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Experience Sampling

経験サンプリングによる調査実施方法についてご紹介します。

経験サンプリングとは
日常生活を送っている調査回答者に対して、一日数回×数日間にわたり、定刻もしくは無作為な時刻における現状報告を求めるという調査手法です。
古くは、自記式の記録用紙を持ち歩くという方法がとられていました。
現在よくつかわれている方法は、ポータブルデバイス(PDAやスマートフォンなど)を常時携帯し、SMSもしくはEメールを受け取るたびにWeb上の調査ページにアクセスして回答するという形式です。
メリット:
・生態学的妥当性が高い。 対象者の日常における経験について、その場で回答を求めることができる。
・時間的解像度が高い。 一日数回の回答が得られるため、時間的変化や前後の影響関係について検討できる。
・統計的検定力が高い。 ひとりの回答者から数十回分の回答を集めるため、大きな検定力が得られる。

実施方法について
この手法のデメリットをあげるならば、それは手間 and/or お金がかかるという点です。
以下では、実施方法を3つあげて、それぞれの長所と短所を比較します。

a. 調査会社に委託する。
これは最も手間がかかりません。こちらの条件をすべて伝えて、シグナル送信およびWeb調査回答の実施環境を整えてもらいます。
ただし、費用がかさみます。ちなみに、150名の回答者に、7日間、一日7回ランダムな時間にシグナル(+各15分後のリマインダー)を携帯メールに送るという条件(回答者のリクルートおよび報酬支払いは含まない)で見積もりを取ったところ、リサーチ会社3社のうち1社から300万円の返答がありました。その他の2社からは「人的コストがかかりすぎるので不可能です」という返答をもらいました。ひとりひとりの参加者に対してランダムな送信時間設定をする際、すべて手作業になってしまうことが最大の難関のようです。

b. シグナル送信システムを利用する。
欧米では、経験サンプリング法のために、さまざまなサービスが開発されています。検索すると沢山出てきます。
しかし、英語表示のみであるため、回答者によっては使いづらく感じるかもしれません。
また、シグナルとしてEメールを送信する形式のものは、多数の参加者に1日何度も繰り返して送信することになるため、日本のウェブサーバーからスパムメール認定されてしまうことがあります。
その場合、送ったはずのシグナルが届かないという不具合が発生しますので、たいへんに危険です。ご注意を。
私たちがSurveySignal(http://www.surveysignal.com)というサービス利用した際には、送信開始から2日目にしてシャットアウトされてしまい、泣く泣く調査中断となった苦い経験があります・・・
他のシステムをご利用になったことがある方、ぜひ情報共有お願いいたします!

