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037 ishinage

私のミステーク集(『英語教育』特集2000年2月号)

石を投げたらその後に

靜 哲人

 昔も今も私は遅刻に厳しい。遅刻はある意味で欠席よりも罪が重いからだ。欠席は単に本人が1時間分損するだけで周りに迷惑はかけないが、遅刻は授業の流れを妨害し周囲に迷惑をかける。

 福島高専での朝の1時間めの授業の場合は特に気合いを入れる必要があった。中学高校と違い、高専は事実上朝のホームルームがない。高校のように8時30分からホームルームがあれば、8時40分の授業にまで遅刻する者はそうそう出ないはずだが、放っておくと、学生は授業開始の8時40分を目指して登校してくる。しかも高専では英語などマイナー科目の筆頭なので、学生のやる気がちがう。よって、通常であれば朝の1時間めの英語の授業には開始してからばらばらと遅刻者が入ってくる、という状態になる。

 筆者の考えによれば英語の授業の成否を決める最大のポイントは、授業法がコミュニカティブかどうかではなく、全員が定刻に集まり、教科書を用意してあるような態勢(をとるような気持ちになっている)かどうか、である。

 そのようなけじめある雰囲気を高専で作り出すためには特に厳しい姿勢で臨む必要があった。まず遅刻であることをはっきりさせるために、8時40分の授業開始のチャイムが鳴り終わると教室のドアに内側から鍵をかける。コンサート等で曲の途中で入室できないのと同じである。ドアの外の気配で何人か廊下に集まってきたのがわかる。で、頃合いをみてドアを開け、中に入れる。この後はその場に応じてスピーチをさせたり、させなかったり、少し時間をとって説諭したりいろいろだ。ともかく、そのまま席に着かせることはせず、後ろに立たせる。座るためには自分で手を挙げて授業中の質問に答えなければならない。遅刻に対する抑止力にもなり、授業に集中させることもでき、一石二鳥である。

 ある日の3年機械科の授業で、あまりにも遅刻が多かったことがあり、授業を中断して話したことがあった。お前たちはプロの学生だろ。プロのサッカー選手が9時にキックオフの試合の場合に、9時を目指して会場入りするか?それで試合に勝てるわけがないだろ。着替えてウォームアップができる余裕をもって会場に来るのが当たり前だ。ぎりぎりに来る奴は最初から負けている!云々、という感じでかなり力を込めて怒鳴り上げた。聞いている学生の表情を見ているとまずまず反省かつ納得しているようだ。しめしめ、指導がうまくいった。これでまたしばらくは遅刻が減るだろう、と密かに満足してその日は帰った。

 で、その翌朝、前夜の夜更かしがたたったのか、布団の中で気がついて目覚まし時計を見ると授業開始まであと10分であることに気がついた時の筆者のあわてぶりは想像していただけると思う。昨日あれだけ偉そうに説教した自分が遅刻してはしゃれにならない。福島高専までは車で15分。こういう時に事故るのだ、と自分に言い聞かせながらマーチをふっ飛ばして学校につき、駐車場から直接3年機械の教室に駆け込む。8時54分。がらりとドアを開けると90の瞳が、不可解そうに、あるいはにやにやしながら筆者を見つめる。

 「済みません!寝坊しました!」嘘ついても仕方ないものね。「さあ、どうしてもらおうかな~?」という嬉しそうな声が上がる。そこでとっさに、「じゃあ、罰として後ろに立ってます!」と宣言。ちなみに言っておくといつでも授業はずっと立って行っていた。また幸運なことに高専の教室には後ろにも前と同じくらい大きな黒板がある。「と、いうわけで、今日はここから授業をするから、全員机を後ろに向けろ~! はい、Open your books to page 34.」「え~、何だよそれ、ずるいよ~」という声もなんのその、強引に始めて事なきを得た。

 石をなげたら自分の家を強化ガラスにしないと、というお話である。今でも1時間目の授業がある前夜は緊張する。

(関西大学助教授)

 

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