。特に後継者問題が深刻であり、定番商品であっても、月に2~3品が廃盤になるケースもある。
力のある企業は、人員不足には、設備を入れて自動化して対応したり、下請けの技術ごと事業を吸収する場合もある。そういう意味では、事業承継においても二極化が進んでいるとのことだ。
燕三条を燕と三条で分けると、燕は総合商社が強く、製造工程が専門に特化している。一方、三条は金物卸が強かったが、今や卸がほとんどなくなってきている。昔は、月の半分は出張して売ってくるという卸が多かったが、その形態が成り立たない。そこで、先進的な製造業の社長は、オープンファクトリーやBtoC商品などに販売をシフトしている。自前で東京に販路を作ったり、ネット販売や海外に向けて販路を広げている。
このような状況下で、信金ならではの課題解決を提供するため、事業マッチングに力を入れてきた。例えば外注先がなくなったとか、外注先に断られたとか、そういう場合のマッチングは昔から行ってきた。最近は、金融機関経由のマッチングサービスであるBig Advance(ビッグアドバンス)も提供している。これは契約すると、全国規模でのマッチングが可能だ。実際、昨年度はニーズの登録が72件あり、そのうち5件が成約したそうだ。
また、ビジネスフェアなども行っている。新潟県下の信用金庫で個別相談会も開催する。親近主催のビジネスフェアや当地で行う他業種のフェアなども紹介する。
当地はものづくりの町でもあるので、M&Aも地域経済・産業を考えると地元同士の結びつけが理想だという。
自社が弱体化して困ったという話は、職人の町の人は決して言わない。だめになっていると思われるのを嫌うのだろう。だが、財務的なものが弱っているのはわかる。そこで金融機関として、融資や経営サポートという形で財務内容から見直して、経営計画を立てることも支援している。これは形式を整えることを支援するだけではなく、実行を伴うようにするために一緒に取り組むものだ。とはいえ、サポートするといってもなかなか見向きしてくれなかったのが現状だ。最近は、だいぶ変わってきたのを感じるという。
今、燕三条地域の製造業の一番の課題は「人材」だ。人材マッチングも行っており、成約率が高い。例えば、取引先が倒産したせいで、そこを頼っていた卸売業者が困ったことがあった。専門性の高い人を求められて、地元に強い人材紹介会社に求人を出してみたところ、地元出身でUターンを希望し、専門性を持った人が応募してきた。こういう人材マッチングは、一企業だけでやろうとしてもなかなか難しいのではないか。
燕三条の産業は、ものづくりが主であることは変わらない。事業者数は集約されていくものの、なくなることはない。むしろ、M&Aなどを当地で行い、集約することで生産性を高めることができる。信用金庫は企業に入り込み、深く内情もわかっている。燕三条唯一の信用金庫だからこそ、地場の産業に対してコンサルやマッチングを進めていきたいという。
(取材日:2023年9月6日)