2年ぶり開催のNAGOYA SOUND PRESS SHOW それぞれの個性に魅了された贅沢な時間

今までにないスタイルで名古屋から素晴らしい音楽を発信するイベント「NAGOYA SOUND PRESS SHOW」。

2020年よりスタートし、3回目となる今回は2年振りに名古屋市公会堂・大ホールにて開催された。阿部真央・岡崎体育・Omoinotake・TOMOO・マハラージャンの5組が集まり、それぞれの個性を発揮したステージングが繰り広げられた。


トップバッターを務めたのはマハラージャン。

イベントのスタートダッシュとして重要な役割を任されたのだと、彼は期待に満ち溢れた観客を昂らせる情熱的なステージングを披露してくれた。

今回はギター・ベース・ドラム・キーボードの4人から成るバンドメンバーを引き連れて登場。定位置に付き呼吸を整え音が鳴り始めた、と思えば一瞬で重厚なサウンドが会場を包み込み「示談」で開幕を告げた。

ぐっと観客の心を掴んだまま「その気にさせないで」「僕のスピな人」へと続く。彼は軽快なギターカッティングを披露しながら、独自のスパイス × ダンスミュージックを届ける。複雑に絡み合うバンドサンドから生まれるグルーヴの波を乗りこなしているかのようだった。特に「適材適所」ではそれが遺憾なく発揮されていたと思う。

息を多めに含み〈適材適所。ハマりたい。〉と色っぽく歌ったかと思えば、ソウルフルなシャウトが突き抜ける。彼は勢いを増すバンドサウンドを身に纏い、観客すべての視線を奪っていった。後にこのシャウトについて「酸欠気味になってしまった(笑)」と打ち明けていたが、こちらが火傷してしまいそうな熱を放っていた。

「私の一番の役目はみなさんに声を出してもらうことです!」と「くらえ!テレパシー」「持たざる者」で会場をあたため、最後はメジャーデビュー曲「セーラ☆ムン太郎」を演奏。途中でマイクを観客に向けると〈セーラ、セーラ☆ムン太郎〉の大合唱が響き渡る。「楽しんでいってください!」と伝え、次のアーティストへと情熱的なバトンが託された。

2番目はTOMOO。

キーボードを前に腰をかけ、力強いタッチで音を鳴らして「Ginger」でスタートを切る。

このまま演奏して歌うのかと思いきや、彼女は途中でマイクを持ちステージを自由に踊り出した。それはまるで〈もう誰もきみを / ケージの中に閉じ込めて / なんかいられないのさ〉と歌詞で表現されている猫のよう。

「らしくもなくたっていいでしょう」でもそのステージングは止まることなく、2階席に手を振ったりもした。

一気に観客の視線を集め「雨でも花火に行こうよ」へ。透き通った音の粒が身体中を駆け巡る。

雨から連想される憂鬱なイメージを払拭する歌詞と相まって、ワクワクした気持ちでこれから来る夏の予感を抱かせてくれた。

MCでは「素敵なアーティストの方々とご一緒できるなんて嬉しい」と話し「ベーコンエピ」を弾き語りで披露。スポットライトに彼女一人が照らされ歌う。静かでもあたたかい空気が包んでおり、程よい緊張感の中でその歌声を会場いっぱいに響かせた。

続く「Cinderella」ではこれまでと違う凄みを見せ、ライブで初披露するという「夢はさめても」を演奏した。江口のりこ主演のテレビ東京水ドラ25『ソロ活女子のススメ 3』オープニングテーマであり、彼女が得意とする溢れ出る感情を表現した歌詞が詰まっている。〈抱き合えるならば 骨まで抱きしめて〉と、唯一無二の歌声で届ければ会場が湧き立ち高揚が満ちていった。

熱は冷めないまま「オセロ」で終わりを告げる。観客のクラップがたくさん鳴る中で、彼女はステージを見渡し満面の笑みで歌い切った。

イベントも中盤に差し掛かり、ステージにはギターとキーボードのみ。「ご覧の通り、今日は一人です!」と姿を現したのは阿部真央だ。

「私は私のペースで、私の曲を」とギターを弾き歌い始めたのは「貴方の恋人になりたいのです」。

静まり返った中で降り注ぐ観客の視線を受け、堂々と歌う。「じゃあ、何故」では歌声が一段と深みを増し、これまで培ってきたキャリアの重みを思わせるステージングで観客の心をかっさらっていく。

「今日は気合が入っている」と話していたこともあり、身一つでステージに立っていることで緊張の糸が張り詰めているかと思いきや、彼女自身は軽快なトークも繰り広げ、リラックスしながら歌に臨めていた。

徐々に観客との距離が縮まっていき、楽器をキーボードに変えて披露したのは「Who Am I」。支配的な愛をテーマに歌ったこの曲で〈今なら皆わかるのに 愛ではなかったと〉と、身を引き裂かれるような感情を吐露するように歌い、息を呑むほどの歌声が渦巻く。“これが私の表現だ”と提示する表現者としてのプライド、ポテンシャルの高さに打ちのめされた。

そして息子との日々を綴ったという「Not Unusual」へ。「7歳の息子にとって当たり前のことって、大人の私にとってはなかなか難しいこと。その一瞬を目に焼き付けていたい」と語り、等身大で歌い届ける彼女に釘付けとなる。最後は「ロンリー」を演奏。