c. メーラーの日時指定送信機能を利用する。
もっと費用を安くおさえたい。そして時間と手間と気力は惜しまない!といった方のためには、下記のような代替案もあります。(私たちの調査チームでは、この方法を使っています。)
この方法のメリットは、確実に、かつ無料で実施できることです。Eメール文面を自由に作成でき、当然ながら日本語表示ができますので、回答者が指示を読み間違えることもありません。しかしかなり手間がかかります…以下にその設定手順1〜3を説明します。
1.GoogleGroupsのメーリングリスト機能において、回答者の携帯メールアドレスを登録する。
まず、GoogleGroupsにログインし、新規のマイグループを4つ作成します。https://groups.google.com/
回答者を4つのグループに分けて、それぞれ別のマイグループに登録します。4つ、という数字に特に意味はありませんが、この数を増やすほどランダム化という点で望ましく、一方で手間が膨大になっていくという難点があります。私たちは4つであれば妥当だろうと判断しました。
そして、各グループのメーリングリスト宛に、Web調査ページのURLリンクのはいったEメールを送ることで、回答を求めるシグナルとします。同じマイグループ内の回答者には一斉にシグナル送信されるので、回答者ごとに送信時間がランダムになっているわけではありません。この点はおおきなデメリットです。しかし、メーリングリストを利用するのには理由があります。第一に、すべての回答者に無作為な時刻設定でメールを送ろうとするのは、手作業の場合ほぼ不可能だからです。手間がかかりすぎますし、エラーも生じやすいでしょう。第二に、メールのBCC機能では対応しきれないからです。そもそもBCC送信の場合、メール一通につき10件のアドレスまでという宛先数制限がたいていあります。では、10件ずつのアドレスにBCCしたメールを複数送ればいいではないかと思われるかもしれませんが、そこにも障壁があります。もし仮にメーリングリスト登録をせずに、BCCですべての回答者あてにシグナル送信しようとすると、送信を何度か繰り返したのちにメールサーバーから「一日の送信メッセージ数の上限を超えました」とエラーが出て、その日いちにちメール送信不能になります。つまりスパムメール認定されてしまうので、ご注意を。一方、メーリングリストを利用すれば、送信者から送られるメッセージ数は少なくて済みますので、制限にひっかかることはありません。
詳しい設定のしかたは、こちらから→ Googlegroups の設定マニュアル
このとき、いくつかの注意点があります。管理ページからメンバーを追加します。このとき、「メンバーを直接追加する」を選ぶこと。「メンバーを招待する」機能もありますが、これはGmailアドレスのみ対応しており、携帯会社アドレスは登録できません。また一度に直接追加できるのは10アドレスまでです。それ以上の数を登録したい場合には、この作業を何度か繰り返します。ただし、ひとつのGoogleIDをつかって一日のうちに登録できる人数は50人までと制限されています。登録先のグループが複数にわたり、各グループへの登録数が50より少なかったとしても、ひとりのIDアカウント内で作業している限りはその登録総人数でカウントされますので、ご注意を。回答者をリクルートしたら、複数日にわけて登録作業を行ってください。もしくは、複数のGoogleIDを用いて、それぞれに異なるGoogleGroupsを作成すれば、IDの数×50人まで一日で登録可能です。
登録時、画面下部にあるメール登録オプションは「すべてのメール」を選択します。メンバーを登録しおわったら、「すべてのメンバー」のページをひらき、回答者全員が登録済みであること、配信設定が「すべてのメール」になっていること、そしてオーナー(調査者自身のID)以外の投稿権限がすべて「許可しない」になっていることを確認してください。もし設定ミスがあったら、そのひとのIDをクリックすることで再設定できます。
2.送信時刻を算出する。
Excelの乱数発生機能を使用して、シグナル送信時刻を算出します。具体的には、RAND関数 =rand() をつかって0〜1までの乱数を発生させてから、それを時間のシリアル値として時刻表示に変換させます(表示形式で h:mm を選択)。すると一日24時間のなかでランダムな時刻を表示してくれます。ここでたとえば、朝9時から夜9時までのあいだを7つのフェーズに区切り、そのフェーズのなかでそれぞれランダムな時刻を表示させたいとしましょう。その場合、24時間を0〜1の数値で表した場合に、朝9時なら9/24、夜9時なら21/24、その差分を7で割ったものが1フェーズ分の長さとなります。そのフェーズ分をRAND関数に掛け算すれば、フェーズ内でのランダム発生ができます。これを7つのフェーズの各開始時間に足し算して、時間表示に変換すれば、シグナル送信時間が表示されます。ただし、2つのシグナル同士が短い時間で連続しないように、シグナル送信時間間の差分を算出して15分以内のものを外したほうがよいでしょう。これで1日分のシグナル送信時間のリストが完成です。これを7日間×4グループ分作成します。(少々ややこしい説明になってしまいましたが、ご希望があれば、サンプルとして私の作成した送信時刻算出用Excelファイルをさしあげます。ご連絡ください。)
3.メーラーで送信時刻を管理する
いよいよシグナルを送信します。Boomerang for gmailというサービスを使用します。http://www.boomeranggmail.com/jp/index.html
無料でダウンロードできますが、このままですと月10通しか予約送信ができないので、"Personal"プランにアップグレードします。月額4,99ドルですから、安価ですね。
その後、メール文面作成と、送信時刻設定を行います。詳しい手順はこちら→ Boomerangで始める経験サンプリング(written by 金子迪大) 

以上です。上記をお読みいただいておわかりになるかと思いますが、c.メーラーの時刻設定送信機能を使うのは、とても手間がかかり、設定にも気を使うので大変です(><) が、一度慣れてしまえば安定して送信できることが確認できていますので、私たちの調査チームでは現在のところこの方法に頼っています。



インターネット調査ページの作成について
調査ページの作成は、QualtricsもしくはSurveyMonkeyが良いかと思います。
このほかにもさまざまなWeb調査サービスは存在していますが、回答に応じて異なる質問に枝分かれしていく機能があること、国内各社のスマートフォンで日本語表示と回答が可能であることなどを考えると、やはりこの2つがオススメです。

