耐酸化性が非常に高い多孔質炭素材料であるグラフェンメソスポンジ(GMS)は高電位まで充電可能なため高いエネルギー密度のキャパシタ材料としての利用が期待できる。これまで電極重量当たり高いエネルギー密度は実証されていたが、嵩密度が低いためより実用面で重視される体積あたりのエネルギー密度が低いという課題があった。本事業では作製時の乾燥工程を変更することで高密度なGMSの開発に成功した。この高密度GMS粉末は従来と同様の方法でキャパシタ特性を評価可能であり、GMSの特徴である高い耐酸化性と静電容量が得られ、体積当たり高いエネルギー密度の電極材料として利用できることが分かった。さらなる、高密度化のために高温処理前にホットプレス工程を導入することによりシート状のGMSの成功し、高密度と高表面積を両立したバインダーフリー電極としての利用が期待できる。
近年環境問題、エネルギー問題に向けて、蓄電デバイスの重要性はますます増加している。様々なデバイスが開発・実用化されており、用途に応じて適した特性のデバイスが使い分けられている。電気二重層キャパシタ(EDLC)は二次電池に比べ貯蔵可能な電気容量は少ないが、高出力な充放電が可能であり、長寿命であることから再生可能エネルギーをはじめ電気エネルギー利用の高効率化が可能である。しかし、重量および体積あたりに貯蔵可能なエネルギーの指標であるエネルギー密度が低いため、EDLC利用範囲は限定的である。
このような状況の中、高い耐酸化性を有する多孔質炭素であるグラフェンメソスポンジ(GMS)を活用して高エネルギーキャパシタ電極を開発できれば蓄電分野におけるEDLCの活用範囲が大幅に広がると期待できる。これまでの研究でGMSは重量当たり高いエネルギー密度を有することは示されているが、嵩密度が低いため体積当たりのエネルギー密度が低いという課題があった。そこで本研究では、キャパシタ電極に利用可能な高密度なGMSを開発し、キャパシタ電極として高いエネルギー密度を有することを示すことを目的とする。
本研究では様々な条件でGMSを作製する必要があるため、実験室での製造スケールの大型化を検討した。ガス流通条件や反応条件の最適化を行うことにより従来の小スケールで得られるGMSと同品質のGMSを一度に約3倍製造することが可能となった。
得られた炭素鋳型複合体への酸処理後に乾燥させる際に、通常溶媒をアセトンにすることで乾燥収縮を防いでいたが、水のまま乾燥させることで乾燥収縮が進行し、比表面積が1770 m2/gで変化しないにも関わらず、細孔容積が4.8 cm3/gから2.3 cm3/gへ約52%収縮できることが判明した。さらに乾燥収縮を進行させるために、溶媒を硫酸変更した結果、比表面積が1110 m2/gと38%の低下にとどまったが、細孔容積が1.1 cm3/gまでの52%も低下させることに成功した(図1)。
高密度化したGMSについて、最適化した電極作製条件により電極特性を評価した結果、比表面積当たりの静電容量(比容量)はいずれの試料もGMS重量当たり1.6-1.7 µF/gとほぼ変化がなかった。また、このGMSは従来通りの高電位耐久性を有しており、4.0 Vの作動電圧で充放電可能であった。各種測定の結果、重量当たりのエネルギー密度は最大で炭素重量当たり66 Wh/kgという非常に高い値が得られた(図2)。
粉末状のGMSの高密度化に成功したため、さらなる高エネルギー密度電極の作製に向けて、ホットプレスを活用したシート状GMSの開発に取り組んだ。得られたシート状GMSはハンドリングに十分な強度を有しており、ホットプレスの圧力を変化せることにより、試料の密度を制御できることが判明した(図3)。各試料の比表面積と密度から体積エネルギー密度から計算した体積当たりのエネルギー密度は最大で31 Wh/Lという非常に高い値となっており、今後の高エネルギーキャパシタ開発に有望な材料を開発することができた。
図1 高密度処理を行った各種GMSの比表面積と細孔容積
図2 密度の異なるGMSの重量/体積エネルギー密度
図3 シート状GMSの外観