たった5曲と他のアーティストよりも少ない曲数ではあったが、自身の魅力を届けるには十分な曲数なのだとその自信に魅了された時間だった。

次のOmoinotakeは「いろんな曲を聴いてもらいたくて、時間パツパツのセットリストになってしまいました」と全8曲たっぷりと演奏し、バンドの表現の幅の広さを見せてくれた。

「By My Side」でスタートを切り、高揚感を引き上げるサウンドに包まれる。

福島智朗(Ba)と冨田洋之進(Dr)がダイナミックに演奏する中で、藤井怜央(Vo / Key)が「Everybody clap your hands!!」と焚き付ければ、手を高く挙げ大きくクラップをする光景が広がった。休む間もなく「トロイメライ」「心音」を連投し、途中でサックスの音色も加わり多彩でカラフルなサウンドスケープを描いていく。

前述した通り、今回は可能な限り最大限の曲数を詰め込んだセットリストであったため、MCは挨拶程度に終え次々と演奏していった。

そんな中で4曲目「空蝉」では“バンドのいろんなカラーを見せたい”という想いを体現できていたと思う。各々の熱を表に出して演奏していたこれまでとは違い、この曲ではその熱を内に秘めることで音へとより集中しているように思え、こんな一面もあるのかと感じさせてくれた。

バンドのグルーヴがぐんと深みに入り、立体的に音が交錯し心地よく鳴り響き余韻を残したまま「雨と喪失」へ。

そして名古屋で初披露の「オーダーメイド」で壮大なサウンドを鳴らし、ラストスパートをかける。

「EVERBLUE」でギアを上げ「トニカ」で最後を迎えた。藤井が「名古屋、声を聞かせてくれー!!」と高らかに叫べば観客は応え、会場いっぱいにその声が響き渡った。

最後を締めくくるのは岡崎体育。

会場の期待が満ち溢れそうになった時、「Knock Out」で始まりを告げ〈伝えたい 何か伝えたい〉とお立ち台に昇り拳を突き上げる。

初っ端からリミッター限界の気合いに会場のボルテージも一気に上がった。曲を終え手を振ると素直に応えてくれた観客に「やさし〜!」と隅から隅まで手を振り、そのまま岡崎体育節を効かせたトークを繰り広げる。ゆるい空気感にあちらこちらで笑い声が溢れ、早くもイベントは彼の独擅場になってしまった。

「歴史のあるイベントにしましょう!身体、動かせる?ほないこか」と「Open」では〈My name is OKAZAKI TAIIKU!!!〉と求心力を高め「全員踊れ!」と一体感を生み、「R.S.P」へとなだれ込む。

「ジャンケンで勝った人が踊って、負けた人は座ってください」と決め2回ジャンケンを行い、歓喜と落胆の声が湧き立った。

目一杯踊った後は少し呼吸を落ち着かせ「皆さん、水分補給してくださいね。僕はカリカリ梅を食べるんで」と突如カリカリ梅を食べ始め、自由に立ち回る姿で再び笑いを誘う。

「ゆるく喋っても許してくれる」と話していたが、岡崎体育だからこそマイナスの感情が生まれる隙を一切作らず、プラスの感情が満ちた光景を作り上げられているのだと思えた。

去年聴いていたレゲエから感化された「サブマリン」で新たな一面を見せ、続く「XXL」で天井知らずの熱を生み出す。

お立ち台で手を広げ、高まった熱を全身に受け止め「新曲」を披露。「元気なことが一番大事だけど、元気な人もそうじゃない人も聴けるのが音楽なんです。だから日本中に音楽を届けたいと思います」と宣言し、一心不乱に踊り歌った。泥臭い情熱を見せてくれるのも岡崎体育の魅力だろう、観客もステージ上の彼と一緒になって踊るのだった。

「一回捌けるんで、アンコールしてもらってもいいですか」とステージを去り、すぐアンコールに応え再び姿を表す。

最後の曲は「なにをやってもあかんわ」。〈もうなにをやってもあかんわ〉と大合唱が生まれた……かと思えば、「ちょっと休憩しましょう」と曲を止め、もっと盛り上がっていこうと観客を焚き付け大団円を迎える。

「ステージにはいないアーティストの分までお礼を」と頭を下げ、NAGOYA SOUND PRESS SHOWがこれからも続くようにと彼は願い、ステージを去っていった。

今回の第3回目でホール公演となり、規模を広げ開催された「NAGOYA SOUND PRESS SHOW」。

アーティストの魅力を存分に堪能できる時間となったことだろう。岡崎体育が話したように、これからも開催が続き歴史のあるイベントになることを願ってやまない。

SET LIST

マハラージャン

01. 示談

02. その気にさせないで

03. 僕のスピな人

04. 適材適所

05. くらえ!テレパシー

06. 持たざる者

07. セーラ☆ムン太郎


TOMOO

01. Ginger

02. らしくもなくたっていいでしょう

03. 雨でも花火に行こうよ

04. ベーコンエピ

05. Cinderella

06. 夢はさめても

07. オセロ


阿部真央

01. 貴方の恋人になりたいのです

02. じゃあ、何故

03. Who Am I

04. Not Unusual

05. ロンリー


Omoinotake

01. By My Side

02. トロイメライ

03. 心音

04. 空蝉

05. 雨と喪失

06. オーダーメイド

07. EVERBLUE

08. トニカ


岡崎体育

01. Knock Out

02. Open

03. R.S.P

04. サブマリン

05. XXL

06. 新曲 ※タイトル未定

EN. なにをやってもあかんわ



文:笠原幸乃

写真:新澤和久