Web調査ページ作成はQualtricsがもっとも機能的に充実しているのですが、個人でアカウントを購入して経験サンプリングを実施する場合、100万〜150万/年間かかります。ただし所属大学がアカデミックライセンスを購入済みであれば、その大学の所属者は1アカウント5万円/年間で利用できます。各自の所属大学がライセンスを持っているかどうかは、大学の情報システム関連部署に問い合わせるか、Qualtricsのカスタマーサービスに問い合わせることで確かめられます。
Qualtricsを利用する際には、こちらの日本語版マニュアルが参考になります(このマニュアルに関するお問い合わせは、名古屋大学の佐名さんまで)。http://tasukuigarashi.com/lab/wp-content/uploads/2014/07/qualtrics_japanese.pdf
回答シグナルを送信する際、調査ページのURL最後に ?= というカスタム変数を入れることによって、データファイルにシグナル番号を記録してくれます。たとえば、シグナル123番の場合は ?=123 というように記入しておきます。

年間39900円で質問数および回答数が無制限のプランがあります。経験サンプリング法の場合、膨大な回答数を集めることになるため、回答数制限のないプランでないと対応できません。この価格で回答数制限を外してくれるのは、他のWeb調査サービスと比べて割安と言えると思います。
回答シグナルを送信する際、調査ページのURL最後に ?c= というカスタム変数を入れることによって、データファイルにシグナル番号を記録してくれます。たとえば、シグナル123番の場合は ?c=123 というように記入しておきます。



回答者のリクルートについて
経験サンプリング法を用いる際に、どのくらいのサンプルサイズを用意すべきでしょうか。Hofmann先生の研究では100名〜数百名を用いているようです。ひとりの回答者から複数の反応を得られるので検定力は高いのですが、マルチレベル分析における個人レベルで重回帰モデルや共分散構造モデルを使用する予定ならば、やはり100名以上が望ましいのではと思われます。
できれば対面式の事前セッションを行って、回答者各自のスマートフォンにきちんとGooglegroupsの登録通知メールが届くか、本調査とおなじ形式のデモ調査ページが適切に表示できているか、選択肢回答やページ間移動ができるかどうかなどをひとつひとつ確認しながら進めるとよいでしょう。また、一回分の調査に答え終わったときに表示される完了ページも見せておき、この状態になるまで回答を続けるように(さもないと謝礼が支払われない!など)と教示しておくことも大切です。設問数が多い場合、回答の途中で「もう終わった」とかんちがいして離脱してしまう人も少なくありません。また。事前セッションは複数回にわけて少人数で行うことをおすすめします。表示や承認のトラブルは(おそらく予想される以上に)頻出しますので、ひとりの説明実施者が対応しきれる人数としては20名程度が限度かと思います。


回答者謝礼について
すべての回答者に一律の謝金を支払うばあいもあります。また、回答のインセンティブを高めるために、一律の謝金に加えて、高回答率者のなかから抽選で豪華景品や高額謝金を支払うこともあります。私たちは、出来高制で謝金を支払いました。具体的には、一回の回答を完了するごとに50円の支払いました。すなわち、7回×7日間全部のシグナルに回答すれば50円×49回=2450円、事前セッションの謝金550円とあわせて3000円の報酬が得られます。もちろん回答者にも事前にこのことを伝えておきます。このような出来高制の謝金システムをつかって私たちが調査したときには、回答率は76%程度でした。金額や支払い方法に応じて、回答率は多少変動するものと思われます。また、途中で脱落してしまう回答者もいますので、回答者は多めにリクルートしておくとよいでしょう。


分析のしかたについて
ひとりの回答者から複数の回答を繰り返し得るため、個人レベルのなかに複数の反応がネストされた、階層をもつデータ構造になっています。そのため、マルチレベル分析を行う必要があります。
マルチレベル分析に関しては、清水裕士先生(広島大学)のご著書およびホームページをおすすめします。http://norimune.net/multilevel
清水先生の開発された分析ツールHADも非常に使いやすいです。
このマルチレベル分析の際、person-mean centering をするのがおすすめとのこと(Hofmann先生談)。詳しくは以下の論文に。


その他資料
経験サンプリングに関する尾崎の拙稿です。参考になりましたら幸いです。
私たちのチームによる国内調査の実績について → 東洋大学HIRC21 年報(2014年度)
心理学各領域における経験サンプリングの応用可能性について → 現代人のこころのゆくえ4


以上、私たちの経験にもとづいて、経験サンプリング法の実施の仕方についてご説明しました。ただし、これがスタンダードな方法とは限りませんし、ましてやこれに従わなければいけないというものでもありません。もし、より良い方法についてアドバイスなどございましたら、ぜひご教示ください。また、実際に上記の方法をご使用いただいた場合には、ご感想や問題点をお知らせいただけますと幸いです。ご使用くださった旨、ひとことお知らせいただくだけでも大変に有難く存じます。また、もし不明点やご相談などありましたら、尾崎までご連絡いただければ、できるかぎりのサポートをいたしますので、お気軽にお問い合わせください。 yukaoz(at)toyo.jp